二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Act1:接触・アヴィオール ( No.51 )
日時: 2014/11/12 19:14
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

 ***

「ふぁあ〜あ、何よもう! 折角寝てたのに!」

 クレセントは走りながら機嫌が悪そうに言った。現在、海戸1区の住宅街。最短ルートで塀を飛び越えながら、クリーチャーの反応を感じたクレセントを追っていく。通称、クレセントレーダー。

「仕方ねぇだろぉ!? つーか鉄槌磨きはもう終わったのか!」
「うん、終わったよ。何ならノゾムのテレビで叩き心地を試してみよっかな」
「やめてください、マジで」

 走りながら会話できるこの2人もなかなかであるが。さて、クレセント曰く、闇のクリーチャーの反応は南南東に向かっている模様。
 顔が真っ青になったままのノゾムはそのまま走り続けた。
 
「兎(と)に角(かく)、急がないと!」
「兎(ウサギ)に角(つの)? アルミラージに転職してドラ○エ3に友情出演するつもりか?」

 ゴツン

「バカ! そうじゃなくて、急がないと!」
「痛いー、痛いー、頭がぁぁぁ、頭が割れるー!」

 メッチャ痛い。腕力どんだけあるんだ、と。殴られた頭を抑えてノゾムはクレセントの行く方向へ走っていった。
 一方で、周りの視線が痛い----------と思ったが、一応姿は消せるらしい。それでもさきほどから屋根を飛び越えたりなどの無茶をやっているため、(一度落ちた。痛い)体は既に疲れを感じていた。

「くそっ、喉が渇いた」
「はい、スポーツドリンク。こんなこともあろうかと持ってきたの」

 流石クレセント。既に人間社会というものになじんでしまったらしい。
 だが、スポーツドリンクというものを知っていて、何故人の物を壊してはいけないとは知らないのか。いや、知っててやってるのか。

「サンキュ、クレセント……ゲブホァッ!!」

 渡されたペットボトルの中身も確認せず、ぐび、ぐび、と飲み干したとたん-------ノゾムは盛大に咳き込んだ。

「これコーラじゃねえか、ふざけんな、ゲホゲホ」

 期待した自分がバカだった、とノゾムは後悔した。顔のあらゆる穴からコーラが噴出している。
 運動している最中の身体に炭酸は受け入れられるわけが無いのである。
 いや、それ以前にノゾムが炭酸などのきつい飲み物が苦手なのもあるが。

「あ、着いたかも」
「ゲホ、ここか」

 着いたのは薄暗い公園だった。見れば、40代ほどの中年男性がどデカいカバンを左肩に掛け、もう片方の手にはカードを握っていた。
 見れば、そのカードからはおぞましい気配が感じられるではないか!

「ぜぇー、ぜぇー、もう此処までくれば……」
『追っ手が来ましたよ』
「ん、んだとォ!?」

 男は振り向き様に怒鳴った。が、その瞬間視界に入ってきたのはチビと兎の獣人……兎の獣人!? と男は目をまん丸にしている。
 クレセントが目配せした。やはり、あのカードもこの星の邪気で汚染されているようだ。

「おい、おっさん! とっととそのカードを渡せ! あぶねえぜ」
「るっせぇ、誰が渡すもんか! 俺はこいつで一生銀行強盗で稼ぐんだ! やっちまえ、アヴィオール!」

 そういって男はカードを上空にかざした。途端に---------アヴィオールと呼ばれたカードからクリーチャーの姿が実体化する。
 その姿は何とも奇妙だった。
 全身が骨でできているのだ。白骨化した龍の顔にはモノクル、胴には鎧がついていた。右手には本が握られている。
 しかし、龍の骨は一向に動く気配が無い。

「おい、どうしたアヴィオール! どうにかしろ!」
『貴方の欲望は凄まじい。この僕のエネルギーには丁度いいでしょう』
「ああ!? 何言ってやがる!!」

 次の瞬間だった。ブクブク、と泡の立つような音が聞こえ、男の足元に黒い影が襲い掛かった!
 影は男をすぐさま包み込み、そのままアヴィオールの身体と同化してしまった。

『ふぅ、ご馳走様。ディナーの前の良いオードブルでしたよ』
「く、食ったのか!?」

 目の前で起こった光景が信じられない、といった顔でノゾムは叫んだ。

『食ったのは彼自身ではなく、彼の欲望です。私の体内に取り込まれた知的生命体は生きたまま永遠に私へ欲望を供給し続ける餌と化す。そしてあと少しで、この僕は真の姿を取り戻せるのです!』
「真の姿? 私たち英雄は、この姿がクリーチャーとしての真の姿じゃないの?」
『初にお目にかかります、クレセント。月英雄としての貴方の力、遠くからずっと見ていました。しかし、英雄は所詮、マナから力を借りなければ十二分な力を発揮できない』

 アヴィオールは『しかも』と続ける。

『この星の魔力(マナ)程度では全然足りない。だからこそ人間の力で増幅させるしかない』
「それで、どうするつもりよ」
『”ある方”が言っていました。クリーチャーとしての力を蓄積させれば、マナに頼らずとも”真の姿”を得られると』

