二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Act8:九尾と玉兎 ( No.25 )
日時: 2016/09/13 00:04
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ***

「つ……」

 十六夜ノゾムは重かった瞼をようやく開いた。
 ずっとコンクリートの床で寝ていた所為か、体が痛い。
 あれ? 生きてる? オレもしかして生きてる? といった感じに手を開いたり閉めたりすると、すぐ目の前に居た白いもふもふ——否、白い兎の獣人が飛びついてきた。
 ここで、彼の脳はすぐさま、1つの答えを演算なしで導き出した。
 うん、これは夢だな。
 何か記憶って死んでも電磁波とかで残るって話を聞いたことがあるし。
 ——でも、こんな論理的な計算してる時点でやっぱりオレ生きてるくね?

「クレセント?」

 そう呟いてみた。ああ、生きてる。しかも、奇跡的にどこもどうなってはいない。
 そして目の前の獣人——-クレセントが思いっきり自分を抱きしめた。

「のーぞーむー!!」

 ああ、やべぇメッチャ気持ちが良いわ。
 ふわふわとした毛布にくるまれた気分にノゾムは包まれた。そのまま意識がまどろんでしまう。
 だが、良く考えてみれば彼女は鉄槌を振り回すだけの怪力、馬鹿力、剛腕を持っている。
 彼女の白い毛で包まれた女性的な身体に埋もれることができるところまでは良かったとして。
 今度こそノゾムの演算は1つの結論を導き出した。

 ——オレ、今度こそ死ぬくね?

 そんな彼の演算は、無情にも見事に当たったのだった。

「いだだだだだだだだだ!!」

 悲鳴を上げるノゾム。
 思わず、クレセントは窒息寸前で顔がリキッド・ピープル並に青くなったノゾムを解放した。
 少し息が落ち着いて、文句を言ったら「心配してたのに!」と殴られた。
 そして、一番ぶつけたかった疑問を彼女に問うた。

「クレセント? オレはどうして無事なんだ?」
「かーんたん。あれが幻だから」
「幻?」
「そう。白陽の能力は、『自分がコピーしたものを自分及び自分の周りにいる者や物に”貼り付ける”』ことができる、”イリュージョン・ペースト”」

 つまり、マナ武装の能力はそこから来ているのだ。
 そして、コピーした”炎”を人に”貼り付ければ”どうなるか。
 答えは簡単だ。その人は自分が燃えたと錯覚するのである。

「さらに、あたかも周りの地形が燃えているように見せかけたり。他にもコピーしたのが別のクリーチャーなら、そのクリーチャーに化けたりあたかもその場所に、コピーしたクリーチャーが存在しているかのように見せかけられるの。後は味方に貼り付けて、”強化”もできるの。コピーしたものの性質は、オリジナルより劣るけど」

 つまり、パソコンの”コピー&ペースト”と考えれば簡単だ。

「ちなみに、お前の能力は?」
「あたしは”ブロッカー”。さっきも、あのドラゴンの炎を防いだでしょ」

 一番安易である。
 先ほどの炎が防げたのは、やはりノゾムの予想通りだったようだ。

「ま、それだけじゃないんだけどね」
「それよりよ、ホタルはどうなったんだ?」
「……ちゃんと助けたよ」

 話題がホタルに移ったのが気に食わなかったのか、クレセントは少し拗ねた様子を見せた。
 ——いいもん! あたしには白陽がいるもん!
 見れば、ホタルはコンクリートの床の上に寝かされて、寝息を立てていた。

「大変だったよ? 《ラディカル・バンド》はあたしの効果じゃ無効化できないから」

 拗ねたまま、クレセントは言った。
 すると、こちらの方へ駆けてくる足音が。
 

「ノゾムー!! 大丈夫かー!!」


 ヒナタと白陽だ。(既に白陽は元の姿に戻っていた)
 それを見て、ノゾムの顔は一瞬引き攣った。
 だが、ヒナタと一緒に居るのを見ると、どうやら正気に戻ったらしかった。

「白陽っ!!」

 その方角へ駆け出すクレセント。
 だが、白陽は立ち止まって言った。
 哀しげな目をしていた。

「すまない、クレセント。今の私にお前の抱擁を受ける資格はない」

 ガツン、とクレセントは自分の頭に衝撃を受けたようだった。
 しばらくの間、クレセントはぽかーんとした表情で立ち止まっていたが、しばらくして、それでも尚白陽の方に歩み寄る。
 そして——彼の頬を思いっきりぶった。
 悶絶した表情を浮かべる白陽。
 だが、クレセントの表情はもっと酷かった。
 色んな負の感情が混ざって、くしゃくしゃになっていた。
 力の限り、怒鳴る。
 
「馬鹿じゃないの!! あたしの前に出てきて第一声がそれ!? ふざけないでよ、あたしには貴方しかいないんだよ!?」
「クレ……セント?」
「あたしはね。貴方が、一緒にあたしをあの場所で封印したとき、とっても嬉しかったんだ。もう貴方の温かさを肌で感じることはできないけど、これで誰にも邪魔されずに永遠に一緒にいられるって」

