二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Act4:躙られた思い ( No.377 )
日時: 2016/09/17 21:00
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ***



「あ、ぐっ……」

 地面に這いつくばりながら、ホタルは虚を睨んだ。
 ハーシェルも、気を失ったのか、もう何も言わなかった。
 手を動かそうとする。足を動かそうとする。
 しかし、ぴくりともしないのだ。

「良いですか。淡島ホタル——貴方では私を倒すことは出来ない」

 冷たく言い放った彼女。そして、冷淡な眼差しを向けるハーシェル——いや、ハーシェル・ブランデ。
 
「……させない……! 貴方達を好きにさせたら、先輩やほかの人達に——!」
「貴方はいつも誰かの為に戦っている——」

 ギリッ、とホタルの右手を踏み潰すと、”彼女”は続けた。



「——そう、思い込んでいる」
「っ……!!」



 踏み躙るようにして、足を動かす。
 ホタルは小さな悲鳴を上げた。
 
「うるさい」

 が、今度は彼女の顔面を容赦なく蹴り飛ばした。
 眼鏡がひしゃげて、からんと音を立てて割れた。
 えほっ、えほっ、と砂を吐き出すも、手が動かないので痛む顔を抑えることもできない。
 
「……貴方はいつも自分のために戦っているの。いつだってそう。両親が居なくなったときだって、両親が居なければ都合の悪いことが多いから。アヴィオールへ、飛び出して無鉄砲に戦った時だってそう。自分を納得させる為に独りよがりに突っ走っていっただけに過ぎない」
「あ、あう……ひっく」

 溜飲を鳴らし、口から血を吐き散らしながら彼女は呻いた。
 しかし、それにも構わず影のように、それは告げていく。

「醜いわね、淡島ホタル。貴方は光の人間なんかじゃない。むしろ、闇(こっち)の人間だってことにまだ気づいてないの? 己の愉悦の為に生き、己が楽するために生き——いつだってそうしてきたじゃない。それを、いつまで綺麗事で固めて嘘をつき続けるつもりなのかしら。そんな貴方から生まれた私は——貴方のことが大嫌いなのよ」

 ホタルの脳裏に、今までの記憶が走っていく。
 両親を取り戻す為に奔走した日々。仲間に迷惑をかけさせまいと突っ走った日々。D・ステラで仲間と共に戦った日々——
 ——全部、全部、全部——自分の為——
 否定できない。まるで、全部胸の内を言い当てられてしまっているかのようだ。
 
「悪辣で醜悪で狡猾な自分だけじゃない。そういう他人の内面を全部暴きたいんでしょ? 曝け出したいんでしょう? 全部、全部、全部——それが貴方の本質よ——」




 ガリッ



 一陣の風が吹いた。

「……?」

 血が噴き出る。
 それも、”彼女”の喉元から。
 よろめくと共に、ぐわん、と彼女の輪郭が揺れた——触れる。
 感じたのは酷い痛みだ。
 喉を、食い破られている。声を出そうとしても、空気が吹き抜けるような音しか出ない。

「——やっと着いた——って思ったら! そこまでだよ!」
『やはりステラアームド・クリーチャーだったわね……! それも、相当悪どい部類の——』

 声がした。
 その方向には、ノアと、ペッと何かを吐き捨てるケルスの姿があった。恐ろしい速度だった。自身があの犬型に喉を食い破られたということに気付くまで時間がかかったほどだ。
 すぐさまハーシェル・ブランデを嗾けようとする彼女だったが——次の瞬間、その装甲に風穴が開く。そのまま、影となって崩れ落ちた。

『何処から——ノア、何か飛んできたみたいだけど!?』
「誰だかわからないけど、援護してくれたみたいだね!」

 傷を抑えながら呻いた偽ホタルは——喉を食い破られたからか、喋れないようだ。そのまま、形勢不利とみたのか、その場から消失した。恐らく逃げたとみて間違いないだろう。

「ねえ、大丈夫、君!?」
「あ、ううぅ……」
『相当さっきのに食らわされたみたいね——昼の奴らよりもよっぽど強かったようよ』

 疲労とダメージが蓄積して、もう声もまともに出なかった。すぐさま抱き起される。何とか安静にしておきたいが——

「ホタル!!」

 また、声がする。
 見れば、ノゾムの姿も見えた。クレセントも一緒だ。
 彼は、ホタルの惨状を目にしてすぐさま駆け寄ろうとするが——彼女を抱き起しているノアを見てさらに驚いたようだった。
 
「お、おい、ホタル!? どうしたんだよ!? ってか、あんたはさっきの——」
「ちょうど良かった、君! この子、どうやらステラアームド・クリーチャーにやられたみたいでね——取り敢えず病院に運ぶか、どうにかしないと」
「あ、ああ、分かってる!」




