二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
- 日時: 2017/01/16 20:03
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。
また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。
”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”
『星の英雄編』
第一章:月下転生
Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25
第二章:一角獣
Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48
第三章:骸骨龍
Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73
第四章:長靴を履いた猫
Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114
第五章:英雄集結
Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204
『列島予選編』
第六章:革命への道筋
Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦
Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261
Act8:次なる舞台へ
>>262
第七章:世界への切符
Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352
『侵略世界編』
第八章:束の間の日常
Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393
第九章:侵略の一手
Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416
第十章:剣と刃
Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444
短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。
短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65
短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126
短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156
短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176
短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422
エイプリルフール2016
>>299 >>300
謹賀新年2017
>>443
登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします
オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。
お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新
- Act3:ヒナとナナ ( No.277 )
- 日時: 2016/03/25 02:23
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
***
「ショウゴ……どうだった?」
「さっぱりだ。女子には声かけづらいし……そういう檜山と暁は?」
「全然ね。やる気なかったり、デュエマやってなかったり、そもそも既にチーム組んでたり」
後1人。
後1人なのだ。
どうにかして集めなければ、明日でエントリーの受付は締め切られてしまう。
ここ数日粘ったものの、成果は無かったのだった。
「な、なあ、ナナ……もう諦めた方が」
小声でナナカに言うヒナタ。
既に彼はここ数日のメンバー集めで色々辟易していたのだった。
が、しかし。
「ダメよ!! あんたの実力をみんなの前で見せつけて、あんたをいじめた奴らを見返してやるのよ!!」
「ねえ、これそういう話だったっけ!?」
「あのー」
全員は振り向いた。
そこには——少女が居た。
茶髪を両端でリボンで結んだ生徒だ。
「夏休みのカードゲーム大会のチーム……探してるのかなあ?」
「え、ええ……」
若干戸惑いながら、頷く各員。
まさか、と思った。
少女は口を開く。
「私で良ければ……チームに入れて欲しいんだけどぉ」
全員に衝撃が走った。
——まさかの大当たりキタコレェェェェーッ!!
「おい、マジか!! 寸前で希望者が自ら出てくるなんて!」
「しんじられません……かくりつてきに奇跡です……」
「や、やったわよヒナタ! これでチームが組める!」
「あ、ああ……」
——何だろう、何でか知らねえけど、嫌な予感がする……。
何故これまでこんな理想的な人間がチームに入らなかったのか。しかも性格から言ってもおっとりとした真っ当そうな人だ。
此処まで都合よく物事が進むと、逆に疑ってしまう。
「貴方、名前は!?」
「5年の長谷川 しおりって言います。よろしくねぇ」
「キタコレ!! ちょっとあたし登録行ってくる!!」
「お、おう……」
ハイテンションでダッシュしていくナナカ。
そして自己紹介を始めるノアとショウゴ。2人共完全にテンションが上がりきっていた。
「さ、3年の景浦ノアです! よろしくお願いします!」
「同じく5年の野分ショウゴだ。固いのは抜きにしてよろしく頼むぜ! 得意分野はドラゴンだ!」
「ええ、よろしく頼むわぁ。私もカードゲームやってるのに、誰も誘ってくれなかったの」
「……え」
全員は黙りこくった。
カードゲームをやってるのに、大会に誰も誘ってくれなかった、と彼女は言った。
だが真っ当そうな彼女の性格から考えてハブられているのは考えにくい。そもそも自分らもそうだが、メンバー集めに苦労しているチームはかなり多いはずだ。
此処に来て、ヒナタの嫌な予感が当たりだす。
——まさか、まさかこの人本当に——
「私の好きなデッキは”インフェルニティ”よ。よろしくねぇ」
この瞬間。
全員は察した。
——違う!! そっちのデュエルじゃねえええ!!
