二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Act3:疾走・トラックチェイス ( No.66 )
日時: 2014/11/23 09:09
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

 ***

 切り出すのが辛い。言い出すのが辛い。だが、一度決めたことだった。途中で曲げるわけにはいかないのだ。
 だからこそ。ようやく、起き上がって話ができるまでに回復したクレセントの笑顔を見る度に余計に辛くなったのだった。

「なぁ、クレセント……」
「何? ノゾム」

 彼女が首をかしげて返した。手にはノゾムが切ったリンゴを刺したピックが握られている。
 そんな彼女の顔が歪むのが怖くて、言うのを躊躇った。しかし。意を決して口を開いた。


「お前が治ったら、お前を……ヒナタ先輩に譲渡することにした」


 カタン

 目の前の少女は、ピックを落とした。

「何……で?」
「白陽に、言われた。クレセントがこうなったのはオレの所為だって」

 ノゾムは続けた。

「最初は理不尽だって思った。だけど、今回お前がこうなったのは、やっぱり所有者のオレの責任だって気づいたんだ。お前だって-------白陽と居た方が幸せだろ?」

 彼女は黙ったままだった。
 いや、違う。
 体がわなわな、と震えているのが分かる。


「-----------ノゾムの馬鹿ッ!!」


 一瞬、ノゾムは自分が何と言われたのか分からなかった。いや、言われることとしては当然だとは思ったが、直後に彼女に突き飛ばされたことで何を言われたのかも理解できなかった。
 が、やっと分かった。
 ------------ああ、やっぱ嫌われたな。
 結局、ノゾムは後悔した。
 何度も何度も後悔した。
 もう、目の前に彼女が居なかったことに気づいたのは、何度後悔した後だろうか。
 窓から空を覗いた。
 いやに綺麗な三日月だった------------

「……でも、喧嘩別れだけはごめんだッ!!」

 すぐさま、ノゾムはそのままの格好で家を飛び出した。

 ***

 午後、10時半。流石にもう暗い。夜道を身内以外には見えないクリーチャーの姿で彼女は歩いていた。

「何で、何で自分から居なくなろうとするの?」

 ふと呟いた。

『すまない、クレセント。今の私にはお前の抱擁を受ける資格は無い』
『お前が治ったら、お前を……ヒナタ先輩に譲渡することにした』

 涙が溢れてくる。

「私が大好きな人は、何でいっつも居なくなっちゃうの!!」

 恋人なのに、友達なのに。白陽とノゾムへ行き場の無い怒りをぶつける。

『……辛いでしょう、寂しいでしょう』

 ふと、声が聞こえた。
 同時に、凍りつくような囁きが聞こえたのは言うまでも無く。
 頬を、何かが掠めた。
 生ぬるい、何かが。
 舌だ。
 何かの舌が自分の頬を舐めたのだ。
 そして、振り向きざまに声の主の名を呼ぶ。

「アヴィオール……!!」
『そんなに怖い顔をしないで下さい。貴方の体も、直に僕に取り込まれる』

 すいーっ、とアヴィオールは近づいた。

『それとも、自分の体は恋人以外には捧げたくない、とでも言いたげですね』
「べっ、別におかしくないでしょ!」
『僕だって、貴方の汚れた体なんか要りません。僕が必要なのはその欲望。貴方の体はその器に過ぎないのです。用済みになったら即ポイですね』

 彼は鎌を取り出す。同時にクレセントも手をかざし、どこからともなく鉄槌を呼び込んだ。

「あたしは白陽のモノ……そしてノゾムのモノ! あんたにこの体も心も渡さない!!」
『今の貴方は孤独を怖がっている。そのような心ほど、闇に付け込まれやすいモノはありません」

 アヴィオールの声がリアル感を増した。どうやら、今目の前にいるのは本体らしい。

「うるさい、消えろッ!」

 鉄槌を振り下ろした。空気が抉れて真空波が巻き起こる。 
 が、所詮は空振り。勢いあまってそのまま壁に激突してしまう。幸い、ハンマーは壁には向いていなかったため、壁が壊れるようなことは無かった。
 しかし、ゴミ捨て場に突っ込む結果に。

「く、臭い……!」

 誰かが勝手に捨てた生ゴミが体に付いたのが分かった。ノゾムに貰って履いていたジャージにもそれが付く。

「その体を培養に、その魂を我が養分に、全て頂きますよ!!」

 鎌が振り下ろされた。しかし、鉄槌で辛うじて受け止めた。そして、アヴィオールを跳ね除けると、通路を出て広い道路へ出た。トラックに軽やかかな足さばきで飛び乗って、その場を脱する。
 
「あ、危なかった----------!」

 息を切らしながら声を吐き出す。
 ケホ、と喉の置くから咳が出たのが分かった。
 まだ、体は完治してはいないのだ。

「ノゾム……白陽……助けて……!!」

 ***

『何ィ、クレセントが出て行った!?』
「すいません、ヒナタ先輩!」

 ヒナタは舌打ちしたのがスマホの奥で分かった。夜風が冷え込む中、クレセントがどこに行ったのか、ノゾムは探していた。

『どの道、譲渡の話はナシだ、ナシ!』
「い、いや、でも」
『てめーの下らん意地でこれ以上あいつを傷つけてやるな! 白陽だって反省している! あいつには後でローリング土下座させて靴の裏舐めさせてから謝らせる! 何ならあいつを1発ぶん殴っても構わないんだぞ』
「ちょ、そこまでしなくても」
『それよか、白陽にクレセントの動きを追わせてみたんだが、どうやらアレだ! すっげー速さで移動しているらしい! んでもってそれを少し遅れて追う闇の気配! アヴィオールと見て間違いねえ!』

