二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
- 日時: 2017/01/16 20:03
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。
また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。
”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”
『星の英雄編』
第一章:月下転生
Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25
第二章:一角獣
Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48
第三章:骸骨龍
Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73
第四章:長靴を履いた猫
Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114
第五章:英雄集結
Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204
『列島予選編』
第六章:革命への道筋
Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦
Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261
Act8:次なる舞台へ
>>262
第七章:世界への切符
Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352
『侵略世界編』
第八章:束の間の日常
Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393
第九章:侵略の一手
Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416
第十章:剣と刃
Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444
短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。
短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65
短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126
短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156
短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176
短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422
エイプリルフール2016
>>299 >>300
謹賀新年2017
>>443
登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします
オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。
お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新
- Re: デュエル・マスターズ D・ステラ【大阪編】 ( No.312 )
- 日時: 2016/04/07 17:07
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)
モノクロさん
というわけで、コメ返し。
修正後の試合では、あんまり黒単ヘルボが生きなかったということに。まあ、でもあれですね。これも兄弟の仲の悪さが招いた事態ということで。
しかしなあ、シールドの枚数とかマナの枚数とか色々書いたにも関わらず、ミスってるところがあるなあ……。
とにかく、普段から使いまくっているデッキだからといって、モルネクを贔屓したわけではすいませんでした
個人的には、枚数を指定しているものは1人、全てならば相手全員に効果が作用するものとしています。
だからどっちがハンデスしたのかはちゃんと書いてなかったなあ……。
ともかく対戦中のミスはちゃんと修正しておくか。
レンの美学も完全に、分かるものになってきましたね。だいぶ形になってきたというか。最初とかただのうるさい人だったのが、今ではこうだよ。
何であれ好きなキャラが出来るというのは作者としては冥利に尽きますがね。
結局、今回の試合はデス・ザ・ロストとミラダンテを並べてみたかっただけですからね。後、レンも言う通りだらだらと続けるのは嫌いだから、あそこでフィニッシュした訳で。
はっきり言おう。オーバーキルも甚だしいけども。
一応、ゼクシィで除去したのも立派な貢献だと思うんだよなあ。
まあ、今回は演出を重視したところはあります。
後は兄弟の行く末ですけど、これはもう何というか……まだまだこれからって感じではありますね。
大阪のアレは……うん、何か大阪の人らには申し訳ない気持ちでいっぱい。
というわけで聖羽衣編です。
何であれ、これはフィクションであるということは分かってもらいたい。
ちなみに自分は一回しかUSJに行ったことはありません。
個人的にはその「三色も付けてくれた」の誤値の方が面白いと思うのですがね。本当誤値って普段その人が何やってるか分かるからなあ。
何はともあれ、ちょっとこの辺自分でもややこしくなってきたので、改変したところはありますよ。
いや、かなーり改変しました。タングステン・ボーイいなくなってるし。
