二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
- 日時: 2017/01/16 20:03
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。
また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。
”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”
『星の英雄編』
第一章:月下転生
Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25
第二章:一角獣
Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48
第三章:骸骨龍
Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73
第四章:長靴を履いた猫
Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114
第五章:英雄集結
Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204
『列島予選編』
第六章:革命への道筋
Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦
Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261
Act8:次なる舞台へ
>>262
第七章:世界への切符
Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352
『侵略世界編』
第八章:束の間の日常
Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393
第九章:侵略の一手
Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416
第十章:剣と刃
Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444
短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。
短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65
短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126
短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156
短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176
短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422
エイプリルフール2016
>>299 >>300
謹賀新年2017
>>443
登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします
オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。
お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新
- 短編6:Re・探偵パラレル ( No.417 )
- 日時: 2016/10/15 15:05
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
——現世のそれとは違う19世紀ロンドン。通称・シャーロック・ホームズが存在する世界線。
悪化する治安に労働条件。これらが重なることで、起きた様々な事件が今日も社会を騒がす。
というのも——
今ロンドンでは、博物館・美術館を立て続けに狙う窃盗事件が多発していたのであった。
「……で、この俺に調査の依頼に来た、と」
「はい! 今度の展覧会の時に、その警備を頼みたいんです!」
——彼の名は、ヒナタ・アカツキ。探偵だ。
様々な盗品関係の事件を今までスピーディに、そして確実に解決してきた対窃盗のプロフェッショナル。
……というのは建前で、実際の依頼は大抵下着ドロの炙り出しと言う悲しい現実が付いていた。
が、しかし。以前に怪盗から博物館の秘宝を守った(わけではなく、実際には先に粉砕されたので怪盗がやってこなかっただけ)実績もあり、今回別の博物館の関係者である女性・ホタルから、今度宝物の展覧会を開くため、その警備という依頼を受けることになったのである。
「……というのも、我が帝国広しと言えど、対窃盗スペシャリストの探偵は貴方しかいないんですから! 下着ドロ退治の印象ばっかついてる所為で微妙に依頼人が増えませんけども!」
——毎度思うけど警察に任せろよ下着ドロは!! 何でいっつも俺が処理してんだよ!! 悪いけどその評価は自分がいっちばん分かってるから!! 本当悲しい!! 泣ける!!
というツッコミはおくびにも出さず、
「良いでしょう。その依頼、この俺が引き受けました」
「ありがとうございます!」
と快く返すのが紳士の礼儀というものである。
「しかし、ロンドン市警でも対処できないとは……最近の怪盗はどいつもこいつも。というか、展覧会自体中止にした方が良いのでは?」
「いえ、それでは向こうの思う壺だと社長のフジ・ブトーは言っておられまして……」
「あの人なら仕方ないな」
「今ロンドンを騒がせている……怪盗は3人。それぞれが対立し、潰し合ってはいますが——いずれも厄介な手口を使うらしいことは既に知っていますよね。摩天楼の怪奇・怪盗ブラックバード、青い閃光・怪盗ラビットキッド、そして魔性の女怪盗・フェブラリーキャッツ。いずれも噂によれば使い魔(クリーチャー)を使うらしく……」
此処最近。
超常異常を操る犯罪者が増加していると彼女は言う。この時点で、現世のそれとはちょっとずれた19世紀ロンドンであるということはお分かりだろうが、その背後にいるのが使い魔(クリーチャー)と呼ばれる存在だ。
世間では、幽霊だの悪魔だの言われつつも、その正体は何ら明らかになっていない。
ただ一つ言えること、それは使い魔と連携して悪事を働く犯罪者がおり、警察も手を焼いているということだ。
「それでは、私はこの辺で!」
「ああ」
だがしかし——ヒナタ自体、その存在を信じていない訳では無かった。
というのも。
「……ヒナター、飯はまだかー。オイラもう腹が……」
……居るのである。自宅に。
その使い魔(クリーチャー)が——
この犬のようなチビ狐の名は白陽。
今や、この探偵事務所の立派な使い魔(クリーチャー)であった。
祖父から送られてきたこれは、喋る上に飯を要求し、更に昼間は本を読みふけってぐーたらしているというポンコツ具合であったが。
ヒナタとしては、
——よもや、本編で出番が微妙だからか短編にまで出張ってこようとは……この狐、出来る……!!
と考えていたが、そんなことはともかく仕方なく戸棚を漁るのだった。
「今度はどんな事件の解決だー?」
「警備だ警備。博物館のな——怪盗に狙われていると」
「そうか。相手は使い魔使うのか?」
「使う。それも、3人だ」
「へえ。やっべぇな」
「やっべぇよ。でも、久々にまともな案件に立ち会えたぜ」
「此処最近ずっと下着ドロ退治だったからなあ」
***
後日。博物館に送りつけられたらしい予告状がそのまま依頼人から事務所に送られてきた。
当初、ヒナタはホタルの話を加味しても何故自分の所にわざわざ依頼が来たのか謎であった。
しかし、これを読んだ結果ヒナタは悟った。何故自分の所に警備の依頼がやってきたのかを。
その予告状の内容は——
予告状
ハハハハハハ、愚鈍なロンドン市民諸君。
展覧会の1日目の夜、この闇夜に紛れし美学の貴公子がありったけの宝を美学を以て持ち去ってやろう。メインディッシュは、黄金の聖杯だ。
怪盗の美学に賭けて盗み出してやるから精々マンホールの下から美学に警備でもしていたまえ美学。
P.S:美学って……何だっけ
美学怪盗ブラックバード
——テメェで美学って単語がゲシュタルト崩壊してんじゃねえか!