 今度こそノゾムは心底後悔した。
 自分があんなことを言ったばかりに、彼女はアヴィオールに追われるハメになってしまったのだから。

「オレは……デュエリスト失格だ……!!」

 そのとき、『この大馬鹿野郎!!』とヒナタの怒声が響いた。

『何度言わせるんだテメェ!! クレセントには白陽だけじゃねえ、お前も必要なんだよ!! 恋人とは違う、戦友として共に戦場に立つ仲間が必要なんだよ!! それを責任云々を理由に逃げてるんじゃねえぞ!! 胸を張れよ、クレセントの相棒はお前しかいねえんだぞ!!』

 ビリビリ、と彼の言葉が体全身に電気のように伝わった。

「オレしか……いない?」
『そうだ、運命だか何だか知らないが、そうなっちまったもんは最後の最後まで筋通すのが漢(オトコ)ってもんだろうがよ!!』

 まだ、分からない。自分に何故、そんな運命が課されたのか。
 だが、ノゾムは気づいた。
 今まで自分が逃げていたことに。やっと気づいた。
 そして、クレセントと真正面から向き合った今だからこそ言える。
 彼女の相棒で居たい。彼女の友達で居続けたい。
 だから、彼女を救いたい!!

「オレ、やります!!」
『オーケー。だけど、困ったことにお前の家からどんどんクレセントは遠ざかっている。何でだか全く分からないが、あいつにしたってここまでのスピードが裸足で走って出るかって話だ----------』

 ノゾムは再び不安になった。今、彼女はどんな状況なのだろうか。
 とても、心配だ。

Act4:怨炎・アヴィオール ( No.67 )
日時: 2014/11/30 15:44
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

「まずい、反応がどんどん遠ざかっていくぞヒナタ!」
「くそっ何があったんだ。落ち着け、まずはな……。誰かー!! 男の人を呼んでくれる人を呼んでー!!」
「まずお前が落ち着け、というか二度手間だ、つーかお前も男だろ」
「ジョークに決まってんだろ! さて、連れて行かれてる訳じゃなさそーだけどよ。そういえば、白陽。結局超技呪文ってなんなんだ」

 夜道を白陽の姿を追うように走るヒナタは彼に問うた。

「私も気づいたら、このカードを持っていた」

 白陽が1枚のカードを持っていた。

「だが、これは手に持っていただけで力が抜ける恐ろしい代物だ。使うなど、もってのほか。クレセントのようになるだろう。だから私も彼女にはあんなにも言っていたのに」
「だけど何で捨てなかったんだ?」

 痛いところを突かれたらしい。白陽はそれっきり黙っていた。
 ちぇ、けっちいな、とヒナタが言おうとしたそのときだった。
 
「反応が止まったぞ、ヒナタ!」
「なっ」
「行くぞ、ヒナタ! クレセントが危ない!」
「場所は?」
「えーっと……」
「まあお前が人間の世界の単位なんか分かるわけねぇもんな」

 せめて、半径50m圏内! とかそういう具体的な情報が無ければ、彼女の反応を追って直線状に向かっていく他無いのである。

「つーか急がないと!」
「いや、確かに急ぐことはできるが、それだとお前が追いつけなくなる可能性がある」
「くそっ、人間の足には限界あるしな……」

 ***

「くそっ、せめてあいつの居場所が解れば……!」

 ノゾムもたった今、同じことを考えていた。見れば、家の近くの路地は荒れていた。
 道路に穴が開いているあたり、クレセントが鉄槌を振るったあとと見て良い。ゴミ捨て場も滅茶苦茶になっていた。
 まず、急いで家から自転車を引っ張り出す。
 だが、彼女の居場所が解らない。
 そのときだった。

『ノゾム……来て』

 声が聞こえる。どこかしらから。
 そして一瞬で分かった。これはクレセントのものだと。

「何で、こいつの声が今……!」

 そして、何となく。何となくだが彼女の居る場所が分かった気がした。

「今、助けに行くぞ!!」

 自転車を猛スピードで走らせて、ノゾムは彼女の気配を追っていった------------

 ***

「らぁっ!!」

 鉄槌を再び振るう。しかし、鉄槌は空を切り、衝撃波を起こすのみ。霊力に包まれた相手に風など受け流されてしまうだけだ。

「遅いですねぇ。確かにパワーはありますが、大振りかつ隙が大きい。スピードはありますが、結局重い鉄槌に振り回されてしまっている」
「やかましいっ!」

 何度も鉄槌を振るってアヴィオールの体へ叩きつけようとするが、いずれも軽く避けられてしまった。
 クレセントの体調は万全ではない。重い体を無理矢理引きずっている状態だ。
 一方のアヴィオールは姿を消したり、鉄槌に比べれば軽い鎌を振り回して攻撃することができる。
 その差をクレセントは自らの馬鹿力で補っているようなものなのだ。

「だったら、これならどうよーっ!!」

 ぶんっ、と鉄槌を投げるクレセント。物凄いスピードで飛んでいくのが分かった。
 が、しかし。

「成るほど、振り回すのが苦ならば一か八かぶん投げれば良いと。脳筋の考えですねぇ------------」

 余裕の笑みを浮かべたアヴィオールの顔は-----------次の瞬間、へしゃげて胴体ごと吹っ飛んだ。
 ひらり、と鉄槌は確かに避けた。しかし、別のものが顔にめり込んでいたのだ。鉄槌に目を取られたのが間違いだった。
 それは、クレセントの鉄拳だった。