ともかく、コメディタッチになったのはまあ仕方ない。
モチーフがモチーフなだけにあんまり暗くなりすぎないようにした結果がこれだよ。
というわけで、コメントありがとうございました。それでは、また。
- Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝 ( No.313 )
- 日時: 2016/08/02 23:53
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「うああああああ、暑いー、暑いよのぞむー」
ごろごろ、とノゾムの部屋で寝転びながら言うのはクレセントであった。
「最近出番無いしー、暇だしー、暑いしー……この世界暑過ぎー……」
「これが夏って奴だ。こういうもんなんだよ」
「ううう……」
「クーラーもぶっ壊れて、今新しいのに取り換えようかって時、扇風機は熱風しか出ない。で、オレはその中で数学の宿題と平行してデッキの構築をやってるわけだが」
「ふーん、大変だねー」
「他人事じゃねぇんだよぉぉぉーッ!! 何か手伝えよ、このニート姫!!」
がぁぁぁーっ、と突っ込むノゾム。
流石に自分が忙しく宿題と並行してデッキ構築を行うという離れ業を成し遂げている最中に、唸りながらごろごろされるのは堪ったものではないのである。
「白陽の所に、ヒナタ先輩の家に行って来い! 邪魔だっつーの!」
「やーだー……朝まで帰って来れなくなっちゃうもんー……」
「何でだよ!?」
「えー、分からないのー? ノゾムー……何ならあたしが教えてあげよっか——?」
「何言ってんだコイツ」
「あははー、冗談に決まってるじゃんー……あたしは白陽一筋……うう……マジで何言ってんのあたし……暑さで頭おかしくなってる……」
長い耳は垂れてしまっており、ルビーの瞳は疲れを帯びている。
ふさふさの体毛も合わさって、相当暑がっているのは確かだった。
が、その割には、暇なのか椅子に座っているノゾムの後ろからのしかかっているわけである。むにゅ、むにゅ、と柔らかいものが頭に当たって流石のノゾムも集中できなくなっているのだった。
「おめーな……下降りて冷蔵庫からアイスでも——」
「全部食べちゃった……」
「お前、アレ全部食ったのか!? あんなに買ってたのに!?」
「ご、ごめんってばぁ……」
「もういい、カードに戻ってろ!!」
ピッ、と彼女のカードを取り出すと、クレセントはそのままその場から消失する。
そして、空白だったカードのイラストに彼女が現れたのだった。
「やれやれ……もうすぐ……もうすぐ聖羽衣戦なのに……」
まだ完成していないデッキと——遂に完成させた革命を手にし、彼は憂いを帯びた表情を浮かべていたのだった——明日はもう、大阪への出発だ。他の荷物は纏めてある。しかし。
デッキだけはまだ完成していないのであった。
***
事の始まりは一昨日に遡る。
「つーわけでだな。これがテメェの革命だ」
「……はぁ」
——一昨日の夕暮れ。
フジに呼ばれていたノゾムはカードを見せられて溜息をついた。
そのカードは確かに革命のカードだ。しかし、ヒナタやレン、ホタルのものとは相違点がある。
それは——LEGENDの刻印が押されていないことだった。何でか知らないが、取り敢えず気になったのでノゾムは申し出る。
「何でオレのだけレアリティが低いんすか?」
「だっておめー、既にビクトリー持ってんじゃん」
「いやいやいやいや!! そういう問題じゃないっすよね、コレは!? んなこと言ったらヒナタ先輩もホタルも普通に持ってますよ、騙されねえぞ!!」
「仕方ねえだろ。ドギラゴン、ミラダンテ、デス・ザ・ロストと違ってそいつには原元のクリーチャーの力をベースにしてるわけじゃねえ。LEGENDって称号は本当に強いカードにしか与えられんのだ。そいつは量産カードなの、武闘財閥の力では及ばなかったの」
「はぁ……水はやっぱ不遇なんすね。分かりました、そういうことにしておきます」
げっそり、とした顔でノゾムはくるりと踵を返す。
此処までの特訓は何だったのかと言わんばかりに。何処か残念そうな顔をしながら。
「待て待て待て待て!! 死んだ魚のような目を携えたまま帰るんじゃない!!」
ぐいっ、と彼の肩を抑え、逃げないように必死に掴み、フジは修羅の形相で迫る。
「アレだ。そう、アレだ。こいつはお前の今までの戦法を底上げするものになっている。構築次第でテメェの大きな味方になってくれるはずだ多分絶対大丈夫。俺様の特訓をあれだけ受けたんだぞ、なぁ?」
(かつてこんなに不安で信用ならん「大丈夫」があったろうか……いや、無い)
呆れながらもノゾムは渋々フジの話を聞くことにしたのであった。
***
あれからノゾムのテンションはダダ下がりっぱなしであった。
タダでさえ。
タダでさえ相手はあの因縁の相手である槙堂キイチだというのに。
自分たちを屈辱に塗れた敗北で叩きのめしたあの男へのリベンジだというのに。
貰った切札は先輩達と同列のLEGENDカードではない。いや、それどころか同級生と同列ですらない。
このままではヒナタの脚を引っ張ってしまうのではないかという憂いが頭の中を過る。
(いや、でも、あの時とは違う……武闘先輩オレの戦法を今まで以上に強化するって言ってたし、大丈夫なはず……)
まず、聖羽衣の2人がどのようなデッキを使うのか。
それを対策するところから始まったわけであるが——向こうも情報漏れを恐れたか、彼らの最近の使用デッキについては伏せられている。
獅子怒シドは光のブロッカーを使ったデッキ、一方のキイチは火自然を基盤にしたハンター中心のデッキを使う事だけは分かっているのであるが……それも前情報からだ。今は違う可能性が高い。
見れば既に午後の2時。昼飯を抜いてしまった。
今日は明日の準備の為にビルには来なくていいとのことであったが、それ故頭の中身は考えることだらけでいっぱいだ。
——勇み立ったのは良いけど……オレに、あの2人が倒せるのか——? ヒナタ先輩の脚を引っ張らないで、戦えるのか——?
