二次創作小説(紙ほか)
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
- 日時: 2017/01/16 20:03
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)
【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。
また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。
”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”
『星の英雄編』
第一章:月下転生
Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25
第二章:一角獣
Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48
第三章:骸骨龍
Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73
第四章:長靴を履いた猫
Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114
第五章:英雄集結
Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204
『列島予選編』
第六章:革命への道筋
Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦
Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261
Act8:次なる舞台へ
>>262
第七章:世界への切符
Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352
『侵略世界編』
第八章:束の間の日常
Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393
第九章:侵略の一手
Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416
第十章:剣と刃
Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444
短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。
短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65
短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103
短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126
短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156
短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176
短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422
エイプリルフール2016
>>299 >>300
謹賀新年2017
>>443
登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします
オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。
お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新
- Act4:一角獣は女好きか? ( No.41 )
- 日時: 2014/06/22 12:57
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
「我の分身、《麟英雄 一角のハーシェル》召喚じゃ!! マナ武装7発動!」
子馬の周りに漂っていた装甲が装着され、全身が鋼で固められる。さらに、黄金のオーブがあたりを目まぐるしく高速自転して飛び回る。
それぞれが決まった軌道を持ったそれらは、敵を見つけると即座に反応して飛んでいくようだった。
「効果により、次の我のターンまでシールドの中にある光のドラゴンは全てS・トリガーになるのじゃ!」
「それがどうした! 次のターンは、クリーチャーの破壊に専念するだけだぜ!」
「ほーう。これを見てもか?」
刹那------------《サリヴァン》がハーシェルのシールドを2枚、叩き割った。
一瞬、何があったかは分からない。しかし、唯一ついえるのは”自分のクリーチャーで自分のシールドをブレイクしたということだ。
ハーシェルの残りシールドは3枚。
しかし。
「S・トリガー発動じゃ! 《サリヴァン》を《聖霊龍王 バラディオス》に進化! さらに、S・トリガーで《偽りの王 ナンバーナイン》も出すのじゃ!」
聖霊龍王 バラディオス ≡V≡ 光文明 (8)
進化クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 12000
進化ー自分の光のコマンド1体の上に置く。
ブロッカー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、または自分のシールドの最後の1枚がブレイクされた時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーをすべてタップする。次の相手のターンのはじめに、そのクリーチャーはアンタップされない。
T・ブレイカー
「な、ななななな!?」
「我の効果によって、我のほかのクリーチャーは、自分のシールドをブレイクできるのじゃ。その上、ターンの終わりに山札の一番上からシールドを1つ増やせるのじゃ!」
前代未聞である。自分のシールドを自分でブレイクさせるクリーチャーが存在するとは。
「《バラディオス》の効果発動じゃ! ヌシのクリーチャーを全てタップ、そして次のターン起き上がれなくするのじゃ! T・ブレイク!」
ヒナタのシールドが3枚割られる。
「ど、どうするヒナタ! このままでは……!」
「うるせぇよ白陽! 野郎はつぇぇ、だけどトリガーに賭けるしか……!」
「残念じゃの。《ナンバーナイン》を忘れとるぞ」
偽りの王(コードキング) ナンバーナイン P 光文明 (9)
クリーチャー:キング・コマンド・ドラゴン/アンノウン 9000
相手は呪文を唱えることができない。
W・ブレイカー
まずい。S・トリガーのクリーチャーでも無い限り、これではもうトリガーは発動しない。
「さらに、シールドを1枚山札から追加じゃ」
麟英雄 一角のハーシェル 光文明(7)
クリーチャー:ガーディアン/エンジェル・コマンド・ドラゴン 7000
W・ブレイカー
自分の他のクリーチャーは自分のシールドをブレイクすることが出来る。
ターンの終わりに、山札の一番上のカードを1枚シールドゾーンに置く。
マナ武装7--このクリーチャーがバトルゾーンに出たとき、マナゾーンに光のカードが7枚以上ある場合、次の自分のターンまで自分のシールドから手札に加えられる光のドラゴンは全て「S・トリガー」を得る。
絶体絶命。現に今手札に加えられたのは全て呪文ばかり。
「そ、んな……!!」
ガンッ、と拳を地面に叩きつけるヒナタ。
負ける。また負ける。
このままでは、また------------負けてしまう。
こんなものでは、キイチにもましてあの獅子怒にも勝てない。
そう思ったときだった。
「諦めるな、ヒナタ!! 負けることを先に考えれば本当に負けるぞ!!」
「……白陽!」
そうだ-----------まだ俺にはシールドもマナも手札も残ってるじゃねえか。
カードを引くヒナタ。それを見て、思わず微笑む。
まだ、勝つチャンスは残っている!!
---------運任せだが、ここはお前に任せる!!