「ごふっ……!!」

 数m程吹っ飛んだだろうか。彼は起き上がって何が起こったのかを整理--------する間もなく。しなやかな脚が自分の体を再び捉えたのが解った。「げぼぇっ」と腹から声が絞り出される。
 そして、空中に打ち上げられていった。

「鉄槌がダメなら、拳で決めるまでよ」

 クレセントは勝ち誇ったようにそういった。アヴィオールが鉄槌に視線を背けたその一瞬で、距離を詰め鉄拳、そして続けて蹴りを入れたのだ。
 アヴィオールは空中に留まり、しばらく頭をもたれていた。

「がふっ、ごほっ、ごげばぁっ」

 咳き込む。今ので体の骨が当然ながら何本か持ってかれたらしかった。
 ゴキゴキ、と骨そのものの頭を元の位置に戻すと息も絶え絶えに言ったの。

「うぐ、げはぁっ……おえっ、まさか此処までとは……!」

 骨の口から黒い血が溢れ出てきた。ハエが集っているのが分かる。とっくの昔に体内の血など腐ってしまっていた。

「パワーではあたしに勝てない。あんた自分で分かってるでしょ」
「鉄槌の重さがどれほどのものか、考えたくも無いですねェ、おげぇ、はぁはぁ、ですが所詮はその程度。確かに体内の組織はやられましたが、元から死んでいる私からすれば、後で幾らでも直せば良い事。ただ、溜まっていた汚血が少々吹き出たようです」
「うるさい。あんたは殺す、いえ再生できないくらいまでに叩き潰す。白陽やヒナタ、そしてノゾムにこんなところ見られたら絶対嫌われるけど、仮にもあたしは武神。返り血を浴びるのには慣れてるから」

 手をかざすと、さっき投げた鉄槌が手に戻ってきた。ぺろり、と鉄槌の面を軽く舐めた。
 血の臭いがする。今まで、何体ものクリーチャーを殺してきた鉄槌だからだ。

「でも、今のは流石に2度も使えないね、ケホ。次で終わらせる----------」

 そういって、足を踏み出した。喉が苦しい。体がだるい。早く終わらせねば。
 
「貴方、ちょっと……調子に乗ってませんかね」
「何さ、息も絶え絶えに。今楽にしてあげる♪」

 クレセントは無理に満面の笑顔を浮かべて跳んだ。凍りつくような笑みだ。彼女はクリーチャー。敵を殺すことに対する良心のタガなど無いのだ。だが、嬲り殺す趣味は無い。一瞬で楽にしてやるのがポリシー。
 ノゾムがもう来るまでもないだろう。どうやら敵を買いかぶっていたらしい。鉄槌を思いっきり振りかぶり、その体全体を抉りとらんと振り下ろした。
 
 ガキィン

 弾いた。何かが。鉄槌は---------信じられないことにアヴィオールの手で受け止められている。

「まーだ気づいていなかったんですか? 私は既に必要なエネルギーは溜めきっていたのですよ」

 でも--------とアヴィオールは続けた。

「もう容赦はしませんよ」
「---------この、力は」

 クレセントは一度鉄槌を払い、距離をとった。

「僕はもう、《死英雄 竜骨のアヴィオール》ではない」

 ビキビキ、とアヴィオールの全身から音が鳴る。そして、体を覆っていた骨が全て砕け散ったかと思えば、再びその組織が再構成される。
 その姿は変化する前(正確に言えばクレセントがフルボッコにする前)とはあまり変わっていない。
 しかし、身に纏っていたローブは白い鎧となり、黒い骨を浮き立たせている。手にはさらに何倍もの大きさの鎌が。
 骨は刃となっており、より禍々しさを残していた。
 
「我が真の名は《怨炎の龍骨星 アルゴ・アヴィオール》……! これが星の力を最大限に取り込んだ真の姿ですよ!!」

Act4:怨炎・アヴィオール ( No.68 )
日時: 2014/11/24 20:37
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sPkhB5U0)

 叫んだアヴィオールの全身からは骨の刃が飛び出した。正に全身凶器。抱きつかれただけで死にそうだ。流石にこれではクレセントも近づけない。
 それだけでなく、奴には鎌もある。ぶんぶん、とそれを振り回してくるので、回避に回るしかない。
 トラック会社の屋根の上に飛び乗って一度距離を取るが、敵もどんどん迫ってきた。

「ほらほらほらぁっ!! どうしたんですかぁーっ!? さっきまでの勢いはぁぁぁ!!」
「っこんなのアリィ!?」

 とっとと殺っておくべきだと思ったが、後悔先立たず。
 つぅーっ、と鼻の先を鎌の刃が掠めた。
 冷たい感覚が体全体を襲う。
 ぷつん、と音を立てて血が垂れたのが、はっきりと嫌なほど解った。

「良いですねェーッ!! 滾ってきましたよォ!! 体全身が生きていた頃と同じように暖かく燃えている、ははははは!!」

 三日月を背にしてアヴィオールは勝ち誇ったように笑った。
 私の勝利だ。ついでに、あの邪魔な狐も殺してしまおう、と。

「死になさァァァーッい!!」

 鎌をクレセントの方に振り下ろす----------しかし。
 鎌は振り下ろして数10cmのところで動かない。
 クレセントは刃を片手で受け止めていた。
 ビキビキ、と音を立てる鎌。みちみち、と音を立てて血を流す右手。
 慄くアヴィオール。
 気張るクレセント。