この人は恐らく、デュエル・マスターズをやっている人ではない。インフェルニティとか完全に別のカードゲームのデッキである。満足同盟の満足さんの最高に満足出来るデッキである。ちなみに作者はこっちのデュエルも好きである。
しかもおもくそガチ勢である。小学生とは一体。
「今戻ったよ!」
はつらつとした表情で走って戻ってくるナナカ。
まずい。いずれ知らせなければならないこととはいえ、これはかなりまずい状況だ。何も知らない様子で「どうしたのよ?」と問うナナカ。
そして、冷や汗たらたらでショウゴはしおりに聞いた。
「あ、あのー、すまない長谷川。ちょっと聞いていいか?」
「なぁに?」
「お前、夏休みのデュエル大会、何のカードゲームの大会か分かってるのか?」
「え? 遊○王OCGじゃ——」
「違うんだよオオオオオ!! デュエル・マスターズなの!! デュエルはデュエルでもモンスターじゃなくてクリーチャー召喚する方のゲームなの!! 魔法(マジック)じゃなくて呪文を唱えるゲームなの!!」
「まさか今の今まで知らなかったんですかぁぁぁーっ!?」
そして、状況を大方察したナナカが死んだ目でヒナタに問うた。
「……ねえヒナタ。どういうこと?」
「ナナ……この人、別のデュエルの人だった」
「……まさかデュエル違い?」
「デュエルはデュエルでもクリーチャーじゃなくてモンスター召喚する方だ」
2人は黙りこくった。
若干天然が入っているこのしおりという少女は、最後の最後まで何の大会か勘違いしていたのだろう。
しかし、もう登録してしまったものは仕方がない。
そう思ったのだった——
***
「ありがとねえ。初心者の私にもデッキ貸したりルール教えてくれてぇ。実は私、前から他のカードゲームにも興味持ってたのよぉ、良いきっかけになったわあ」
「い、いえ……あたしデッキ作るの好きで得意だから」
「檜山さん、後で私ともたいせんしてください」
「ええ、勿論よ!」
結果。毎日カードショップで放課後にデュエルの特訓を行うようになったヒナタ達。
実質初心者のしおりであったが、デュエマのルールが割と簡単なのもあり、すぐに覚えて今はナナカの作ったデッキも回せるようになっていたのだった。
「《偽りの名 バルガ・ラゴン》でシールドをW・ブレイク! その効果で山札の上を捲ってドラゴンなら——って《メンデルスゾーン》かよ!」
「俺のターン、《金属器の精獣 カーリ・ガネージャー》でダイレクトアタック」
「うわあああ!! 負けたぁぁぁ!!」
そして、わいわいやっている男子2人。
「ったく、ヒナタは本当につえーな……」
「い、いや……別に……何かすいません」
「いや、謝ることはねーぞ」
ぽんぽん、と彼の肩を叩きながらショウゴは言った。
「もっともっと楽しめよ! 俺はこのチームなら勝てるってよりも、このチームで勝ちたいって思ってるからな!」
じゃあもう1回! と言うショウゴ。
ヒナタにはその姿が本当に楽しそうに見えたのだった。
——楽しむ、か……。
複数人のメンバーでデュエルする。こんな状況、少し前ならば考えられなかった。
今では、皆が友達、と呼べる仲だ。
「……楽しいよ」
「おっ?」
「……今こうして、皆とデュエマが出来る……こんなの初めてだけど、新鮮だって思った」
「その気持ちだ! 楽しいってことも、悲しいってことも、皆で分かち合えば+の方に持っていけるんだぜ! サッカーだってそうだ! その気持ちを忘れんなよ!」
笑ったショウゴは、つづけた。
「俺……昔はクラブのサッカーチームに入ってた。皆、最初は楽しいからサッカー始めたはずなんだよ。だけど……だんだん殺伐としていった」
思い出すように彼は語る。
些細なミスでピリピリしだしたり、試合の結果を見て一喜一憂しだしたり。
チーム内の空気も険悪になっていったという。
「な、何で……?」
「強い奴も入って、チームが有名になっていって……うちのチームが急に大きくなったからなんだけどよ。楽しむってことを忘れちまったんだろうな」
だから、と彼は続けた。
「”楽しむ”って気持ちは絶対に忘れんな。笑顔でいれば、絶対いつかは良いことあるから」
笑顔で、バンダナの少年は言ったのだった。
——楽しむ、か……。ナナのおかげだな。俺をこんな仲間に引き合わせてくれたしな。
そう思いながら、彼は言った。
「もう1戦、受けるよ」
「おっ! やる気だな——」
- Act3:ヒナとナナ ( No.278 )
- 日時: 2016/03/25 02:20
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
***
「うふふ、このデッキってとても使いやすいわ。ありがとねえ、超次元のカード貸してくれてぇ」
「え、ええ……自分は大丈夫です。何なら俺、今使ってるデッキにそいつらいらないから、譲ってもいいですけど」