予告状
午前2時に黄金の聖杯を盗んでみせよう。私が宝を盗み出せる確率は——100%。覚悟しておきたまえ
P.S:白陽来る? 来るよね? 警備に来るんだよね!?
怪盗ラビットキッド
——おい、誰と誰のコンビが書いたのか一瞬で分かったぞ。
予告状
展覧会の夜、黄金の聖杯を盗みに来ます。
べ、別に、対窃盗探偵のヒナタ・アカツキを警備に呼んで来たってかまわないんだからねっ!
P.S:魔性の女怪盗と勝手に呼ばれるのは不服
怪盗フェブラリーキャッツ
——俺のところに依頼が来た最大の原因こいつの予告状じゃねえか!! てか知らねーよ、お前の異名なんか!!
ともかく、怪盗3人の狙いが黄金の聖杯なる宝であることは分かった。
しかし、それ以上に予告状の方が頭を抱える内容だったのである。
「オイ、どういうことだぁぁぁー!! 予告状の時点で既に頭を抱える内容だよ!! 面識無いはずの怪盗の予告状に俺の名前書いてたりお前の名前書いてたりしてるけど、無かったことにしてスルーオーケーだよね!?」
「何故予告状にオイラの名前が……!? 謎だ」
「謎でも何でもねぇよ!! 此処まで本編読んできた皆さまなら誰が書いたのか一瞬で分かったろうよ!! 本当なら内通疑惑掛かってるところだぞ、お前!!」
「まあ良い。とにかくヒナタ。怪盗3人からどうやって博物館の宝を守るかを考えるかが先決だろ?」
考えてみれば、このチビ狐の言う通りであった。
博物館の見取りを取り出し、当日の警備の配置を確認する。
成程、昼間から勤務している同じ警備員が夜間にも関わらず大量配備されており、労働基準がずさんであることがわかる。他、ロンドン市警の警官も各所に配備されていた。
が、しかし。クリーチャーを従える3人の怪盗が相手では寝不足の警備員や、警察など何人いても楽々と突破されてしまうだろう。そこで、ヒナタの出番である。
「俺と、使い魔(クリーチャー)であるお前が、奴等を何とかして食い止める……! 相手は、警備の薄いところを狙ってくるはずだぜ!」
「よっしゃ! 任せとけ!」
画して。黄金の聖杯を狙う3人の怪盗と、探偵・ヒナタの対決が幕を開けたのである。
——もう完全に本来の探偵の業務から逸脱してるけどな!!
- 短編6:Re・探偵パラレル ( No.418 )
- 日時: 2016/10/16 23:25
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「で、お前も来ていたのか……」
「何だ? 来るとまずいことでもあったか? 三流探偵」
「お前も人の事言えねえだろ、三流刑事」
「そこまでにしたまえ」
——当日、午前零時。
博物館にやってきたヒナタを迎えたのは、見知った警察の人物であった。
1人は、細身でニヒルな刑事で、もう1人はガタイの良い警部。彼らも警備に来ていたのだろう。
「挑発されたとなれば黙ってられないのが、うちの上層部でね。まあ、仕方ない。俺らがわざわざ出る羽目になったのさ、ヒナタ。まあ、普段下着ドロ退治やってるお前の名前があったのも意外だったが」
「何処にだ?」
「今日の警備部隊の中、そして予告上の中に、だ」
「前者はともかく、後者は意外でも何でも……いや、これ以上は野暮か」
ムッとしながら言い返すヒナタ。
ついでに、と言わんばかりに反撃する。
「あと、俺は好きで下着ドロの退治をしているわけじゃ——」
「ま、お前ンところに下着ドロの被害届の横流ししてんのロンドン市警(おれら)なんだけどね」
「ちょっと待てやコルアァァァーッ!?」
流石にヒナタは反論する。
面倒な仕事を、ただの私立探偵に押し付けていたのではないか、という疑惑が沸いてくる。
曰く、今のロンドンでは怪盗による窃盗被害が多くなっており、市警も手が回らない状態。更に治安が悪く、やれ切り裂きジャックだのやれ暴動だので彼らも休む間がないのだという。
そのまま、表情筋一つ動かさず、キイチは一応の謝罪に出た。
「まあ、良い。お前とは色々あった仲だ。許してヒヤシンス」
「ヒヤシンスじゃねえよ、面倒事押し付けるのやめてクレメンスだよこっちは」
最も、謝る気など毛頭ないことはヒナタにもわかり切っていた事ではあるのだが。
「そんな茶番をしている暇は無い」
「ッ……!」
——おお、流石ロンドン市警屈指の鬼警部と言われるシド警部——! いつかのマグレとは威圧感と溢れ出るシリアスオーラが段違い!
