二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル) ( No.126 )
日時: 2015/07/14 21:55
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

超絶奇跡(グレイト・ミラクル) 鬼羅丸  ≡V≡  無色 (12)
クリーチャー:ヒューマノイド/ハンター/エイリアン/ゼニス 17000
このクリーチャーを召喚してバトルゾーンに出した時、相手と3回ガチンコ・ジャッジする。クリーチャーを見せて自分が勝つたび、そのクリーチャーを山札の一番下に置くかわりにバトルゾーンに出す。呪文を見せて自分が勝つたび、その呪文を山札の一番下に置くかわりにコストを支払わずに唱える。
バトルゾーンにある自分のクリーチャーはすべて「スピードアタッカー」を得る。
T・ブレイカー
エターナル・Ω


 現れたのは、鬼丸と修羅丸、2つの力が合わさった存在、《鬼羅丸》だった。
 その力はまさに逆転と奇跡を呼び、どんな劣勢でも引っ繰り返す力を持つのだ。

「こいつの効果で、相手と3回ガチンコジャッジを行う!!」
「あ、有り得ない---------!! なんつーデッキだ!!」
「俺様のデッキの半分はゼニスで占められている。しかも《ゼニス・スクラッチ》4枚積みだ。お前がコレに勝てる確率は単純に考えても2分の1未満!!」
「くそ、そこまで見通しているか!!」

 テツヤのデッキの殆どは、コスト6のカード。残りは、《フェアリー・ライフ》と《フェアリー・ギフト》しかないのだ。

「ガチンコ・ジャッジ三連発!!」

 
 ---------一度目、フジは2体目の《「武」の頂 マキシマム・ザ・マックス》、テツヤは《アクア・サーファー》でフジの勝利。
 ---------二度目、フジは《「祝」の頂 ウェディング》、テツヤは《フェアリー・ギフト》でフジの勝利。
 ---------三度目、フジは《天頂秘伝 ゼニス・レクイエム》、テツヤは《メタルアベンジャー》。
 つまり、フジの全勝だ。


「そして、《鬼羅丸》の効果発動!! ガチンコ・ジャッジで捲った《マキシマム・ザ・マックス》に《ウェディング》を出すぜ!! そして、《ゼニス・レクイエム》を《ウェディング》に使用する!!」


「祝(いわい)」の頂 ウェディング SR 無色 (11)
クリーチャー:アンノウン/ゼニス 13000
このクリーチャーを召喚してバトルゾーンに出した時、相手はバトルゾーンの自分のクリーチャーまたは自身の手札から合計4枚を選び、新しいシールドとして裏向きにし、自身のシールドゾーンに加える。
このクリーチャーがシールドをブレイクする時、相手はそのシールドを自身の手札に加えるかわりに墓地に置く。
T・ブレイカー
エターナル・Ω


天頂秘伝ゼニス・レクイエム 秘 無色 (12)
呪文
アタック・チャンス−ゼニス
このターン、バトルゾーンにある自分のクリーチャー1体のパワーは+50000され、「ワールド・ブレイカー」を得、「このクリーチャーがバトルに勝った時、このクリーチャーをアンタップしてもよい」を得る。(「ワールド・ブレイカー」を得たクリーチャーは、相手のシールドをすべてブレイクする) 


 《ゼニス・レクイエム》の効果により、ウェディングのパワーは+5万され、さらにバトルに勝てばアンタップし、ワールドブレイカーを得る。
 まさに、《マキシマム・ザ・マックス》が編み出したとみて間違いない秘伝呪文だ。
 そして、《ウェディング》は《鬼羅丸》の効果でスピードアタッカーになっており、更に元々ブレイクしたシールドを直接墓地に送る効果を持っている。
 つまり------------

「てめぇがS・トリガーで逆転する可能性は0だ!!」
「んな、馬鹿なっ……!!」

 刹那、テツヤのシールドが全て墓地へ置かれた。
 《ウェディング》の効果だ。
 最早、逆転の手立ては無い。
 高らかにフジは宣言した。


「《「武」の頂 マキシマム・ザ・マックス》でダイレクトアタック!!」 


 ***


 こうして、2人の対決はフジの勝利に終わった-----------と思われた。

「ふ、ふふふ……まだだ、フジ……俺にはイメンループとシューゲイザーと切札のラララオプティマスフォーミュラエクストラウィンがあるんだ、てめぇを無限ループの恐ろしさに引きずり込んで-----------」
「おいいいい、誰かこいつを引きずり出せぇぇぇ!!」