「あらぁ、本当? 良いのかしらぁ」
「1人でも……デュエマ好きな人が増えてくれたなら俺、嬉しいし」
「ありがとねぇ。勿論、”本職”の方も続けるけどデュエマも楽しいわぁ」
ある日、対戦が終わった後にしおりは言った。
おっとりぽけぽけした人だが、デッキはやはりえげつないというか、闇を中心にしたようなデッキを好んでいた。
とはいえ、温厚で人付き合いも良い人だったのでヒナタとしては喋りやすい部類であったが。
「カードゲームって本当良いわよねえ。ただの紙切れって侮る人がいるけど、私は違うと思うの」
「は、はぁ……」
「なぜなら、これのおかげで、沢山の出会いがあるからよ。ライバル、友達……その1つ1つが大事なものだわ」
微笑みながら彼女は言った。
「大切にしてあげてね? 幼馴染」
「ナナカっすか?」
「ええ。あの子、貴方に一途だもの」
「い、一途ってそんな……まあ、デュエマを教えて貰ったのもあいつだし……」
「あなたのことをいつも心配してるもの」
彼女の顔を思い浮かべる。
思わず顔が赤くなった。どこか気恥ずかしくなったのだ。
学校に限らず、色んな人間に今まで出会ってきたヒナタだが、やはりナナカという少女と出会ったことは本当に奇跡だと思っている。
大切な親友として。
***
「つよいかよわいかって重要なことかっていう人がいますよね?」
「ああ」
ノアは眼鏡をくいっ、と押し戻しながら言った。
ノートパソコンを片手に、デッキの事などを調べている。
小学3年生にしては本当に頭が切れる少女だとは思うが。
「私にはまだわかりません。人間はいつ強くなればいいのか、とかそんなことは……」
「どうしたんだ?」
「い、いえ……私が最年少だから……足ひっぱったりしないかなぁ、ってふあんにおもうんです」
「ああ」
それはヒナタも常々思うことであった。
自分が弱いことで、ナナカに迷惑を掛けていないか、ということだ。
自分をいつも助けてくれたのは彼女だ。
「デュエマでは楽しむことが大事だってショウゴは言ってたよ」
「そ、そうですけど……」
「それでも俺は……自分がいつかは強くならなきゃって思うんだ」
ナナカが自分に語った夢を思い出す。
いつか、互いが互いを補う必要がないくらい強くなったら、世界一がどちらか決める、ということだ。
「だから、自分が強くなりたいって思った時に頑張ればいいんじゃないかって最近は思うようになった」
「そう、ですか……そうですね」
今、彼女がいきなり強くなる必要はないだろう、とヒナタは思った。
何故なら——たった今彼女のハンデスにやられたばかりだからである。勝率は5分5分。彼女の考えは杞憂に終わるとしか思えない。
——ぶっちゃけ、ノアが俺と並んで一番強い気がする……。
***
学校も終業式を迎え、夏休みになった。
毎日、カードショップで特訓したり、他の遊びを公園でする日々が続く。今日はサッカーもしたところだった。
「今日も楽しかったね」
「ああ」
ナナカは笑顔で語りかける。
沈んでいく夕陽を背に、他愛のない話が続いた。
そして——一段落したところで彼女が告げた。
「ねえヒナ、今のあんたに合うカードがあるんだけど……興味ある?」
「合うカード?」
こくり、と彼女は頷いた。
今、ヒナタが使っているのは火と水のガネージャビートであった。息切れしない速攻性がウリのデッキだ。
それを更に強化する、と彼女は言っているらしかった。
「最近手に入れたカードなんだけどね。少しコンセプトは変わると思うけど、十分正統強化に繋がると思うんだ」
「そ、そうなのか?」
「だから、ちょっとうちによってほしいんだけど、良いかな」
***
カバンの中のストレージからカードを出し、ナナカの指示に従って必要なカードを取り出していく。
そして、今使っているデッキからカードを引き抜き、入れ替えていった。
使っているのはあくまでもヒナタのカードだけだ。ただ1枚を除いて。
「これよ」
「《暴走龍 5000GT》……?」
「ええ。そのデッキ、この間発売されたスターターを改造した奴だけど、これの存在を考えると墓地を使う方向にシフトした方が良いと思うのよ」
「確かに……こいつの性能……だけどどうやって」
「当たった」
「マジか」
黄金に輝くVの文字が刻まれたカード。
それは、デュエル・マスターズの最高レアの1つ、ビクトリーレアを意味する印であった。
さらっ、と運の高さを示した彼女はそのままデッキにそれを組み込む。
「ありがとな」
「良いの。このデッキはヒナのプレイングに合わせてるから、あんたなら100%の力が発揮できるはずだわ!」
「根拠は?」
「あたしが頑張ってリストを作ったから」
「らしいよ」
ははっ、と笑い合う。
完成したデッキを手に取ったヒナタを見て、ナナカは言った。
「ねえ? それと……もう1つだけどさ」
「ん?」
「今度……夏祭りがあるよね」
「ああ」