この巨漢・シドは、身を翻すと言った。
「着いて来い、君は一応我々の知り合いだ。使い魔も居る以上、我々と一緒に行動してもらう」
***
「此処は——」
やってきたのは、最も侵入がされやすい、とヒナタが感じていた場所である。
それは、この窓ガラスで張り巡らされた4階ホール。あまり考えたくはないが、此処をよじ登られでもしたら、真っ先に割られて侵入される恐れがあるという。
「黄金聖杯は、最も警備の厚い3階のメイン展示室に置いてある。あらゆる入り口を警備員や警官が警備しており、後はこのガラスで覆われたホールのみだ。しかもあそこには窓がない。通風孔くれーだな、換気できるのは」
「おそらく、敵が怪盗ならば、此処を何らかのトリックを用いて突破する——というのが一番有り得る」
「例えば、グライダーで飛んできて上からガラス切りで叩き割るとか」
「でもなあ、こんな人目につくところから侵入するかあ?」
「もう、それぐらい警備は厚いんだ。ほぼ死角はねぇ。後はあり得ると言えば、最初っから警備に紛れていたくらいだが、此処の連中は皆、入る前に身体検査を受けている。俺達も含めてな」
「そう言えば、受けたな。服ぬげって言われて何事かと思ったわ」
「まあ、後はここで俺らは眠い一夜を過ごすのみよ」
「だが、気を引き締めろよキイチ君。油断は禁物だ」
「はいはい分かってますよ、シドさん。ま、でも今回の警備はかなり俺らが口出ししてますしね。今回に限っては警備員を総取り換え。ブラック社長なんぞに任せてはおけねーよ。誰一人として寝不足はいない」
彼の言い方からして、今回の警備体制には相当徹底されたものがある、とヒナタは感じた。
ほかにも、沢山の策や罠を張り巡らせているらしく、今の博物館は夜の要塞状態。
これなら自分の出る幕は無いな、とヒナタは思っているうちに、もうじき2時である。
怪盗達が予告していた時間帯だ。
「……さて、そろそろか?」
「だが、この警備の厳重さに流石に恐れを成して——」
と、次の瞬間だった。
ガシャアアアアアン
何かが壊れる音が聞こえる。
そして——しばらくして、警官の1人がやってきた。
「申し上げます! 黄金聖杯を展示している3階から侵入者が!」
「何ィ!?」
キイチは血相を変えていった。
まさか、一番警備が厳重な上に、窓一つない3階の外からどうやって侵入したというのか。
「な、何だ!? トリックか!? トリックなのか!?」
「い、一体、何が起こった! 言え!」
「し、侵入者は——」
警官は狼狽しながら、喉の奥から声を押し出す。
「バカでかいハンマーで壁をぶっ壊して入ってきました」
全員は沈黙する。
そこには、トリックもへったくれもイカサマも存在はしなかった。
ただ純粋で、原始的で、簡単でそして——強いもの、それが力——
「怪盗ってなんだっけぇぇぇーっ!?」
「待て。まだ只の野盗の可能性も無きにしろ非ず——早く3階に行くぞ」
***
「ははははははははは!! 青い閃光、怪盗・ラビットキッド様と!」
「その助手を務める、ラビッ☆ と登場、クレセントちゃんの登場ー!」
——怪盗だったぁぁぁーっ!! 強盗でも野盗でもなく、あれ絶対に予告状の中の怪盗の1組だぁぁぁー!!
3階の壁に大穴を開けて参上したのは、総髪の背が低いマスクを付けた少年に、使い魔と思われる白い兎の獣人の姿があった。この2人組が、恐らくあの予告状にあった怪盗・ラビットキッドと見ていいだろう。
獣人の手には、巨大な鉄槌が握られており、彼女がやったとみて間違いはない。恐ろしい怪力も持ち主であることがわかる。
しかし。流石に警官隊によって取り囲まれているのが見えた。
黄金聖杯を、此処から奪ることは難しいだろう。
「何をやっている!! かかれ!! ひっとらえるのだ!!」
「オオオオオオ!!」
シドの号令で、警官隊と警備隊がラビットキッドとクレセントに飛び掛かるが——
「ぐおおおおああああ!!」
勝負は一瞬でついた。
警官隊と警備員は、クレセントによって薙ぎ払われていく。
その鉄槌を使うまでも無い。徒手格闘のみで皆倒されていくのが見えた。
見かねたヒナタとキイチ、シドはラビットキッドとクレセントの前に立ちふさがるようにして躍りかかる。
そして——言いたかったことを、ヒナタはぶつけた。