「俺のターン、《偽りの名 バルガ・ラゴン》召喚! 《メッサダンジリ》の効果でスピードアタッカーに! シールドをW・ブレイク!」
「無駄じゃ。《アンドロム》、我のために死ね」
《アンドロム》が飛んでいき、《バルガ・ラゴン》の攻撃を自分の命を持ってシャットダウン。
しかし。
「ドラゴンがバトルに勝ったから、《爆竜勝利 バトライオウ》を出すぜ! さらに、《バルガ・ラゴン》の効果で《「白陽」》を出す!!」
「何ィ!?」
しまった。これではアタッカーが攻撃できない。
《バラディオス》にも《ハーシェル》にも《ナンバーナイン》にも言えることだが、総じてドラゴンである。
つまり、《「白陽」》のロック効果を受けてしまうのだ。
「私の能力でドラゴンとドラグナーは攻撃もブロックもできなくなる」
「ッ、貴様ァー!! 調子に乗りおってぇぇぇぇぇ!!」
そのときだった。ハーシェルの眼が紅く光る。
「許さんぞ、愚かな人間共がぁぁぁぁぁぁ!! また我を愚弄するかぁあぁぁぁあああ!!」
「あ!?」
次の瞬間、ハーシェルが足を踏み鳴らす。同時に空間が崩れた。
「なっ!? 決闘空間が……!?」
そう思ったときには、元の場所に戻っていた。同時に、ハーシェルの姿も忽然と消えてしまっていたのだった。
逃げられた。全く卑怯も大概にして欲しいものであるが。
『ヤツは己の中の邪念が限界に達して苦しんでいる』
「じゃあ、今のはそれから逃れるための行動だったと?」
『ヤツの相手をするなら、本当に純潔の乙女でなければならないのかもしれんな』
すると、空間が裂したのを見届けたのか、コトハが駆け寄ってくる。
「ちょっと!? 大丈夫だったの!? 空間が突然裂けるなんて……!」
「逃げられた」
「逃げられちゃったの!?」
といっても、向こうが逃げたのだから仕方があるまい。
デュエリストとして恥ずかしいとは思わないのか! と言っても、向こうはあくまでもクリーチャーなのであって。
『そもそもヤツとお前では波長が違いすぎる。どの道仲間にはならんかっただろうな』
「んじゃ、そういうのは先に言えよ」
『すまぬ。だが倒して浄化させることだけは出来ると思っていたのだが』
コトハも割って入ってきた。
「あたしは?」
『お前も多分ダメだったろうな。使用する文明が同じであること=波長が同じであることだからな』
ともかく、ハーシェルを野放しにするわけにはいかない。
後は、目の前に倒れているブラックパラディン(馬)をどうにかすることだろう。
***
ノゾムはホタルの家の前に居た。
そして、インターホンに手を掛ける。
「淡島さんの友人の十六夜です。誰かいますか?」
彼女のことが心配だった。馬の件も気になったが、ヒナタ達に任せておいて大丈夫だろう。
その前に、今日やりたかったことをやっておきたかった。
ホタルの家を訪ねて、今の彼女がどうなっているかを探っておきたかった。
『……ノゾムさんですか?』
驚いた。まさか、ホタル本人が出てくるとは。
「ああ、オレだ」
『ごめんなさい、あの後外に出るのがとても怖くて……』
「いや、それで良い。それより親御さんはいねぇのか?」
一瞬、インターホンごしでも、彼女が言葉に詰まったのが分かった。
『……ノゾムさんには関係ないです』
「なら良い」
そういって、去ろうとした。ノゾムは気になっていた。夜にも拘らず、家には誰もいなかった。
その上、ノゾムが怪しいと思えるのは、この家がまともなだけに、余計気になった。
こんな立派な一軒家を建てられるくらいだ。金に余裕がなくて両親が夜勤をしているとは思えない。普通親なら娘を1人だけ家に置いておくのは、危険と考えて誰か置くのではないか?
(オレの考えすぎか?)