ごちゃごちゃ、と頭の中が埋まっていく。
だがそのうち、陽気に当てられたからか、項垂れるようにノゾムは机に突っ伏したのであった——
***
「あれ? ノゾム?」
……しばらくして、ノゾムが動いていないことに気付いたクレセントは実体化して、彼を揺する。
しかし。返事が無い。色々抱えているノゾムだが、此処最近一向に彼は自分も頼ってくれないのでクレセントは不満を感じていた。
確かに家でごろごろしてばっかりの自分も悪いが、少しくらい相談してくれてもいいだろう、と。
(むぅ……仕方ない。ノゾム悩んでるみたいだし……そういえばヒナタの方はどうなってるんだろ)
決戦を前にして、ノゾムの相方となるヒナタは、そして白陽はどうしているのか——それが気になったのである。
(もしかしたら、ノゾムの助けになれるかも)
そう思いながら——カードの姿で彼女は窓をすり抜ける。
向かう先は暁ヒナタの家だ。彼と白陽ならば、何か助言がもらえるかもしれない。そんな一抹の期待を抱いて、玉兎の少女は、屋根を踏み越えて街へ飛び出したのであった。
- Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝 ( No.314 )
- 日時: 2016/08/03 22:22
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
***
「——コレで俺の勝ちだ。白陽」
「クッ、馬鹿な……」
暁ヒナタと白陽は互いに睨み合っていた。
床にはカードが置かれている。
白熱とした試合。頭脳と運の絡む駆け引き。今、2人は純粋なる勝負の世界にめり込んでいた。
「俺はこれに賭けるぜ。さあ、どうする、白陽」
「おのれ……ヒナタ……この私を此処まで追い詰めるとは……」
「観念しろよ——さあ、勝負だ!」
「やるしか——無いのか」
刹那。
互いに持つ全てが露わになった——そう。勝負を決めるカードが。
「スリーカード!!」
「ストレートフラッシュ!!」
「クッソォ、負けたァァァァーッ!! 絶対勝ったと思ったのにぃぃぃーッ!!」
「ふん、手持ちの札が顔に出ている奴に私が負けるわけがないだろう」
——ただし、カードはカードでもトランプのカード、そして今やっているのはポーカーであったが。
「無様だな、ヒナタよ。賭けの内容通り、私は”あいすくりーむ”を全て頂く」
「く、クソッ……!! こんな猛暑日に大切なアイスを全て奪われるとは、何という拷問ッ……!! カードの交換もしなかったのに、何て強運な奴ッ!!」
「フッ、大事なアイスが目の前で私の口の中に消えるところを大人しく見ていることだな、フハハハハハ——」
「——じゃないでしょうがぁぁぁぁーッ!!」
鈍い音と共に、白陽の身体が思いっきり倒れた。トランプが散らばる。そのまま床に顔面から押し倒される結果に。
何事だ、と突然の来訪者の顔を見て、ヒナタは言葉を失った。
見れば、白陽の後頭部を思いっきり踏みつけているのは、クレセントであった。
唖然とした表情を隠せないヒナタは、恐る恐る口を開く。
「お、おい……お前何しに来たんだよ。つかどっから入ってきたんだよ」
「網戸開いてたけどー?」
「クッ、不覚……母さんが洗濯物を出すために開けてそのままになってたのか」
「ク、クレセント……そろそろ脚を……もがもが」
「るっさい! 何で!? 明日から大事な戦いがあるんでしょ!? 何でデュエマじゃないカード広げて、しかもアイス賭けて遊んでんのよ、一本寄越しなさい!」
「お前絶対それ目当てで来ただろ!!」