『その心配は……無い』




 呻き声が上がった。
 ハーシェルだ。よろよろ、とカードの姿のまま浮かび上がると——倒れているホタルの胸元へ、ぽとり、と落ちる。

『ちょっと、ダメだよハーシェル!! 相当あんたもひどくやられてるじゃん!!』
『ワシには、これしか——出来ぬのだ……!!』

 しゃがれた声を必死で絞り出し、彼は唸った。
 ハーシェルのカードから白いオーラが拡がっていく。
 すぐにホタルの身体は光に包まれた。
 間もなく、彼女を覆っていた無数の擦り傷は癒えていく。酷く擦れていた顔が嘘のようにもとに戻っていく。
 そこで、彼の光は消えた。
 
「すごい……これが一角獣の力……!!」
『後は——安静に……していれば、良い——』
「ってオイ!! お前は大丈夫なのかよ!?」
『心配いらん——ワシの角は薬にはならんが——このワシ自身に癒す力がある——ニャンクスのように病を治すことは出来んが、生物の再生を促す力——これが、ワシの、一角獣の本質じゃよ——だから、取り敢えず、大丈夫……じゃろう、多分』

 はぁ、はぁ、と息を切らすハーシェル。
 どうやら、何とかはなっているらしい。もっとも、彼の事だ。無理をしている可能性も否めないのだが。

『どっちにしたって、ニャンクスちゃんから薬くらいは貰った方が良いよ。相当疲れてるでしょ、あんた』
『医者の、不養生か……確かにそうだが……』
「ハーシェル、今日はもう休め。ホタルは、オレが家まで送っておいてやるよ。さっさとデッキに入れ」
『……むぅ、すまぬ』

 さて。ボロボロになった服はどう説明しようか。
 怪我と疲労はもう、回復しているはずらしいので、家の前に着いたらあとは彼女を起こすか、とノゾムは思案する。

「あ、それと——ノア、だっけ。ありがとな。ホタルを助けてくれて」
「えへへ、大したことはしてないよ。それに、私達だけじゃ、あの一角馬まで片づけることが出来なかったと思うし」
「一角……馬?」
「ああ、その子の持ってるハーシェル、だっけ。そのクリーチャーとよく似たのが居たんだけど——装甲に風穴開けてぶっ倒れちゃったのよ。貴方達がやった——んじゃないの?」
「オレ達じゃないぞ。ハーシェルの偽物、か。誰が倒したんだろ」
「……ま、いっか。一応、アメリカに帰る前に私達としてもこの件を解決しておきたいしね!」

 そう言って、彼女は駆け出した。

「それじゃーね、十六夜ノゾム君! 同い年の君がその子の力になってあげてよ!」
「あ、ああ……」

 そう言うと、ノアもまた姿を消してしまった。
 呪文か何かを使ったのだろうか。
 ……一旦、ノゾムはホタルを負ぶって、彼女の家まで行くことにしたのだった。



 ***



 彼女の家の前まで着いた。
 本当ならば起こしてやりたくはないのであるが……と思っている矢先に、彼女の呻き声が聞こえる。
 そして間もなく——

「ひゃいっ!? 誰!? ノゾムさん!?」

 と素っ頓狂な声が聞こえてきたのだった。

「……よーくオレって分かったな」
「あ、いや、その、髪と背中で……」
「……チビだって言いたいんだな?」
「と、とんでもないです! で、でも、なんで、私——」
「偽物にやられたんだろ? それで、あのアメリカチームのノアって人が助けてくれたんだ。オレは事後処理してお前を送ってきただけ。ハーシェルが気合い入れて回復してくれたみたいだけど、大丈夫か?」
「あ、はい……あれ視界がぼやけて……」
「眼鏡か……もうあれ使いものにならなくなっちまってたぞ」
「ふぇえ!? そんなぁ……蹴られたときに壊れたのか……うう」
「ま、眼鏡よりもオレはお前が助かってくれた方が良かったよ」

 彼女は黙りこくる。
 そして——ノゾムの背中から降りると、言った。

「……ごめんなさい、ノゾムさん。私、皆さんにこうやって迷惑かけてばかりで」
「何言ってんだよ。お前が助かっただけで、それで——」
「でも……私、いつも1人で突っ走って——そのたびに痛い目に遭って——弱いのに、無茶ばっかりして——」

 ごめんなさい、と告げると彼女は門を開ける。

「……何があったのかは……また明日話します」
「……そ、そうか」
「それじゃあ、ありがとうございました。ノゾムさん——」

 そういって、彼女は家の中に消えていった。 
 何処か、寂しそうな顔を浮かべながら。
 
『ノゾム……』
「……何が迷惑だ。何が一人で突っ走る、だ。あいつが人一倍頑張ってんの……皆知ってんだぞ。なのに——」
『多分、何かあったんだよ。デュエルで負けた以外に』
「そう、かもな……」

 ——画して。
 この夜の事件は、一旦収まる。
 しかし、彼女の受けた傷は——そう簡単に癒えるものではなかった。

Act5:貴方の為に ( No.378 )
日時: 2016/09/19 11:47
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ……が、しかし。
 事件が起こったのは次の日の放課後だ。