そう思ったときだった。
---------刹那、一角馬が咆哮と共に、空間を裂して空中に現われた。
- Act4:一角獣は女好きか? ( No.42 )
- 日時: 2014/06/22 23:23
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
「えーっと、クレセントちゃん、あの空に浮いてるのは一体?」
『し、知らないよ……さあ』
クレセントは呆然としていたが、思考が全て元通りに戻ると、ノゾムは叫した。
「いやいやいや、待てぇぇぇぇぇ!!」
確かに、ニュースの中継で例の一角馬を見た後だったが、そのときより体が小さく、幼い子馬といった感じだった。
だが驚いた点は、それだけではない。さっきまでヤツは2区----------ヒナタの家の辺りにいたはずだ。そしてヒナタならば、迷わず交戦しているだろう。それが此処にいると言う事は、ヒナタが負けたか、あるいはその他の要因が絡んできたと言う事だ。
前後ろ足は短く、頭も小さい。動物園で見たことがあるロバやポニーよりも小さいといった印象だった。
しかし、その角は非常に鋭く、獰猛で、鋭利なユニコーンの側面を表していた。
「我が名はハーシェル。気高き一角馬よ!」
高らかに名乗りを上げて、直後地面に降り立つ。
「気に食わぬ……純潔の乙女の近くにやってきたと思ったら間違いであったか!! 気に食わぬ、気に食わんのじゃ!! 突き殺してくれる!!」
「ぎゃああ、コッチ来たぁぁぁ!!」
やはり、敵だと誤認されているのか。暴走している所為か。
完全に暴走してしまっている所為か、目を真っ赤にしてこちらへ駆けてくる。
咄嗟に避けるノゾム。と、同時にカードの中からクレセントが現われて、鉄槌をふるって一角馬の身体を受け止める。
「何て硬い鎧……!! この鉄槌で砕けない装甲なんて見たこと無いのに……!!」
一方のハーシェルはヒヒン、と声を上げながら突っ込んできた。グシャァ、とアスファルトに大穴が空く。
石が飛び散って、身体に打ち付けられる。
痛い。すねも腕も足も。
「いたたたた……、もっと場を弁えた戦いしろよ、あのクソ馬!!」
「まずいわね……さっきまでの憑代の体の特徴から、自分だけでも完全に実体化して戦える程になってる」
「よりしろ……!?」
つまり、憑依するための媒体である。
「そう。あたしも白陽もデュエリストがいないと自力では実体化できないんだけど、クリーチャーは自分に似た生命体に憑依することで、その生命体のデータを身体に読み込んで自力で実体化できるようになるの。ただ、それは時間がかからない、というだけで最悪自分にあまり似ていない生命体--------例えば人間に憑依しても時間はかかるけど、あんなかんじに自力で実体化できるようになるわ」
鉄槌で押さえつけながらノゾムに言うクレセント。今ならまだ余裕がある。
「それなら、今までにもアイツが騒ぎを起こして居そうなもんだけどな。何故今日、実体化したんだって話になる。そんなことができるならよっ!」
「多分こいつ、今日目覚めたのよ。それしか考えられない! って、わわわ!?」
ガキィンッと鋭い金属の音と共に、鉄槌が振り払われた。そして、胸をめがけて一直線に角が突き立てられる------------が、そこは流石クレセント、といったところか。鉄槌を捨てて身軽な動きでぴょん、と後ろに飛んで回避した。
「あっぶないわね!!」
『ブルァァァァァ……ヌシ、男がいるな……!! 汚れた女など要らぬ!! 純潔の乙女以外には興味はないわあああ!!』
ガッ、とアスファルトを抉って一角馬が突貫した。
「くそ仕方がない、クレセント! 決闘空間に引きずりこむぞ!」
「ムリムリムリぃぃぃ!! こいつ全然止まんないもん!!」
さすがに、相手も止まっていないと、霧が向こうも包む前に消えてしまう。
「ちょ、ちょっと!? 何かあったんですか!?」
いそいそと掛けてくる音と共に、スライドの扉が開いてホタルが中から現われた。
そして、目の前で行われている激闘を眼にして立ち止まってしまう。
腰にはデュエリストの証であるベルトに吊られたデッキケース。
まずい、一角馬にとっては絶好のカモである。
「まずっ、ホタル! 今出てくるな!」
「ふぇ!? なんですか、あの兎さんに馬さんは……スクープ! 大スクープです!!」
「馬鹿ヤロォォォォ!! 出てくるなっつったろーに!!」
たたた、と首にぶら下げたデジカメを持って走ってくる。
そして、彼女を目に留めたハーシェルが瞳を丸くする。
「ふははははは!! ヌシ、我と波長が完全に一致しておる!」
「ふぇ?」
「我の番になれぃ!! 決闘空間開放!!」
ガッ、とクレセントとノゾムを突き飛ばし、ホタルへ突貫。そのまま、黒い霧を噴きだした。
「ヤ、ヤバ!? クリーチャーも決闘空間を開放できるのかよ!!」
角がかすって多少擦り傷が出来たノゾムは、当然ながら自分のTシャツに穴が開いていることに気づく。
だが、そんなことはどうでも良い。ホタルが空間の中へと消えてしまった---------------
***
「うぅ、何が起こったの……」
目を擦ると、ホタルは目を丸くした。紫色の空間の中に半透明のガラスの盾、そしてデッキケースから飛び出した40枚のカードが山札、手札を成した。
「え? デュエマしろってこと? でも、誰と……」
「我に決まっておるじゃろう」
ククク、と目の前の一角馬は不気味に笑った。
「う、嘘……クリーチャー? でもあの男も使ってたし……」
「ふふ、実体化したクリーチャーを見たことがあるようだが、関係ない。ヌシは我の嫁となるのだから」
「な!?」
「この空間では、勝ったものこそが負けたものを蹂躙できる。実に良いルールじゃ」
ホタルはこの時、ようやく自分が置かれている状況を理解した。
この空間の中では勝利こそが全て。
勝つことこそが、絶対的なルール。
負ければ、絶望しか残らない。
「させない……そんな勝手なこと、させません!」
「そーか、そーか。嫌ならば、我に勝ってみることだな。まあムリだろうが」
正直言って、まだこんな空間の中に急に閉じ込められて、しかもデュエマをするといった今の状況にすら頭がついていっていない。
だが、デュエマをするしかない、と言う事だけは理解できた。
自信は無い。
だが、あそこでノゾムがあの兎と共に戦っていたのは、自分をあの馬から遠ざけるためだとすれば、彼の止めた声に応じず出しゃばってこうなってしまったのは自分の責任他ならない。
「勝てる……んでしょうか?」
だが、逃げられるわけでもない。
ダメ元だが自分のデッキを信じるしかないのだ。
「ダメですよ……私はノゾムさんみたいにデュエマが強いわけじゃないよ……」
「ふはは、怖気づいたか?」
「でも……逃げることはもっといけないって事も分かってます……!!」
ノゾムは逃げないでやってきた。自分を守るために。自分もあんな人になりたい。強くなりたい。
-----------それに、勝てば何でも従わせられるってことは、私がここで勝てばあの一角馬を仲間にして------------お父さんとお母さんを助けられるかもしれない!