***
「いや、さあ、あれだよ。息抜きだよ息抜き。こんな猛暑日、アイスでも賭けてゲームしてなきゃやってらんねーっつの。明日から大阪に行くって言っても、今日は結局暇だしな」
「いやさ、随分と楽観してるよね……」
あっけらかんとしたヒナタを前にして、呆れた表情を浮かべるクレセント。考えてばかりで前になかなか進まない自分の主とは大違いである。
「と言ってもなぁ。今更グダグダ悩んでたって仕方ねえんだ。これでもさっきまでデッキのテストプレイを何十回もやってたんだぜ」
「相手は私だ。一応、デッキは動かせる」
「つか、いい加減何しに来たのか言えよなクレセント。人ん家勝手に入ってきやがって」
どうやら、遊んでばかりではなかったらしい。
しっかりとした基礎と鍛錬の合間に休息をしっかりと取るのは彼らしかった。
じろり、と睨まれたクレセントは、決まりが悪そうに苦笑いを浮かべつつも答える。
「そ、それがさ……ノゾムのことについてなんだけど」
「何?」
「うん。何か、此処最近自信なさげな表情を浮かべてずっと悩んでるみたいなんだよね……前に負けた奴と戦うって言ってたのは覚えてるんだけど、デッキを弄れば弄るほどに、だんだん精気が失せていったっていうか、何ていうか……」
「あー……」
ヒナタは思い返す。
自分と彼は、似ているようで相違点はやはり多い。
明るく、口が悪いのは互いに同じなので、性格も似ているように思えるが——
「俺は理屈よりもまず行動、だけどノゾムは——結局のところ理屈をまず立てるタイプだからなあ。考え方が理系なんだよなあ。やたらと体育系に近いってだけで」
「理屈? ああ確かに……よくあんたらの奇行にも突っ込む側だしね……」
「そうそう、常識人だからな。……俺のことを常識ない奴みたいに言うんじゃねーよ」
「じゃあどうするの?」
「……しっかたねぇなァ。多分あいつ、キイチの奴と戦うから余計力みまくって頭パンクしてんだろうなぁ……考えまくるから、普段は頭が冷えてても、コンピューターみたくヒートアップしたら思考回路が狂うタイプか」
イレギュラーへの弱さ。
特に、槙堂キイチという因縁の敵との戦い。緊張もあり、焦りもありなのだろう。
年の割に老成しているようには見えるが、彼もまだ精神が年相応の少年ということなのだろう。
しかも最近、革命のカードを使えるようになるため、フジにもしごかれまくっていたのを思い出す。1日何度もD・コクーン内でデュエルをし、しかもその後繰り返しスパーリング。彼がげっそり、としていたのを思い出す。
がたり、と立ち上がるとヒナタは言った。
「よし分かった。俺に良い考えがある」
***
「……で、何すか先輩」
「よーく来たな」
集合したのは近所の公園。
しかし、流石海戸というべきか、デュエルテーブルが此処には置かれている。
そしてヒナタと、クレセントによって呼び出されたノゾムは、それを挟んで相対していたのだった。片や眠たげに目を擦り、片や口角を上げて笑みを浮かべている。
「デッキは組んできたか? きたよな?」
「……組んできましたけど、まだ完成形って訳じゃ……」
ヒナタの”指定”に従いつつも、ノゾムは自分がまだ納得できていないデッキを使うのが不服だった。
しかし、彼はいつも通りあっけらかんとした表情で言う。
「構わねーぜ。つーか完成形かどーかなんて、誰かと戦わなきゃ分かんねーだろ」
「……そーすっけど」
「考えてるだけじゃ、前に進まねえぜ、ノゾム」
「先輩が考え無しなだけっすよ」
カードを並べながら言うヒナタ。
不満気に頬を膨らませて、ノゾムもカードを並べた。
超次元ゾーンには、クレセントのステラアームド・クリーチャーを置きながら。