 テツヤのコンボの被害にあったことがあるであろう、恐怖した生徒の1人が叫んだ。そんなものを大勢の観客がいる前で使われたら、全員がドン引き間違いないだろう。
 彼の諦めと性格の悪さも大概であるが----------

「受けて立とう」
「フジ先輩ぃぃぃーっ!?」

 こいつもである。
 流石に、まずいと感じたのか。放送がかかった。

『あー、会場の皆様……ド畜生共が再びやばいデュエルをおっぱじめそうですので、今日の公開試合は此処までとさせていただきます』


 ***


 文化祭は終わりを告げた。フジとテツヤはあの後、ずっとデュエマをしていたんだとか。
 アイドル喫茶が盛り上がったり、ド畜生2人のデュエマで危うく観客全員がドン引きしそうになったりしたが、まあそれ以外は何の問題も無く告げた。
 ニャンクスの方はアイドル(的なもの)を1日だけでもやれて、大満足の様子であった。
 これで全て解決と、思われたが、問題はその後に起こった。あの後、ヒナタとレンとコトハの3人組は他愛の無い話をしていたが、そこにホタルに引っ張られる形でノゾムがやってきたのである。

「ん? 遅かったな?」
「い、いや、ホタルが最後、先輩達に挨拶してから帰ろうって言うから」

 はぁ、気を使わなくていいのに、とヒナタは言いかけた。
 だが、その直前にあることに気付いた。

「あれ? ノゾムどうしたんだ? そのパックの束」
「え!? こ、これは自分で買ったんですよ?」
「あー、成る程。お前見かけないと思ってたけど、カード買ってたのか-----------」

 しかし。傍にいたコトハとレンは、半分察していた。
 そして-----------ホタルは完全に確信犯であった。
 何より、不幸だったのは---------


「んあ? そいつ”チキチキ女装コンテスト”で1位になってだな」


 --------突然現れたフジであろうか。
 
「……マジで? 結局出たんだお前」
「……」
「おー、大盛況だったぞ。ダントツで1位だ」
「……」

 ぷるぷると羞恥で顔を真っ赤にし、震えるノゾム。

「だ、大丈夫……だってよ、フジ先輩に無理矢理出されたんだろ?」

 ノゾムの名誉のために言おう。あの後、連戦でぶっ倒れたテツヤを尻目にフジは取り巻きと一緒にノゾムを浚い、女装コンテストに無理矢理参加させたのだった。

「いや、途中からノリノリだったぞコイツ」
「いや、ヤケクソの間違いじゃないですか武闘先輩」
「ノ、ノゾム君……大丈夫?」
「大丈夫です! ノゾミちゃん可愛かったですよ! ほら、これが優勝記念写真です!」
「やっぱりヤケクソじゃねえか! 表情が死んでるよ!」
『ノゾム、とっても可愛かったよ!』

 ぷるぷると震えていたノゾムは空に向かって吼えた。
 

「うわああああ、アンタらなんか、だいっきらいだあああああ!!」


 こうして、文化祭は終わりを完全に告げた。
 ノゾミちゃんの女装大会の優勝記念写真を残して。
 ついでに、しばらくの間、ノゾムは誰とも口を利かなかったのだった。

                            短編3(完)
                         
※この後、ノゾミちゃんの優勝記念写真は本人の意思により、処分されたのであったがコピーされまくっていた所為で無駄だったことは言うまでも無く。それだけファンが多かったと言う事か。

Act2:レンの傷跡 ( No.127 )
日時: 2015/07/16 02:51
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***

 
 次の日。ノゾムは珍しく、外出することにした。無論、昨日暁宅で起こったことなど知る由も無かったのである。
 それはともかく、理由としては”クレセントに少しでも外の世界を見て欲しかった”からだ。
 先ず、向かったのは近所にある海戸モールというデパートであった。