「覚悟が決まったか。我が名はハーシェル。気高き光文明のユニコーンじゃ! ヌシは?」
名前を問われた。まだ、現実味が沸かない。だけど、勝つしか道は無いのだ。
「私は淡島ホタル……貴方に勝ちます!!」
このとき------------決闘の火蓋は切って落とされた。
- Act4:一角獣は女好きか? ( No.43 )
- 日時: 2014/06/23 14:21
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
ホタルとハーシェルのデュエル。はっきり言って、初めて決闘空間で戦う彼女にとっては、”相棒のクリーチャーがいない”、つまりプレイング面や精神面のサポーターがいないという異色の事態になった----------が、以前オラクルに襲われた多くのデュエリストに通ずることである。
だが、彼女は逆に歓喜していた。
ようやくこれで、自分の祈願を果たせる、と。
(お父さんとお母さんをこの家に帰って来させるために……!!)
現在、3ターン目後攻:ハーシェル。互いに光文明のデッキだ。
ホタルの場には《聖龍の翼 コッコルア》、一方のハーシェルの場には《純潔の翼 キグナシオン》がいる。
(今更ですけど、召喚したクリーチャーが本当に実体化するなんて……)
聖龍の翼 コッコルア UC 光文明 (3)
クリーチャー:ジャスティス・ウイング 3500
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
自分のコマンド・ドラゴンの召喚コストを1少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
「我がターン、《光陣の使徒 ムルムル》召喚じゃ。ターン終了」
《ムルムル》は自軍ブロッカーのパワーを+3000するブロッカーデッキの要。特に、《光器パーフェクト・マドンナ》や《我牙の精霊 HEIKE・XX》なんかと組まれたらうっとおしいことこの上ない。
「私のターンです、とにかくマナチャージして……」
ここで、ホタルは早速動き出した。ならば、先にこちらも動き出せばいいこと。
「お願い! 《光線の精霊龍 カチャルディ》召喚!」
現われたのは、パワー6000のブロッカー持ちのエンジェル・コマンド・ドラゴンだった。
外敵を排除せんとばかりに、目まぐるしく広々とした空間を飛び回る。
光線の精霊龍 カチャルディ UC 光文明 (5)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 6000
ブロッカー
バトルゾーンに自分の他の「ブロッカー」を持つクリーチャーがなければ、このクリーチャーは相手プレイヤーを攻撃できない。
W・ブレイカー
「《カチャルディ》はブロッカーがいなければ攻撃できないですが、W・ブレイカー持ちです!」
「ふん、成る程。だが、こちらはこちらのペースで進めさせてもらうぞ。我がターン、《龍覇 アリエース》召喚じゃ」
「ドラグナー……! それに、ドラグハート・ウェポン……」
現われたのは、ジャスティス・ウイングの龍騎士(ドラグナー)、《アリエース》。さらに、裂した空間から神々しい槍が舞い降りる。
「《神光の龍槍 ウルオヴェリア》を装備じゃ、ターンエンド」
龍覇 アリエース C 光文明 (4)
クリーチャー:ジャスティス・ウイング/ドラグナー 2000+
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト2以下のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。(それがウエポンであれば、このクリーチャーに装備して出す)
バトルゾーンに自分の光のドラグハートがあれば、このクリーチャーのパワーは+2000される。
神光の龍槍 ウルオヴェリア UC 光文明 (2)
ドラグハート・ウエポン
これを装備したクリーチャーは「ブロッカー」を得る。
龍解:自分のターンの終わりに、これを装備したクリーチャーがタップされていれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。
まずい。野放しにしていれば、次のターンに龍解されてしまう。
《アリエース》のパワーは効果で合計7000。
《ウルオヴェリア》の龍解条件は装備元のドラグナーがタップされていること。
だが、相手にとってもそれは危険な賭けのはず。
「なら呪文、《ドラゴンズ・サイン》で《天運の精霊龍 ヴァールハイト》召喚です! これで何とかしのぐしか……」
「ほーう」
「効果で、山札を2枚見ます!」