「……何? ハーシェルが居なくなった!?」

 こくこく、と頷くのはホタルであった。
 完全に顔が死んでいる。色々ショックな出来事が多すぎて、疲れ切っているところに追い打ちがかかったからだろうか。
 何ともまあ唐突ではあったが、放課後武闘ビルに集まった際に、真っ先にそう申し出たのだった。
 どうやら、昼頃までは一緒だったらしいが、ふとデッキを確認するとハーシェルがいつの間にか無くなっていたというのだ。

「……ごめんなさい、私の注意力不足で……」
「謝るなよ。ハーシェルの奴が、訳もなくお前からデッキごと居なくなるわけないじゃないか。何かあったんだ、お前の所為じゃねえ」

 と励ますノゾムではあるが、ホタルの表情は曇ったままだ。

「そう、ね。ハーシェルは基本、ホタルちゃんに従順で忠実……」
「いきなりいなくなるなど、考えられん」
「考えられないけどよ——また何か事件に巻き込まれたとかか?」
「何だって良い。とにかく、いなくなったってのは一大事だが——」
「もしかしたら——昨日の奴を1人で探しに行ったとか?」
「昨日の奴、か」

 ヒナタ達は顔を伏せる。 
 昨日、ホタルが偽物に襲われたという話はノゾムから聞いた。詳細はまだ、ホタル本人からの口からは聞けていなかったが——

「……ごめんなさい、皆さん。迷惑はかけちゃいけない、って思ったんですけど——やっぱり一大事には変わりないから……」
「迷惑とか言うんじゃねえよ。仲間が困ってるのに、見過ごす方が胸糞わりーよ」
「……でも、今回だってそうなんです。私、自分の偽物が悪さしているのが嫌で——あの時、1人になった後にハーシェルにサーチさせたんです——そうしたら、あの偽物が現れて——」
「おそらく逆探されたな、それは」

 言ったのは、フジであった。
 
「敵は慎重だから、わざわざ敵が複数いるときには配下を仕向けたんだろうが——テメェが1人でハーシェルにサーチさせたから、好機と見て出てきたんだろうよ。しかも、反応にも出なかった辺り——奴さんはかなり強いステルス機能を持っているとみた」
「どっちにしたって、あの後オレが追いかけたのは正解だったってことか。間に合わなかったけど。その代わり——あのノアって人が助けてくれたんっすよ」
「ノアが?」

 ヒナタは怪訝な顔を浮かべた。
 まだ、彼女は日本に滞在するつもりだというのか。
 
「どうやらあいつも、ただお前に会いに日本に来たわけでもなさそーだな」
「また借りが出来てしまった、ってことね。どうやら、インベンテンズはインベイト社と深く繋がっているらしいし——向こうも何か目的があってきたんでしょ」
「……ノア」
「まあ、今度からはなるべく一人では行動しない方が良いのかもしれん」
「……すいませんでした。私がまた、一人で行動したばっかりに……」
「まあ、どっちにしたって——まずはハーシェルを探すのが先だろう」

 そういって、レンは自分のデッキを手に取る。
 
「ともかく、だ。アヴィオール、ハーシェルを探せるか?」

 ……。
 返事が無い。
 レンはすぐさまデッキの中身を確認した。
 居ない。
 何処を探しても——アヴィオールのカードが無いのである。

「……おい、どうしたレン」
「……居ない」
「え」
「アヴィオールも、居なくなった——デッキの中に、居ない」

 真っ青になった顔で、レンは答えた。

『にゃあああ!? 一大事なのですにゃ!! ハーシェル様だけではなく、アヴィオール様も居なくなってしまうとは!!』
『ちょっとどうすんのよ、コレ!! いっぺんに2人も居なくなるなんて!』

 うーん、とクレセントとニャンクスは唸った。
 確かに2人共主人には忠実なタイプではあるが……。

『確かに、アヴィオールもハーシェルもレンとホタルの言う事を良く聞いてたわよね……』
「むしろ主人に対して態度が悪いのお前らくらいなもんだろ、妖獣界組」

 こうなれば仕方ない。
 ハーシェルとアヴィオールも一緒に探そう、という話になりかけたが——

『……あー、その件についてなのだが——』

 ——ふと、切り出したのは白陽であった。



 ***



 ——武闘財閥管轄、海戸人口樹林にて。
 カァーン、カァーン、と何かが割れるような音がする。
 ひたすらに、ただひたすらに——自らの勢いのままに、白い影は体を岩壁へと叩きつけた。
 次の瞬間、彼の身体の周りに障壁が現れ——岩壁が、砕けた。

『やはり、こんなところに居ましたか』
『……ヌシか』

 ——白い影——ハーシェルは彼の問いに返した。
 黒いスーツ服に、モノクルを右目に嵌めた竜人・アヴィオールに対して。

『この都市にもこんなところがあったとは。いつも、此処で特訓でもしていたのですか?』
『……ヌシらに敗れた後、ホタルに内緒でな』

 カッ、と彼が蹄を鳴らすと——砕けていた岩壁はすぐに元の通りに戻っていった。

『ワシは白陽のように幻術が使えるわけでも、クレセントのように馬鹿力があるわけでも、ニャンクスのように魔力を操れるわけでも——まして、ヌシのように飛びぬけて頭が良いわけでもない。少し頑丈で、そしてこの癒す力だけが取り柄じゃて。でも——それだけでは足りなかった』