『ノゾム、ノゾム! 人がいっぱいいるよ!』
「ああ。皆、それぞれ欲しいものがあるからな。それを買いに来るんだろ」

 あるいは、イベントなどに参加するために来る者もいるだろう。または、ノゾムのように暇で
 自動ドアを潜り、そのまま人で賑わう海戸モールへ入るが---------

「あんまり此処には行かないからな……」

 普段、剣道の自主稽古をし、勉強をし、デュエマのデッキを組み、その間に三度の飯を挟むだけで休日を大抵終えてしまうノゾムは、あまりこういった人混みには慣れていない。

『ヒナタと白陽と一緒だったら良かったのにね』
「先輩達を誘うとよー、色々アレだしな……」

 -----------ヒナタ、貴様!! まだ分からんか!! 闇文明の美しき破壊の美学を!! 真髄は破壊の先にあることを!!
 -----------てやんでぃ、バーロー!! んなこと俺だって、分かってらぁ!! 《5000GT》や《クロスファイア》を使ってた俺なら尚更!! 
 -----------ふん、墓地のクリーチャーをコスト軽減やG0の条件達成にしか使わない貴様と違ってだな-----------
-----------だーっ、しゃらくせぇ!! 今の俺の一軍はドラゴンデッキだって言ってんだろうが!! これも全部ドラポンの所為だ!! つか俺も《インフェルノ・サイン》とか使ってたしー?
 -----------ふん、1体ずつちまちまリアニメイトさせるなど、ビギナーのやること。所詮、貴様の言う墓地戦法などその程度!! 我が《キラー・ザ・キル》の敵では無い!!
 -----------やんのかテメェ。
 -----------やんのか貴様。

ついこの間も、こんな口喧嘩をしていたのである。「誘うんじゃなかった……」と後悔するがオチである。

「たまには2人だけってのも良いんじゃないか?」
『そだね!』


 ***


『ねぇ、あれとか可愛くない?』
「あー」

 実体化して、姿を他の人間からは見えなくしたクレセントが、指を差した。
 女物の服のコーナーだった。
 意外である。クリーチャーと人間の趣味は合致するものか、と。
 
『ノゾムも着てみる?』
「二度とゴメンだ馬鹿」
『えー、可愛かったのに』

 前に文化祭(短編3参照)の時に無理矢理メイド服を着せられた悪しき黒歴史が蘇ってきた。
 真っ平ごめんとはこのことである。ばっちり写真まで残されてしまうとは。
 からかってくる輩も居やがったので、後でそいつにはD・リーグで地獄を見せてやったのは言うまでも無く。

「……ん?」

 売り場に吊られた衣服の中で揺れるポニーテール。
 それには見覚えがあった。
 まだ、あまり話したことはないが、名前は知っていた。

「如月先輩! おはようございます!」

 いつも通り元気良く挨拶しに行った彼の声で、向こうも気付いたらしい。

「あら。奇遇ね。文化祭の時以来かしら」
「如月先輩も此処に買い物に来たんですか?」
「ええ。買っておきたい服があったからね」

 コトハは手に取った服をノゾムに見せた。

「何ならあんたも着てみる?」
「やめてください……」
「あはは、冗談よ」

 堅物で有名なこの先輩も、オフのときはこんな悪戯っ子のような笑みを浮かべるのか。
 意外な一面を垣間見た気がした。

「あんたの生真面目な所はあたしも買っているの。今後もヒナタをよろしくね? あいついっつも無茶ばっかりするんだから」
『コトハ様っ! それだけじゃないはずですにゃ!』

 声が聞こえた。彼女のベルトにぶら下げられた緑色のデッキケースからだ。

『ニャンクスちゃん、どしたの?』
『ああ、クレセント様! ノゾム様! 実は昨日------------』
「ええ、忘れてた。こっちの方が重要ね」

 コトハがニャンクスの声を割るように続けた。

「どうしたんですか、先輩」
「昨日、寝ようと思ってたら------------言い知れない変な気配を外から感じたのよ。あたしもニャンクスも」
「変な気配、ですか」
「朝、ヒナタに電話しようと思ってたんだけど、全く繋がらなかったのよ」
「マジですか」