 俯いたままのクレセント。
 白陽は黙って聞いていた。
 辛かった。たった1人で見知らぬ世界を彷徨うのは。ようやく居場所を見つけたと思った。
 だけど、そこに愛する人はいなかった。
 
「だが……」
「だけどね? 別にあたしはそれで怒ってるんじゃないんだよ? 貴方に食べられたって殺されたって。それぐらい貴方を愛してるから。それぐらい、貴方が本当は優しいって知ってるから」

 彼女はにっこり、と無理をしたような笑顔を浮かべた。
 それでも、彼女の真の優しさを映し出した笑みだった。
 白陽は言葉を漏らした。

「お前を殺そうとしている闇の自分が見えたとき、私は正気に戻ったら本気で死のうと思った。お前と一緒の場所に行くために。だが-------------お前の相棒は、それを止めてくれた」
「え? オレ?」
「そうだ。貴様が私の注意を自分に向けてくれたおかげで、私は大事なものを失わずにすんだのだ」

 え? まじ? オレのおかげ? 
 気絶していたくせに!? あ?!
 有頂天になっているノゾムを思いっきりヒナタが小突いているのを他所に、白陽は続けた。

「本当にすまなかったな、クレセント」
「もーう! だから白陽は謝ってばっかりなんだから! それより、もっと別の言葉を言って欲しかったなー!」

 赤面する白陽。黄金の毛に顔が包まれているのに、それが分かってしまう。

「だ、だから、その」
「え? 何?」

 あざとく詰め寄る彼女に白陽は余計言葉を失ってしまう。
 何この可愛い生き物。

「改めて言う……好きだ、クレセント」
「あたしも、だいすきだよ? 白陽!」

 ぎゅっ、とクレセントは自分よりも一回り大きい獣人に抱きついた。
 そのハートが舞うムードを前にして、そして自分達が一切の無視を受けている(しかも悪気が無いので余計タチが悪い)のを感じ、暁ヒナタはすべての嫉妬をこの一言に詰めて絶叫した。


「だから何で、どいつもこいつもリア獣なんだ畜生ォォォォォ!!」

 
 畜生と畜生に言っても仕方が無いのだが。
 虚しくも、ヒナタの絶叫はビルの中に木霊したのだった。
 今回の一番の功労者はいろんな意味で報われなかったのである。



 ***



 淡島ホタルは気付けば自室に居た。ふかふかのベッドの上で寝ていたのである。どこからどうみても、自分の部屋である。
 スクラップされたお気に入りの新聞記事、細かく整理された机、全て自分の頭の中にある記憶と一致している。

「夢、だったのかな」

 思わず言葉を漏らす。
 だが、違う。あの龍のおぞましい咆哮に、男の卑しい言葉、そして勇ましく果敢にやってきたノゾムの声。
 全て昨日の事だと察知した。
 ただ、1つ気がかりになることは——


 
 ***



「ったく、幾らバレない様にする為とはいえ、ちょっと乱暴すぎたんじゃないのか?」

 十六夜ノゾムは《ルーン・ツールC》ことクレセントに声を掛けた。
 結果あの後、ノゾムは祖父にカードを返却しようとしたが、祖父は何と全てを悟っていたどころか、

「月神様がお前を認めたことが分かった。それはお前に託さねばなるまい」

 ということだった。ついでに、帰るのが遅くなったことに付いても、珍しく言及されなかったのだった。
 さて、時は少し遡り、本題に移るがノゾムは先輩の暁ヒナタと共に淡島ホタルを家に送るために、さあどうしようかという話になった。
 止むを得なかったのだが、まずクレセントが家の中をサーチ——彼女の登場時に《クリスタル・メモリー》を2発撃つ能力はここからきているのであろう——して、そのデータを映し出した。
 結果、子供部屋と思われる場所は一目で分かる。
 そして、すぐさまクレセントが窓を叩き割った——のだが、これは失敗だった。あの後に、ガラスの破片を回収するのにとても骨を折ったからである。
 その後、彼女を寝かせた後、ガラスをコピーした白陽が何も無い格子にそれを”貼り付ける”ことによって、外観は何事も無かったようになったのだった。
 しかし気がかりだったのは、家の中に他に誰もいないことだった。
 人間までは映せねえんじゃねえの? と言ったら殴られた。

「両親が遅くまで共働きなんだろ。さ、長居は無用だ。とっとと行こうや」

 というヒナタの声で、その場を去ったノゾムだった。
 月がやけに綺麗な夜だった。

Act1:デュエルは芸術か? ( No.27 )
日時: 2016/09/12 23:54
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「つー訳で、先輩! 知ってること全部、話してもらいますからね!」

 十六夜ノゾムは、皆もご存知デュエリストである。今日は昨日の事件で見せたヒナタのクリーチャーに対して手馴れた1面。それについて聞きにきたのだ。
 そして、それに詰め寄られている暁ヒナタはご存知その先輩である。
 そしてそして、ここは皆もご存知デュエリスト養成学校の鎧龍決闘学院である。
 さて、このとき暁ヒナタの顔は真っ青だった。
 別にノゾムに聞かれていることはいずれ話そうと思っていたことなので、問題は無いのだ。
 だが、ヒナタの顔が真っ青なのは、別の理由があった。

(ふざけんなあああ! こちとらレンの石膏像ぶっ壊してバレないように直そうとしていたところなのに! 早くしねえと誰か来たらどうするんだ!)