 悲しげに言うハーシェル。
 アルゴリズムに敗れ、自ら邪悪なステラアームドを生み出してしまったことへの後悔。
 あの偽ホタルこそ——自らの悪辣な一面そのものなのだから。

『成程、それで特訓を』
『前から見ておったのじゃろう? 趣味の悪い。だが今日ばっかりは——こうやって身体を苛めなければ気がすまんかった……さて、ホタルには心配をかけてしまったのう。もう気も済んだし、そろそろ帰るか。ヌシ、ワシを連れ帰りにきたのであろう?』
『それについては心配に及ばず。ボクはボク自身の目的でここにやってきたので』

 ガンブレードを取り出すと、アヴィオールは言った。

『——特訓ならば、付き合いますよ? ハーシェル。自分、これでも昔は仲間にたっぷりしごかれまして。多少ですが、剣術と狙撃も鍛えているのです。よりいい指示を出すには、やはり現場を経験していないと』

 彼は朗らかな笑みを崩さないものの、それは昨日、やはり彼らを助けたということを意味していた。
 参謀を務めただけではない。彼もまた、前線を経験しているのだという。

『——偽物とはいえ、ワシを貫いた銃弾——やはり、あれはヌシだったか。頭でっかちではないとは分かってはいたが——ヌシ、やはり相当の食わせモンじゃな』
『間に合わなかったのでね。あれは上空から狙撃させていただきました。残りは、十六夜ノゾムに任せましたが。さて、どうです? やってみませんか? 肝心の実戦の参考には何もならないと思いますがね』
『……良かろう。久々に、相手が欲しかったところじゃよ——全力で戦える相手をな』
『では、そちらからどうぞ』
『——それでは遠慮なく、いくとするかのう』

 彼は地面を蹴る。
 そのまま——アヴィオールへ突貫した。



 ***



「……はぁ!? アヴィオールが、もう居場所の目星は付けてるから、あとは任せろ、心配するなって言っていたぁ!?」
『その時は何のことかさっぱりだったのだが……さっき、ビルの前に連れ出されて、それを私に言った後にすぐさま消えてしまってな。言おうと思っていたのだが、ハーシェルが居なくなった件で言いそびれてしまって……』
『となれば、敵に突撃していったという線は薄いね……あたし達でも割り出すのにあんなに苦労したのに』
『浚われたという線も薄くなるのですにゃ』
「とすれば、ハーシェルは自らの意思で飛び出し、アヴィオールもその場所を知っている、か——」
「う、うう……そんな」

 涙目でホタルは言った。

「やっぱり、私が勝手なことをしたから愛想を尽かして——」
「何言ってんだよ、ホタル! アヴィオールも何か知っているみたいだし、そんな心配はいらねぇよ!」
「で、でも、だって——私、皆さんに迷惑をかけてばっかりで——自分のことしか考えてなくて——」



「やっはろー、Japan代表の皆さーん!」



 全員は、振り向く。
 見ればそこには——ノアの姿があった。
 すぐさま憤慨したのはフジである。なぜ関係者ではない彼女が、此処にごく普通に入ってきているのか。ここは武闘ビルの彼の書斎だ。勝手に通してもらえるとは思えない。
 ハイテンションで入ってきた彼女にガンを飛ばし、フジは問い詰める。場合によっては警備員の解雇も辞さないらしい。

「ってオイ。テメェ何で勝手にここに入ってきてんだ」
「いやぁ、私も一般人じゃありませんからね。インベイト社の関係者で、あとは身分証明書とか色々見せたら——通してもらえました!」
「うぜぇ……というか、やっぱ今回もヒナタに会いにきたのか」
「まあまあ、それよりも——今日は暁先輩じゃなくて——貴方に用があってきたんだよね!」
「えっ……!?」

 ビシィッ、と指をさすノア。
 その視線の先には——ホタルの姿があった。

Act5:貴方の為に ( No.379 )
日時: 2016/09/19 14:27
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ***



 チャカッ、とガンブレードを掲げたアヴィオールは即座に反応し、突貫してきたハーシェルへ切っ先を突き付ける。
 そこから、一気に魔力を込めて撃ち放つ。
 が——

『むんっ!!』

 ——障壁を貼ったハーシェルを流石に止める事は出来ない。
 流石の堅牢さと言ったところか。
 胴へ突貫してきたハーシェルを、ガンブレードで受け止めながらつくづく彼は感じた。

『ですが、パワーはあの小兎程ではありませんねぇ、ハーシェル。その代わり、その障壁——やはり、それを使われてはボクの銃弾は意味を成さないようだ——!!』
『フンッ、一角馬とはそういうもんじゃよ。だが、ヌシも方もなかなかじゃ。それこそ噂に聞いた時はただの頭でっかちだと思っておったのじゃよ——!!』
『噂? ああ——ボク達、同じ世界のクリーチャーですからねぇ』