 自分達は全く感じなかった。何せ、規則正しい生活を送るノゾムは、余り夜更かしせずにすぐに寝てしまうからである。
 
『ですからノゾム様、クレセント様、くれぐれもお気をつけになってください! 嫌な予感がしますのにゃ……』
『確かに。まだアヴィオールは唯一浄化できていないし、不死鳥のドラゴンも倒せていない……ありがと、ニャンクスちゃん』
「どっちにしても先輩。ヒナタ先輩の家には行かなかったんですか」
「ふん、どーせ朝っぱらから爆睡してるんでしょうよ。部屋に鍵がかかってて出てこないってあいつの母さんが言ってたわ。ばっかみたい」
「ま、まあ、ヒナタ先輩も色々疲れてるんでしょうし……で、レン先輩は?」
「うーん? あいつには黙ってた方が良いんじゃないかしら? あいつもあいつで無茶をやらかしがちなのよ。クリーチャーを持ってたら話していたんだけどね……」
「そういえば、ヒナタ先輩とコトハ先輩は、白陽とニャンクスの前に”生きたクリーチャー”を所持していたんですよね」
「ええ……そうね」
『びっくり、初耳ですにゃ!』
「ニャンクスにもまだ言っていなかったわね」

 ヒナタはアウトレイジのクリーチャー、ドラポン。コトハはオラクルのクリーチャー、オーロラをそれぞれ所持していた。
 ドラポンは元々、鎧龍の近くの人口森林にある滝に何故か封印されており(恐らくオラクルの手によるものだと思われる)、オーロラは最初こそ敵として現れたが、後にスノーフェアリーと共にオラクルを裏切ったのだった。
 後にこの2体、種族の壁を超えて一悶着あるのだが、それはまた別の話。
 そして、ある日突然、超獣界に戻ってしまったのであった。それは超獣界が謎のクリーチャーによって危機に晒されたからなんだとか。
 
「じゃあ、レン先輩は?」
「……」
「レン先輩もクリーチャーを持っていたんですか?」
「……」

 急にコトハは黙りこくってしまった。まずいことを言っただろうか、とノゾムは感じた。

「あいつも勿論、アウトレイジのクリーチャーを相棒にしてた」
「じゃあ、そのクリーチャーも超獣界に帰ったんですか?」
「いいえ」

 険しそうな顔をしたコトハは、悔しそうに言った。
 それは、己の無力さへの悔しさか。それは、己の手が届かなかったことへの悔しさか。
 ”2人も”友人を一度に失った彼を慰めることすら、彼女には痛々しくて出来なかった。
 表面ではいつも通り振舞っていた。だけど、彼は誰よりも自責と後悔と悲しみに苦しんだはずだ。
 それを目の前の少年に話しても良いのだろうか。
 ----------いいえ、いずれ話すことになったでしょうね……。あたしもこの子も同じ性質のカードを手にしてしまった以上は。
 だから、彼女は言った。今此処で話してしまうのは憚られたが、仕方が無い。


「あいつの相棒はもう、------------二度と帰ってこないわ」


 え、とノゾムは聞き返そうとした。
 しかし、間髪入れずに彼女は続けた。


「あいつは、1日の間に2人も大切な友人を失った。……続きは折り入って話したいから、別の場所にいきましょう」

Act2:レンの傷跡 ( No.128 )
日時: 2015/07/16 10:19
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***


「-------------スミス-----------そして------------」

 ふと、自分の机の上で彼は呟いた。そして、もう1人の名を呼ぼうとしたが、その名前は途切れる。
 自分に、その名前を呼ぶ資格は無いように感じたから。
 彼の手には写真があった。
 そこには、4人と”4体”の姿があった。在りし日に撮った写真。いつだったか、あれはヨミを倒した後だろうか。
 自分、ヒナタ、コトハ、そして--------------サイドテールの無表情な少女。
 さらに、ヒナタの傍には羽ばたいて浮かんでいる赤いチビ龍。
 コトハの頭には小柄で大きな帽子を被ったデフォルメされたように小さい少女。
 そして自分の髪をわしゃわしゃ、とまるで弟分のように掻き回しているのは、長い白髪にサングラスをかけた長身の男はアウトレイジのクリーチャーだ。
 最後にサイドテールの少女に抱きかかえられているのは、これもデフォルメされた豚と悪魔が合わさったようなクリーチャー。
 でも。長身の男と、サイドテールの少女とその相棒も、もう戻っては来ない。

「-------------僕は、”お前”が居なくても大丈夫だと言った」

 だが敢えて言おう、とレンは振り絞る様に言った。


「何故、僕なんかのために死んだ!!」


 もう、彼が自分を皮肉るように笑うことも、自分に意地の悪い言葉を投げかけることも、隣に立って共に戦ってくれることも無い。
 彼はふと、かつての相棒に助けを求めたくなった。
 自分はどうすれば良いか。弱い自分はどうすれば強くなれるのか。
 しかし。もう、相棒は戻ってこないのだ。