天運の精霊龍 ヴァールハイト P 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 6500
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から2枚を見る。その中から1枚を裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加え、もう1枚を自分の手札に加える。
W・ブレイカー
捲られたのは、S・トリガー呪文の《ヴァルハラ・マジック》とマナ武装を持つ精霊龍、《天英雄 ヴァルハラ・デューク》だった。
迷わず、《ヴァルハラ・マジック》をシールドにおき、《ヴァルハラ・デューク》を手札に加える。
「ターンエンドです!」
「ふむ。だが、どこまで持つかのう」
無邪気に笑うその顔の裏には、とんでもない邪気と憎悪が隠されていた。
「我のターン。成る程、シールドと手札、そしてブロッカーを増やし、我を警戒させる作戦じゃな」
じろり、と嘗め回すように場を見るハーシェル。しかし、溜息をつくと続けた。
「まあいい。何も攻撃だけがタップさせる手段では無いわ! 出て来い、《交錯のインガ キルト》召喚!」
「あぅ……。あれって確か……!」
交錯のインガ キルト P 光文明 (4)
クリーチャー:オラクル 2000
S・トリガー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、タップしてもよい。
現われたのは、オラクルの神に関係する位階に属する”インガ”のクリーチャーだった。
だが、《キルト》は単に相手をタップするためだけに使われるわけではない。効果の対象圏は”自分のクリーチャー”にも位置する。
「攻撃してもバトルに勝つから良いのじゃが、場数を増やすついでじゃ。効果によって、《アリエース》をタップ。そして、ターンの終わりに龍解が発動じゃ! 出て来い、《神光の精霊龍 ウルティマリア》!」
槍が天高く昇り、神々しい光と共に龍の形を成した。
「龍解、完了じゃ」
神光の精霊龍 ウルティマリア UC 光文明 (5)
ドラグハート・クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 7500
ブロッカー
このクリーチャーは、相手プレイヤーを攻撃できない。
しまった。これでまた、ブロッカーが増えてしまった。さらに、《ムルムル》の効果でパワーは10500。相手を攻撃できないのがせめてもの救いである。
「私のターン……! 《デ・バウラ・チャージャー》を墓地の《ドラゴンズ・サイン》に使用、手札に加えて、ターンエンドです」
これで次のターンは確実に8マナとなる。しかし、じりじりとだが追い詰められている感覚が抜けない。
「ふむ。では我のターンじゃ、《麟英雄 一角のハーシェル》を出すぞ!」
「切札……ですか!」
「そうじゃ。マナ武装7で我がシールドのドラゴンを全員S・トリガーに、そして味方のクリーチャーの攻撃対象を我がシールドに!」
「えっ!?」
《アリエース》の攻撃でハーシェルのシールドがブレイクされた。その中から、S・トリガーで《充填の精霊龍 シャクシール》が現われてしまった。
パワー12500のクリーチャーが、《ムルムル》でパワー15500に。
「ターンエンド。と、同時に我のシールドを1枚追加じゃ」
「ッ……!!」
まずい。これでハーシェルの場は整ってしまった。
次のターン、総攻撃してくるのは目に見えている。
(ノゾムさん……やっぱり私、貴方みたいに強くないよ……!)
じりじりと追い込まれている状況と盤面を見て、ホタルはただただカードを引くために山札に手を掛けるのだった。
- Act4:一角獣は女好きか? ( No.44 )
- 日時: 2015/07/05 12:21
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: oLjmDXls)
現在、バトルゾーンにはホタルが《コッコルア》に《ヴァールハイト》、《カチャルディ》の3体が、ホタルを護るようにして付き添っていた。
一方のハーシェルの場には自分自身に加え、《ムルムル》に《アリエース》、《ウルティマリア》に《キルト》、そして巨大ブロッカーの《シャクシール》計5体。
これぞ、数の暴力。しかも、ターンごとにシールドが増えていくから一体何なの状態である。リンチか何か、その他諸々か。
だが、唯一ついえるのは、光文明の癖して非常に攻撃的だと言う事だった。
「私のターン、《天英雄 ヴァルハラ・デューク》を出して、ターンエンドです……!」
(クリーチャーは私を護ってくれる仲間……!! だから私もその期待にこたえないと……!!)