「あたしはこんなところじゃ、まだ死ねない……!! あたしはまだ死ぬわけには行かない!!」

 バキィッ、と音を立てて鎌の刃が完全に砕け散った。

「な、何て馬鹿力だ……、ここまでとは----------!!」


「クレセント、ここにいるのかーっ!!」

 声がした。
 クレセントが見た方向にはノゾムの姿が。少し、意地悪げに彼女は言ってやった。

「今更何しに来たのよ」
「オレはもう、二度とお前を手放すなんて言わない、オレの相棒はお前しかいねえんだ、クレセント!!」
「ノゾム……」

 何かこそばゆいような、そんな感覚が彼女に走った。
 かああ、と頬を赤くすると吐き捨てるように言う。
 
「馬鹿、最初っからそう言えばいいのに!」

 ぴょい、とノゾムの元に飛び降りて、アヴィオールと向き合う。

「どうして此処が分かったの?」
「何となく、だ。お前がオレを呼ぶ声が聞こえたんだ」
「や、やだっ、恥ずかしい」
「うっせぇやい。だけど、これで奴を決闘空間に引き込めるぜ」

 アヴィオールは再び魔力で新しい鎌を生み出すと、ノゾムの方へ飛び降りた。
 くくく、と不気味な笑みを浮かべながら。

「どうもどうも、これはこれは。先ほどはよくもやってくれましたね」
「強いオーラ……てめぇが本体か」

 怒りに満ちた瞳でノゾムは返した。

「その通り。ようやく本来の姿を取り戻したといったところです。ゾンビのままであることには変わりないですが」
「なら、今度こそ思う存分テメェをぶちのめせる訳だな」

 ギリッ、と歯を食いしばって彼はアヴィオールを睨み付ける。

「御託は要らねえ、とっとと始めるぞ! 決闘空間開放!」

 ノゾムのデッキケースから黒い霧が溢れ出て辺りを包み込んだ----------


 ***

「僕のターン、《ブラッディ・メアリー》召喚」

 ブロッカーを出して場を整えるアヴィオール。現在、3ターン目先攻・アヴィオール。
 シールドはまだ共に5枚だった。

「オレのターン! 《アクア少年 ジャバ・キッド》召喚! 効果で山札の一番上を見て、それがリキッド・ピープルならば手札に加える!」

 山札の一番上のカードは《龍覇 M・A・S》。即、手札に加えた。

「ターン終了だぜ!」

 ほほーう、とアヴィオールは顎に手を当てて呟いた。
 しかし、直後。

「さあ、そろそろ行きましょうか。まず、《ボーン踊り・チャージャー》でマナを加速しつつ、山札から2枚を墓地へ」

 ターン終了です、と言って彼はターンを終えた。未だ動きを見せないところが余計に不気味だ。

「オレのターン。ここは《アクア・ハルカス》を出してカードを1枚引き、ターン終了だ!」
「では、僕のターン。5マナで《超次元 リバイブ・ホール》を使います。そして墓地から《怨炎の骸骨星 アルゴ・アヴィオール》を手札に加えますよ」

 さらに、それだけではない。超次元呪文が詠唱されたことによって、超次元への門が開いた。
 現れたのは蒼き龍だった。

「《勝利のリュウセイ・カイザー》召喚! 効果で相手はマナゾーンにカードを置く時、タップして置かなければいけませんよ、ククク」
「くっ……!」
「ターンエンドです」

 まずい、テンポアドバンテージを取られたことで1歩遅れて動くことになってしまう。
 マナゾーンのカードをタップして置かなければいけない。これはかなりの痛手だ。

「くっ、オレのターン! 仕方ねえ、ターン終了だ」
「どうですかぁ、身動きが取れない気分は。それでは僕のターン。《勝利のリュウセイ・カイザー》でシールドをW・ブレイク!」

 龍の炎によってシールドが2枚、吹き飛んだ。
 その破片がノゾムに突き刺さる。

「くっ、今ので来たぜ……! オレのターン、《アクア隠密 アサシングリード》召喚! 効果で、《勝利のリュウセイ・カイザー》を超次元ゾーンへ逆戻しだ!」

 《アサシングリード》の科学暗殺法により、《リュウセイ・カイザー》の体は一瞬で超次元ゾーンの彼方へ飛ばされていった。
 さらに。

「《ジャバ・キッド》でシールドブレイク!」
「くっ、通します」
「《アクア・ハルカス》でシールドブレイク!」
「ブロック、《ブラッディ・メアリー》でブロックしますよ!」

 女の人形は《アクア・ハルカス》の放った斬撃を受け止めるが、爆発。しかし、直後に首が飛んで行き、《アクア・ハルカス》の首を食いちぎったのだった。
 
「効果でバトルに勝っても《ブラッディ・メアリー》は破壊されます」

 何とか、ブロッカーもサイキックも削れた、と一息ついたノゾム。
 しかし、現実はそう甘くは無かった。既にアヴィオールは準備を整えていた。
 ノゾムの息の根を止める準備を。

「僕のターン、7マナで僕の分身・《怨炎の骸骨星 アルゴ・アヴィオール》を出します」
「何だ? あれが奴の真の姿か」
「当たらずとも遠からず、でしょうか」

 はぁ? とクレセントは抗議した。

「ちょっと、さっきそれが真の姿だって言ったじゃない」
「実際には、もう一段階あるのですよ----------クカカカ、まず僕の効果により、超次元ゾーンより”コスト5以下のステラアームド・クリーチャー”を呼び出します」