思い出したようにヒナタは言った。
7月25日。市街地で毎年かなり大規模に行われるものだ。
普段はヒナタは人込みを好まないので、いつもは行っていなかったが——
「今年は皆も誘っていかないかな……? ヒナも来る……よね?」
確かに、折角集まった仲間だ。是非、皆で楽しみたいという気持ちはヒナタにもあった。
「……あー」
が、ヒナタは思い出す。
確かにこの日は夏祭りだ。
そして同時に——カードショップでデュエマの大会がある日なのだ。
折角なので、このデッキの力を試したいとも思ってしまった。
「じゃあ、集合は夕方っつーか俺が行けるのは夕方からになるかな。大会あるし」
「大会って、こないだみたいに待ち伏せされたらどうするの!?」
「大丈夫だよ。あいつらのリーダー、ショウゴの同級生みたいで、もうショウゴがシメてくれたみたいだし」
「なら……いいけど。気を付けてね。あたしは昼から皆と集合かな」
「じゃあ、決まりな」
立ち上がるヒナタ。そろそろ帰ろうとカバンを背負う。
「ねえヒナ」
「何だ?」
「最近……なんていうか、元気になった気がする」
「そうか?」
「うん。皆でデュエマするようになってから、笑顔が増えたし、毎日が楽しそう」
「……ナナのおかげだよ。お前が皆と俺を引き合わせてくれた。俺なんか、皆から貰ってばかりで……何も出来てない」
「ううん。そんなことないよ」
彼女は笑顔で言った。
「一番楽しそうにデュエマやってるの、ヒナだから」
思わず、赤面してしまう。
そのまま、返す言葉を失ってしまった。
「……んじゃ、俺帰るな」
「うん! またね!」
大会が終わって、夏休みが終わって、またいつもの日々に戻っても、また他愛のない毎日が続く。
この時、ヒナタはそう思っていた。
だが——
- Act3:ヒナとナナ ( No.279 )
- 日時: 2016/03/25 15:20
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
***
7月25日。
夏祭り、そしてカードショップでのデュエル大会の日。
——此処まで、皆と特訓してきた——学校の大会の前に、此処で腕試ししてやる!
家の玄関の戸を思いっきり開ける。
勝利の報告を皆に届けるため——
***
「……えー」
ヒナタはげんなりした。
カードショップ『WIN×WIN』のデュエルロードのジュニアクラス。
その優勝者を決める決勝戦が今始まろうとしているにも関わらず、彼のテンションはだだ下がりであった。
相手は——この間ヒナタをひっ捕らえたいじめっ子であった。取り巻き2人を後ろに引き連れて、彼は大声で下品に笑った。
「ぎゃはははは、此処で会ったが百万年目ぇーっ!! お前の所為で色々酷い目に遭ったが、デュエマでこのタイセイ様がぶちのめしてやるぜぇーっ!!」
「マジかよ、どんだけなんだよ、しかも勝ち上がってるし」
一方のヒナタの反応は最早冷め切っているものであったが。
「しゃらくせえ! さっさと始めろ!」
多くの他の子共達に囲まれながら、頂点を決める戦いが今始まる。
——丁度いい……! 思い知らせてやる! 俺とナナの力で!
彼女に貰った力を無下にすることは出来ない。
絶対に引き下がることができない意地。
勝負度胸は、皆との特訓で鍛えられたモノの1つだ。
『デュエマ、スタート!!』
***
ヒナタとタイセイのデュエル。
先攻2ターン目。ヒナタは2枚目のマナを置き、速くも動き出していたのだった。
水と闇のマナをタップする。
「《シンカイタイフーン》召喚! その効果で、カードを1枚引いて手札の《パルサー》を墓地に置く! ターンエンドだよ!」
「じゃあ、俺様のターン! 《幻緑の双月》を召喚し、その効果で手札から《めった切り・スクラッパー》をマナゾーンに置くぜ! ターンエンドだ!」
互いに準備を進めていく。
しかし、3ターン目。更にヒナタは墓地を増やしていった。
「《フェイト・カーペンター》召喚! その効果で、手札を2枚引いて《禍々しき取引 パルサー》と《アクア・サーファー》を墓地に! ターンエンドだ!」
フェイト・カーペンター C 水文明 (3)
クリーチャー:マーフォーク 1000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、カードを2枚まで引く。その後、自分の手札を2枚捨てる。
小型を並べながらも墓地の増え方は普通のデッキのそれではない。
「何だぁ? そんなに墓地を増やしてよぉ! 俺のターン、《青銅の鎧》召喚!」
しかし、対するタイセイはマナを増やしていく。
これにより、次のターンにマナチャージをすれば6枚となるのだ。
自然文明らしいマナの増やし方と言える。
だが、一方のヒナタも自分のペースをあくまでも崩さない。
——あいつのデッキに——俺の戦法を組み合わせる!