天英雄 ヴァルハラ・デューク P 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 7000
マナ武装7:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに光のカードが7枚以上あれば、次の自分のターンのはじめまで自分のクリーチャーは破壊されない。
W・ブレイカー
マナ武装7によって、次のターンだけホタルのクリーチャーは破壊されない。しかし。
「我のターン、呪文《DNA・スパーク》でヌシのクリーチャーは全てタップじゃ」
まずい。これでブロックは出来なくなってしまった。
ガラ空き同然、さらにS・トリガーが出なければ負けは確定である。
「《シャクシール》! 《キルト》! 《アリエース》! シールドを一気に叩き割るのじゃ!!」
1枚目、2枚目、3枚目、4枚目、とシールドは殆ど割られた。
破片が体のあちこちを切り裂く。血が吹き出て、服を汚した。
見れば、ぱっくりと腕や足が切り裂かれて割れてしまっていた。
「い、痛い……ッ!!」
「ふふーむ。やはり乙女の苦痛に歪む顔は最高じゃの」
とんだ変態だ、とホタルは朦朧する意識の中感じる。
しかも、先ほど入れ替えたシールドは残して。
向こうも当然馬鹿では無いから、罠を自分から踏みに行くような馬鹿な真似はしないはずだ。
「諦めるが良い。乙女よ。ククク……」
眼をカッと見開き、ハーシェルはブツブツと呟き始める。
そして、「ふむ」と分かったように声を漏らすと言葉を発し始めた。
「ヌシ、クリーチャーが自分の仲間だと思って居るな?」
「なっ! でも、それがどうしたって言うんですか!」
「何、我の能力は人間の”心情”を見透かすこと。ただし、ヌシの考えている戦略や記憶云々にまでは干渉できんから安心せよ」
しかし、卑しくハーシェルは笑みを零した。
「だが我の嫁になるに当たって教えてやろう、小娘」
「……なんですか、この期に及んで」
ギラリ、と不気味に目の前の一角馬の瞳が輝いた。
小宇宙のように吸い込まれそうだ。
まるで、奥の奥まで引き込まれるようだった。
「信頼など、妄想だ」
「?」
「お前の目の前にあるそれは、まさしく幻想そのもの」
にやぁーと口角が引きあがった。
「仲 間 な ど 最 初 か ら い な い。 全 部 ヌ シ の 妄 想 じゃ」
さらに、ハーシェルは追い討ちを掛けていく。
「信頼して何になる? その先にあるのは、裏切りからの虚無か、絶望か---------そんなものがあるくらいならば、我の傍にあるべきは-----------己が欲望を満たすための器だけで十分よ!!」
「な、何を!!」
「ヌシはその器になるのじゃ……壊れるまで我が傍に居ておくれ」
邪念が増している。光のクリーチャーのはずなのに。
「信頼なぞ、要らん」
ハーシェルの言葉は続いた。
「全て、我が破壊してくれよう」
***
我は気高き一角獣。我がいた幻獣界では我は畏怖の存在として崇められていた。昔から人とクリーチャーは共存すべき存在とされていた。
何時の日からか、そのことも忘れられていたが。
最初こそ森の他のクリーチャーからも敬われていたが誰も次第に近づかなくなった。
さびしかった。
皆が皆、神話の伝説を鵜呑みにして我に近づこうとしない。
ユニコーンにむやみに近づけば殺される、と。
だがそんなことは我はしない。
いつだって、生き物は皆平等に、優しく扱ってきたつもりだ。
ある日のことだった。
薬草摘みに来たと思われる少女が迷ったのかやってきた。
我はその女に近づいた。
女は怖がらなかった。
その女を森の出口まで連れて行った。
そのときの女の屈託の無く、汚れの無い笑顔ときたら! 我のハートを鷲掴みにしてそのままもっていってしまった。
初めて我は”女”というものに恋心を抱いた瞬間だった。
「優しいんですね」
という女の言葉に。
我にとって、女は我の寂しさを埋めてくれる唯一の存在になった。
毎日、女はあの日以来やってきた。
毎日、他愛のない話ばかりをした。
毎日、短い時間でも傍にいられるだけで十分だった。
----------そんな満たされた”毎日”が続いたある日。
鎧を纏った王宮の兵士が現われた。ここら一帯を圧制で支配する、天使(ジャスティス・ウィング)軍だった。連中は大量の報酬に眼が眩んだ人里の民を使って組んだ軍を傭兵として、こちらに差し向けていたため、クリーチャーの姿はなかった。
どうやら、我の角で不死身の薬を作りたいらしかった。
そんなもの存在しない。全て伝説上の嘘だ。
なのに奴らはやってきた。
だが、そもそもここは秘境のはず。奴らに分かるはずが無い。
それでも我は最後の最後までなるべく兵を殺さないように戦った。
あの女の信頼を裏切りたくなかったから。
だが兵の1人が卑しい笑みを浮かべて語りだした。
「ああ、そうそう。女がテメーの所に毎日来ていただろう」
「何を……?」
「あいつはオレの妻だよ、妻!!」
「!!」
妻……!?
「な、何を」
「あいつはな、テメーに自分の居場所を吐かせるためにオレが送りつけた”囮”だ。案の定、心を許したお前は自分の居場所を自分から吐いちまったって、アイツ笑ってたぜ」
当然だ。一角獣に純潔か不純を見破る能力など、無い。
「 オマケに子供が2人もいる。カッカッカッ、それをテメーはアイツのことを本当に好いていたらしいな。馬鹿らしい。純潔を司るユニコーン様の癖に、自分の傍にいた女に男がいるかどうかも分からなかったのかよ! ゲヒャッハハハハハ!!」
男だけではない。周りにいる兵士は皆笑っていた。
その瞬間------------我の中にある”何か”が切れた。
散々嘘を吹き込んで我を孤独にしたのは誰だ?