 アヴィオールの片手の本が開いた。パラララ、とページがめくれ、足元に魔方陣ができる。
 ごおっ、と一陣の風が吹いた。
 肌があわ立ち、臨戦態勢に入る。

『そして貴方たちからも感じられる欲望、私のディナーとして吸収させてもらいましょう!』
「やれるもんなら、やってみやがれ!」

 直後、アヴィオールの左手に鎌が現れた。そして、同時に黒い霧が噴出す。決闘空間が開いた-----------

「来るよ、ノゾム!」
「ああ、ヒナタ先輩や白陽を差し置くのはアレだが、こいつも速攻でぶっ飛ばす!」

 闇の正気に包まれながら、意識をそのまま委ねた---------

 ***

 現在、ノゾムとアヴィオールのシールドは互いに5枚。そして先攻ノゾムの場には《アクア少年 ジャバ・キッド》に《アクア操縦士 ニュートン》の2体、に対しアヴィオールの場には《ブラッディ・メアリー》と《一撃奪取 ブラッドレイン》。むやみな攻撃は避けたほうが良いか。
 そしてアヴィオールのマナは4枚。

「僕のターン。少々手札に来るのが遅かったですが、《コッコ・ドッコ》召喚。ターン終了です」
「何しようとしてんのか、見え見えだぜ! オレのターン。ここは《超閃奥義 ヴィルヴィー・スパイラル》で《コッコ・ドッコ》をバウンス!」

 《コッコ・ドッコ》がバウンスされ、アヴィオールは次のターンにコストの高いドラゴンを出すことができなくなった。

「ターンエンドだ!」

 高らかな宣言とともにターンを終えるノゾム。
 まだ、小型クリーチャーを並べられる程度のはずだ。ヤツのマナは次のターンに5枚になる。

「ふふ。僕のターンです。3マナで、《ボーン踊り・チャージャー》を使い、マナを増やします。そして、《ブラッドレイン》でコストを軽減しつつ、《コッコ・ドッコ》を再召喚。攻撃はしません、ターンエンド」

 マナを増やし、そして再び現れたクリーチャー。しかし、ノゾムも仕掛けていくしかない。

「オレのターン! 6マナ、やっと溜まったぜ! 《龍素記号Bg ニュートン専用パンツァー》を召喚!」


龍素記号Bg ニュートン専用パンツァー R 水文明 (6)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 6000
相手がカードを引いた時、同じ枚数のカードを引いてもよい。
W・ブレイカー


「ターンエンドだぜ!」
「ノゾム。これで良かったのかな……?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! いけるぜ!」

 その時、アヴィオールの顔が少し歪んだ。
 愉快、そして滑稽なものを見ているような目だ。

「貴方はあまりにも無用心すぎた。闇の力、今こそお見せしましょう! 私のターン」

 アヴィオールのマナが2枚タップされた。次の瞬間、《コッコ・ドッコ》が破壊される。
 寒気がした。
 ぞくぞく、とムカデが背中を走っていくような感覚だ。
 唇を濡らすことも忘れていた。
 戦慄する中、現れたのは----------

「光在りし限り、闇此処にあり。影は何度でも蘇る。現れよ、《死英雄 竜骨のアヴィオール》ッ!!」

 知識を司りし竜骨の英雄だった。

Act1:接触・アヴィオール ( No.52 )
日時: 2014/11/12 19:16
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

「僕自身の効果発動。さあ消えなさい!」

 アヴィオールの持っていた本から紫色の光が飛び出て《ニュートン専用パンツァー》は一瞬でスクラップに。
 何が起こったものかとバトルゾーンに目を向ける。カードは墓地に行った。どうやら破壊されたらしい。

「マナ武装7により、僕は相手のクリーチャー1体のパワーを0にすることができるんですよ、クク」
「ちっ、厄介だ……!」

 パワーが0になったクリーチャーは破壊されるしかない。そしてこの効果の厄介なところは、破壊耐性を持つクリーチャーだろうが何だろうが問答無用で破壊できるところだろう。結局のところ、クリーチャーはパワーが0になったら最期、死ぬ。
 
「さらに残ったマナで《特攻人形 ジェニー》を召喚。自爆して貴方の手札を1枚、破壊させていただきますよ!」
「げぇ!?」

 ノゾムの手札が1枚弾かれて墓地へ落ちた。
 しかし、妙だったのはその後のアヴィオールの行動だった。

「しかし、ここで《アヴィオール》のセイバーが発動。《アヴィオール》を破壊すれば《ジェニー》は生き残ります」
「セイバー……?」

 なぜ、今ここで? という疑問がノゾムの中には浮かんだ。セイバーとは、特定のクリーチャーが破壊されるとき、自身を破壊すればそのクリーチャーを守る事ができる効果だ。
 しかし、アヴィオール程の大型クリーチャーがこんな効果を持っていることがまず疑問である。
 だが、そのときだった。

「ですが、ターンの終わりに私の効果発動!」
「は、またぁ!?」

 次の瞬間、魔方陣が現れ、アヴィオールの分身が再び現れたのだ。
 そう。カードの流れだけを見れば、《アヴィオール》が墓地からバトルゾーンに出たということだが---------

「さらにマナ武装で《ニュートン》も破壊!」

 --------つまりはこういうことだった。セイバーで自身を破壊し、ターンの終わりに現れてもう1度能力を使う。
 これがアヴィオールの戦術だったのだ。
 しかし、その代償か、《ジェニー》は山札の一番下に送られたが。