 ガキィンッ、と互いに弾かれる。
 そのまま今度は上空に飛び上がってアヴィオールはガンブレードを構えた。
 今度は魔力の弾ではない。ホルスターに銃弾を詰め込み、一気に撃ち放つ——弾幕が、地上のハーシェルへ襲い掛かった。
 
『こっちはどうでしょう? 装甲をぶち抜く徹甲銃弾——火文明ならではでしょ』
 
 煙が上がる。
 しかし——次の瞬間、弾幕が一気にアヴィオールへ襲い掛かった。

『おっと』

 それを次々に躱していくも——一発が掠り、よろめいてしまう。

『やれやれ……若者は直ぐにムキになるからいかんわい。ワシが飛び道具を使えなかったら、どうするつもりだったのやら』

 見れば、彼の装甲の一部が衛星(サテライト)型のユニットに変形していた。
 それが、光の弾を撃ち放ったのだろう。
 これならば空中に浮かぶアヴィオールを撃ち落すことも可能だ。

『これは失敬。では、もう少し面白いモノをお詫びに見せて差し上げましょう——』

 パチン、とアヴィオールが指を鳴らした。
 次の瞬間——カラカラ、と音がする。
 見れば地面に落ちていたはずの銃弾が全て、一人で動き出したのだ。

『むっ、ヌシこれは——』
『全部撃ち落とせるなら、撃ち落してみてくださいよ』

 次の瞬間、再び動き出した銃弾がハーシェルを狙って飛び回りだす。
 それを察知したのか、彼の衛星も動き出し、1つ1つに狙いを付け始めた。そして——ビームで撃ち落し始める。

『ほうほう。流石の命中率ですねぇ』
『弾丸の再利用——!!』
『ええ。外れるのは覚悟の乱射ですよ。本命は、こっちですよ!!』

 幾つもの銃弾が、さっき以上の威力を持ってハーシェルに襲い掛かる。
 撃ち落しきれず、今度は障壁を貼って防いだ。
 
『ハハハハ、痛快痛快』
『……お返しじゃよ!!』

 次の瞬間、再びハーシェルは地面を蹴った。
 そして——今度はアヴィオールの目前まで跳躍する。

『おっと——』
『衛星(サテライト)——全力全開、発射(ファイア)ッ!!』

 次の瞬間、レーザー光がゼロ距離でアヴィオールへ放たれた。
 予想外のハーシェルの跳躍力に驚く間もなく、その体は閃光に包まれる。
 すたっ、と地面へ降り立つハーシェル。
 もくもく、と煙が上がっているのを見届けながら、ハーシェルは息を切らせた。流石に反動と威力が強すぎたか、と一瞥するが——

『やれやれ——たまに加減を忘れたボケ老人がいるから困りますねぇ。痛つつつ……』
『やれやれ。よく言うわい。ヌシの呪文への耐性を見れば耐えきれるのを分かってのことじゃよ』
『まあ、ここらで終わりにしますか、ハーシェル』

 降り立ったアヴィオールはスーツの煤を払い、ガンブレードを背中の鞘に収めた。

『……しかし、ヌシが何故』
『同じ世界のクリーチャーの好というやつですよ。あと、以前に迷惑をかけたお詫びがしたかったのでね。少しでも力になれたのならば良かったのですが』
『……いや、十分じゃよ。鈍った身体もだんだん、動かせるようになってきたわい』
『フフ、それは光栄です。……まあ、何よりも此処最近の貴方達が見ていられなかったのもあるんですがね』
『……このままではいけないのは分かっておるよ。』

 突っ走りがちのホタル。
 それを心配するハーシェル。
 自分の力でやり遂げたいという彼女の気持ちも尊重したいが——

『……ワシにはもう、彼女を守り切れる自身が無い』
『と言いますと』
『ワシは最低のクリーチャーだ。主の希望にも、期待にも応えることが出来なかった——ワシに、彼女の騎士(ナイト)が務まるのか』

 何かを傷つけてばかりだった一角馬は——何かを守ることに苦悩していた。
 ハーシェルは頭をもたれる。
 遠い日——何も守れなかったばかりか、全てを破壊しつくした血の化身の姿を回想するように。




 ***




「わ、私に、ですか……?」
「うん、そうだね。昨日の件だけど、やっぱあのステラアームドは君に関係があるんでしょ。そして、私の見立てでは君じゃなきゃあの子の”呪い”は解けない」

 呪い。
 そうノアは言った。
 確かに、あの力は、あのクリーチャーはアルゴリズムによって無理矢理引き出されたモノだ。ある意味の呪いと言っても良い。
 
「というか、暁先輩? 何でこのことを私には教えてくれなかったんですか? ステラアームドが街を出没してるなんて、聞いてませんけど?」
「あ、いや……だってお前、すぐ帰るかと思ったから。つーか、そっちこそ!! いい加減、目的を教えてくれよ!!」
「あー、やっぱバレちゃいましたかあ。ま、隠すことの程でもなかったんですけど——こうして互いの利害が一致した以上は仕方ないですね」