 レン——つまり黒鳥レンは帰宅部でありながら、美術に付いては抜群のセンスを誇っていた。
 先ほどの7時限目の授業でレンは自分の顔の石膏像を見事に作り上げた。(此処から分かるように、少々ナルシストの気があり)
 そして、ヒナタは授業の終わりにそれを見ようとしたら、偶然手が当たって像を床に落とし、壊してしまったのだった。
 怒るに決まっているだろう。彼が見たら。誰だってそうする。
 幸い、他には誰もいなかった。(日直で美術室の板書を消すように命じられていたため)
 だが、このままでは誰かにバレてしまうことは間違いない。
 まず、美術室の鍵を帰りの会の後に拝借(あくまでも”拝借”)し、美術室に誰も入れないようにした。そして放課後に像をボンドで直そうとしていたのだった。
 色々とムリの入った作戦だったが、今までその作戦はスムーズに進んでいたのだった。
 美術室に入ろうとしているヒナタをノゾムが偶然見つけてしまうまでは。
 ノゾムはヒナタを探していたところ、美術室に行ったと言う情報を掴み、(美術室の鍵をヒナタが借りたため)ここにきたのだった。
 そして今に至る。ノゾムは、ヒナタが何故ここにいるのか、といった疑問は全てすっ飛ばし、今日自分が聞きたかった疑問をぶつけたのだった。

(クソ迷惑な……ん?)

 誰か来る。見れば、そこには黒鳥レンの姿が-----------------
 は? 何で? 何でお前が今此処にいるの!?
 というヒナタの疑問を他所に、それはやってきた。

「お、ヒナタ。何故貴様が此処にいる?」

 上から目線の物言いは良い。そんなことより、石膏像の件がバレたらヤバい。

「いや、んなことより何でお前が?」
「当然だ。美しい我が石膏像をもう一度見たくなってな」

 こんのアホォーッ!! 何で今更来るの、どんだけナルシストォ?! と言いたかったが我慢した。
 そこで、ヒナタは1つ思いついた。はっきり言って、主人公にあるまじき思考回路だが、何とか後輩を犠牲にして自分は助かる方法だ。
 ——俺、悪役の方が向いてるくね?

「いやー、レン。それが、その像なんだが-------------」
「む?」


 ***

「ぎゃあああ!! 僕の顔があああ!!」

 悲惨な自分の石膏像を見せられて、レンの絶叫が美術室中に響き渡った。
 そしてヒナタは、すかさず言う。


「いやーすまん、レン。ノゾムの奴がこれを壊しちまって、あれ? レン君?」


 ここであろうことか、後輩を盾にしようとするヒナタ。
 しかし、レンの様子がおかしい事に気付く。
 紫色のオーラのようなものが見える。ゴゴゴゴゴゴゴ……というジョジョみたいな効果音が聞こえる。

「……貴様だな? 貴様がやったんだな?」
「え、えー、何の事かな」
「貴様の浅はかな嘘などすぐに分かる。現に今の貴様は冷や汗たらたら見るからに焦っている」
「さ、流石ワトソン君、盲点……!!」
「黙れアホームズ、地獄へ突き落す」
「先輩? 今オレに罪を擦り付けようとしましたよね?」
「ジョーク! ジョーク! ごめんよ、ノゾム!」

 ま、いいんですけど。とノゾムは許してくれたので良かった。
 ”ノゾム”は。
 問題は目の前の友人である。

「貴様を処す。デュエマでな——地獄を見せてやろう」
「いや、さ。だから何でいっつもデュエマで勝負をつけようとするんだお前は!!」
「問答無用、地獄へぶち込む」

 ダメだ。この状態のレンは、正気ではない。
 仕方が無く、デュエルを受けることにするヒナタ。

「僕が勝ったら、石膏像を徹夜で直して貰おうかヒナタ……!!」
「良いぜ、俺が勝ったら今の件は全部チャラで」
「ヒナタ先輩、幾らなんでもレン先輩が可哀相っす!!」

 ノゾムの突っ込みをスルーし、互いは机の上にホログラム発生マットを目の前に引き、カードを展開する。
 

『デュエマ・スタート!!』

 
 ***

 ヒナタと怒り狂うレンのデュエル。
 互いにシールドは5枚、まだ何も始まっていないという状況で、まずはレンが動き始めた。

「呪文、《ボーン踊り・チャージャー》! 効果で我が山札から2枚を墓地へ!」

 レンのデッキは、闇単。それも、凶悪な悪魔が何枚も積まれたデッキだ。去年、ある友人に触発され作り、徹底的に闇文明にこだわった。わざわざ泣く泣く無色を捨ててまで作った。
 そして、墓地には《ポーク・ビーフ》に《デーモン・ハンド》が置かれていた。