死英雄 竜骨のアヴィオール 闇文明 (7)
クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン/リビング・デッド 7000
W・ブレイカー
セイバー:闇文明
このクリーチャーが自分のターンに破壊されたとき、そのターンの終わりに墓地からバトルゾーンに出る。そのとき、自分の闇のクリーチャーを1体選び、山札の一番下に置く。
マナ武装7--このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、マナゾーンに闇文明のカードが7枚以上あれば、相手クリーチャー1体のパワーを0にする。



 ノゾムは驚愕した。今起こった現象が”毎ターン”繰り返されることに。
 そして得体も知れないものに対する恐怖に囚われる。
 これが闇文明本来の戦い方だ、と言わんばかりの凶悪戦法を前に立ちすくむしかないのだ。

「これは……色んな意味でハメられたか」
「やばいよ、ノゾム! ってことはこっちがクリーチャー出しても毎ターン死んじゃう! しかもターンの終わりに復活するから、次のターンの始めにはもう召喚酔いは解除されてるし!」

 だが、ここは時間稼ぎだ。今どうにかなる手段を持っているわけでもないのだ。
 つまり、切札を引くまでどうにかして敵が攻撃するチャンスを減らさなければならない。

「呪文、《スパイラル・ゲート》ッ! 効果で《アヴィオール》をバウンス! んでもって《ジャバ・キッド》を進化、《超閃機 ジャバジャック》に!」

 どうせ破壊されるのならば殴ってしまおうという考えの元、進化クリーチャーの《ジャバジャック》を召喚し、一気にシールドをW・ブレイク。
 が、しかし。結果的に手札を増やしてしまう。
 アヴィオールのシールド、残り2枚。
 しかし、彼の表情からは余裕すら見て取れる。

「僕のターン」

 この瞬間、ノゾムは戦慄した。何に自分が怯えているのか、全く分からない。分からないが、とてつもない”何か”が自分に襲いかかろうとしている感覚。
 ”本能”。それは人間の動物としての行動水準となるもの。その中でもここで言うのは生存本能だ。
 そしてノゾムの中にあるその生存本能が告げている。
 危険だ、と。


「呪文、《煉獄超技・髑髏方陣》を使用!!」


 恐怖の正体は、見たことも聞いたこともない呪文のカードだった。そしてカードのイラストには骸骨が中央に並べられた魔方陣の上に立ち、鎌を振るうアヴィオール自身が描かれている。
 そして彼がカードの通りに一度鎌を振るうと、次の瞬間。アヴィオールの手札が全て墓地へ。さらに鎌でアヴィオールは切り掛かり、《ジャバジャック》を破壊した。
 爆発した《ジャバジャック》の装甲が飛び散り、頬を裂いた。

「痛ッ!?」

 そして再びアヴィオールの方を向いた。手札が、消えたはずの手札が増えている。

「この呪文は手札を全て捨てることで、捨てた手札の合計コスト以下のクリーチャーのパワーを0にします。そしてその後、手札を5枚補充できるのです」
「な!?」
「ターンエンドです」

 しかし、何故わざわざ手札の自分自身を捨てるような真似をしたのだろうか。
 ミスにしては余りにも幼稚すぎる。
 何らかの回収手段、あるいは自らリアニメイトする手段を持っているのか---------それでも手札が無い状態でそれを狙うのは余りにもリスキーではないか。
 そう考えなければ、ノゾムはそこに立っていることすらままならなかった。
 クレセントも同じだ。
 ここまで相手を恐怖に誘い、惑わすオーラを放つ敵は初めてなのだ。
 同時にそれはアヴィオールの実力さえも示している。
 放つつもりなど無い。が、漏れている。強すぎて、その覇気が漏れているのだ。

「オレの、ターンッ!!」

 力の限り叫んでカードを引いた。こんなんじゃ、ヒナタに笑われてしまう。こんなのだから、クレセントを初めて使ったときも取り込まれたんだ、と自分にムチを打つ。
 そして、引いたカードは-----------

「星の力を身に纏え! 蒼き装甲がすべてを物語る! 現われよ、玉兎の最終兵器!! 《月英雄 碧鎧のルーン・ツールC》!!」

 クレセントだった。
 
「ノゾム、弱気になっちゃダメだよ! あたしが、あたし達クリーチャーが付いてるから!」
「……そうだな」

 --------お前らが居るのを忘れちゃ、デュエリスト失格だよな。

 そしてマナゾーンのカードが7枚、光り輝く。
 それが次々にクレセントの体を纏っていき、脚には更に屈強な装甲が、そして鉄槌は一回り大きくなった。

「行くぜクレセント! マナ武装7発動! 《ルーン・ツールC》の効果で山札からカードを2枚ゲットする! ターン終了だぜ」

 今度はこっちが余裕の笑みを浮かべる。
 チッ、とアヴィオールの舌打ちをする声が聞こえた。
 最初、ノゾムは自分が不利になったことに奴さんが腹を立てたのかと思った。
 いや、違う。
 彼の口が重く開かれた。
 
「舐めてませんかねえ? 少々この僕を。こう見えても生前は”策士”と仲間にまで言われていたほどですから。最も、嘘つきだの卑怯だのという言葉は、僕にとっては褒め言葉ですが」

 次の瞬間だった。墓地に落ちた《骸骨方陣》が光る。


「《煉獄超技・骸骨方陣》の最後にして最期の効果! 今、お見せしましょう!」

Act1:接触・アヴィオール ( No.53 )
日時: 2014/11/12 19:24
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