「俺のターン、《フェイト・カーペンター》進化! 《金属器の精獣 カーリ・ガネージャー》!」
金属器の精獣(ジン) カーリ・ガネージャー P(R) 水/火文明 (4)
進化クリーチャー:マジカル・モンスター 6000
マナゾーンに置くとき、このカードはタップして置く。
進化−自分の水または火のクリーチャー1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、またはこのクリーチャーが攻撃する時、カードを1枚引いてもよい。
W・ブレイカー
このデッキに於けるヒナタの切札の1枚。それがこのカードであった。
最大の特徴はビートダウンをしながら手札を増やせるという点にある。軽量クリーチャーを並べていく都合上、どうしても手札が枯渇しがちだ。
しかし、登場時と攻撃時に手札を補充できるこのクリーチャーによって、その問題は解決する。
結果、持続的な攻めを行うことが可能になるのだ。
「まずは出た時の効果で1枚ドロー——そして、攻撃だ《カーリ・ガネージャー》! シールドをW・ブレイク!」
速攻。2枚のシールドを叩き割る。
しかし、攻撃するということはそれなりのリスクが付き纏うものなのだ。
「俺のターン、6マナで《爆竜GENJI XX》召喚! そして《カーリ・ガネージャー》に攻撃——する時の効果発動! ブロッカーを1体破壊するぜ!」
「ッ……《シンカイタイフーン》が!」
「そして《カーリ・ガネージャー》破壊だ!」
攻撃時にブロッカーを破壊する《XX》により、強行突破されて切札が破壊されてしまうヒナタ。
さらに、《ヤッタルワン》と《青銅の鎧》が攻撃し、シールドは残り3枚になってしまう。
しかし、これは従来のガネージャビートではない。
「ははは! もう終わりか!?」
「いや……想定内だ!」
「何ィ!?」
驚く彼を無視し、ヒナタはそのままカードをタップせずに1体のクリーチャーを手札から出した。
墓地のカードは既に——6枚揃っている。
「《盗掘人形モールス》をG・ゼロで召喚! 効果で《シンカイタイフーン》を手札に! そして——《モールス》を進化!」
5枚のマナがタップされる。
今度は水と闇を基盤にし、《モールス》の頂へさらなるクリーチャーを叩きつけた。
「行け、《魔水晶 スタートダッシュ・リバイバー》! その効果で《フェイト・カーペンター》を墓地から復活させる! 手札を2枚引いて、《キクチ師範代》と《ホネンビー》を墓地に!」
魔水晶スタートダッシュ・リバイバー P(R) 水/闇文明 (5)
進化クリーチャー:リキッド・ピープル/ゴースト 7000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
進化−自分の水または闇のクリーチャー1体の上に置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト3以下のクリーチャーを1体、自分の墓地から選び、バトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー
現れたのは黒く濁った電脳の持ち主、《スタートダッシュ・リバイバー》。その水晶が妖しく光ることで死者も蘇らせるらしい。
「そのまま《GENJI》とバトル! 相打ちにして破壊だ!」
「弱虫の癖に、生意気な……!」
「確かに俺は弱虫かもしれない! だけど——弱くったって、戦えるんだ!」
「ほざくな、雑魚が! テメェの場は《カーペンター》を残して全滅、そのままくたばって貰うぜ!」
タイセイのターン。
そのまま、5枚のマナをタップし——《幻緑の双月》に重ねる。
こちらも進化を使って攻めたてようというのだろうか。
「これが俺のデッキの本領だ! 《超電磁コスモ・セブΛ》!」