「ターンエンドだ! どうした? 早く始めろ」

 苛立った表情でレンはターンを終える。
 一方のヒナタのデッキは、いつもの火文明単色ドラゴンだった。ただ、昨日も夜遅くまで改造をしていたのだ。以前よりも、その炎は苛烈に盛るだろう。
 しかし、相も変わらず札補充に乏しいので、手札破壊を打たれたら苦しくなる。
 ちなみにデッキ名は、”開闢の熱血龍”である。

「よし、俺はまず、《コッコ・ルピア》召喚! ターンエンドだぜ!」

 これで次のターンに、手札の《ボルシャック・NEX》が出せる。
 そう思った矢先-----------

「それで良いんだな? では僕のターンだ。《コッコ・ドッコ》を召喚」

 紫色のぬいぐるみのような鳥が現われた。そして、バトルゾーンを駆け回っている。
 こんな奴出してどうすんの? といった表情のヒナタだったが、レンは不敵な笑みを浮かべて言った。

「ターンエンドだ」
「へっ、それだけかぁ? んじゃ行くぜ! 《ボルシャック・NEX》召喚!」

 炎に包まれ、黄金の鎧を纏った龍がその姿を現した。さらに、ヒナタの山札から1匹の鳥が現われる。

「《マッハ・ルピア》召喚! 効果で《NEX》はスピードアタッカーだ! 行け、W・ブレイク!」

 レンのシールドが2枚、はじけ飛ぶ。ホログラムなので、決闘空間の時のように破片で怪我をすることはないが。

「ふっ、浅はかな奴だ! S・トリガー、《地獄門 デス・ゲート》で《マッハ・ルピア》を破壊——そして効果で墓地から《ポーク・ビーフ》を召喚だ」
「クッ、ターンエンド……!!」
「では僕のターン。早速見せてやるとしよう」

 笑み一つ浮かべず、彼はマナを一気にタップする。
 そして——煉獄の悪魔龍を呼び出したのだった。

「大罪書、グリモワール解放!! 7大罪、”憤怒”! 現われよ、《憤怒の悪魔龍 ガナルドナル》を召喚!!」

Act1:デュエルは芸術か? ( No.28 )
日時: 2016/09/12 23:56
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「コ、コスト8!? 何でいきなりそんなクリーチャーが!」

 傍から見ていたノゾムは、思わず声を上げた。
 それを耳に留めたのか、レンは親切にも説明する。

「大馬鹿者め。《コッコ・ドッコ》はコマンド・ドラゴンのコストを3下げる効果を持つ。ただし、犯した罪には相応の”罰”が必要だがな」

 さらに、《コッコ・ドッコ》はコマンド・ドラゴンが出てきたため、破壊される効果を持つ。
 すぐさま、《ガナルドナル》に踏み潰されてしまった。


コッコ・ドッコ UC 闇文明 (4)
クリーチャー:ファンキー・ナイトメア 2000
自分のコマンド・ドラゴンの召喚コストを最大3少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
自分のコマンド・ドラゴンをバトルゾーンに出した時、このクリーチャーを破壊する。



「次は《ガナルドナル》の登場時効果発動!」

 次の瞬間、紫色のオーラが《ガナルドナル》から放たれた。そして、疲労しているヒナタのクリーチャー達が苦しんでいく。
 ヒナタの場にあるタップ状態の《ボルシャック・NEX》が闇文明の紋様を受けて、紫色に光った。
 
「《ガナルドナル》の毒は、普通のクリーチャーならば耐えられるが、”攻撃して疲労した”クリーチャー。つまり、タップ状態のクリーチャーは耐えることが出来ない」
「ま、まさか」
「《ガナルドナル》は、登場時にタップされたクリーチャーを全て破壊する! さあ、貴様の罪を数えろ!」



憤怒の悪魔龍 ガナルドナル 闇文明 (8)
クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 7000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにあるタップされているクリーチャーをすべて破壊する。
W・ブレイカー



 この瞬間、猛毒を受けて装甲龍は破壊される。

「でも、《NEX》1体だけだ! 破壊されたのは変わりねえけど!!」
「《NEX》を破壊しただけでも、十分な収穫だ」

 確かにそうだ。加えて、レンの場にはブロッカーの《ポーク・ビーフ》がいる。迂闊な攻撃は許されない。
 だが、それを破壊する手段があるならば、話は別なのだが。

「よし、引いたぞ! 俺のターンだ! 呪文、《メテオ・チャージャー》!」

 隕石が降り注ぎ、《ポーク・ビーフ》が破壊される
 《メテオ・チャージャー》は、発動すればすぐさま敵のブロッカーを破壊できる便利な呪文だ。だが、それだけではない。
 《メテオ・チャージャー》のカードが、ヒナタのマナゾーンへ置かれる。

「チャージャー呪文か厭らしい手を使う」

 チャージャー呪文。使うとマナゾーンにいく呪文のことだ。実質、コスト-1して使える。
 
「ああ! 余った3マナで、《スピア・ルピア》を召喚だ!」



スピア・ルピア UC 火文明 (3)
クリーチャー:ファイア・バード 1000
このクリーチャーは、アンタップされているクリーチャーを攻撃できる。
このクリーチャーが破壊された時、次のうちいずれかひとつを選ぶ。
▼自分の山札を見る。その中からドラゴンを1体選び、相手に見せてから自分の手札に加えてもよい。その後、山札をシャッフルする。
▼バトルゾーンにある自分のクリーチャー1体は、このターン、アンタップされているクリーチャーを攻撃でき、パワーが+2000される。