 どうやら、然程気にしていないらしい。
 そこまで重要ではない、とでも言いたげであるが——

「——端的に言えば、調査ですね。インベンテンズから、現在クリーチャーのある意味集結地とも言える日本、それも海戸の調査を頼まれたんです。本当なら、英雄の所在と、その能力を確認するだけで帰るつもりだったんですけど」

 言うとノアは、ホタルの方を一瞥した。

「……こちらとしても看過できない案件が出来てしまった以上は、ね。タダで帰るわけにはいかなくなっちゃったんですよ」
「う……で、でも、私じゃなきゃ呪いが解除できないって一体——」
「ステラアームドの中には、呪われているものもあるのよ。これは、元の主の負の面が何らかの憑代と共に実体化したもので、持ち主に成り替わろうとする正真正銘の呪いの装備」

 ヒナタ達が考えるだけでも幾らか思い当たる。
 ニャンクスが生前生み出した破壊のステラアームドで、彼女に成り替わろうとしたアクロガンドラー。
 アヴィオールを監視する目的で送り込まれ、その力を取り込んでなり替わろうとしたアルゴリズム。
 そして、そのアルゴリズムによって生み出され、今まさにホタルに成り替わろうとしている——



「——ドラドルイン——!」



 これらは全て、ノア曰く呪われたステラアームドということになる。

『確かにその通り、ですにゃ! 不正規な方法で生み出されたステラアームドは例外はあれど、大抵ロクなモンじゃないのですにゃ!』
「正規の方法で生み出されたアクロガンドラーは?」
『そ、その例外なのですにゃ……』
「そして、そのステラアームドは同じ文明の適合者とクリーチャーでなければ倒せない」

 確かに——今までの例を考えてもそうだった。
 例えば、ヒナタは1度ニャンクスに化けたアクロガンドラーをオーバーキルも大概のダメージを与えて倒しているものの、それでも彼は消滅しなかった。しかし、コトハとニャンクスによって倒されることでようやく倒せたのだ。
 また、レンに乗り移っていたアルゴリズムも、ヒナタに倒されても消えなかったのに対し、レンとアヴィオールによって倒されたときは完全に消滅していた。
 そしてドラドルインが憑依したホタルを、以前倒したのは——ノゾムだ。
 これらのことから考えても合理的と言えた。

「成程、そういうことだったのか」
「情報交換って、奴ですよ武闘フジ。貴方達日本のデュエリストが、英雄の多くを所持している以上はこちらも協力せざるを得ない。そして、光の適合者で、今ドラドルインを止められるのは淡島ホタル、貴方しかいない」
「だ、だけど——」

 戸惑った表情で彼女は訴えた。



「——私なんかに——ドラドルインが倒せるのでしょうか……?」

Act5:貴方の為に ( No.380 )
日時: 2016/09/22 14:22
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「……私は、いつも空回りしてばかりで——皆さんに迷惑ばかりかけて——そのくせ、弱くて——もう、私じゃ——どうにもならないんじゃないんですか」

 顔を伏せたホタルは、か細い声で言った。
 ——そうか、ホタル。アルゴリズムの時のこと、まだ気にして——しかも、今回の敗北。相当、キてたんだろうな——ハーシェルの力が無かったら、あいつは今頃病院行きだった——
 ノゾムは思案する。しかし、それが逃げて良い理由になるのかはまた別問題だ。だが——彼女は昨日、ドラドルインに完膚なきまでに叩きのめされている。気が進まないのも分からなくはなかった。
 しかし——彼女でなければドラドルインは倒せない。

「……オレだって反対だ。今のホタルに、ドラドルインの相手は荷が重すぎる」
「それじゃあ勝負しよう」

 にっ、と笑ってみせながらノゾムに割り込む形で、ノアが言った。
 一瞬戸惑ったような表情を浮かべたホタルだったが——

「なーに、何も賭けない普通の勝負だよ」
「しょ、勝負って」
「勿論」

 ベルトからデッキを取り出すと——ノアは言った。



「——デュエルに決まってるじゃん」



 ***



「——レン、どう思う」
「ドラドルインも長く放置は出来ない以上、彼女に発破をかけにきたと思っていいだろう。奴は、彼女にしか倒せんだろうしな」
「どうなんでしょうね、コレ。あんたの後輩結構スパルタだったのね」
「妙な言い方はやめてくれ……負けたからって討伐に出てくれってわけでもなさそうだしよ……」
「どっちにしたってアメリカ代表チームの1人と、先んじて勝負することになってしまいましたよ」

 外野で見守っている4人は、いきなり始まってしまった勝負に息を呑む。
 本番で彼女が使うデッキがどうかは分からないが、勝負を仕掛けた以上はデッキを此処で晒してしまっても構わないと彼女は判断したのだろう。
 序盤、今回ハーシェルが居ないホタルは、別のデッキを使っているらしいのは分かった。
 《アクロアイト》や《ララァ》を使って後続のクリーチャーのコストを下げていく。
 しかし、対するノアも《オリオティス》が場に出なかったのを好機と見て《ギャロウズ》のコスト軽減に成功する。見せられたのは《超復讐 ギャロウィン》。厄介なカードであることには変わりない。