我に嘘をついて欺いたのは誰だ?
”不純”な女を我に近づかせたのは誰だ?
ああ、お前ら人間だわ。
うん。
「裏切ったな、我に嘘をついたなあああ!! 散々馬鹿にしやがって、散々我を蔑ろにしやがって、もう許さんぞ人限共があああ!!」
”死ね”
突貫。
角が硬い鎧を貫き、生温かい何かを抉った。
引き抜いた。
紅い水が美しく、そして醜く地面に飛び散る。
目の前の”モノ”は倒れてそのまま動かなくなった。
だが、我の標的はそれだけでは納まらなかった。目の前に生きとしていける者、すべてだ。
***
気がつけば、我は人里にいた。街は血の海。辺りには赤い水に白い塊が浮いたような死体ばかりだった。どうやら森にやってきた兵士を突き殺して血祭りにするだけでは飽き足らず、街の民も皆殺しにしてしまったらしい。
もう動かないガラクタには、頭蓋を貫かれた生々しい後が残っていた。
面影など分からなくて、どれがあの女かだなんて分からなかったが、どうせ我を欺いたのだから関係ない。
「くそっ、くそっ……何故、何故私は-------------!!」
だが私は後悔した。
何度も神に懺悔した。
でも、この黒い感情は収まりきれなかった。
怒りでも、憎しみでもない。
ただただ、重罪への責務が我に襲い掛かった。
何もかも失った私は-----------ある日、崖から飛び降りて自らこの命を絶った。
----------人の気持ちが読めるようになりたい、という1つの願いを残して。
心から愛すことができる者なぞ、最初からいなかった。
全部、我の妄想だった。
全部、全部、我の幻想だった。
- Act4:一角獣は女好きか? ( No.45 )
- 日時: 2014/06/28 07:34
- 名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)
***
「はは、笑えるじゃろう? そして今日、我は此処に再び生まれていた。我が死の淵で望んだ、”人の心を見透かす能力”を持って!」
ハーシェルは自嘲した。
自分にも、この世のすべても全部投げてしまっているようだった。
この世にやってきて、まず自分が感じたのは、人間の欲望だった。なんと醜く、醜悪な感情なのだろう。なんと薄汚れきった”心”なのだろう。
ならば、自分がこの世界を思い通りにしてやる。
そのために、自分と波長の合う純潔の乙女を探していたのだった。
……無論、一連の所業から下心が無かったわけではないが。
そして目の前にいるホタルの眼を見つめようとした。
そのときだった。彼女の瞳から大粒の雫が零れ落ちて、崩れた。
「……さびしかったんですよね?」
「ふん、同情など要らぬ」
「私に……似てますね」
とくん、とハーシェルの胸が跳ねた。
自分の瞳を真っ直ぐに見つめる彼女の眼がとても美しく、澄んでいたからだ。
そこに濁りは無い。
カードを引くホタル。傷だらけの彼女だが、唯一この戦いを終わらせる必勝方を確かにこの手に誘ったのだ。
「……開示せよ、黙示録。呪文、《アポカリプス・デイ》!!」
アポカリプス・デイ R 光文明 (6)
呪文
S・トリガー
バトルゾーンにクリーチャーが6体以上あれば、それをすべて破壊する。
バトルゾーンに大量に存在するクリーチャーの軍勢、それらが全て裁きの光を前にして焼かれた。
-----------皆、ごめん。
大災害を意味する名を冠したこの光は、増えすぎた生命を淘汰しようとする神の意思によって下される。
「クリーチャーが6体以上いるので、全て破壊します」
「なっ、何だと!?」
「これで、邪魔は入りませんね」
ターンエンドです、とホタルは静かに言った。
青筋が浮かぶハーシェル。
「良いだろォ、その頭蓋砕いてくれるわァァァァァ!! 《白壁の聖霊龍ヌーベル・バウラ》召喚じゃァァァァ!!」
「私は、人見知りで誰かに何かを伝えるのが苦手でした」
語りかける彼女の声は一瞬、ハーシェルの動きを止める。
「でも、色んな人と関わっていくうちに、人に”何か”を伝えるのってとても楽しいんだって気付いたんです。新聞部に入ったのもそう」
そして、一瞬の迷い、ためらい、全てを捨ててホタルはカードを引いた。
「私は今、”貴方に伝えたい”!! ”貴方を助けたい”って!!」
「女の分際で戯言を、吐くなァー!!」
ドス黒いオーラが一角馬の周りを包み込んだ。
そして、それは完全に邪悪な魔物と化す。
意味の無い悲しみと怒りに暴れ狂う真の怪物だ。
しかし。
その全てを受け止めるように、今、此処に、淡島ホタルは立っている。
「《龍聖霊ウルフェウス》召喚ですっ! 墓地にエンジェル・コマンドがいるため、効果で《ドラゴンズ・サイン》を唱えます!」
龍聖霊ウルフェウス SR 光文明 (7)
クリーチャー:アポロニア・ドラゴン/エンジェル・コマンド 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の墓地にエンジェル・コマンドまたはドラゴンが1体でもあれば、自分の手札から「S・トリガー」付きの呪文を1枚、コストを支払わずに唱えてもよい。