「おいちょっと待てや!! なんだこれ!? 怪盗って格闘技で警備薙ぎ払っていくもんなの!? 力業でごり押すのが本当に怪盗のやり方なの!?」
ただし。それは予告状の件でも聖杯の件でもなく、あのラビットキッドのやり口に対してであったが。
「何言ってんだあんた? 怪盗ってのは、怪力でごり押す強盗、略して怪盗じゃねえのか?」
「アホかお前!! いっぺん、言葉の意味を勉強し直してきやがれ!! んな怪盗あるか!!」
「違うよノゾ——ラビットキッド! 怪盗ってのは、怪力でぶっ壊す強盗、略して怪盗だよ!」
「成程な。納得だ」
「納得じゃねえよ!! 結局同じだからね!?」
喉を枯らしながら突っ込むヒナタであったが、それを手で制して前に出るのはシドだ。
「貴様。その黄金聖杯を盗んで何をするつもりだ?」
「シ、シド警部……!?」
「古くより。黄金聖杯には、このような伝説があるのだ」
目を閉じ、シドは語りだす。
「——黄金聖杯。それは、手にした者の願いを叶える強大な器。歴史上では、それを巡って度々争いが起きた——それが聖杯戦争」
「ちょっと待てや!! どっかで聞いたことあるけど!?」
「今までは、例えばそうだな、この国の伝説のア〇サー王を女体化したアレとか、別の時間軸の成れの果てとか、歴史上の人物だとかを召喚してなんやかんやして——最後に勝ったものが聖杯を手に入れることができるとかいう噂だったか何だったかが伝わってたような気がする」
「アバウトだなオイ!!」
「なら使い魔(クリーチャー)じゃなくて使い魔(サー〇ァント)の方が良いんじゃね?」
「やめろォ!! 怒られる!!」
「ちなみに今のは全部フィクションだ、手に入れても願いは叶わん、所詮はただの純金のカップ」
「伝説(笑)じゃねえか!!」
「何!? フィクションだったのか!?」
「まさか信じてたのか、この自称怪盗!?」
驚きを隠せない様子のラビットキッドであったが——それでも、何としてでも聖杯を奪い取るつもりらしい。
クレセントが、再び得物を握る。
「折角願いが叶うと思ったのに——身長をせめて後10cmくらい伸ばせるようになるという夢が!!」
「身長やっぱり気にしてたのね!!」
「うーんー——もういいや。さっさと盗みだしちゃお!」
だっ、と彼女は地面を蹴る。話の流れなど関係ない。狙う先は——ガラス張りのケージの中に入った、黄金聖杯だ。
純金でできたそれには無論、願いを叶える効力こそ無いものの、売れば相当の金額が叩きだされるだろう。
どちらにせよ、盗むだけの価値はあるのだ。
「——さっ、避けないとケージごと叩き割っちゃうよ、その頭——!」
「いかん! 使い魔(サー〇ァント)の攻撃は——危険だ!! 避けろ、ヒナタ!! キイチ君!!」
あの鉄槌の威力。
大きさ、重量感からして凄まじいことは察せられる。衝撃派だけでも大怪我しかねない。
ヒナタは、余りの迫力に動けなかった——わけではなく。
「白陽!!」
その名を呼んだと共に、ガキイイイン、と硬い金属音が鳴り響く。
そこには、紅蓮に燃える炎を身に纏った超獣の姿があった。あの衝撃をものともせず、打ち消してしまったあたり、流石というべきか。
手に握られた大槍で鉄槌を受け止め——彼は言った。
「サー〇ァント、ランサー参上。ヒナタ——じゃなかったマスター、指示を」
——伏字ィィィィィィィーッ!! お前もそれ引っ張るんかいィィィィ!!
- 短編6:Re・探偵パラレル ( No.419 )
- 日時: 2016/10/16 12:30
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「ともかく、この私の前で宝は盗ませんぞ——」
現れた白陽は、もう先ほどのチビ狐のものとは違っていた。
口調も大人びており、伝説の国・ジパングの陰陽師の服を身に纏い、得物である大槍——と西洋では言われるが、正確に言えば長刀に近い——を再び構え、距離を取る。
クレセントは嬉しそうに口を開いた。
「あはっ! どうやら、本当に来たみたいだね、白陽!」
「やはり、お前だったのかクレセント! 幾らお前でも、敵対するならば容赦はしない!!」
「あたしに容赦したら、死んじゃうからね!!」
ガキィンッ!!