「そして----------貴様には顔向けも出来ないな」

 レンが目を移したのは、サイドテールの少女だった。

「……貴様は、僕が何もかもを奪ってしまったも同然だ。本当なら、僕にこの札を握る資格も無い」

 写真に重ねるように、1枚のカードを見た。


「僕はコトハを守れなかった」


 それどころか。彼女に助けられる形になってしまった。


「こんなんじゃ、僕は大切な仲間をまた失う……それだけは、それだけは嫌だ」


 力が欲しかった。
 ヒナタのように、強い力が。
 誰かを守れる力が。
 あの日。
 2体のクリーチャーと、1人の少女をレンは失った。
 1人は神の悪趣味な生贄となった。1体は恐らく、それを庇って死んだのだろう。
 そして、もう1体もまた---------------レンを庇って死んだのだ。


 ***


 デパート内には、飲食店もある。
 その中のレストランの一角で、コトハはノゾムに以前、レンを始めとした鎧龍の生徒に襲い掛かった悲劇を話した。
 オラクル教団の残党がレンの友人だった少女を襲い、記憶を改造して敵として差し向けたこと。
 その少女との戦いで、レンは相棒だったクリーチャーを失ったこと。
 そして------------その少女の記憶をもデュエルの結果、奪ってしまったことだった。

「レンに非は無いわ。決闘空間で負けるってことは、それだけリスクが付き纏う。カードの持ち主の加減で生かすも殺すも自由。だけど、あのときのレンには流石に無理な話だったわ」

 相棒のクリーチャーが殺された。
 レンの怒りは凄まじいものであったことは言うまでもない。
 そして、悪しき神の使いから目の前の少女を救いたい一心でダイレクトアタックを決めた。
 結果。それは叶わなかった。
 そのショックで少女は記憶を失い、さらに元々転校が決まっていたため、そのまま彼の元から去ってしまったのだった。

「そんなことが……」
「あたしとレン、ヒナタは結構長い付き合いだけど、あいつの傷はまだ癒えたわけじゃない。いえ、一生癒えないでしょうね」
「それに加えて、この間の一件。レン先輩はコトハ先輩を庇ってデュエルをした」

 しかし。不甲斐無く負けてしまった。

「……そんなこと気にする必要ないって、あたしは言ったわ。でも、あいつは責任感が強いから……」
「今も自責の念に囚われている可能性は高い、と」
「あいつは根は頑固で高飛車でナルシストだけど、誰よりも誠実な性格なのもあたしは知ってる。だから、ヒナタとも真逆のようで噛み合ったのかもしれない」

 そういえば、とニャンクスが割り込んできた。

『すいません、コトハ様。気付いたことが1つあるのですにゃ。』
「何?」
『レン様から、僕は何も文明の力を感じませんでしたにゃ。非常にクリアなオーラでしたにゃ』

 だけど、と彼女は続ける。


『その深淵には、まるで巣食うかのようにドス黒いオーラを感じましたのですにゃ----------とてつもない、闇を』


 闇-----------それにコトハは思い当たる節があった。
 小早川の呪文にかけられた際も、レンは強力な闇の力でそれを断ち切った。
 -----------あいつは何者だっていうの、そういえば……前はゼロ文明の何やかんやでオラクルに利用され、今度は闇……? 同じ人間の性質とは思えないわね。

『クリーチャーにもたまに、特に無色クリーチャーは何らかの要因で本来の文明に目覚めることがあるっていうのは知っていますにゃ』
「あのねぇ……レンはクリーチャーじゃないのよ?」
『失礼しましたのですにゃ。レン様は人間でしたにゃ』
「どっちにしたって、そのアヴィ何とかに」
「アヴィオールです先輩」
「そのアヴィオールに利用されないか、心配ではあるわね」

 それは一理ある、とノゾムは考えた。
 しかし、それだけ誠実な人ならばアヴィオールの甘言如きに簡単に騙されるのはおかしいのではないか、というのも気になった。
 だが、アヴィオールは狡猾だ。もしもレンに目を付けた場合、どんな手段を使ってでも彼を自身の目的のために捕らえようとするだろう。