「確認っすけど。クレセントを使っても良いんすよね?」
「そうだ。久々に全力で掛かってこい!」
「……オーケー、っす」
『気合入れてくよ! ノゾムっ!』
「わーってるよ、クレセント」
「白陽、頼むぜ!」
『了解した』
互いに視線が交わる。
そして——デュエルの幕が切って落とされた。
- Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝 ( No.315 )
- 日時: 2016/08/04 07:29
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
***
試合の運びは序盤こそノゾムのリードであった。
——しかし。全ては後半の攻めの遅さに失したと言っても過言ではない。
守りも、攻めも、全て崩され、火特有の癖のある妨害カードに翻弄された末に——
「——《白陽》でダイレクトアタックだ!」
「ッ……!」
——敗北した。
またも、彼に勝つことは叶わなかった。
いや、それだけではない。今までにない焦燥感がノゾムを襲っていた。
がくり、とノゾムは膝をついた。
わなわな、と手が震える。
あの日のことを思い出す。勇ましく飛び出して行ったのが間違いだった。
自分はキイチに圧倒的な実力差の前に叩きのめされ——敗北したのだ。
「負けた、か——やっぱり、デッキが——」
「デッキの所為にしてんじゃねーよ」
バッサリ、と切り捨てるヒナタ。
ノゾムのデッキの所為にするような発言に苛立ちを覚えたようであった。
「——考えれば、考える程……よりリアリティを帯びて、俺の手に伝わってくるんすよ……敗北の可能性——デッキをどんなに、どんなに改造しても、またあの時みたいに——オレは強くなってるはずなんだ……オレは——」
「——あのな。ノゾム」
遮るようにヒナタは言った。
「それ以上考えるのをやめろ」
はっ、とした顔でノゾムは頭を上げる。
歩み寄ったヒナタは落ち着き払った声で続ける。
「考えて悪いことばっかり浮かんでくるのは、お前の心の影だ。負けることばっか考えてたら——本当に負けちゃいけねえ時に、負けるぞ」
「——で、でも——先輩」
「心っつーのはお前だ。影もまたお前なんだ。思ってる事っつーのは、案外本当の事になったりするもんだぜ。心っつーのは、不安だとか、憎しみだとか、そういうのを全部投影する」
「ッ……!」
「負けるのが、怖いのかノゾム」
ごくり、と唾をのむ。
図星だ。
自分はまたも敗北を恐れた。
溢れる焦燥感。
「もう1回問うぜ。——負けるのが怖いのか、ノゾム。適当な言葉で誤魔化すんじゃねーぞ。正直に言え。テメェの悪い癖だ」
何だかんだ理由は付けた。
デッキビルディングやカードで言い訳もした。
しかし——それに隠されたのは只一つの、動物的且つ理性的で、最も忌むべき感情だった。
「——怖いわけ、ねぇだろッッッ!!」
振り絞るように、ノゾムは叫ぶ。
「——オレだって強くなったんだ!! あいつだけは、槙堂キイチだけは——オレがこの手で——」
「戦うのはテメェだけじゃねえんだぞッ!!」
「ッ……!」
「少し頭を冷やせ。らしくねーぞ? 此処最近、コンビネーションの練習も上手くいってねぇし……フジ先輩から革命のカードを貰ったのは良いけどよ。あんまりにもお前が思い詰めてるようだから呼んだんだ。クレセントも心配してたしな」
ぐっ、とくぐもった声でノゾムは頷いた。
「だ、だけど、オレは大丈夫です……」
「……まあ良いや。俺は信じてるぜ」
そう言い、彼は向き直る。