W・ブレイカー
《ウルフェウス》の効果は強力だが、墓地にエンジェル・コマンドかドラゴンが落ちていなければならない。
さっきの場のリセットはこのための布石だったのだ。
今此処に、龍の印が押された。神々しき光と共に、支配を司る精霊龍がその姿を現す。
暗闇を照らし、支配することで後に残るのは希望と慈悲だ。
「闇を制圧してこの世界から悲しみを消してください、《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》!」
支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ P 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 7000
ブロッカー
このクリーチャーまたは自分のコスト3以下の光のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選び、タップしてもよい。そのクリーチャーは、次の相手のターンのはじめにアンタップされない。
W・ブレイカー(このクリーチャーはシールドを2枚ブレイクする)
現われたのは、神々しい光を放つ天空の使者。しかし、唯の使者ではない。龍だ。龍の力を得た天の使者、その名もエンジェル・コマンド・ドラゴン。
司るは、”正義”。
「《ヴァルハラナイツ》の効果で《ヌーベル・バウラ》をタップ! さらに次のターン、アンタップできません!」
「なっ-----------!!」
「このカードは私の切札です! そして、私の魂ともいえるカード……。これで貴方に勝つ!」
「ぽっと出の小娘がぁぁぁぁぁぁ!! 我の怒りを鎮められるものかあああああ!! 我のターン、《潜守の精霊龍 フロマイラム》召喚だあああ!!」
怒りの咆哮が虚しく、空間に響いた。
しかし。
もう、彼女はその程度では揺るがない。
「私のターンです。今度はG・ゼロで《巡霊者ウェビウス》に、《瞬封の使徒 サグラダ・ファミリア》召喚! 《ヴァルハラナイツ》の効果で《フロマイラム》をフリーズさせます!」
瞬封の使徒サグラダ・ファミリア UC 光文明 (2)
クリーチャー:イニシエート/ハンター 1500
このクリーチャーがタップされている時、相手は呪文の「S・トリガー」能力を使えない。
「ま、まさか-------------!!」
「呪文、《ダイヤモンド・ソード》で私のクリーチャーは召喚酔い及び、攻撃できない効果が全て無効化されます。どういうことか、分かりますよね?」
説明されずとも分かった。
直感的に。
ホタルの場に全力待機していたブロッカー軍はこの瞬間、全て刃となってハーシェルのシールドへ。
「《サグラダ・ファミリア》で攻撃!」
「あ、あ、ああ……!!」
声も出ない。
何故なら、《サグラダ・ファミリア》がタップされている間、相手は呪文のS・トリガーが使えなくなってしまうからである。
ハーシェルのデッキには呪文のS・トリガーしかない。
しかも、手札にシノビはない。
逆転の可能性は、0だ。
「《ヴァルハラナイツ》、《ウルフェウス》で残りのシールドを全てブレイク!」
ビームが連続で照射され、結果シールドは全て叩き割られた。
美しく、醜く、そして哀れな一角馬を護るものはもう、無い。
《ウェビウス》の攻撃が決まれば、そこで戦いは終わる。
「……我の負けだ。一思いに止めを刺せ」
一角馬は言った。
「我を守るものなど、最初から無かった」
「此処にいますよ」
一角馬は思わぬ光景に目を見張った。
少女が歩いてくる。
あれほどの仕打ちをした少女が、自分から歩いてくるのだ。
「貴方は本当は優しいクリーチャーだって分かったから。わざわざダイレクトアタックをする必要はありません。私は貴方に”勝った”、それだけの事実があれば十分です」
これ以上、貴方に辛い思いはさせたくないから、とホタルは添えた。
「ヌシ……本当に……物好きな奴じゃの」
「でも、嫁になるって申し出は勿論ですけど跳ね除けますし、勝ったんだから、こちらの言う事を1つ聞いて下さい」
生意気な女だ、とハーシェルは思ったが、いやそれ以上に度胸のある女だとも思った。
うーん、そうですね……と考える仕草をする彼女だったが、直ぐに答えた。
「私の……私のナイトになってくれませんか?」
ハーシェルは、その笑顔を見てもう一度思い出した。
少女の屈託の無い笑顔を。
ああ、もう一度信じて良いのか?
この光を。
この笑顔を。
だが、ハーシェルはもう疑わなかった。
目の前のこの少女に濁りは無い、と。
拒否権など、とっくに棄てている。
「喜んで、じゃ」
気がつけば、自分を覆っていた邪気は消えうせていた。
この少女こそ、我が主に相応しい。
そのときだった。
ホタルの視界は急に暗転し、そのまま地面へ落ちていく-------------
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