- Act3:ヒナとナナ ( No.280 )
- 日時: 2016/03/26 11:13
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
超電磁コスモ・セブΛ(ラムダ) VR 水文明 (5)
進化クリーチャー:サイバー・コマンド/エイリアン 7000
進化−自分の火または自然のクリーチャー1体の上に置く。
メテオバーン−このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーの下にあるカードを1枚選び墓地に置いてもよい。そうした場合、カードを3枚引く。
W・ブレイカー
自分のターンのはじめに、進化ではないクリーチャーを1体、自分の手札からこのクリーチャーの下に置いてもよい。
現れたのは、《カーリ・ガネージャー》よりも更に強力な手札補充能力を持つ進化クリーチャー、《コスモ・セブΛ》だった。
その能力は、アタックトリガーのメテオバーンで進化元を墓地に置けばカードを3枚引けるというもの。《ガネージャ—》が毎ターン引けるのに対し、メテオバーンは進化元が1体ならば通常1回しか使えないのでこちらの方が持続性は劣っているように見える。
しかし、最大の肝は自らの手札からターンの始めに進化元を補充することが出来るという能力が備わっていることだ。
これにより、《カーリ・ガネージャー》を上回る持続力を手に入れたのである。ただし、進化元は緩いと言っても自らとは違う文明のクリーチャーから進化しなければならないのがエイリアン故か。
どちらにせよ、猛攻は避けられない。
「《コスモ・セブΛ》のメテオバーン発動! 進化元を墓地に置けばカードを3枚引ける! そしてW・ブレイクだ!」
「っ!」
「お前の《ガネージャー》とは比べ物にならないってことだぜ! 《青銅の鎧》で最後のシールドブレイク!」
ヒナタ、残りシールド0——しかし。
「S・トリガー発動、《デーモン・ハンド》! 《Λ》を破壊だ!」
此処にきてS・トリガーが発動する。
少々タイミングが遅かったようにも見えるが——もうヒナタに後退する気など無かった。
絶体絶命に見えるこの状況。
しかし。
既に勝利への道は眩しく光っている——
「俺のターン、ドロー——マナチャージ」
これでマナの枚数は6枚。
墓地のクリーチャーの数は——9枚。
もう、既に勝負は決まっていた。
「そして——墓地にカードが6枚以上あるからG・ゼロ発動」
手札からカードを叩きつける。
交差する炎、まさに龍の如く——
「百万超えの超パワー!! 束縛する邪魔な輩をすべて!! 焼き尽くせ!!
《百万超邪 クロスファイア》!!」
百万超邪(ミリオネア) クロスファイア P(SR) 火文明 (7)
クリーチャー:アウトレイジ 7000+
G・ゼロ−自分の墓地にクリーチャーが6体以上あり、自分の《百万超邪 クロスファイア》がバトルゾーンになければ、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
スピードアタッカー
パワーアタッカー+1000000(攻撃中、このクリーチャーのパワーは+1000000される)
W・ブレイカー
——爆発する。
現れたのは、あらゆる常識を破壊する無法者、アウトレイジだったのだ。
「G・ゼロ——!? バカな!! いきなり出て来ただとぉ!?」
「それだけじゃない!! こいつは俺の切札だが——もう1つ、ナナの切札がある! 残りの6マナのうち、3マナでそれを出す!」
火を基盤にした3枚のマナがヒナタによってタップされた。
そして——墓地の仲間達の思いを胸に決して止まらない暴龍の無法者がその姿を現した。
その名は——
「数多の屍を乗り越え、暴走する。現れよ、赤黒の無法龍よ!!