こうして、気まずい雰囲気のまま、今日は解散となったのだった。
***
——先輩に、怒鳴っちまった……オレは……。
机に突っ伏し、項垂れながらノゾムは動かなかった。
クレセントが心配そうに声を掛ける。
『ごめん、ノゾム。あたしが余計なことしたから……』
「いや、いーんだ。オレは……どんなに自分が愚かなのかを思い知った。……人間っつーのは、平気で嘘が付けるもんなんだな。他人にも、自分にも」
怖くない、と彼には言った。
しかし、あれは嘘だ。
全ては恐れからくる行動だった。
何度デッキを組んでも納得できない、と思い込み、崩してまた組み直す——キイチと向き合った時のことを考えると、震えが止まらず、勝手に頭が「これじゃない」と判断してしまったのだ。
「オレは……オレは……最低だ。自分が怖いのを、カードの所為に、デッキの所為に、まして先輩の所為にしちまってたんだ……オレは本当に臆病なんだな」
『ノゾム……』
「なあクレセント。お前は怖くなかったのか? 昔、クリーチャーの世界でも戦ってたんだろ? 負けて、死ぬのは怖くなかったのか?」
語り掛けるように言うノゾム。
それに——彼女は、消えるようなか細い声で言った。
『……ごめん。昔の事は、楽しいことしか思い出したくないの』
「……そうか」
『今はさ、ノゾムと一緒に戦ってたら怖くないよ。ノゾムは、強いもん。あたしの命を預けられるってあたしが一番知ってる』
「……オレは強くなんかねーよ。オレが一番知ってる。ヒーロー気取りのガキのどこが強いっていうんだ」
『——だけど、1人で戦うのは本当に怖いんだよ、ノゾム』
「!」
辛そうな彼女の声。
思わず、クレセントの表情を窺った。とても、浮かないものになっていた。
『あたしは”武神”だった……そうなるように育てられた。あたしは——生きた兵器《ルーン・ツールC(クレセント)》になるように育てられたから、周りはあたしを怖がって、戦場でも味方は誰もいなかった』
「クレセント……?」
今まで、彼女はそんなことは一言も言わなかった。
初めて、彼女の口から彼女自身のことを聞けた気がした。
『だからさ。1人で突っ走るのだけは絶対にダメだよ、ノゾム。そして自分に嘘をつくのもね』
ずきり、と胸に言葉が刺さる。
自分を偽り、嘘で固めること。そして、1人で戦う事。
まるで、今の自分そのものじゃないか、とノゾムは自分を責めた。
それ以上問う事も、聞き返すことも憚られ——そのまま2人は黙りこくってしまったのだった。
***
「キイチ君。いよいよだ」
「そうっすね、獅子怒さん。そういや、例のカードは出来たんすか?」
「嗚呼」
「そうっすか。流石獅子怒さん。そういえば、此処最近かなり調子が良いっすからね。今日だけで何人倒したことやら、ひーふーみー、ああ25人。それも皆高等部の先輩らだ」
「だが、慢心は禁物だ」
「確かに。次の試合は——あの鎧龍っすからね」
「君が余計な発破を掛けてくれた所為で彼らはまた強くなってくるはずだ」
「いーや、連中は元から——常に進化し続けてる化物ばっかっすよ。特に、あの暁ヒナタはね」
「……そうか」
踵を返した獅子怒は静かに答えた。
「——私としては、あの十六夜ノゾムの方により可能性を感じるのだがね——キイチ君」
決戦の日は、近い。
既に彼の瞳は自分の前に立ちはだかるはずの、あの少年の姿が映っていたのだった——
- Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝 ( No.316 )
- 日時: 2016/08/13 21:50