 槍を構えた鳥、《スピア・ルピア》が現われる。破壊されれば、手札補充か味方強化のいずれかが選べるのだ。
 しかし、どの道次のターンにW・ブレイクを喰らうのは確実か。

「ターンエンドだ」

 だが、このまま易々と通してくれるほど、レンは弱くは無い。

「僕のターンだ。行くぞ! 呪文、《インフェルノ・サイン》で墓地から《コッコ・ドッコ》を復活させる」
「あ? どういうことだ?」



インフェルノ・サイン P(UC) 闇文明 (5)
呪文
S・トリガー
コスト7以下の進化ではないクリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出す。
※殿堂入り



 《インフェルノ・サイン》はコスト7以下のクリーチャーを復活させる、ヒナタも使っていた呪文だ。だが、大概の用途はコスト7や6の中型クリーチャーを復活させるために使うもの。
 コスト4の《コッコ・ドッコ》をわざわざ復活させる意味があるのか?
 レンのマナは既に6。嫌な予感がする。

「そして、《ガナルドナル》でW・ブレイク!! トリガーはないな?」
「ああ」
「ターンエンドだ」

 シールドが2枚、お返しと言わんばかりに叩き割られた。
 しかし、手札に入ったのは、《レッツ・デュエル兄弟》だ。

「俺のターンだ! 呪文、《レッツ・デュエル兄弟》で《コッコ》と《スピア》を山札の一番下へ! そして、その数だけ山札の上から進化ではないアーマード・ドラゴンをコスト踏み倒しすることができる!」
「ふむ」

 山札が大量に墓地へ送られるが、その中から2枚のカードが浮かび上がった。

「《爆竜勝利バトライオウ》と《ボルシャック・ギルクロスNEX》を召喚だ!」

 現われたのは、勝利を司る戦闘龍とエイリアンによって作られた凶悪な装甲竜だった。
 さらに、これだけでは終わらない。《ギルクロス》はスピードアタッカーだ。



ボルシャック・ギルクロス・NEX SR 火文明 (9)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/エイリアン 9000+
スピードアタッカー
パワーアタッカー+5000
T・ブレイカー
誰もサイキック・クリーチャーをバトルゾーンに出すことはできない。



「《ボルシャック・ギルクロスNEX》でT・ブレイク!!」

 シールドが一気に3枚、吹っ飛んだ。しかし、ヒナタはこれ以上の攻撃が出来ない。
 とはいえ、レンのシールドはゼロ。次のターンが来れば勝てる。
 ”次のターン”が来ればの話だが。

「僕のターンだ。マナをチャージ。これで7マナだ」

 嫌な予感がする。この感じ、前にも味わったことがある。
 以前、学園生活を共にした少女のものと全く同じ------------それどころか、それよりも更に荒々しさと苛烈さが伝わってくる。
 まるで……いや、まさに龍だ。 
 
「《憤怒の悪魔龍 ガナルドナル》進化-----------------」
「い、いや、でも在り得ないよな。”あの”クリーチャーが、《コッコ・ドッコ》の力を借りることができるはずがねえよ」
「果たしてどうだかな」

 レンは嫌な笑みを浮かべた。そして--------------ドス黒い瘴気を放つカードを、悪魔龍の上に重ねた。


「地獄の声を聴く。命の根源を絶ち、罪人を闇で裁き、そして貴様を呼ぶ——君臨せよ、《悪魔龍王ドルバロムD》」

Act1:デュエルは芸術か? ( No.29 )
日時: 2016/09/12 23:58
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 現われたのは、究極の悪魔龍王だった。その瞬間、ヒナタのマナゾーンとバトルゾーンのカードが全て墓地へ送られる。
 確か、自分の記憶の中にある《悪魔神 ドルバロム》は登場時に闇以外のクリーチャーとマナを全て破壊する効果を持つ進化クリーチャーだ。
 そして今、目の前にいる龍は、それと全く同じ効果を遂行した。現にヒナタのバトルゾーンとマナには何も無い。
 
「ド、ド、ド、《ドルバロムD》!?」
「そうだ! DはドラゴンのDだ。ドラゴンのサポートを受けたいならば、答えはシンプル。”ドラゴンになってしまえば良い”。簡単だろう? さて、すべてを消し去る闇文明の美学! 嗚呼、美しい、美しい……!!」
「やっぱこいつたまに気持ち悪くなるよな……」

 そのヒナタの発言を受けてか、いよいよ青筋立つレン。好い加減に怒りが爆発しそうだった。

「そんなにくたばりたいか貴様ァァァァァァァ!!」

 マナゾーンのカードとバトルゾーンのカードを吹っ飛ばされたにも関わらず、この発言だ。
 無理も無い。

「あー、それと質問。お前、今のでマナのカード全部使っちまったよな? ついでに、《コッコ・ドッコ》も自壊して、バトルゾーンにはそいつ以外いねぇよな?」
「余計な事を抜かすなよ、ヒナタ。次のターンで、地獄の底まで突き落とす」
「いやー、それがあるんだよなー」
「地 獄 の 底 ま で 突 き 落 と す」