《暴走龍 5000GT》召喚だ!!」
暴走龍(ライオット) 5000GT ≡V≡ 火文明 (12)
クリーチャー:アウトレイジ 12000
このクリーチャーを召喚するコストは、自分の墓地のクリーチャー1体につき1少なくなる。ただし、コストは1より少なくならない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、サイキック・クリーチャーを全て破壊する。その後、パワー5000以下のクリーチャーを全て破壊する。
誰もパワー5000以下のクリーチャーを召喚できず、サイキック・クリーチャーをバトルゾーンに出すことができない。
スピードアタッカー
T・ブレイカー
その無法者は止まらない。如何なる邪魔者にも容赦することはない。
弱者を屠り、食らい尽す。
これは逆襲。今まで食らわれていた側の逆襲——
「覚悟した方がいいよ。こいつがお前の喉元を——食いちぎる。登場時にサイキッククリーチャーとパワー5000以下を破壊する」
「《青銅の鎧》が……!」
「そしてもうお前は、サイキックもパワー5000以下もバトルゾーンに出すことは出来ない。やってることは弱いモノ虐めのそれだが——それが今までお前のやってきたことだ。それを全部、こいつが叩きつける」
ヒナタの気迫は、今までのものとは別次元だった。
凄みがある。
もしもこれが後の決闘空間だったならば——間違いなくタイセイは殺されていただろう。
「《5000GT》でシールドをT・ブレイク」
「し、シールドトリガー——《アクア・サーファー》」
「ダメだ。《5000GT》は召喚を禁止する。S・トリガーも召喚だ」
「あ、あががが——!!」
最早、邪魔するものは存在しない。
そのまま彼は叩きつける。
怒りの鉄槌を——
「《百万超邪 クロスファイア》でダイレクトアタック!!」
***
「優勝、暁ヒナタ君! おめでとう!」
歓声を受けながら、優勝賞品のプロモカードを受け取るヒナタ。
これで、皆に優勝の報告をすることができる、と完全に満足していた。
このデッキを作ってくれたナナカにも——そう思っていた時だった。
ふと、携帯電話が鳴る。
「?」
思わずカバンに入れていたそれを取り出して開いた。
着信元は——ショウゴからだった。
——何だ? そろそろ来いって催促かなぁ。まあ1人だけ違う行動取っちゃってるし、悪い事したけど何にも言って無いわけじゃないし……。
そのまま、耳に携帯電話を押し当てて受け応えることにした。
『よ、よう……ヒ、ヒナタか』
「うん、そうだけど……ショウゴ?」
その声は震えていた。
何か只事ではないものを感じる。
試しにヒナタはわざと何も察していないふりをして続けることにした。
「どうしたのさ。それより、俺優勝したんだよ」
『そんなことはどうでもいい!!』
怒声が帰って来た。
やはり只事ではないのだ。
「ご、ごめん……続けて。夏祭りの会場にいるんじゃなかったの?」
『あ、ああ……すまない。実はな……そうじゃねえんだ。落ち着いて聞け。カードショップに居るなら外に出ろ』
言われるがままにカードショップを飛び出すヒナタ。
そして——念押しを何度かした後、彼は言った。
『今から言うことは嘘じゃねえ。ジョークでも、何でもねぇんだ。しょ、正気を……ひっく、持って聞け……』
溜飲が聞こえてくる。
泣いている。
ショウゴが泣いているのだ。電話越しにでもわかった。
そして間もなく——それは告げられた。
『檜山が——死んだ』
- Act3:ヒナとナナ ( No.281 )
- 日時: 2016/03/26 11:13
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
「は……はは」
乾いた笑みが零れた。
流石にジョークでもこれは笑えない。
ナナカが死んだ——そんなわけはない。
何故ならば、赤ん坊の頃から昨日までずっと一緒に居たのだ。
約束だってした。
いつか互いに完璧に強くなったら、どちらが世界一か決めるために戦おう、と。
「お、おい……何言ってんだよ……4月はとっくに——」
『海戸2区……大通りに来てくれ』
それだけ言い残し、通話は途切れた。
もうその時には——足は自然に駆けていた。
走る。走る。走る。
この目で真偽を確かめるために。
——嘘だ!! 絶対に嘘だ!! あいつが死ぬわけがないんだ!!
きっとそうだ。遅れてくる自分をからかいに、きつい冗談を仕込んだのだ。そうに違いない。
頭の中でそう思いながら、彼は走っていった。
力の限り、何も考えずに走った。
いや、考えられるわけがなかった。
***
やっとのことで辿り着いた2区の大通り。
そこには何やら人がたかっている。事故処理車、救急車、消防車……。
しかし、遠くからでも何が起こったのかは見えた。
トラックが歩道のガードレールに突っ込んでいる。
それも、超大型の10tトラックが。
「は、ははは……」
乾いた笑みが再び漏れる。
そして人々の声が聞こえて来た。
「かわいそうにねぇ……」
「まだ10歳だったんでしょう?」
「飲酒運転だったんだそうだ。ロクでなしめ」
「あれは……助からないわね」
まだだ。それがナナカのものであるとは限らない。
だが——見ればそこには、急いで駆けつけた末に酷く取り乱した彼女の父親、そしてハンカチで顔を抑えている母親の姿もあった。
知っているのだ。何度か会ったことがあるから知っている。
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」
この場にいるのが怖くなった。
自分まで取り込まれてしまいそうで。
「あ、ああ……違う、これはナナカの事故なんかじゃない……あいつが、あいつが死ぬわけない!!」
絶対にそうだ。
明日になったらいつもの明るい顔で帰ってきてくれる。
ひょっこり戻ってくる。
そしてまた——日常が戻ってくるのだろう。
家に逃げ帰り、そのまま布団の中に潜る。
これが悪夢であることを信じるために。
——ありえない……!! ありえないんだ……!!