 次の瞬間、再び超次元への門が現れた。
 そして、影を纏った龍のようなクリーチャーが中から飛び出してきた。

「我が使い魔、《悪夢喰種 アルゴリズム》をバトルゾーンに!」
「な、何だそりゃ!?」

 驚きを隠せないノゾム。それもそのはず、いきなり全く新しいタイプのクリーチャーがバトルゾーンに現れてしまったからだ。
 さらに。

「《悪夢喰種 アルゴリズム》の効果発動。このクリーチャーがいる限り、相手のクリーチャー全員のパワーを-2000します」
「げっ!?」

 毒の霧が《アルゴリズム》の口から放たれる。その毒気にやられたのか、《ジャバ・キッド》と《アサシングリード》が一瞬で倒れて破壊された。
 パワーが0になったクリーチャーは破壊されるしかないのだ。

「さらに、ターンの終わりに2体以上のクリーチャーが破壊されていた場合、《アルゴリズム》の真の効果が発動します!」

 アヴィオールの骸の奥の赤い瞳がぎらついた。そして、《アルゴリズム》の体から無数の触手が伸びて、アヴィオールを包み込む。

「星の力を身に纏い、今、此処に現れん!」

 まるで新たなる鎧のように。
 そして、アヴィオールの体が霧に包まれた。
 目の前から忽然と姿を消してしまう。
 逃げたのかと思った。
 いや、違う。この気配は確かに近くにいる、とノゾムは確信する。

「アハハハァーッ!!」

 刹那、轟音が轟き、背後から何かが飛んできた。身をかがめる。そして、通り過ぎ去ったほうを見れば、そこには禍々しい姿をした”何か”がいた。
 骨のみの翼が背中から生えており、さらに醜く変形した骸骨。
 そして、全体的にフォルムはさらに龍へ近くなっていた。そして、全身から黒い触手が伸びている。
 ノゾムは確信した。これがアヴィオールの真の姿だと。

「---------星芒武装、完了」

 おぞましい姿を見せながら、彼は続けた。
 
「さあ、最後の晩餐の準備は整いました。覚悟は良いですか-----------?」

Act5:武装・星の力 ( No.69 )
日時: 2015/06/07 17:58
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

「な、何だこれはぁー!?」

 いきなり姿を変えたアヴィオールを前に、ノゾムは驚いて声が出てしまった。星芒武装にステラアームド・クリーチャー。
 聞いたことも無い単語が頭の中を駆け巡る。



悪夢喰種ドリームイーター アルゴリズム 闇文明(5)
ステラアームド・クリーチャー:ファンキー・ナイトメア
K(カノープス)・コア
星芒武装:自分のターンに相手のクリーチャーを2体破壊しており、「アヴィオール」とあるクリーチャーがバトルゾーンに居る場合、このカードを裏返し、そのクリーチャーに重ねる。
相手のクリーチャーのパワーは-2000される。
自分のK・コアを持つクリーチャーは相手の呪文、クリーチャーの効果で選ばれない。



 ノゾムはもはや、声も出なかった。恐怖が襲い掛かる。またあの感覚だ。

「《アルゴリズム》の”星芒武装”……それは《アルゴリズム》が”鎧”となってこの私の体に纏われることにより、更なる進化を私の体に促すのです!」

 カードが2枚、アヴィオールのバトルゾーンに重なっているのが見える。

「これにより、私は最終形態のスターダスト・クリーチャー、《悪夢骸骨(ダーティ・アルゴリズム) アヴィオール・ゼノン》となることができました」

 -----------悪夢骸骨、アヴィオール・ゼノン!?
 これが奴の本来の姿、いやそれをさらに星の鎧で強化した姿と言ったところか。
 しかし何度見ても禍々しい姿である。
 死神というデュエマではありふれた言葉が此処までしっくりくるクリーチャーもそうそういないだろう。

「効果により、まず貴方の手札を拝見させていただきます」

 くるり、とノゾムの手札が裏返る。
 げっ、と顔を真っ青にした彼の表情も気にせず、アヴィオールはさらに巨大化した鎌で手札から何枚かを叩き落とした。

「やはり、持っていましたか、《アクア・ジーニアス》。ですが、僕の能力は相手の手札を見て、そこから好きなカードだけを落とせるというもの。マッドネスは踏みません」
「くそっ、何つー能力だ……!」

 《M・A・S》、《ブレイン・チャージャー》など必要なカードがすべて墓地へ。それでもまだ、クレセントが手札に居なかったのは幸運だろう。

「ターン終了」

 ごくり、と唾を飲んだ。
 カードを引く。そして、そのカードを見て口角が上がった。
 -----------やっぱオレはツイてるぜ!!