墓地には--------魔方陣が見えた。そこから1枚のカードがアヴィオールの手札へ。
 それだけではない。アヴィオールのマナゾーンのカードが5枚光っている。
 ---------これは、マナ武装!?
 ノゾムは少なくとも戦慄を覚えた。この呪文にはまだ、効果が残っていたのか。

「《煉獄超技・骸骨方陣》の最大の効果ッ! それは、マナ武装5で墓地に落ちた《アヴィオール》と名のつくクリーチャーを1体、このカードを墓地から山札の一番下に置く代わりに--------」

 そして、カードがアヴィオールの手へ。

「僕の手札に持ってくることが可能なのです」



煉獄超技・髑髏方陣 闇文明 (7)
呪文
自分の手札を全て捨てても良い。そうした場合、捨てたカードの合計コスト以下のクリーチャー1体のパワーを0にする。
その後、手札を5枚引く。
マナ武装5--このカードと《アヴィオール》と名のつくクリーチャーが墓地に居るとき、マナゾーンに闇のカードが5枚以上あれば、自分の墓地にある《アヴィオール》と名のつくクリーチャーを1体、墓地から手札に加えても良い。その後、このカードを山札の一番下に戻す。


 
 ようやく紐解けた。
 この呪文には万が一、手札のアヴィオールを捨ててしまっていても、または何らかの手段で墓地に落ちてもそれを回収できるようにサポートできる効果があった。当然、アヴィオールがそれを知らないわけが無い。
 そしてこのターン--------

「悪夢再び。《死英雄 竜骨のアヴィオール》を出します」

 マナゾーンのカードが再び光った。今度は7枚。あの効果が発動する。
 ひっ、とクレセントの瞳が恐怖で染められた。
 ガタン、と鉄槌を捨ててその場に崩れ落ちる。
 ノゾムは、彼女がここまで怯えたのを始めて見た。
 そしてノゾム自身もそれは同じだった。

「怖がることはありません」

 クク、とアヴィオールはその鎌を彼女に向けた。
 優しく、甘い声で囁く。
 そして、その切っ先で顎をくいっ、と優しく上に向けた。
 だが、恐怖の感情がそれで収まるわけが無い。

「私と友達になりましょう」
「い、嫌……!!」

 膝を付いているクレセントの赤い瞳から涙が零れ落ちた。
 恐怖によるものだ。
 恐怖でどうしようもないのだ。

「そうですか-----------死ね」

 ザクンッ、と鎌がクレセントの胸を抉り取る。
 鮮血が迸った。
 次の瞬間、彼女の体は爆ぜて跡形もなくなり、後には墓地に置かれたカードのみ。

『うう、ごめん……ノゾム』

 ひっく、ひっく、と彼女の嗚咽交じりの鳴き声がカードから聞こえた。

「いや、お前の所為じゃねえ。あれだけ奴が余裕ぶってたんだ、何か手があってもおかしくなかったのに、オレは……!」

 ふつふつと怒りが湧き上がる。
 
「最悪だぜ、テメェ。女を泣かせるなんてな……!!」

 それは自分と、目の前に居る骨龍に向けられた怒り。


「”ぶっ潰す”」

 
 アヴィオールのターンはこれで終わりだ。
 ノゾムは怒りに満ちた眼差しを骨龍に向けたまま、カードを引いた。

「誰をぶっ潰すのでしょう、フフ」
「”ツイてる”ぜ、お前」

 ニヤァーッ、とノゾムの口角が上がった。

「オレの持っている”兵器”の中でも一番火力のある空母に跡形もなく消されるんだからよ」
「何を今更」
「ああ、今更後悔しても遅いぜーッ!!」

 バァン、と1枚のカードをバトルゾーンに叩き付けた。
 同時にマナゾーンのカードが6枚、確かにタップされる。

「《龍覇 M・A・S》召喚! その能力により、コスト4以下のドラグハートをバトルゾーンに出すぜ!」
「……ドラグナー、ですか」

 忌々しい、とアヴィオールは呟いた。
 が、それも束の間。
 超次元ゾーンから、1つの空母が転送された。

「その空母、強気を挫き、弱きを助ける盾となれ! 《龍波動空母 エビデゴラス》、降臨!」




龍覇 M・A・S(メタルアベンジャーソリッド) R 水文明 (6)
クリーチャー:リキッド・ピープル閃/ドラグナー 2000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト4以下の水のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。(それがウエポンであれば、このクリーチャーに装備して出す)
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある相手のコスト6以下のクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻してもよい。



龍波動空母 エビデゴラス  ≡V≡  水文明 (4)
ドラグハート・フォートレス
自分のターンのはじめに、カードを1枚引いてもよい。
龍解:自分がカードを引いた時、それがそのターンに引く5枚目のカードであれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。(ゲーム開始時、ドラグハートは自身の超次元ゾーンに置き、バトルゾーンを離れた場合、そこに戻す)



 流石のアヴィオールもこれには驚いたようだった。
 ドラグハート・フォートレス。それは決して沈まない不沈艦。
 そして鉄壁、つまり無敵の究極要塞。
 これをどかすことができるカードは限られており、除去することは非常に困難なカードである。

「ですが、それでどうすると!」
「甘いな。《M・A・S》の能力はドラグハートを出すだけじゃねえ。効果で《ブラッディ・メアリー》をバウンス! さらに《ザ・ストロング・スパイラル》で《アヴィオール》、お前をバウンス!」