 威圧的なオーラがレンから放たれた。
 だが、それを見てもヒナタはもったいぶるように肩をすくめているだけ。
 にやにやとした笑みを浮かべながら。

「どーせ破壊すんなら、”手札”も破壊しておくべきだったなって」
「悪いが、僕の手札も2枚。幾らババロアブレーンの貴様でもそれが何かは察しているだろ? もう、何も怖くは無い——行け、《ドルバロムD》!! シールドをT・ブレイクだ!!」

 レンはもう、何も怖くなかった。レンの手札には、出てきた瞬間に敵のパワーを−6000するニンジャ・ストライク獣、《威牙の幻 ハンゾウ》と、パワーを−3000する《威牙忍 ヤミノザンジ》がいるのだ。S・トリガーのクリーチャーが出てきたところで怖くは無い。
 悪魔の龍王が腕を振るう。
 衝撃で吹っ飛ばされそうな感覚に陥ったが、所詮はホログラムだ。
 ヒナタのシールドが全て吹っ飛んだ。これで互いにシールドはゼロ。
 だが、同じシールド0でもこの場合は訳が違う。
 しかし、レンは気づいていなかった。
 1つ目は、”もう、何も怖く無い”は死語であることに。
 2つ目は、マナが無いならばマナを使わなければ良いという事に。


「こんなこともあろうかと、実はとっておいたんだよな。S・バック火、発動!」

 
 ヒナタは、手札に加えるはずのシールドを墓地に置いた。《スーパー炎獄スクラッパー》だ。
 そして、そこから一陣の炎が巻き上がり、龍が顕現した。
 強烈な奇襲性能を持つ装甲竜、《デュアルショック・ドラゴン》だ。

「《デュアルショック》、だと!?」

 普通ならば、赤単の速攻に入れられるドラゴンだ。しかし、このように万が一のときの保険として火の入るデッキに入れることも出来る。

「そうだ! こいつはな、登場時にシールドを1枚墓地に置かなければいけねえけどな、もう俺にはシールドがない! さあ行くぜ、俺のターンだ!」

 龍が雄々しく咆哮を上げた。
 まるで、自らの勝利を確信するかのように。


「《デュアルショック・ドラゴン》で攻撃!!」


 装甲竜の炎が一気にレンを包む。(ホログラムだが)

「く、くそっ! ニンジャ・ストライクで《威牙の幻 ハンゾウ》を」
「残念だったな! こいつのパワーは圧巻の8000!! そいつじゃ破壊できないぜ!」



デュアルショック・ドラゴン SR 火文明 (6)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン 8000
S・バック−火
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のシールドを1枚選び、自分の墓地に置く。
W・ブレイカー



 この瞬間、ヒナタの勝利が決まったのだった。


 ***

「く、くそっ、まさか——この僕のデッキがまたしても……」
「まー、良いじゃねえか、レン」

 ぽん、とレンの肩に手を置くヒナタ。
 そして、優しい笑顔で言った。

「形あるものはいつか壊れるんだ。そうだろ?」
「ヒナタ——」
「また、作れば良いじゃねえか」
 
 良い様な感じに締めようとする。
 何か、本当に良い話みたいになっているが、ここでレンは思い返した。

「待てよ——よく考えたら、貴様が壊したのではないかああああああ!!」
「バレたかぁぁぁぁぁぁ!!」

 再び、鬼(またはドルバロム)のような形相になったレンが、拳を振り上げて、ヒナタを追い回す。
 美術室の中で走り回る2人。ヒナタは、さっきまで売ろうとしていた後輩に助けを求める。

「おいノゾム! お前、先輩を助けろ!」
「今回は先輩の自業自得っすよ」
「くそ、この薄情者め!!」
「後輩売ろうとしたあんたの方がよっぽど薄情でしょうが」
「おらぁ、待て貴様ぁぁぁフルボッコにしてくれらああああ!!」

 この後、ヒナタはレンによって、地 獄 の 底 ま で 叩 き 落 さ れ たのだった。



 ***



 その後だった。石膏像はヒナタが徹夜で直すということで可決。残念でもないし当然の結果である。
 次いで、ヒナタはレンに昨日のことを話して聞かせた。
 不思議なカードを使うローブの少年。そして、クレセントに白陽のこと。
 レン自身も、オラクルとの戦いを経験している以上、否定はしなかった。

「また面倒なことになったな。で、その白陽とクレセントは?」
「学校でのデュエルに使ったら危険だと思ったから置いてきた。能力が暴発したらどうする」
「オレもっす。それより先輩! 今度は、オレが質問です! 決闘空間の事を、何で知っていたんですか!」