火花を鳴らして、両者の得物が弾かれあった。
しかし。がくり、と膝を先についたのは白陽の方だ。
やはり、かなりの負担がかかっているのだろうか。
「あたし達2人は前世で戦い、そして禁断の恋を結んだ仲——ああ、禁断って響きって甘美——でも、やっぱあたしたちはこうやって戦ってる方がらしいよね!」
「そんなことは関係ないッ! 此処でお前を倒す」
「おいクレセント! 宝の方を狙え! そっちに構うんじゃねえ!」
「やーだよっ! もっと、白陽と戦いたいしっ!」
真紅のルビーのような瞳をギラつかせる。
まさに、戦闘と狂気に呑まれているような表情だ。
「なあ、このクレセントちゃん、ちょっとバトルマニア入ってない!?」
「あー……スキルで狂化がEだけど入ってるからなあ。一回戦闘すると、制御が」
「バーサーカーじゃねえか、本当にサー〇ァントだよこれじゃあ!! 令呪とかないの!?」
「あるわけねーだろ!?」
キイチの悲痛な願望も、怪盗本人に一蹴され、場はより混乱を極めた。
実は、元からこのような一面があったのはあったのだが、それはさておき。
クレセントが鉄槌を振るい、殴る。殴る。殴る。
地面を蹴り、一回転し、そのまま大上段に振り下ろす——それを、槍だけで白陽は受け止め、受け流し、そして打ち払った。
が、それだけで精一杯だ。恐るべし、バーサーカー。怪力のみならず、敏捷性もとてつもない。肉体で敵っているとはお世辞にも言い難い白陽では、戦いづらいことこの上ないのだ。
「くそっ、強化妖術で体を強化していなければ、今頃木っ端微塵だ!!」
「あはは! それじゃあ、これとかどうかな!」
次の瞬間、クレセントの鉄槌の小さなハッチが6つ、側面から開いた。
そこから——魔力を燃料に、大量の誘導式ミサイルが飛ばされていく——
「他所でやれぇぇぇ!!」
というヒナタの叫びはさておき、白陽も負けじと大量の護符を生成した。
それをバリアのように張り巡らせ、一発一発を受け止めていく。
流れ弾がこちらへ飛んできた。急いで階段へ隠れる。
「アホかぁぁぁ!! あいつら何リアルファイトおっぱじめてんだぁぁぁ!! これもう、探偵モノでも何でもねぇよ!!」
「本編では見られない2体のリアルファイト……需要はあるのではないか?」
「何であんたが需要とか言ってんの!? 絶対ないからね!?」
とうとうボケ始めたシドに突っ込むヒナタ。
しかし。
「あはははは! これでお終いだよ、白陽!!」
この戦いにも終わりが訪れようとしていた。
クレセントがとうとう、天井まで自慢の脚力で飛び上がり、そのまま一回転して——鉄槌を白陽へ大上段へ振り回したのだ。
これだけならば今までと一緒だ。
しかし。力の入りようが全く違う。
鉄槌は青い雷を迸らせており、そのオーラが全く別次元のものであることを示していた。
「ムーンサルト、スタァァァァァァンプ!!」
振り下ろされる鉄の礫。
それは、鋼さえも打ち砕く金剛の一撃。
この世の絶対的物理法則・重力に威力を相乗させたその一撃は——
「ふんっ」
——大振りだったのが仇になったか躱されてしまう。
だけならば良かったのだが——鉄槌が、床にめり込んだ。
更に——
「え、あれ!? ちょ——」
めきゃっ、と音がする。
あれだけの威力の技だったのだ。空振りして床に振り下ろして、タダで済むわけがない。
そのまま、衝撃波で鉄槌の部分のみならず、周りにまでヒビが入り——彼女の居た場所は文字通り崩落した。
「きゃあああああ!?」
貫通。
それに尽きる。
そのまま彼女の姿は2階、1階、そしてその更に下へと消えていった——
「クレセントォォォーッ!?」
叫ぶノゾ——ではなくラビットキッド。頼りの綱が居なくなってしまった以上、形勢は一気に逆転したと言える。
そのまま彼女がこちらへ戻ってくる気配もない。
「さあ、どうする? クソガキ。今なら豚箱行きで許してやるぜ」
「有利になったとたんに強気になるな、お前!!」
「くっ、まずい、どうする!? まさかクレセントが此処までアホとは、オレも予想外!! 現実は小説より奇なり!! いや、でも考えれば考える程、予想外でも何でもなかった!?」
「良いから捕まれやァァァーッ!!」
ダッシュするキイチとシド。
もうここから先は彼らに任せよう、と一部始終を見届けようとしたその時だった。
プシュウウウウ……
何やら、空気の抜けるような音がする。
次の瞬間、下の階から警備員がやってきた。見れば、せき込んでおり、しかも涙で目が真っ赤に腫れていた。
ゴホッ、ゴホッ、とむせながらも、彼は辛うじてその正体を言った。
「や、やられました!! 催涙ガスです!!」
という旨の事を、鼻声で伝える。
「何ィ!? ガスマスクは配備したはずだぞ!?」
「ダメです!! 使っても、中に入ってきました!!」
「発生源は分かったか!?」
「そ、それが——さっぱりで——」
と、その時だった。
キイチの瞳に、涙が浮かぶ。
そして、眼球が充血して、瞼が腫れ始めた。
同時に彼はせき込みだす。
「げほっ、がほっ、うっうっ!?」
膝をついた。
どうやら、既にガスが部屋に回り始めたらしい。
無論、彼がこの状態ということは——ヒナタやシド、ラビットキッドもただでは済まない。
クリーチャーである白陽も同じだ。
全員せき込み、鼻水が出て、涙が出てしまっている。
「はははは、ご機嫌よう諸君」
「いやあ、愉快ですねえ。痛快ですねえ。このアヴィオール、自分の作った兵器がしっかりと効いているのを見ると、快感を感じます」
つか、つか、と階段を上る音。
見れば——そこには2つの影が。
1つはスーツを纏った竜人。
もう1つは——マントにシルクハットを被った紳士服の男であった。間違いない。
使い魔を連れた怪しげな2人組。彼らも怪盗だ。
「げほっげほっ、おヴぁえらか!! ぼれをばいばのば(これを撒いたのは)!! うえっ、うぇ、ばびばが!!」
鼻声になり、もうまともに喋れない。
一方の相手は得意げになって言った。
「その通りだ。ドイツ製のガスに魔力を込めたもので、ガスマスクも貫通する優れもの。このアヴィオールは魔法の扱いは誰にも負けん」
「ふっふっふっ、如何でしょう?」
「此処から先は……このブラックバードの……ショーだ。美学無き者共……そこで宝が……」
ただ、妙だったのは、その声が妙に鼻声で途切れ途切れだったことか。
「この、ゲホッ、づらっゲホゲホッ、宝がぼって(持って)いかれるのを指をくわえ、うっうっ、見ているヴぁ……ずるるる……覚悟しろ……」
——あれえええ!? ひょっとしてこいつ、自分のガスでこうなった!? だとしたらただの間抜けだぞ、何でそんなもん使ったんだ!?