「呪文、《エナジー・ライト》でカードを2枚引くぜ!」
「ち、折角消し飛ばした手札が。流石水文明の使い手ですね」
「さらに、《ジャバ・キッド》を召喚! 効果で山札の上を捲ってそれがリキッド・ピープルならば手札に加えられる! 《クリスタル・ブレイダー》を手札に!」

 一度、ターンを終える。手札はこれで十分だ。しかし。相手だって馬鹿ではない。
 と、そのときだった。《ジャバ・キッド》の体が砕け散る。

「すみませんねぇ。僕の効果で永続的に相手のクリーチャー全員のパワーを-4000されるのですよ」

 とんでもない効果である。
 手札を消しにかかるだろうか、それとも-----------

「僕のターン。《超次元 ミカド・ホール》で《時空の封殺 ディアスZ》をバトルゾーンに!」



時空の封殺ディアスZ(ゼータ) SR(SSR) 闇文明 (8)
サイキック・クリーチャー:デーモン・コマンド/ドラゴン・ゾンビ 7000
E・ソウル
殲滅返霊4(このクリーチャーが攻撃する時、自分または相手の墓地からカードを4枚選んでもよい。あるいは両方の墓地からカードを4枚ずつ選んでもよい。選んだカードを好きな順序で持ち主の山札の一番下に置く。こうして選んだカード4枚につきこのクリーチャーの返霊能力を使う)
返霊−相手は、バトルゾーンまたは手札から自身のカードを1枚選び、山札の一番下に置く。
W・ブレイカー
覚醒−自分のターンの終わりに、そのターン、相手のクリーチャーが3体以上バトルゾーンを離れていた場合、このクリーチャーをコストの大きい方に裏返す。



 現れたのは、闇文明軍の総大将。龍と融合した悪魔だった。超次元のその先へ干渉したことにより、凶悪な力を手に入れたのである。

「では、攻撃させていただきますよ! 僕でシールドをT・ブレイク!!」

 アヴィオールの鎌から衝撃波が放たれてノゾムのシールドを3枚、叩き割る。

「ターン終了ですよ」

 まずい。《ディアスZ》の殲滅返霊が発動すれば、ノゾムの手札かバトルゾーンから最大で3枚が山札の一番下へ送られてしまう。
 
「オレのターン-----------」

 引けるのか? と自分に疑問を抱いた。
 ここで、この状況を一気にひっくり返せるような切り札は持っていない。
 だが、こんな修羅場はデュエマを続けていて何度もあった。 
 逃げてはいけない。
 もう、十六夜ノゾムは逃げない。
 カードを引いた。自分の右手には、クレセントのカードがあった。

「ノゾム、来たよ」

 彼女の笑顔がカードから伝わった。

「ノゾム……あたしさ、小さい頃からずっとがんじがらめの生活で、友達なんかいなかったんだ。時々部屋を抜け出して白陽と会っていたくらい」

 彼女は続けた。

「あたしはもっと友達がほしかった……、この星で1人は寂しかった……! ノゾムは……いっぱい優しくしてくれた。白陽と同じようにあたしを受け入れてくれたから」
「もう良い、クレセント」

 ノゾムは彼女の言葉を絶つ。


「オレはお前の友達だ。もう一回言う。あんなことは二度と言わねぇ」


 うん、と彼女は頷いた。

「だったらあたしも全力で友達を守る!!」

 カッ、とクレセントのカードが光った。今宵は三日月。決闘空間には無いはずのその光が差し込む。
 三日月の紋章がノゾムの額に浮かんだ。
 同時に、クレセントのカードも激しく輝き、もう1つの光が超次元ゾーンへ飛んだ。

「これは……!」
「ノゾム、あたしを召喚して!」

 こくり、と頷き、マナを7枚タップした。そして相棒をバトルゾーンへ繰り出す。
 投げたそのカードは、眩い光を放って次の瞬間にはクリーチャーへと変化していた。
 それは兎の獣人であることには変わりなかったが、装甲は全身についており、さらに羽のような巨大なパーツが背中についており、空中に浮いていた。
 そして、ルビーのようだった瞳は黄金に光り輝いていた。
 
「《上弦の玉兎星 クレセント・ニハル》召喚!」
 
 鉄槌が空中から現れ、彼女の手に。

「どういうことだ……僕があれほど苦労して手に入れた能力が、こんな連中にあっさりと……!」
「所詮、てめぇが集めていた多くの欲望だの負のエネルギーはオレ達たった2人だけの”絆”の力にすら敵わなかったってことだ。超次元ゾーンより、碧き鎧、《月影機構 ルーン・ツールS(ストライク)》を召喚する!」

 現れたのは、不恰好な姿をしたロボットのようなクリーチャーだった。
 しかし、ライトのように不気味に光る目玉が突如、赤いレーザーを発し、アヴィオールの手札を焼いた。

「お返しだ。こいつの効果で、お前の手札を1枚、山札の一番下に送らせてもらったぜ」
「お、おのれ……!」
「オレの手札の枚数がお前の手札の枚数を上回っている時、条件を満たしているため、星芒武装発動!!」

 《ルーン・ツールS》の体がばらばらになって空中に浮いた。それがクレセントの体に鎧となって纏われる。パーツはさらに大きく変形していく。
 そして、その姿は巨大な龍となった。
 まるで、ロボットのような人型の龍だ。例えるならば、《Q.E.D.+》などに近いところだが、兎のような耳のパーツがついており、さらに右手には鉄槌が握られていた。しかも、それも更に巨大なものとなっている。原型の影響か、若干スマートにも見える。
 胸と額のパーツには三日月のコアが刻まれていた。

「その鉄槌で悪を砕け。正義を胸に今、ここに武装完了!!」

 そして、その切り札の名を叫んだ。


「《循環月影エンドレス・ルーン クレセント・ベクトル》!」

Act5:武装・星の力 ( No.70 )
日時: 2015/07/18 17:46
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 機械仕掛けの巨龍は咆哮した。まるで、目の前の邪悪を吹き飛ばすかのように。
 