 ああ、思い出した。そういえば、ノゾムはそれをヒナタに聞くために来たのだった。
 ヒナタはまず、昨年起こったオラクル事件の事を話した。
 既に、オラクルの教祖であるヨミが完全消滅したために、人々の記憶から事件のことは消え去っていたが、”真のデュエル・マスターズのカード”の所有者に選ばれた数名だけが、覚えていたのだった。

「信じられないと思うけど、俺達は連中と戦う中で決闘空間のことも知ったんだ」
「本当ですか! クリーチャーが生きているって!」
「ああ、そういう世界が宇宙のどこかに存在する」

 レンが答えた。
 しかし、野心家のヨミはそれだけでは飽き足らず、地球にまで支配地域を伸ばしてきたのだった。
 その野望をヒナタ達は打ち砕いたのだった。

「ヒナタとノゾム。僕からの提案だが、白陽とクレセントはやはり学校にもってこい。一緒に居るうちに、何か分かるかもしれないからな」
「ああ、そうするか」
「どのみち明日は土曜ですけどね」

 ***

「ったく良いんですかぁ? あいつの力が見たいからって東京までワザワザ足を運ぶとか。折角の土日なんだから、もっと有意義に過ごしましょうよ」
「貴様の言い分は間違ってはいない。だが、デュエリストとは直に目で見てこそ実力が分かるもの」
「俺は今日上半身と下半身が痛いんですって」
「それを世間は全身が痛いと言う」
「分かりましたよ。ま、サクッとやっちまいますから」
「少なくとも、聖羽衣の面は汚すなよ——キイチ君」
「わぁーってますって——獅子怒さん」

Act2:狩猟者は皮肉か? ( No.30 )
日時: 2016/03/17 12:31
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

「ホタルの奴、昨日学校には来なかったんですよ」
「ま、あの事件の後だ。仕方ないだろ」

 暁ヒナタと十六夜ノゾムは、カードショップ『WIN×WIN』に居た。
 どこにでもある普通の中古屋だが、ここではあくまでもカードを専門に扱っている。(無論、それだけでは経営が苦しいのでゲームカセットやハードも取り扱っているが)
 しかし、ここのシングルはなかなか品揃えが良い。
 しかも、そこそこ安かったりする。
 今、デッキを改造しようとしているヒナタには打って付けだった。

「先輩って火文明をよく使いますよね」
「馬鹿言え、俺ァその気になりゃシューゲイザーでもヘブンズ・ゲートでも使えるんだっての」
「またまたー」

 すると、ヒナタはカバンの中のデッキを1つ取り出すと、言った。
 見れば、結構年季の入ったスリーブに守られたデッキだった。

「んじゃ、試してみっか?」
「へ?」

 ***

 結果、ノゾムの全戦全敗だった。まさか、この人はビートよりもっヘブンズ・ゲートの方が強いのではないか、思うほどに。
 元々、ドロマーカラーを主軸に組んでいたヒナタだから当然だったのだが。

「先輩ってオールラウンダーだったんすね……」
「そうだ。連ドラと墓地ソースは俺の数多いレパートリーの一部に過ぎない。大会とか出るときは、その辺りの環境に合わせてデッキを変えたりするから、結構デッキは3つくらい持ち歩くぜ?」
「……」

 墓地ソースという言葉に沈黙するノゾム。
 彼は昔、墓地ソースを使って大会で優勝した時に、自分が負かした相手から「暁ヒナタの真似事」と憎まれ口を叩かれたことがあったのだった。
 
「ったく、まだ気にしてんのかぁ? 大体よぉ、人の目なんかいちいち気にしていられるかってんだ。ネットの掲示板やラインに悪口書かれたって、そのラインと掲示板使ってなきゃ、痛くもかゆくもないだろ」
「……はい」
『ノゾムー! 元気出してよ!』

 デッキの中からクレセントが声を掛ける。
 ああ、心配してくれる人がいるって、良い。
 そこで、思い出したかのようにヒナタはデッキの中の白陽に声を掛けた。

「そうそう白陽。お前に合わせて、デッキは赤単にした。あと、《コッコ・ルピア》よりも、《メテオ・チャージャー》とかでマナを増やした方が良いと思ったんだ」
『そうか。ヒナタはなかなか気が利くな』
「ま、元々《コッコ・ルピア》は貧弱だから近々外そうと思ってたところだしな」

 サラッと《コッコ・ルピア》が真っ青になるような台詞を吐くヒナタだが、一応これも彼なりにデッキのことを考えているのだろう。

「後は、この間シールド・ポイントはたいて手に入れた、このカードを使えば、ヒヒヒ」

 と、手に取ったカードを持って、レジへ直行しようとしたその時だった。
 ボスン、と誰かの胸板にぶつかった。なかなか筋肉質な感触だ。
 見上げれば、180cmはあろうかの大男だった。
 休日にも関わらず、どこかの学校の制服を着ている。純白のブレザーだ。そして赤いネクタイを締めていた。
 極めつけは、長身に加えて風格の在る細い目にごつごつとした顔。
 だが、豪傑というよりは冷静な指揮官を思わせるような雰囲気だった。
 