「私のターン。場には《ギャロウィン》と《ブラッドレイン》の2体——シンパシーと《ブラッドレイン》の効果で合計3コストを軽減し、4マナをタップ!」

 早速、4枚のマナがタップされた。
 それも、コスト軽減されていると思われる。
 そして——冥府の番犬が姿を現したのだった。

「特別大サービス!! 私の切札、特と見せちゃうよ!!」
「切札——!?」

 自信満々にノアが繰り出したのは——



「——開け冥府への道、あの世の秩序を乱す咎人を裁け——《殲獄の三途星 ヘル・ケルス》!!」



 次の瞬間、その場は異様な空間に包まれた。
 空気が歪み、ゆらゆらと陽炎のように場が揺らいでいる。
 ヒナタ達の姿が見えなくなった辺り——決闘空間に巻き込まれたというべきか。
 今まで試合をしていたテーブルは無くなり、まさに決闘空間そのものと言いたいところだが——自然と、その時の張りつめたような感覚が無い。
 突如、虚空から灰色のグレイハウンドが姿を現した。
 その口からは青い炎が漏れており、冥府の獣であることを意味していた。

「あっはは、安心してよ。これは決闘空間、みたいなものって感じ。負けたからってダメージ受けたりとかは無いから。ただ、この子の力——しっかり目の当たりにしてもらわないと」
「っ聞いてませんよ、星のカードを使うなんて」
「まだだよー? この子の効果で、超次元ゾーンからT(ティタン)・コアを持つステラアームド・クリーチャーの《復讐武装 ブラックジード》をバトルゾーンへ!」

 次の瞬間に仮面を被り、鎌を掲げた悪魔が現れる。
 その鎌には血がこびり付いており、凄惨な復讐の化身であることが分かった。

「その効果で、貴方の手札を1枚選び、棄てさせるよ! その手札を選んで捨ててね!」
「っ……まずい、《サザン・ルネッサンス》が」

 今回のホタルのデッキは、《サザン・ルネッサンス》を軸にした白単ルネッサンス。小型の光クリーチャーを並べて《サザン・ルネッサンス》をシンパシーで出し、手札のアドバンテージを得ていくデッキだが——キーカードを落とされたのはかなり痛い。

「そのまま、燃え滾る復讐の侵略、いっくよー!! 《ギャロウズ》で攻撃!」
 
 ガアアアア、と唸り声をあげて復讐の化身が吠えた。
 そして、ノアの手札から侵略が発動する。
 《ギャロウズ》の身体が黒い炎に焼き尽くされ——そこから新たなる侵略の化身が姿を現した。
 
「復讐の炎、燃えて、滾って、そして焼き尽くしちゃって——《超復讐 ギャロウィン》、Sally go!!」

 無数のダガーを従えた侵略者が姿を現した。
 そして次の瞬間——《ブラックジード》が吠えた。

「……そして、私の闇のクリーチャーが進化したとき、《ブラックジード》の武装条件達成!!」
「えっ!? も、もうですか!?」

 次の瞬間、《ブラックジード》の身体が黒い炎となって燃え滾る。
 そして——《ケルス》へ憑依するようにふわり、と覆った。
 
「煉獄の復讐者よ、今こそ冥府より侵略せよ——星芒武装!!」

 ガオオオオオン、と《ケルス》の咆哮が響き渡った。
 そして、その体からチューブのようなものが生えていき、その先端に犬のような顔が現れる。
 彼女の顔面には、スコープのようなレンズが取り付けられ、更に炎が脚から燃え滾った。
 それは、地獄から現れし復讐の化身。
 与えられし彼女の星座は——ケルベロス。冥府の主に忠実な地獄の門番——



「——燃え滾れ、《煉獄復讐ケルベロス XANTHUS(ザンザス)》!!」

Act5:貴方の為に ( No.381 )
日時: 2016/09/22 18:49
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

復讐武装 ブラックジード 闇文明 (5)
ステラアームド・クリーチャー:デーモン・コマンド/侵略者 4000
T(ティタン)・コア
このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、相手の手札を見ないで1枚選び、捨てさせる。その後、そのカードよりもコストの小さいクリーチャーを1体、墓地から手札に戻す。
星芒武装—自分のクリーチャーが進化した時、このクリーチャーを裏返し、《ケルス》と名のつくクリーチャー1体の上に置く。
 


 現れた地獄の門番は、けたたましい咆哮を上げた。
 明らかにそれは、侵略者の1つの銘柄”復讐”の影響を受けている。焼き付けられた鳳の紋章はまさにそれだ。

「このステラアームドは、インベイトがケルスの持っていたものに手を加えた傑作——さっき言った不良品のステラアームドと違って、暴走は起きないようになっているからね!」
「不良品……!?」
「さて、《XANTHUS》の武装時能力で場の進化クリーチャーの中でも、一番上のカードだけを手札に加えるよ!」
「なっ!?」
「これで次のターンも”進化が出来る”」