見れば、完全に目が腫れて鼻水が出ており、咳き込んでいる。
撒いた本人・ブラックバードは完全にこれで弱ってしまっているようだった。
これぞまさに、ザ・自滅であった。
- 短編6:Re・探偵パラレル ( No.420 )
- 日時: 2016/10/16 15:27
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
「ア、アヴィオール!! 何故だ!! ヴぉえっ、なんべ(何で)、僕ヴァ(が)ヴぉんヴぁことに(こんなことに)」
「いやぁ、すいませんねぇ。これボクのバリアじゃなきゃ防げないんですけど、流石につかれたんで範囲限定ボクだけにしちゃいました、悪しからず」
「ヴぉい、ふヴぁけるな!! 主人!! しゅびん(主人)を、ヴぁんヴぁと(何だと)ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ、ヴぇくしょーい!!」
ともかく、これが恐ろしいガスであることは分かった。
怪盗ブラックバード。通称、美学の人。またの名を摩天楼の烏。化学技術を使ったトリックとアヴィオールの魔法を組み合わせたトリックで、今までに幾つもの宝を盗んできた手練れのはずだが——このように度々相方のアヴィオールに特に何の意味もなく見捨てられることが多々あり、胃を痛める要因になっている。
「特に何の意味もなくってどういうことだぁ!? 貴様、僕に恨みでもあるのか毎度毎度!!(※面倒なので常体ですが、この間ずっと鼻声です)」
「いやあ、別に。マスター弄りはボクの趣味ですので、はっはっは」
「ふざけるな、この愉悦部め!!(※面倒なので常体ですが、以下略)」
それを見て、「ザマァ見晒せ! 使い魔に見捨てられてやんの!」とでも言いたかったが、こちらも笑える状況ではない。
涙、くしゃみ、咳、鼻水が止め止めなく出ている状態だ。
「こ、こいつ、美学野郎め! この混乱に乗じて黄金聖杯を!(※面倒な以下略)」
が、中でも悲惨なのがラビットキッドであった。くしゃみと鼻水に塗れたまま、聖杯の展示ケースまで走るが、最早前がよく見えず、よろめいてガレキに蹴っ躓いた。
さて、このガレキが何が原因でできたものなのか——もう御察しであろうが——
「うわああああああああ」
——先ほど、クレセントが開けた床の大穴である。そのまま下のフロアまでフェードアウト。何とか怪盗2人を相手にする羽目に陥らずには済んだ。
しかし。このガスがある限り、迂闊には動けない。
と、次の瞬間だった。
護符が周りを飛び回る。ヒナタとキイチ、そしてシドはそれに囲われ——そして生成された結界の中に入ることになった。
そして、更に3枚の護符が3人に張り付く。
すると、みるみるうちに鼻水と、涙が引いていく——
「こ、これは!」
「私の呪術だ! これでガスは防げたうえに、結界内では浄化できたはずだが——!」
「すげえ! ジパングの呪術すげぇ!! 白陽が普段のクソリア獣狐から一転して有能に見える!!」
「普段とか言うな!!」
が、しかし。
次はガリガリガリ、と鋼を抉るような音が響き渡る。
それは銃声だ。
放っているのは言うまでもなく、アヴィオールである。得物はガンブレード。所謂振動剣(ヴィブロ・ブレード)の一種であるが、あれは銃としても使えるうえに連射できるよう魔改造しているようである。機関砲もびっくりの連射であった。
「ククク、何時まで持ちますかねぇ? このボク、アヴィオールは銃剣の扱いも魔術の扱いもお手の物。さあ、大人しくもう1度、くしゃみと涙の地獄を見なさい!」
「傷害行為は厳禁だぞ、アヴィオール。怪盗の美学は、えぶしっ、クソ、まだガスの影響が」
「感謝してくださいよ、クロトリ——じゃなかったブラックバード。魔力消費が激しいのに、貴方をバリア内に入れてやってるのに」
「なあ、貴様何でそんなに偉そうなの!?」
「やれやれ、そんなことはどうでもいいでしょう。まずは、これさえ抜ければ何とか——」
「一向に抜ける気配がないのだが」
「単発火力は低めですしねえ。それに、相手の魔力耐久がかなりある以上は仕方ないでしょう。が、いずれ壊せますよ。さあ、いつまで消耗戦を続けますかねえ!?」
と、言ったその時であった。
カラン、と音が鳴る。カチ、カチカチ、と引き金を引いたアヴィオールであったが、首をかしげる。
何も出ない。
しばらく考えた後、1つの結論に至った。
「あ、弾切れした」
次の瞬間——護符が彼らのバリアに張り付く。
そして、爆散した。
トドメと言わんばかりに、捨て身の白陽がバリアに槍を突き立てる。
ガラスが砕けたような音を立てて、バリアは粉々に砕け散ったのだった。
「あ、やべ」