『このまま叩き潰すよ、ノゾム!』
「よし、出力超全開、撃ち方始め! こいつの登場時効果で相手のバトルゾーンのクリーチャーをすべて、持ち主の手札に戻す!!」
『オーケー、全弾発射ァーッ!!』

 体中の砲台が開き、アヴィオールのバトルゾーンへ向いた。そして、大量の水の塊が物凄い水圧で《ディアスZ》と《アヴィオール・ゼノン》を超次元ゾーンへ押し流していく。

「ば、バカな……! くっ、武装解除により《アルゴ・アヴィオール》はバトルゾーンに留まりますよ!」
「へへっ、どんなもんだ!」

 元の姿へ戻ったアヴィオールは息を切らしていた。どうやら、とてつもない負担が体に掛かっているようだった。

「私のターン……! 7マナを払い、《デビル・ハンド》で《クレセント・ベクトル》を破壊!」
「確かに破壊は免れないが---------ここで《クレセント・ベクトル》の能力発動!」

 ノゾムが高らかに叫んだ。

「《クレセント・ベクトル》がいると、呪文が唱えられたとき、手札からこっちも多色ではない水の呪文を唱えることができるんだよっ!」

 クレセントが言った。ノゾムも後に続く。

「つーわけで《龍素解析》を使って、手札を山札に戻してシャッフルした後、山札から4枚を引かせてもらう!」



循環月影エンドレス・ルーン クレセント・ベクトル 水文明 (12)
スターダスト・クリーチャー:ムーン・コマンド・ドラゴン 11000
L(レプス)・コア
W・ブレイカー
このクリーチャーの武装が成功したとき、相手のクリーチャーを全て持ち主の手札に戻す。
相手が自分のターンに呪文を唱えたとき、多色ではない水の呪文を自分の手札から唱えても良い。この効果は相手の呪文の効果が使われる前に発動する。
武装解除--このクリーチャーがバトルゾーンを離れたとき、このカードのみを超次元ゾーンに戻す。




龍素解析(ドラグメント・アンサー) R 水文明 (7)
呪文
自分の手札をすべて山札に加えてシャッフルし、カードを4枚引く。その後、コスト7以下の進化ではないコマンド・ドラゴンを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。



 その中から結晶の龍が現れた。《龍素解析》の効果で、コスト7以下のコマンド・ドラゴンをバトルゾーンに出すことができるのだ。

「《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を召喚!」
「し、しまった、それは---------!!」

 アヴィオールは絶叫した。再び、墓地に落ちていた《龍素解析》が発動する。
 《スペルサイクリカ》は失った知識を取り戻す力を持つのだ。



龍素記号Sr(エスアール) スペルサイクリカ SR 水文明 (7)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト7以下の呪文を1枚、自分の墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。そうした場合、唱えた後、墓地に置くかわりに自分の手札に加える。
W・ブレイカー
このクリーチャーが破壊される時、墓地に置くかわりに自分の山札の一番下に置く。




「効果でもう1回《龍素解析》を使う! んでもって、もう1回カードを4枚引き、今度は《術英雄 チュレンテンホウ》を出すぜ!」



術英雄 チュレンテンホウ SR 水文明 (6)
クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン 7000
相手のクリーチャーが自分を攻撃する時、「S・トリガー」を持つ呪文を1枚、自分の手札からコストを支払わずに唱えてもよい。
マナ武装 7:自分の手札から呪文を唱えた時、自分のマナゾーンに水のカードが7枚以上あれば、その呪文を墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。
W・ブレイカー



 現れたのは龍脈術によって誕生した英雄、《チュレンテンホウ》。クリーチャーを消すつもりが、逆に増やしてしまったことに憤りをアヴィオールは感じた。
 さらに、破壊した《クレセント・ベクトル》も武装解除で下にあった《クレセント・ニハル》がバトルゾーンに残ってしまった。

「ば、バカな、この僕が----------!!」

 愕然として手札にあった《デッドリー・ラブ》を使うことも忘れたアヴィオールは項垂れてそのままターンを終える。

「策士策に溺れるって奴だな。オレのターンだぜ」

 ぐっ、と自分の拳を握り締め、ノゾムは呟いた。


「ヒーロータイムの幕開けだ」


 にぃっ、と口角を上げた彼は、次々にカードをタップする。

「行くぜ、《スペルサイクリカ》でシールドをW・ブレイク!」
「くっ、トリガー無し……!」

 続けて、《チュレンテンホウ》が咆哮をあげてビームを射出し、シールドを叩き割った。トリガーはない。シールドもゼロ。

「あ、あああ、ああ……!!」

 言葉にならない声を上げるアヴィオール。しかし、ヒーローは目の前の”悪役”に対して容赦が無い。
 爽やか過ぎて逆にゾッとするほどの笑みを浮かべ、ノゾムは言い放った。

「覚悟はできてんだろーな、てめー♪」
「あ、は、あひぃ……!」
「《クレセント・ニハル》でダイレクトアタック!!」

 容赦の無い粛清だった。
 クレセントの持った鉄槌は、再び目の前の骸骨龍の頭をガオン、と抉ったのだった。



 ***


「おのれ、またしても……!」

 アヴィオールは息も絶え絶えに言った。

「今度会ったときは、げぶほぁっ……やべ、肋骨が全部折れた」
「おい、大丈夫か?」

 よくよく考えれば、アヴィオールは魂をこの星の邪気で汚染されているだけ。
 こんな本気でフルボッコにして仲間になりませんでした、とかないよね、とノゾムは心配になった。