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
***
——獅子怒シドは精霊使いである。
ブロッカーデッキの中でも、エンジェル・コマンドを好き好んで使い、圧倒的な制圧力の元、敵をねじ伏せる。
毅然とした態度、冷徹な眼差しにも表れているが、光文明お得意の大量展開で物量と質を兼ね揃えた陣営を敷き、押し潰すのが得意——そう思われていた。
「——だが、彼と戦った人間は、ファイトスタイルをこう評する。”まるで自分が悪い蟲に犯されていくようだ”とな」
『蟲に犯される、ですかァ。まぁアレですね、アレ。そう、何というか気味が悪いと言いますか。ボクは真っ先にゼリー・ワームを思いつき——』
「おいバカやめろ」
ある意味呪われたカードであるそれを持ち出したアヴィオールを制止するレン。
それを聞いていて、ニャンクスは気分が悪そうに腕を撫でた。
『蟲ィ……ううう、女の子にそういう話をするもんじゃないのですにゃあ』
「例えだがな、例え」
ぐいっ、とブラックコーヒーを喉に押し込んで、レンは答えた。
隣に座るコトハは、蟲、という言葉で背筋に走るものを感じたらしい。
近くのカードショップでの買い出しを済ませた後、コトハに出会い、今まで今回の試合について話していたのだ。
「はぁ。つまり、光のコントロールスタイルに、更に一癖ある戦法を加えてくるってこと?」
「ああ。だいぶ前の情報だから、あんまり参考にならんとは思うがな。ただ、ヒナタとノゾムの使う文明は火と水……ブロッカーには強い分、やはりそれで引っかかるものがあるのだ」
『ブロッカー破壊は火の十八番、水はアンブロッカブルとバウンスによる強行突破がありますからねえ』
「その通りだアヴィオール」
『光栄です、我が主』
「ふぅん」
従者と主人のようなアヴィオールとレンのやり取りを見ながら、コトハは頷いた。
まるで大金持ちのお坊ちゃまと、敏腕執事の関係のようだった。
デュエル自体、儀式のようなものとして存在しているのはアヴィオールの世界でも同じだったらしく、彼はその戦術、戦法を今のカードを一通り覚えると、完全に把握してしまった。
今ではそれに助けられることもあるほどだ。
「が、しかし。最近、ノゾムは焦っているようだからな」
「まあ当然ね。あいつら、そろいもそろって前にキイチにボコボコにされてるもの。それも相当酷い負け方をしたみたい。ノゾム君はとにかくヒナタを慕ってるから、あいつが如何なる理由でもヒナタを馬鹿にしたのを許してないんだわ。だけど、自分とヒナタは勿論だけど、特にキイチとの実力差を感じていて焦ってる」
『戦いに於いてもそうですにゃ。どっちにせよ、ノゾム様の心理状態が鍵を握るのは確かですにゃ』
「自信は最大のプラスならば、焦りは最大のマイナスだ。焦ることによってマイナスに転じることがあっても、プラスに転じることは、まずないだろう」
今のノゾムは、いよいよ控えた聖羽衣戦を前にして、焦りが目立っていた。
「特に、水の革命にレジェンドは無い——つまり必殺の切札である革命ゼロが無い。武闘先輩はそう言っていた。その代わり、ノゾムには強力極まるドラグハートが幾つもある。それを組み合わせれば、キイチにも、まして獅子怒にも勝てないことはないだろう。ただし——それはヒナタとの連携が取れれば、の話だがな」
「そりゃそうでしょうよ……」
「だが、革命という戦法は余りにも受け身過ぎる。まだ、不完全な戦法だと武闘先輩は言っていた」
「不完全、ね……」
そう返すコトハの表情は憂いを帯びていた。
「——ま、あいつらなら大丈夫よ。それにデュエマに於いて完全、と言う言葉は有り得ない」