「奴みたいなクリーチャーが暴れそうな、人の多い場所を今日は回っていたわけよ」
「人が多い場所でもクリーチャーは躊躇無く暴れますからね……」
「何であれ、よ。あんたも気をつけた方が良い」
『ノゾム、あたし怖い……』
「大丈夫だ。白陽と約束した。お前はオレが守るって」
『どちらにせよ、クレセント様。この僕が加わった以上、もうアヴィオールの好きにはさせないのですにゃ!』

 何とも、頼もしい仲間が増えたものである。

「どっちにしても。あたしはあんたの先輩であることには変わりないわ。困ったことがあったら、いつでも頼って頂戴」
「はい! ありがとうございます!」
「そしてレンの件。これはあたし達の問題。でも、もしもレンが暴走するようなことがあったら----------あんたの手を借りるようになると思う」

 黒鳥レン。彼は仮にもヒナタに並ぶ実力者だ。敵に回せば、自分に勝ち目があるとノゾムは思えなかった。
 そう考えれば、荷は重い。しかし。


「はい!!」


 彼の意思には、一寸の曇りも無かったのである。

Act2:レンの傷跡 ( No.129 )
日時: 2015/07/16 15:11
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***


「……出来たぞ」
「嗚呼」

 ヒナタは、組み終えた40枚の札を掲げた。白陽も頷いた。
 -----------2人とも、いかにも不健康そうなげっそりとした顔立ちになってはいたが。
 
「あ、あっれー、おっかちぃな……空がすっげー明るいぞ……? 今何時だ白陽」
「この時計というものが全くわからん」
「あ、んじゃ、俺が見るわ-------------12時? ああ、まだ夜中------------」

 此処で2人の意識は覚醒した。



「んなわけあるかあああああああああああああああああああ!!」



 まずい。完全に9時間の間、あの後デッキを組んでいたことに気付く。どんだけ集中してたんだこいつら。
 それはともかく、もう昼にまでなっているとは。
 そういえば、何かコトハっぽかったり、母っぽい声が聞こえてきてたような。

「とりあえず白陽」
「嗚呼」
「寝るか」
「違うだろ!! 昨晩の件はどうするんだオイ!!」

 もちろん、冗談ではある。いや、半分マジが入ってはいたが。
 何せ、ヒナタももう10時間近く寝ないで作業をしていたので、相当眠気がきつくなっているのである。
 何故、10時間もかかったのかというと、その中に寝かけたりなんだりがあったからであるが、それでも不屈の根性で彼はデッキ完成に向かっていったのだった。
 さて、白陽の問いについてだが、ヒナタ自身、これについては考えあぐねていた。
 何故ならば、まずアヴィオールが律儀に約束を守るとはさらさらヒナタには思えないのである。クレセントやほかの人間に働いた所業からも一目瞭然、義理人情が通用するタイプだとは到底思えないのである。

「今教えても不安がらせるだけだろ。……とはいえ、奴等が律儀に約束を守るとは思えない。やっぱ警告はしておくべきか。白陽、奴等はどこに潜んでいるって言った」
「キュウカイドスイサンコウジョウと言っていたぞ」

 旧海戸水産工場。かつて、東京都旧海戸区湾岸にあった水産工場であったが、海戸が建設される際に新しく工場が作られることになったため、閉鎖して新しく作ることになったのである。
 しかし、未だに取り壊されておらず、建物は残っていると聞いた。
 
「確か、築地の近くに武闘財閥が昔、建設したって聞いたな。10何年くらい前に」
「全く、人間とは色々作るのが好きなのだな。この”日本”という国の技術には驚いたぞ。魔法だとか妖術だとかは発達していないみたいだが、鋼で出来た建物ばかりだ」
「いや、木やコンクリートで出来た建物だって沢山あるぞ」
「そうか? まあ、そういえばそうだな。だが、木で出来た建物ばかり見てきた私には、全てが珍しく見えて仕方がないのだ。クレセントは、あんまり興味が無さそうだったがな」