そして、疲れでそのまま彼の意識は——落ちてしまった。
……だが、これは悪夢などでは決してなかったのである。
飲酒運転のトラックがガードレールから突っ込んだことにより、ナナカは肉塊よりも酷い最期を迎えたらしかった。
そんなことはもう、あの現場を見れば分かり切っていた。
そんなわけはない。そんなわけはない。
最初はそう思った。
あの後。
家庭同士の付き合いが深かったのもあり、ヒナタは葬儀に出席することになった。
それでようやく——ヒナタは絶望した。
この辺りの記憶はもう、ごちゃごちゃになっており、彼は覚えていない。
だが、1つだけ言えることがある。
檜山ナナカはもう、この世に居ないのである。
***
様子がおかしいと思ったのは、いつまで経っても集合時刻にナナカが来なかったこと。
そして、携帯に電話を掛けてもさっぱり出る様子が無かったこと。
最後に、誰かが2区の大通りで事故があった、ということから嫌な予感がしたのでそこに駆け付けたことであった。
最初、ノアは余りのショックで固まってしまい、まだ何も分からないうちにショウゴがしおりと一緒に帰したのだった。
そして——ショウゴが事のあらましを4人の中で最初に知り、ヒナタに伝えることになったのである。
彼も正気を保てるか分からなかった。
正直、どこかにぽっかりと穴が開いたような気持ちで、無我夢中に電話を掛けた。
思えばあの時——誰かに吐き出さないとやっていられなかったのだろう、と思い返す。
デュエル大会の件は結局彼女が死んだことにより、霧散してしまった。
そして何より、何度電話をしても、パソコンにメールを送っても、ヒナタは返事をくれることは無かった。
それは、夏休みが過ぎても同じ事だった。
彼は学校に来なかったのだ。
「ショウゴさん……ダメでした」
「学校にも来ていないしな。あいつのクラスには花瓶の置かれた席ともう1つがぽっかりと空いている」
「無理もないわ。ヒナタ君はナナカちゃんのことを本当に親友と思っていたみたいだから……」
「折角こうして俺らは集まったんだ。何とかしてやりてぇ。何とかしてやりてぇよ……だけど、友達が死んだなんて、そう簡単に受け入れられるわけねぇだろ……俺だってそうだ」
「まして、今までずっと一緒にいた親友……幼馴染だもの」
***
部屋に鍵を掛け、半ば引き籠りのような生活があの日から続いていた。
ベッドに突っ伏して、何も考えずにぼーっとした毎日。
檜山ナナカの死は——暁ヒナタも殺そうとしていたのである。
カードを手に取った。
《暴走龍 5000GT》のカードだ。
「折角……あいつらに仕返しできたのに……」
あの時の自分を思い返す。大会の決勝戦だ。
いつもと何かが違っていた。
湧き上がるのは復讐心だった。
此処で彼は気付く。
それはとてもいけないことではないのか、と。
楽しもう、と言ったショウゴの言葉に反しているのではないか、と。
何かに呑まれそうになるあの様は、カードゲームを別の何かに変えようとしていた。
——カードをあんな気持ちで使ったのは……初めてだった。
やられたことをやり返す。
ただそれだけだった。
だが、それは彼女の望んだことなのだろうか。
そんな情けない自分を叱ってくれる彼女はもう居ない。
「答えてくれよ……《5000GT》……《クロスファイア》」
カードは何も答えない。
だが、その瞳が今は怒りではなく、どこか悲しそうにヒナタは見えた。
——俺は間違っていたのかもしれない……何もかもが……全部。あいつに頼り切っていた今までが、そしてこの甘ったれた考えが——
そして彼は——デュエル・マスターズのカードを全て仕舞い込んだ。
自分にはもう、カードゲームをする資格などない、と思ったからだった。
歪んだ逃避の念は——彼からデュエル・マスターズというカードゲームを奪った。
以来、彼は言うようになる。
あの仲間達に。
「デュエマはもうやめた」と——。
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