「ちょ、アヴィオール、これは——」
もう、こうなればどうなるかはお分かりだろうか。
窓が無く、通風孔しかない空調最悪の部屋に充満しきった、催涙ガスが体のあらゆる穴という穴から入り——
「ヴぉえっ、げほっ、ヴぉええ!? ヴぇーくっしょい!?」
「うぇっ、ヴぇほっ、ヴぇへ、ヴぇへ、ヴぁっくしょい!」
「先に消耗しきったのおめーらじゃねえか!!」
「やれやれ、とんだ間抜け共だったな」
涙。鼻水。くしゃみが一気に催してくる。
これではもう、2人共まともに戦えはしなかった。
階段から転げ落ちるようにして逃げていく——
「おい、捕まえろ!! ひっ捕らえるのだ!!」
と叫んだシド。
しかし、考えてみればこの階の警備は、催涙ガスで機能停止に陥っている。下も同じで応援も見込めない。何と厄介なことをしてくれたのだろう。
彼らを捕まえることは出来ない。
だが、彼らももう何もできないだろう。
「白陽、この部屋に護符を張り巡らせて、崔涙ガスを浄化できるか!?」
「試みる」
すぐさま、部屋中に護符が飛んでいった。
それらが部屋の中に溜まった催涙ガスを浄化していく——
「——ふぅ、何とかなったか」
しばらくして、ようやく結界を解除しても何ともなくなった。これで後は、下の階で自分の撒いた催涙ガスを大量に吸って、再起不能のブラックバード組と、更に更に下の階で落下して再起不能になっているラビットキッド組をとっ捕まえるだけだ。
と、思ったその時だった。
「邪魔者が居なくなって、やっと動きやすくなったわ。何故か4階に誰も警備いないし、ガバガバすぎね」
- 短編6:Re・探偵パラレル ( No.421 )
- 日時: 2016/10/18 10:22
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
凛とした声が聞こえる。
階段の下から、ヒナタ達は現れた声の主の姿を見た——途端に、壁から蔓が生えてくる。
それを見た彼らは一気に飛びのいた。
それは植物の蔓で間違いない。それが壁や階段から生えていっているのが、謎であるが。
そして、それを発生させたのは、あの声の主。
セーラー姿に、スカーフを巻いたポニーテールの少女。そして、その傍を歩く、長靴を履いた猫だ。
やはり、彼女らも怪盗なのだろう。
「ふふ、窃盗専門探偵・ヒナタ・アカツキ。この女怪盗・フェブラリーキャッツから宝を守れるものなら守ってみなさい! 挑戦を受けたからにはこの勝負、逃げる事は許さないわ!」
「フェブラリーキャッツ様の挑戦状を受け取ったからには、勝負ですにゃ!」
「成程な。この俺に挑戦状を叩きつける意味合いもあったのか、俺の名前が書いてあったのは!」
「さあ、正々堂々とした勝負に邪魔者は不要! ニャンクス!」
これが、予告状にあった最後の怪盗・フェブラリーキャッツだ。
白陽が槍を構え、威圧する。しかし、躍り出たのはニャンクスと呼ばれた猫だ。
「では白陽様、少々大人しくしていてくださいにゃ」
「何を。大人しくするのは貴様だキャスター。ランサーである上に魔力耐性の高い私とは相性が悪い」
「それまだ引っ張ってたのかよ!?」
「キャスター枠ってどっちなんだろうな。アヴィオールでもあいつでもいけるよな」
「むう、難しいな、キイチ君」
「そういう話じゃねえよ!!」
近くの展示ケージに隠れながら、ヒナタは役に立たない刑事と警部に怒鳴る。
「キイチ君。此処は適当に、アヴィオールの方はクラスが闇っぽいという理由でアサシンにぶち込めば万事解決だ」
「流石シドさん」
「ざっけんな! んなこと言っている場合か!」
と、言っている間に今度は壁や床から太い蔓が伸びて、白陽の四肢を狙っていく。
恐らく、全て縛って動けなくするつもりだろう。
が、しかし。
「植物は燃せば燃える! 焼き尽くしてやる! 炎熱乱舞ッ!!」
「果たして通用しますかにゃ? ヴァインド・ヴァイン!」
大量の護符が飛んでいく。
それら全てに火が付けられた。
護符は火の弓矢となった——が、しかし。
「確かに、物理的に言えばそうですにゃ。でも——魔力容積の違いというものがある。僕と白陽様では、明らかに魔力の容量が違う! よって、その程度の炎では葉を焦がす程度でしかない!」
「成程、幾ら炎が草に強くても、レベル1とレベル50の差を覆すのは不可能と言っているようなものか……!」
「レベルって何のレベル!?」
余りにも魔力の差がありすぎるのか、錬成された蔓は炎さえも弾き返してしまう。
そのまま、白陽の四肢に蔓が絡まっていく。
恐ろしいスピードだった。彼が退避する前に、蔓は腕も、脚も縛ってしまったのである。
「馬鹿め、まだ念導力は使える! イリュージョン・ファイ——」
「させませんにゃ!」