 それは、現代の技術と水文明の超技術を比べる方が酷だというものである。オカルトと科学。相反するものを司る種族のクリーチャー同士が此処までラブラブなのも分からない。

「どっちにせよ、白陽。これは速急にノゾム達に知らせ------------」

 そう言おうとした瞬間、ヒナタは盛大に机に突っ伏した。とうとう限界が来たか。それはどうやら、白陽も同じらしく--------

「ま、まずい、私ももう---------」

 そのまま、ヒナタの椅子に寄りかかる形で寝てしまったのであった。

 ***

「そうだ、ノゾム君。あたしとデュエルしてみない?」

 唐突にコトハから発せられた言葉はそれだった。

「シケた気分にさせちゃったお詫びも兼ねて、ね?」
『そう言いながら、コトハ様が楽しみたいだけなんじゃないですかにゃ?』
「うっさいわね、あんたにも出て貰うわよ!」

 うーん、と少しノゾムは悩んだがすぐに、


「はい、喜んで受けさせて貰います!!」


 と返したのだった。

「ええ。こちらこそ頼むわ。一回あんたとはやってみたかったしね!」
「オレも如月先輩の実力、直接戦って感じたいです!」
「それじゃあ、このデパートの屋上に行こうかしら。確か、あそこにもデュエルテーブルがあったはずだから」

 考えてみれば、ノゾムは入学初日に何人もの上級生を屠っている。だが、ヒナタが自分を倒したように。レンがそれと同格だったように。
 目の前のこの先輩も只者ではないことは分かる。
 自然文明使い、如月コトハ。噂に聞いてはいたが、マナを相手よりも速く伸ばすことに長け、それで強烈なビートダウンを放ち、相手のシールドをがりがり削っていくことに定評があるとは聞いていた。
 さらに、ヒナタからも最近はジュラシック・コマンド・ドラゴンを扱うようになったため、より強敵になったことには間違いないと聞かされてはいた。
 いざ戦うとなると、緊張が走る。
 
「言っておくわよ? あたしはヒナタやレンより弱いかもだから」
「よく言いますよ。そのヒナタ先輩にもこの間勝ったんでしょ?」
「あいつよりもあたしが成長していた、それだけだわ。ヒナタは気付いたら、もう追い越してる。この間まではこっちが追い越していたはずなのにね。それでも-----------」

 彼女はデッキケースを掲げて、言った。


「後輩を簡単に勝たせるほど弱くも無いことは言っておくわよ!」
「望むところです! 勝負だ、如月先輩っ!」

Act3:警戒 ( No.130 )
日時: 2015/07/18 18:28
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)

 ***


 決闘空間内ではないから、クリーチャーが実体化することはない。しかし、それでもノゾムとコトハのデュエルは熾烈を極めていた。

「《術英雄 チュレンテンホウ》召還!」

 現在、ノゾムの場には《チュレンテンホウ》と《アクア操縦士 ニュートン》、《アクア・スーパーエメラル》の3体。
 対するコトハは-----------《マチュー・スチュアート》に《界王類七動目 ジュランネル》の姿があった。
 そして、マナゾーンには既に、7枚のカードがあったのだ。
 つまり、それは七つの律動を司る界王龍の覚醒を意味していた。
 
「私のターン!! 目覚めなさい!! 《ジュランネル》アンタップ!!」

 やはり、彼女は恐ろしい実力者だ。《チュレンテンホウ》が除去されるリスクも考えれば除去すれば良かったのだが、生憎手札にそんなものは持ち合わせていない。
 
「そして、《タスク・ニャンクス》を出すわ! 出てきなさい、《護衛武装 ロシアンブルー》!」

 《ロシアンブルー》の効果により、コトハのマナは更に増えてしまう。
 これで10マナ。次のターンにノゾムが1マナためても、武装条件は達成されてしまう。

「《ジュランネル》で攻撃! ワールドブレイクよ《ジュランネル》!!」
「《アクア・スーパーエメラル》でブロック!!」

 パワー差は歴然。《アクア・スーパーエメラル》は成す術なく破壊される。
 しかし。ノゾムにはまだ余裕があった。現在、コトハのマナは10。一方、ノゾムは6。《ニャンクス》の武装条件はマナにカードを置かずにターン終了時に相手よりマナを3多くしていなければならないというもの。 
 だが、ノゾムにはこれを打破できる手段を持っている。

「オレのターン! ドロー! そして、マナをチャージ!」

 これで7マナだ。しかし。それでもまだ、コトハの方が3枚多いが--------

「そして呪文、《スペルブック・チャージャー》! 効果で山札から5枚を見て、その中から呪文を選び、手札に加える!」
「チャージャー……!」
「オレは《スパイラル・ゲート》を手札に加えます!」