 進化が出来る、ということに意味があるとでも言いたげだ。
 通常、退化とはデメリットしかない。
 強い効果を持ったクリーチャーは、その効果を失ってしまうし、高いパワーを持ったクリーチャーはパワーが低下してしまう。
 そのデメリットを押しのけて退化させる時というのは、例えば青黒退化など、墓地進化の進化元を非常に強力なクリーチャーにする特殊なギミックを持ったデッキくらいだが——見たところ、彼女のデッキは普通のビートダウンにしか見えない。
 それと同時に——《ギャロウィン》がホタルのシールドを狙って大量のダガーを放ち、シールドが2枚、割れた——が、確かに破片が降りかかっても何も感じない。
 まるで、ホログラムのようだ。

「というわけで——ターンエンド」
「……私のターン」

 《ルネッサンス》を墓地に落とされた今、使える手段は限られている。
 どうにかして、あの怪物と取り巻きを何とかしなければ——と彼女は思案する。

「まずは、《ララァ》をもう1体召喚! 更に《予言者クルト》も出して、ターンエンドです!」

 しかし、大して今のハンドでは有効打が見当たらない。
 仕方なく、ターンを終えることになってしまう。

「よし、それじゃあ追撃いきますかー! 私のターン!」

 カードを引くノア。

「それじゃあ《ギャロウズ》で再び攻撃——するときに、侵略発動! その効果で、《ブラックサイコ》と《ギャロウィン》を多重侵略進化!!」
「なっ——!?」

 次の瞬間、ホタルの残る手札は全て叩き落された。
 現れたのは煉獄から蘇りし復讐の侵略者。その身を更に重ねることで凄惨な悲劇を呼び起こす。
 さらに——地獄の番犬が、吠えた。

「そして《XANTHUS》の効果発動! 自分のクリーチャーが進化したとき、相手のコスト6以下のクリーチャーを1体選んで持ち主の手札に戻すよ! 《ララァ》をバウンス!」
「なっ!?」
「その後、相手の手札を1枚選んで捨てさせる——これで、捨てたカードが手札に戻したカードと同じならば」

 当然、ホタルの手札は無かったのに、そこに加えられたのは《ララァ》のみ。そのまま墓地へ叩き落された。
 更に——じゅっ、と音を立ててホタルのシールドが破られる。

「——相手のシールドを1枚選び、それをブレイクする!」
「ッ……! 打点稼ぎ、ですか!」
「そう。それと私は今、《ブラックサイコ》から更に《ギャロウィン》に進化させたから——もう1回効果が発動するよ!」

 今度は再び《ララァ》がバウンスされる。
 そして——手札から叩き落された。

「そして効果でシールドをもう1枚ブレイク!」
「ッ……残りシールドが、1枚……!?」
「そして、《ギャロウィン》で最後のシールドをブレイク!」

 再びダガーが放たれ——シールドが破られた。
 しかし。
 それは光となって収束する。

「S・トリガー、発動!! 《DNA・スパーク》!! その効果で、相手のクリーチャーを全てタップし、シールドを1枚追加します!」
「ふうん、やるね。でも——」

 《XANTHUS》へ、無数の光の鎖が螺旋状に縛り上げていく。
 しかし——1つの首が、その鎖を食い破ってしまった。

「——《XANTHUS》の効果発動。この子は、各ターン中タップされたとき、それが1度目か2度目ならば——アンタップする」



煉獄復讐ケルベロス XANTHUS(ザンザス) 闇文明 (9)
スターダスト・クリーチャー:デーモン・コマンド/侵略者 6000
T(ティタン)・コア
このクリーチャーが各ターンタップされたとき、それがターン中1度目、または2度目ならばアンタップする。
自分の闇のクリーチャーが進化したとき、相手のコスト6以下のクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻す。その後、相手の手札を1枚見ないで選び、捨てさせる。その捨てたカードが手札に戻したクリーチャーと同じ名前のカードであれば、相手のシールドをひとつ選び、ブレイクする。
このクリーチャーが武装したとき、自分の進化クリーチャーの一番上のカードを好きなだけ手札に加えてもよい。
武装解除



 ホタルは戦慄を覚えた。
 1度目か2度目にアンタップするということは——実質、このクリーチャーは3度、ターン中に攻撃できるといっても過言ではない。
 
「つまり、残る1枚のシールドを選んでブレイク、そして——とどめを刺すことが出来るってこと。実質T・ブレイカーみたいなもんだけど、多段攻撃でダイレクトアタック出来るってところがポイントだよね」
「……そ、そんな」

 吠えた番犬は、最後のシールドを2つ目の首で食い破った。
 そして——最後の首が、ホタルへ向かっていった——

「——や、やっぱり私なんかに——」

 やはり自分は、1人では何も出来ない。ノゾムやヒナタ達と違って強くない。
 絶望の中——シールドが光となって収束する。

「!」

 それを握った瞬間——力が抜ける。
 体中を駆け巡る血が止まっていくような錯覚を覚えた。
 視界が、暗転した。


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