「……それも、そうだったな」
「ところで」
話の流れをぶった切るようにコトハは告げた。
「……それよりレン。次のバスは?」
「今走り去っていったな」
「……え?」
ひゅううう、と一陣の風がバス停を撫でていったのだった——
「ちょおおおお!? またこのオチィィィーッ!?」
「不幸だ……貴様はまだいいが、僕の家の方面のバスは……一時間後か」
『では、ボクの背中に乗るのはどうです? 翼で羽ばたけばそのまま家まで送れますがね、黒鳥レン、如月コトハ』
「いや、遠慮しとく……」
***
「ノゾムさん……最近、やっぱり様子がおかしいです。どう思いますか? ハーシェル」
『余り、人の心境を軽々しく喋るのは好きではないのだがのう……』
部屋の中で実体化し、ホタルに首筋を撫でられながらハーシェルは溜息をついた。
入院している両親は、ホタルの背中を押してくれた。
どうやら、祖父母が彼女に代わってまだ動けない両親の世話をするらしい。
しかし。そんなことより、彼女の中ではノゾムの方が心配だった。
それだけ、彼女の中ではノゾムという存在が大きなものになっていたのだ。
「……私、ノゾムさんが負けるわけがないと思っています。絶対に、暁先輩と一緒に勝ってくれるって信じてます」
『……ハァ』
もう一度、ハーシェルは呆れたように深く深く溜息をついた。
『良いか、それが原因じゃ』
「えっ? な、何がですか」
『十六夜ノゾムは周囲からのプレッシャーを感じておるわい。それがヌシのような、奴への過度の期待じゃ。負けるわけがない。奴は強い。確かにアヤツはワシ等を救い出した。深い深い淵から——だがな、忘れるなホタル——奴も、年相応の少年なのだぞ』
「あっ……」
気付いたようにホタルは口を噤んだ。
『十六夜ノゾムはずば抜けた逸材じゃ。だが、あやつは過去に忘れられない大きな敗北を抱えておる。生まれ持っての天才ではないのじゃよ。自信もその時に打ち砕かれておろう。元々、あやつは謙虚じゃからな。自己評価も低い』
「そ、そんな……」
『ワシが問題に思っておるのはな、あやつと周囲との温度差じゃ。ヌシらは揃ってあやつが強い、あやつは頼れると言うが、あやつは内心こう思っておるぞ。”自分はそこまでの力は無い”。しかもそれを身を以てそれを痛感しとるから強ち間違いじゃないわい。自分の事は自分にしか分からんのだから』
「でも……ノゾムさんは——」
『無論、あやつが弱いと言っとるわけじゃないぞ? だがな。過度な重圧を掛けて追い詰めることだけはしてやるな。あやつは謙虚で、優しい。皆の期待に応える英雄のような人物になりたいと思っておる。名声を上げるとか、そういうことではない。ヌシらにただただ応えてやりたい思いで、だ。それを覚えておけ——後はあやつ次第だ』
と、わしが偉そうに利けた口でもないのじゃがのう、と付け加えるとハーシェルは口を閉ざした。
ぐるぐる、とホタルの中で色々な考えが渦巻く。
自分はノゾムに背中を押され、期待されることで力が沸いてきた。立ち向かう勇気が出た。
だが——彼にとってはそれが逆効果なのではないか。
——それは分かりません。だけど——私に出来ることが限られているということだけは分かりました。それを、やるだけです。
窓から覗く星——それを眺め、ホタルはハーシェルにもたれかかり、目を閉じた——
***
——画して。
彼らの思いが交錯する中、夜は明けた。
遂に、決戦の地・大阪へ向かうことになったのである——
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