スペルブック・チャージャー UC 水文明 (4)
呪文
自分の山札の上から5枚を見る。その中から呪文を1枚、相手に見せてから、自分の手札に加えてもよい。残りを好きな順序で自分の山札の一番下に置く。
チャージャー


 チャージャー呪文は墓地ではなく、マナに行くので《チュレンテンホウ》の効果で使いまわすことはできない。
 しかし。今回収した《スパイラル・ゲート》ならば話は別だ。

「そして2マナを払い、呪文《スパイラル・ゲート》! 効果で《ジュランネル》を手札に戻します!」
「うっ、やったわね……!」
「さらに、《チュレンテンホウ》のマナ武装7でもう1度この効果を使います! 《マチュー・スチュアート》をバウンス!」

 本当ならば《ロシアンブルー》も手札に戻したかったが、生憎同じコアを持つクリーチャーを選べなくする効果により、それは出来なかった。
 しかし。武装はこれで防いだはずだ、とノゾムは確信していた。
 だが、それは的外れな憶測であった。

「それで武装を防いだつもり?」
「で、でも如月先輩! 《ニャンクス》の武装条件は-----------」
「自分のマナが増やせない? それなら、条件を達成する方法はもう1つあるわ。分かるわよね?」
「----------あ」
「まず、あたしは《ニャンクス》のマナ武装7でこの子のパワーを2倍にして、シールドをブレイクする数を1枚増やすわ」

 マナが増やせない。それならば、やるべきことは1つ。
 そう。相手のマナを減らすまで。

「9マナ払い、《緑神龍 ザールベルグ》を召喚!」
「え、何ですか、そいつ--------!?」
「こいつのパワーはコストに反して非力。だけど、このデッキならばなんら問題は無いわ! 効果発動!」

 次の瞬間、ノゾムのマナゾーンのカードが2枚。問答無用で墓地に置かれた。
 しまった、と此処でノゾムは気付いた。自然文明は最近こそ鳴りを潜めてはいるが、”相手のマナを枯らす”のも得意なのだ、と。
 それはむしろ火文明のイメージが強いが、《マナ・クライシス》や《ミルドガルムス》などのランデスカードは決して少なくは無い。

「さらに、1マナで《ジュランネル》を再び召喚よ!」

 再び現れる《ジュランネル》。このままでは、大失点を食らわされてしまう。

「ターン終了時に、《ロシアンブルー》の武装条件クリア!」
『いきますのにゃ、コトハ様!』
「OK、今日も頼むわよ!」

 《ロシアンブルー》を裏返し、コトハはそのまま《タスク・ニャンクス》へ重ねる。


「星の力を受ける非力なる賢者よ!! 今此処に、最強の力を手にし、目覚めなさい!! 武装完了、《疾風迅雷ワールウィンド ニャンクス・ミラージュ》!!」


 実体化していないとはいえ、やはり強烈な威圧感をノゾムはびりびりと感じていた。
 快活明朗な少女の顔。
 羽帽子から飛び出した1対の猫耳。
 肌蹴た貴族服から覗く、ベルトに覆われた2つの凶器------------ではなく、両腕を覆う強靭な刃を剥き出しにした獣の腕。前者ではなく、後者に目をつけるとは流石ノゾムといったところか。

「効果により、あんたのクリーチャーはシールドを1枚しかブレイクできない。しかも、あたしの自然のドラゴンは全てS・トリガーとなる。殴れるもんなら、殴ってきなさい。受けてたつわ」

 クリーチャー同士の殴り合いで、彼女に勝つことは難しい。
 しかし。水文明は元より殴り合いには向いていないのだ。
 この兎を除いて。

『ノゾム! あたしがついてるよ!』
「ああ! オレのターン! 《ピタゴラス》で《ジュランネル》と《ニャンクス・ミラージュ》をバウンス!」
「武装解除! 《タスク・ニャンクス》を残すわ! ちっ、後もうちょっとだったのに!」
「……ターンエンドです」

 しかし。それでも、マナが足りないというのは致命的であった。
 ノゾムは次のターンにかけるしかなくなったのである。
 現在、ノゾムのマナは6マナだ。後、もう1マナが届かないのである。

「デュエマは、マナを制したものの勝ちよ------------!」

 コトハの言葉が痛く耳に響いていた。


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