《M・A・S》が両肩に装備した双砲から光線が射出され、そのまま《ブラッディ・メアリー》の体を打ち貫いた。
 さらに激流が骨龍の体を飲み込んだ。
 ビキビキ、とアヴィオールの分身体にヒビが入る。

「おのれ……!」

 バキィン、と体は砕け散り、そのままカードの姿へ。

「よくも僕の体を……!」
「ドラグハート・フォートレスは不沈艦。次のターンにテメェの能力で、果たして破壊することができるかな?」
「この、この汚らしい小僧がァァァーッ!!」

 アヴィオールはまくし立てる様に叫ぶと、カードを引いた。

「呪文、《ロスト・ソウル》!! 貴方の手札を全て破壊します!」
「手札から捨てられたとき、その能力で《電脳提督 アクア・ジーニアス》召喚」

 マッドネス。手札から何らかの効果で捨てられた時に発動する効果だ。
 その中でも、登場したときに指定された種族のカードを手札に加えることができる効果を持つもの、それが提督だ。

「んでもって効果で、《アクア操縦士 ニュートン》に《アクア・ハルカス》を手札に加えるぜ」
「ぐ、むぐぐ……!!」

 明らかに焦りの色が表情に見えてきたアヴィオール。
 そして、ノゾムは仕上げと言わんばかりに一手を打つ。

「オレのターン。《エビデゴラス》の効果で1枚カードを引き、さらにドロー!! そして、《アクア操縦士 ニュートン》召喚! マナ武装で1枚ドローするぜ!」

 ここまでで引いたカードは3枚。龍解条件は残り2枚を引くことである。

「そして呪文、もう1発《ザ・ストロング・スパイラル》! 効果で《ブラッドレイン》をバウンス! そして、パワー6000以上のクリーチャーがいるから1枚ドローする。最後に《アクア・ハルカス》召喚だ!」

 カードを3枚引き、《ロスト・ソウル》で落とされたはずの手札は既に5枚。
 そしてこの瞬間、《エビデゴラス》の龍解条件が揃った。
 空母が姿を変える。
 体を折りたたみ、そして龍本来の姿を現した。
 巨大な2門の砲台が煌いたとき、龍は咆哮した。


「弱き者の盾となれ! そして未来へ羽ばたけ、蒼き龍王よ! 最後の龍解を成し遂げろ!! 《最終龍理 Q.E.D+》ッ!!」


 ごおっ、と強い風が吹き抜けた。
 今度は爽やかな風だ。
 しかし、アヴィオールは不愉快そうな表情を見せる。

「《Q.E.D+》でシールドをW・ブレイクッ!!」

 全ての砲台が大きく開き、最大火力でシールドを破壊し尽くした。
 アヴィオール、残りシールド、0枚。

「《M・A・S》でダイレクトアタック!!」

 しかし、そのときだった。

「もう、手は抜きません……!! S・トリガー、《地獄門 デス・ゲート》で《アクア・ジーニアス》を破壊! 効果で《爆弾魔 タイガマイト》召喚です。そして《インフェルノ・サイン》で《狼虎 サンダーブレード》を墓地から召喚。効果で《Q.E.D+》を破壊!! さらにニンジャ・ストライクで《威牙の幻 ハンゾウ》も出して《A・M・S》を破壊!」

 クリーチャーが一瞬で、ほぼ全滅した。
 まず、《タイガマイト》のマナ武装でノゾムの手札が1枚捨てられた。
 さらに墓地からここぞとばかりに現れた《サンダーブレード》が《Q.E.D+》を巨剣で一気に切り裂いた。
 ビキビキ、と機械が割れる音がする--------と思いきや。

「龍回避発動! こいつは破壊されてもフォートレス面に裏返るだけでバトルゾーンを離れないぜ」

 元の空母の姿へと戻ったのみ。これが鉄壁のドラグハート・フォートレスの醍醐味である。



最終龍理 Q.E.D.+  ≡V≡  水文明 (7)
ドラグハート・クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 11000
自分のターンのはじめに自分の山札の上から5枚を見る。そのうちの1枚を山札の上に戻し、残りを好きな順序で山札の一番下に置く。その後、カードを1枚引いてもよい。
自分の水のドラゴンはブロックされない。
W・ブレイカー
龍回避−このクリーチャーがバトルゾーンを離れるとき、バトルゾーンを離れるかわりに、フォートレス側に裏返す。



 龍解後に破壊されても龍解前に戻るのみ。しかもサイキック・クリーチャーの解除とは違って、2連続で除去されることは少ない。
 しかし。

「どうですかねえ! ならば次のターンに決めてしまえばいいだけの話!」

 アヴィオールの顔が怒りに歪んでいるのが分かる。
 
「僕のターン、墓地進化GVで《大邪眼 B・ロマノフ》召喚! ははは、遅かったですねぇー!! 死ね、十六夜ノゾム、そしてクレセントォーッ!!」

 現れたのは闇の貴族、《B・ロマノフ》。進化クリーチャーのため、召喚酔いしない。そして、《B・ロマノフ》はT・ブレイカー。一撃でシールドを3枚持っていかれる。
 さらに奴の場には《タイガマイト》、《サンダーブレード》もいる。このまま止めに持っていかれてしまうだろう。