ぎゅん、と音を立てて何かがニャンクスの手から放たれた。
それが——白陽の胸に触れた途端、光を放って彼の体へ吸い込まれていく。
動かない彼は恰好の餌食だったというわけだが——
「うっ!? マ、マナが、体内のマナが——」
「にゃははは! これが僕の丸薬の力ですにゃ! さあ、このまま縛り上げてやるのですにゃ!」
「っおのれ……!」
「おい、どうしたんだよ、白陽!!」
ケージの傍で叫ぶヒナタ。
白陽の様子が明らかにおかしい。まだ、体を縛られても念導力が使えるはずなのに、それが使えないのだ。
「お、おのれこいつ……! 丸薬で私の魔力を封じるとは……!」
そう、あの丸薬には白陽のマナを封じる、つまりは妖術などを全て封じる効力があったということだ。
「とは言え、貴方ほどの実力者ともなれば、結局はこの僕が常に縛っていなければならない! さあ、後はフェブラリーキャッツ様! 貴方が直々に!」
「そうね」
つか、つか、と歩いていくフェブラリーキャッツ。
そんな中、今まで殆ど役に立たなかった刑事と警部の2人が、飛び出した。
「させねぇよ! 警察なめんな!!」
と言い、飛び掛かるも——
「あべしっ!!」
「ひでぶっ!!」
彼女の強烈な蹴りが2人に炸裂した。
それをヒナタは茫然として見ているしかなかった。少し息切れしている辺り、体力は低そうだが、戦闘力は高そうだ。
そのまま屠られた刑事と警部はヴァインド・ヴァインによって四肢を縛られてしまう。完全に動きを止められてしまった。
これで、もう彼女の前に立ちはだかるのは探偵のみ。
対峙するヒナタとフェブラリーキャッツ。
背後を見れば、蔓が展示ケースを締め付けてとしている。それを彼女が奪い取るという寸法だろう。
あの蔓、縛る、絞めるといった簡単なことは出来ても、あの太さではものを掴むような器用な真似は出来ないはずだ。
いや、出来ないことはないはずだが、既に3人を縛るのにリソースを使っている以上は、かなり疲労していると見た。
「さあ、どうする? ヒナタ・アカツキ。止められるものなら止めてみなさいよ」
「クッ……!」
「おい、どうにかしろヒナタ! 探偵だろ!」
「何か策は無いのか!」
「本当に役に立たなかったな、あんたら!!」
しかし、怒鳴っている暇は無い。
今は彼女をどうにかして止めなければ、どの道ヴァインズ・ヴァインに囚われて終わりだ。
それが無いのは——必死で白陽やシド、キイチがもがき、魔力のリソースを浪費させているから。
それもいつまで持つかわからない。
ヒナタは——サングラスをかけた。スッ、と今まで起こった事が頭へ入ってくる。
「あれは、探偵主人公特有の推理モード!!」
「まさか、こんなところで発現するとは!!」
「どっかで見たことあるんだけど、こういうの!?」
——奴をどうにかして止める方法——ガスも、クリーチャーも、使えない。道具もない。
——奴の情報は、さっき階段から降りてきたばっかだから何もわからない。だけど、徒手格闘で勝てる相手じゃなさそうなのはわかる!
——ん、階段——? 下から——? そういえばあれの形状は——? そういえば、さっきの蹴りの時も——そうかっ!! 全てが繋がったぜ!!
——思い出せ、俺!! この謎を解く方法は、必ずある! 頼りになるのは俺の記憶力と推理力だけだ!!
思い立った時、既にヒナタは床を蹴っていた。
一方のフェブラリーキャッツも構える。
「ふっ、女だからと言って嘗めないで頂戴、持久力は最悪だけど、武術の腕は立つのよ! 返り討ちにしてやるわ!」
「——!」
ダッ、とヒナタはそのまま駆け抜ける。
刹那——彼女の傍を一瞬で滑り込み、そのまま通過する。
一瞬、全員は彼が怪盗を通してしまったのかと思った。
しかし。走り出そうとした怪盗はその場に立ち止まった。そして——バッ、としゃがみこんでしまう。
「な、なにが起こった——!?」
「あの怪盗を止めた、だと!?」
騒然とするその場。
ニャンクスが、「どうしましたかにゃ、フェブラリーキャッツ様!!」と叫んでいるものの、とうとう蔓を引きちぎってしまった白陽に羽交い絞めにされている。
そして——振り向きもせず、フェブラリーキャッツは呻くように言った。
「ど、どうしてわかったの——!?」
「へっ、最初にお前が出てきた時から分かってた。あの時は朧げだったから断定できなかったけど、お前のあの蹴り——あれで俺は自分の推理に確信が持てたぜ」
サングラスを髪の上にあげると、彼は言い放った。
「——お前が今日履いてきてるのが、”紐パン”だってことがな!!」
その場の空気は彼の推理によって——冷凍された。
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