「あわわわわ」
「すまなかった。この長身が災いしてよく見えなかったのでな」

 男は言った。
 怯えているヒナタに遠慮したのだろう。

「それより------------暁ヒナタだな?」
「いっ!?」

 いきなり名前を言い当てられて、戸惑うヒナタ。だが、この制服には見覚えがあった。
 鎧龍に並んで有名なデュエリスト養成学校、”聖(セント)羽衣決闘学園”だ。
 しかし気がかりだったのは、聖羽衣は大阪にある学園。何故、此処にまでその生徒が来ているのか。

「合っているようだな」
「えーっと? 聖羽衣のお方で? 一体何故此処に?」
「ったく、お前がいる場所なんか、分かりきっているんだよ」

 皮肉でフランクな声が響いた。見れば、男の後ろから、見覚えの在る少年の姿が。
 痩せ型で、ヒナタよりもひょろひょろと長い体型。
 そして、死んだような目に無造作の茶髪。

「キイチ!?」
「知り合いですか」

 ノゾムの問いに、ヒナタは頷いて答えた。
 彼は昨年の鎧龍サマートーナメントで、共に戦った戦友だった。
 槙堂キイチ。それが彼の名前だった。漢字で書くと「喜一」らしいが、彼自身デュエルのときを除いて滅多に感情をあらわにすることは無い。いつもは無気力、死んだ魚のような目を浮かべているのだった。
 それだけではない。このカードショップで彼とであったのだ。

「久しいな」
「ああ、お前に会えて嬉しいよ!」

 と、差し出したヒナタの手を-----------キイチはパン、と払った。
 その眼は何時になく厳しいものだった。

「ああ。去年の学園対抗トーナメントで、俺と当たった時のてめぇの無様な負けっぷりは今でも焼け付いている」
「……何だと?」
「ふっ、てめぇら鎧龍の準優勝は実質あの無頼シントとエル・ヴァイオレットに助けられたようなモンだからな」

 言い返せないヒナタ。キイチはヒナタ達と戦った後、何も言わないまま転校した。大阪の聖羽衣学園へ。そして、ヒナタと学園対抗トーナメントで戦うことになったのだ。
 結果はヒナタの完敗だった。それどころか、ヒナタはその前の別の学校との試合でも完敗を喫していたのだった。
 ノゾムが駆け寄る。

「先輩、昨年のって……」
「ああ学園対抗トーナメント。この日本には、全部で4つのデュエリスト養成学校がある。関東に鎧龍、近畿に聖羽衣、九州に零央、北海道に蓬莱だ。そして、それぞれの選りすぐりの生徒6名のチームを組んで、トーナメントを行うってものだった」
「先輩も出場したんですか!?」
「ああ。当然、鎧龍チームにな。だけど俺は負けてばっかりで何も出来なかったんだ」

 今思い返すだけでも、自分の無様な負けっぷりが鮮明に残る。あの戦いを得て、決心したのだ。
 強くなる、と。

「何だか知らねえけど-----------先輩を侮辱するなら許さねぇぞ死んだ魚男!」

 ノゾムがしゃしゃり出る。

「死んだ魚たぁ、また滑稽な仇名を付けられたモンだ。ハッ、馬鹿じゃね? 俺は強くなったんだよ。聖羽衣でな。てめぇらなんざ、足元にも及ばねぇ」
「あんた好い気になってんじゃねえよ。ヒナタ先輩は弱くない!」

 あくまでも食ってかかるノゾム。
 
「ああ、そうだ。てめぇの馬鹿先輩は弱くない」
 
 肯定するキイチ。
 だが------------と彼は皮肉気に続けた。


「俺達が強すぎるんだヨ。何せ、鎧龍を下したのは俺達、聖羽衣なんだからな!」


 自信満々といった笑みでキイチは言い切った。
「もっとも、今俺の後ろにいる獅子怒さんは俺よりも強いが」と付け加えて。
 ハッタリなどではない。彼らの実力は、真にヒナタが理解している。
 だが。

「お前は何か勘違いしてるぜ、キイチ」
「あ?」
「俺だって、この半年間寝てた訳じゃねえんだ。今の俺は、お前の知ってる俺じゃねえ」
「何なら今からやるか?」

 小馬鹿にするようにキイチが鼻で笑った。
 答えは簡単だ。

「やるに決まってんだろ!」
「じゃあ決定だ」

 キイチがデッキを取り出した。そして、背後にいる男に判断を仰ぐ。

「良いですよね? 獅子怒さん」
「構わん。我は彼の実力を見るために来た」
「白陽、お前の実力を試させてもらうぜ!」
『合点承知。私は既に貴様の手足だ。思う存分に使ってくれ』

 耳ではなく、頭を通して白陽の声が聞こえてくる。

『白陽〜! がんばって〜!』
「お前は引っ込んでろ、バレたらどうするんだ!」

 だが、本当に声を上げて白陽を応援するクレセントをノゾムが咎めたのは、誰も見ていなかった。
 この日、カードショップは戦場と化した。
 己のプライドを賭ける2人のデュエリストによって。
 かつて共に戦った戦友2人のデュエリストによって。
 すぐにデュエルスペースに移動し、カードを展開し、お決まりの台詞を同時に言った。

『デュエマ・スタートッ!!』


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