「とにかく……!! 僕の体内には取り込まれた人間がいるのですよ、お忘れなく」
「あ」
「くそっ、また人間の欲望を探さなければ!」

 鎌で空間を切り、その中に入るアヴィオール。ノゾムは後を追おうとしたが、シールドの破片が突き刺さっていた肩から血が噴き出す。
 ハーシェルに掛かれば一瞬で治るらしいので、どうにか隠し通して明日ホタルの元に立ち寄るのが良いだろう。

「のぞむ、大丈夫?」
「お前だってボロボロじゃねえか」
「うっ……」

 彼女は自分の体を見て苦笑いを浮かべた。

「……マジで悪かったな、クレセント」
「白陽と一緒にいたい気持ちもある。だけどさ、あたしはノゾムと会えなくなるのも嫌なの」
「悪かった、本当」
「でも最近、白陽とあんまり2人っきりになってなかったかも。今度デートのついでにウフフ--------」

 とクレセントが頬を赤く染めて言いかけたそのときだった。声が聞こえる。その方を見れば、ボロでアヒルがペダルの先に付いた子供用の自転車に乗ってやってくるヒナタと白陽の姿が。
 浮いてやってくる白陽に、ヒナタは必死で追いついていた。

「はぁ、はぁ、廃材置き場にあったこれで何とか追いつけたから良かったものを」
「先輩、その光景めっちゃシュールっす」
「るっせ、俺だってこの年になってこんなのに乗ることになるとは思わなかったよ!」

 ゴム製のアヒルがぴょこーん、とハンドル正面から外れて跳ねる。その光景を見て、思わずノゾムは吹いた。
 すると、白陽の視線を感じた。
 
「……十六夜ノゾム」

 熱を帯びた視線だった。

「何だ、また文句があんのか?」

 言い返すノゾム。しかし、そのときだった。
 白陽はがっ、と地面に手と頭をつけ、吐き出すように言った。2mの巨体の彼が小さく見えた。


「本当にっ、すまなかった!!」


 土下座したまま、彼は続けた。

「今回の件で、私は自分のことがどうしようもなく自分勝手で最低なヤツだと気付いた。お前に嫉妬していたんだ。お前が気に食わなかったんだ。それで傷まで負わせた。だが、そんなのは私の勝手な当て付けだ。貴様は悪くない」
「……ツラ上げろ、白陽」

 その声で顔を恐る恐る上げる白陽にノゾムは言った。

「ヒナタ先輩はてめぇに1発殴っても良いって言ったが、そんなんじゃ、どっかの自分勝手でサイテーなヤツとやってること同じだもんな」
「……ッ」
「痛かったんだぞ、これ」

 ノゾムは自分の手の傷跡を見た。かなり深い牙の痕。もう、二度と消えないだろう。

「後からとってつけたような侘びなんか、オレは要らねーよ。ただ-------」

 
 バキッ


 思いっきり、今拳が届く位置にある白陽の顔をノゾムは殴った。不意を突かれたのか、彼の体が傾く。

「これでオレも、自分勝手で最低なヤツ。お互い様ってことで良いだろ」

 ふーっ、と自分の拳に息をかけるノゾム。
 頬を押さえた白陽も起き上がり、言った。

「……ありがとう……私を殴ってくれて」
「けっ、殴られたことにも礼を言うのかよ。それに謝るならクレセントにも、だろ。自分のことで争われて、あいつも傷ついただろ」
「……いや、あたしは良いんだよ? 2人が仲直りしてくれたら、それで……」

 彼女も何が起こったのかは、大体察しが着いた。

「クレセント、我慢すんな。言いたいこと、この際言ったらどうだ」

 ヒナタが背中を押すように、彼女に言いかける。
 しばらく押し黙っていたが、こくり、と頷くと彼女は言葉を紡いだ。

「ねえ、白陽。あたしのこと想ってくれるのは嬉しいよ……でも、だからってノゾムとか、皆を蔑ろにしちゃ、ダメだと思うの」
「……すまない。だが、私は心配なんだ。もう、お前を危険な目に、辛い目に遭わせたく無いんだよ」
「大丈夫だよ、白陽」

 にこり、と彼女は微笑みかけた。

「ヒナタとノゾムなら、あたし達をもっと良い方向に導いてくれるから」
「つーわけだ。もう良いんだよ、白陽。正直てめーはムカついたけど、今回の件でオレとクレセントの関係も見つめなおせたしな」
「そうか。それで、私の力を使えばその傷も外からは見えないようにできるが」
「いや、このままで良い。もうあいつを二度と辛い目には遭わせないよう、戒めとして取っておく」

 ノゾムは言った。

「オレもあいつを預かる立場である以上、もう辛い目には遭わせねえよ。心配かけて悪かったな」
「……いや、私も改めていう。すまなかった」

 2人が謝ったのを見て、ヒナタはため息をついた。クレセントも胸を撫で下ろす。

「男っつーのは俺も含めてバカな生き物だからなー。たまには喧嘩もするし、かと思えばすぐに仲良くなってやがらぁ。ま、一件落着つーことで」

 ヒナタは空を見上げると、感心したように言った。さっきからやけに明るいとは思っていたが、この所為だったと気付く。


「おっ、きれーな三日月じゃねえか」


 にっ、と笑い彼は帰ろうと振り返った。
 ----------その瞬間、元々ボロだった自転車は寿命がきたのか、バキッ、と音を立てて崩れた。

「これ、俺どうやって帰るの?」


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