「《ロマノフ》でシールドをT・ブレイク!! メテオバーンで進化元を3枚山札の一番下に戻し、貴方の手札も3枚、山札の一番下へ! 同じ失敗は踏みませんよ!」

 ノゾムの手札はあっという間に2枚に。
 そして。

「《サンダーブレード》で残り2枚のシールドをブレイクしますよ!!」

 巨大な剣が振るわれ、シールドを切り裂いた。

「ガハッ」
 
 ---------く、くそったれ!!
 真空波で何かが切れる感覚を持った。

『ノゾムーッ!! 血が、血がー!!』

 クレセントの悲痛な声が聞こえた。
 ふと、胸を手で触ると、学生服越しに血がにじみ出ている。横一文字に胸が斬られているのだ。
 ずきり、と鋭い痛みが迸った。
 手には真っ赤な液体がぬるぬると染み付いている。
 傷口こそ浅いからまだ良かったが。

「さあ、《タイガマイト》でダイレクトアタック!!」

 二足歩行の虎が大量の爆弾を抱えてノゾムに投げつける。
 しかし、その瞬間だった。
 激流が、《タイガマイト》を押し流した。
 血で塗れた胸を押さえ、ノゾムは力の限り声を絞り出す。

「ぜえ、はぁ……まだだ」

 その手には1枚のカードが握られていた。

「--------S・トリガー発動。逆転させて貰うぜ。たった今、テメェの攻撃でシールドから手に入れたこのカードでな! 《月光超技・ムーンサルトスタンプ》!!」

Act1:接触・アヴィオール ( No.54 )
日時: 2015/06/13 22:17
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

「呪文、《月光超技・ムーンサルトスタンプ》!」
「これは、一体……!!」

 次の瞬間、《タイガマイト》の体は激流に包まれて動けなくなる。
 叫んだノゾムの額には三日月の紋章がついており、そして瞳は青く輝いていた。
 まるで、月が放つ淡い光のように。妖しく、そして確かに。

「《ムーンサルトスタンプ》の効果発動。相手のクリーチャーを1体手札に戻す。頼むぞ、クレセント!」
「……そうだよね、あたしが弱気になっちゃ、ダメだよね!!」
 
 墓地から実体化したクレセントはすさまじい跳躍力で、鉄槌を持ったまま空中で1回転し、そのまま《タイガマイト》に叩き付けた。
 ぐしゃり、と《タイガマイト》の体は文字通りつぶれ、爆発四散した。
 そしてさらに、その衝撃が波紋となって空間を伝わり、《ロマノフ》と《サンダーブレード》の体へ走った。
 2体はそのまま動けなくなる。

「更に効果発動。そのまま2体は次のターン、アンタップできない。計3体のクリーチャーを機能停止に追い込む強力な呪文だ!」
「な、何故。”超技呪文”を此処で発動させるなんて!」
「ほんとーだぜ、クレセント。こんなのデッキに入れてるんだったら早よ言ってくれたら良かったのによ」
「あっはっはー、白陽には絶対使うなって言われてたんだけど」
「おい」

 でもね、とクレセントは続けた。

「あたしだって白陽の力になりたい。この技を使ったら疲れちゃうけど、これを使って勝てる可能性があるのなら、あたしはこれを使いたい!」
「グレートだぜ、クレセント!!」

 クレセントがにやり、と笑みをこぼす。
 ノゾムも同じように返した。

「ああ、そうだ。マナ武装7発動! 墓地に《ルーン・ツール》、または《クレセント》とあるクリーチャーが居る場合、墓地にあるこの呪文とバトルゾーンにあるクリーチャーを山札の一番下に戻せば、そのままリアニメイトできる!」

 《ムーンサルトスタンプ》と《ニュートン》が山札の一番下に戻った。
 バラバラになっていた装甲が再び形を取り戻す。そして粒子が集まって肉体を成した。
 無理矢理復活したからかぜぇぜぇと息を切らしてはいるが、確かにそこにクレセントはいた。

「な、闇の呪文でもないのに!!」

 ---------どうやら、僕の骸骨方陣と言い、彼女のムーンサルトスタンプと言い、どうやら他の文明の特徴を持っているということですか、超技呪文は……!!
 とアヴィオールが首を上げた瞬間だった。
 既にそこには、鉄槌を振り上げたクレセントが立っていた。

「さあヒーロータイムだ。テメェが! スクラップになるまで、殴るのをやめない!! 《月英雄 碧鎧のルーン・ツールC》でダイレクトアタック!!」

 クレセントは鉄槌を持ち直し、大上段に振りかぶったそれを一気にアヴィオールへ叩き付けた。
 ガオン、とアヴィオールの頭部を確かに抉り取ったのが見えた。

 ***

「ふ、ふふふ……僕をこれで浄化したと勘違いしていませんか?」
「む」

 息も絶え絶えにアヴィオールは声を発した。

「言ったでしょう、この体はあくまでも僕の”分身”に過ぎません」
「こいつ、この期に及んでまだ……!!」

 詰め寄るノゾム。確かに影のように1つの方向に向かってアヴィオールの体は蒸発している。

「僕はこの街のどこかで人間を次々に飲み込んでいるのですよ。この分身を使ってね。さあ、本体はどこにいるでしょうねぇーっ!!」
「テメェーッ!!」

 ガッ、と殴ろうとした頃にはもう遅い。アヴィオールの姿はもうなかった。
 力が空回りし、そのまま地面に倒れる。

「にゃろう、絶対見つけ出してやる!!」
「の、のぞみゅぅ……」

 ん、と振り返る。見れば今度はクレセントが息も絶え絶えに立っていた。
 声を発するのも精一杯なのか、呂律が回っていない。

「あたし……ちゅかれた……」

 バタン、と倒れた彼女の体が光を発した。次の瞬間には、そこには兎が居た。それも混じりけの無い純白の毛の兎が。
 その姿は普通の兎と何ら変わりない。
 そして、すぅと寝息を立てて寝ていた。

「あんな大技使ったんだ。疲れてもムリねえよな」

「クレセントォーッ!!」

 む、と声を向いた。見れば白陽と後に息を切らしてついてくるヒナタの姿が。
 そして白陽の瞳は怒りで燃えている。
 一番恐ろしいのは、その白陽の姿が小狐ではなく、クリーチャーの姿をして槍を構えていたことか。式神か何か知らないが、二股首の蛇がシャァーッと白陽の意識に呼応するように威嚇しているのが見える。

「十六夜ノゾム貴様ァーッ!! クレセントの所持者でありながら、これはどういう有様だっ!」
「なっ、ストップ白陽! 何に怒ってんの」
「クレセントに”超技呪文”を使わせただろう!」

 ガミガミと怒鳴る白陽。

「あれを使うとなぁー、クレセントは一時的に魔力を失ってただの兎に」
「じゃあテメェもただの狐になれば問題ないな」

 がしっ、とヒナタが後ろから尻尾を掴んだのが白陽には見えた。

「あふん」

 しゅるるる、と体が縮んでただの子狐に。

『テメェーッ、何すんだぁーっ!』
「るっせぇな。何にキレてんだテメェは」
『良いか、あれを使うとクレセントは滅茶苦茶疲れるんだ!』
「るっせぇな(2回目)、勝ったから良いじゃねえかポチ陽」
『ポチ陽って何!? 嫌だからなオイラ、そんな名前! つーかな、オイラはあいつにこれ以上辛い思いをしてほしくねえんだよ! だからあの技を使うのはやめろって言ったのに!』
「好い加減にしろ。何度も言わせんじゃねえよ、馬鹿狐」

 ガシリ、と白陽の頭を掴んでヒナタは威圧感たっぷりに言った。

「そんなのはテメェが決めることじゃねえ。クレセントが決めることだ。あいつを想い過ぎる余り、過保護になってねえかお前。あいつだって同じ思いだ。テメェの足手纏いになりたくねえから、テメェに苦労掛けたくねえ一身で技を使ったんじゃねえのか」
「……分かったよ」
 
 はぁ、と項垂れた白陽はそれっきり何も言わなかった。
 ノゾムはクレセントがあの呪文を使うときに言った言葉を思い出す。

「言ってた言ってた。白陽。クレセントはお前の力になりたいから、リスクは承知でもこの技を使いたかったんだとさ」
「クレセント……が」
「まー、とりあえずヒナタ先輩。アヴィオールはどうやらあれが本体じゃなかったぽいっス」

 む、とヒナタが怪訝そうな顔をした。

「なるほど」とヒナタは真面目に頷いたかと思うと、「どっかにいる本体が今も欲深い人間を取り込むためにスタンドを飛ばしてるわけだな。射程圏内はどんくらいだ」
「いや分身のことをスタンドって呼ぶのヤメてください」
「良いじゃねえかよ。さて本体、か」

 それだけじゃないです、とノゾムは続けた。


「奴は……自分を含めるクレセント達、星の英雄がまだまだ”本来の姿ではない”と言ってました」

Act1:接触・アヴィオール ( No.55 )
日時: 2014/11/09 18:44
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

「本来の姿じゃない……!?」

 流石のヒナタも動揺した様子を見せた。

「奴は、星の英雄は人間の力を借りることで更なる姿へ、つまりパワーアップできると言いたかったんスよ。んでもって、白陽もクレセントももしかしたら、いずれは更なる姿になって、あの《ソウルハート》を今度こそ消滅させることができるかもしれないってことっス!」
「どーだかねぇ。イマイチ信憑性が沸かない。しかし例の邪悪なドラグハートは、まだ世界に4つあるのか……《ソウルハート》以上の強敵もいずれ現れる」

 そのためにも、とヒナタは言った。

「まずはどうするか考えないとな」
『オイラ達がどうしてここに来たのか、その理由も探らねぇと』

 --------だけど、どうしてこうも”俺達の周り”で事件が起こるんだ? 偶然にしては出来過ぎていないか……?
 ヒナタは何か嫌な予感がした。まるで、星の英雄のカードは引き合うように自分達の周りで実体化をしているのだ。
 ハーシェルもアヴィオールも現れたのは海戸ニュータウンと見て良いのか?
 別の場所で復活したのなら、わざわざ此処に来る意味は薄い。
 いや、仮に別の場所で復活したのだとしても、運命的に引き寄せあうようなものがあったのだとすれば----------

「先輩ッ、大変っス!」

 そこでヒナタの思考は途切れた。
 ノゾムの声がする。見れば、小さくなったクレセントを抱き上げていかにもタコにも切羽詰った表情でヒナタに呼びかけていたのが分かる。
 
「クレセントの体が熱い……!!」
「--------なっ!?」

 驚いた。クリーチャーでも風邪を引くというのか。
 恐らく、疲れが溜まっていた体に彼女にとっての未知であるこの星のウイルスが入ったのだとすれば、十分考えられる。

『ノゾム、テメェーッ!!』

 ガブリ、とノゾムの腕に白陽が噛み付いた。
 「いっ」と悲鳴を上げたノゾムは抱えていたクレセントを取り落としそうになった。
 深い。とても傷口は深い。牙が離れた途端に血が飛び出してきた。
 ガルルル、と白陽が小さな体で威嚇している。

『この糞野郎!! お前が汚れた手で触るからクレセントがこんなになったんだ、どう責任取るんだッ!』
「白陽ッ!」

 ヒナタが怒鳴った。

「クレセントがこうなったのはノゾムの所為じゃねえ。それなのにテメェは今、ノゾムに何をした」
『うるせぇ、ヒナタ! 大体オイラは何でこんな奴がクレセントの所持者なのかも未だに納得してねぇんだ! 運命だか何だか知らねえが、こんな奴がクレセントの所持者になって良い訳が無かったんだ!! クレセントはオイラのものだ、こんな糞野郎問題外なんだよ!!』

 噛まれた手から血を流すノゾムに容赦なく罵声を浴びせる白陽。
 今まで抑えてきた独占欲がとうとう爆発したのだろう。
 だが、その態度にいよいよヒナタはキレた。

「こいつ、言わせておけば……! 今度こそデュエルで肉塊(ミンチ)にしてやろうか、馬鹿狐がッ」

 ヒナタの瞳が怒りに満ちていく。幾ら白陽と言えど後輩に向かって暴言を吐いたのがいよいよ許せなくなったのだ。
 仲間思いの彼の性格からすれば当然のことだった。
 もんず、と彼が白陽の首を今度こそ掴もうとしたときだった。


「アンタら好い加減にしろよ!! 今はクレセントの容態が一番先だろ!? このまま放っておいたらクレセントが死んじまうかもしれねえんだぞ!!」


 吐き捨てるように叫んだノゾムの声に2人はようやく言い争いを止めた。

「白陽……テメェの言いたいことは分かった。クレセントはお前にとって大事な奴だからな。いきなり他の奴んところに行ったら、そりゃムカつくよな」

 ふう、と息をついてノゾムは言った。

「オレはまだガキだ。色恋沙汰には滅法疎いし、分からんことばっかりなんだ。恋情だけは……オレはまだ証明どころか仮定を立てることすらできないんだ」

 クレセントを抱えなおして、彼は立ち上がった。

「だからよ、ちょっと時間をくれ。こうなっちまったのもオレの責任だ。こいつはオレが命掛けて看病すっから……もう一度だけ、こいつと向き合うチャンスが欲しいんだ」

 ぎりっ、と歯を一度噛み締めてノゾムは搾り出すように言った。

「だから、こいつが元気なったら、こいつはヒナタ先輩に譲渡します」
「ノゾム、お前」
『……チッ』

 白陽もようやく落ち着いたようだった。
 ヒナタもやっといつもの調子に戻ったのか、息をついた。

「クレセントの容態も不安だが、お前の手の傷も俺は心配だ」
「何、この程度。どうってこと無いっスから」
「そしてさっきの言葉……マジで言ってんのか」
「男に二言はありませんから」

 ノゾムはニッ、と笑ってみせた。
 とても哀しそうな笑顔だった。

「まあいい、それがお前の最善と思う択なら俺は止めない」

 暁ヒナタは分かっていた。
 生意気なノゾムは最後まで自分に涙を見せなかった。白陽に罵られても、噛まれても、そして自分からクレセントを手放すと言ったときも、最後までヒナタは彼の涙を見なかった。
 そして、それが彼なりの意地なのだ、と。

 ***

 十六夜家、ノゾムの部屋。
 布団に体が小さくなったままのクレセントを寝かせて、氷水に漬けたタオルを額に乗せる。
 少しでも楽になって貰いたい、という一心で。

「なあクレセント。考えてみれば、お前と出会ってあんまり経ってないんだよな。白陽の”好き”とは意味が違うと思うけど、お前が好きだったんだよ」

 恋情ではない。友情、絆のようなものを彼女から気づいたら感じていた。
 彼女は、何も答えない。それでもノゾムは話しかけ続けた。

「オレさ、嬉しかったんだ。お前みたいな相棒ができたのが」

 -------ずっと、1人だったから。
 
「考えてみれば、あんときからお前に何か運命みたいなモンを感じてたんだろうな」

”運命だか何だか知らねえが、こんな奴がクレセントの所持者になって良い訳が無かったんだ!! クレセントはオイラのものだ、こんな糞野郎問題外なんだよ!!”

「なあクレセント。オレ、頑張ったよな……?」

 あれ、何でオレこんなこと言ってるんだろう。
 そんな疑問などに構わず、ノゾムの口から言葉が出る。

「訳の分からねえ空間で戦うことになって、それでもめげずにローブの男にも、アヴィオールにも勝ったのに……こんなのねぇよな」

 目頭が熱くなる。何でこんなに悔しいのだろう。
 何でこんなに----------ダメだ、こんなこと今のクレセントに言ったって意味が無いのに。

”十六夜ノゾム貴様ァーッ!! クレセントの所持者でありながら、これはどういう有様だっ!”

「オレが……悪いのか? クレセント」

”お前が汚れた手で触るからクレセントがこんなになったんだ、どう責任取るんだッ!”

「オレは……お前と居ちゃいけないのか、クレセント」

 彼女は何も答えない。気づいたらぽた、ぽた、と雫が零れていた。
 おかしいな。さっきヒナタ先輩にお前を譲渡するって決意したはずなのに。
 何でオレ、お前の存在を求めてるんだ?





「頼むから、答えてくれよ……クレセント」


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