二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Act7:青天霹靂 ( No.327 )
日時: 2016/08/17 16:36
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ***



 観客席の鎧龍チームの席は、緊迫した空気に包まれていた。

「……嘘っ、何あのクリーチャー!? もうやだ、何なのアレ!! さっきから気持ち悪いのばっかだしぃ!!」
「落ち着けコトハ。気持ち悪いのならばトイレで思う存分リバースしてくるが良い」
「デリカシーは無いのか、あんたに!!」

 ガァン、とレンの顎に拳を食らわせるコトハ。
 「元気で……何より……」と今わの際の言葉を吐き、倒れるレンを横目に、フジは分析するようにタブレットを見ながら、言った。

「あれが大元のボスってところか……なんつーやつだ。出しにくいかと思えば、G・ゼロでの早期召喚も可能な訳だしな」

 フジは溜息をつく。聖羽衣の隠していた脅威を前に、やはり動揺を隠せないのだろう。

「恐怖はまさしく……墓地からやってくる……バラバラにしても石の下から……ミミズのように」
「武闘先輩、それ以上はいけない」
「だが断る」
「やめてください」

 明らかに某奇妙な冒険の台詞を感じ取ったホタルが真っ青な顔で突っ込む。
 しかし。ノゾムとヒナタの状況がよろしくないのは確かだ。前回とは対照的に、相手は単純に物量で2人を押し潰そうとしているのだから。

「ノゾムさん……! 私、信じてますから……!」
「それは僕達だって同じだ」

 レンがホタルの肩に手を置く。
 以前の話を聞いてからか、彼は心強い理解者になっていたのだ。

「まして、あいつのことを誰よりも想っているのならばな」
「先輩……!」
「大丈夫よ。あのグラサン馬鹿とノゾムの力はこんなものじゃないわ」

 ——こんなところで、あんたが負けるわけない。そうでしょ、ヒナタ!
 コトハは見つめる。
 巨大なる霊獣と相対するヒナタの瞳を画面越しに——



 ***



超霊獣 レオニダス・キルギルティー 光/闇文明 (10)
進化クリーチャー:エンジェル・コマンド/キマイラ 12000
墓地進化GV-自分の墓地にある光と闇の多色クリーチャー3体を重ねた上に置く。
G・ゼロ:自分の墓地に名前に《蟻獅子》とあるクリーチャーが5体以上ある時、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
このクリーチャーが場に出た時、またはターンの終わりに、このクリーチャーの下に重ねられている名前に《蟻獅子》とあるクリーチャーを1体、バトルゾーンに出してもよい。
T・ブレイカー




「嘘、だろ!? 折角破壊したと思ったのに——!! それどころか、厄介なのが新しいのも含めて3体に増えやがった!!」

 ただでさえ、パワーが高くて1体処理するだけでも精一杯だったのに、それが2体に増えてしまった。
 しかも、《レオニダス》に至ってはパワーとコストの関係上、ヒナタのデッキでも除去するのが難しい始末。

「俺のターン——!! クソッ、せめて1体だけでも——!! 《メテオ・チャージャー》で《ミルメコレオ》1体を破壊だ!」

 しかし。これでも焼石に水。隕石が降り注ぎ、蟻獅子の1体を砕くが、まだもう1体残ってしまっている。降り注いでいるのはその焼石であるのはさておき、ブロッカー1体潰した所で、このロックは止められない。

「ターンエンド——!!」

 ヒナタ
 手札2
 マナ5/8
 墓地1
 next turn:キイチ

 確実に言えるのは——もう次は無い。
 全てはノゾムのプレイングに掛かっている。

「キイチ君。そろそろ終わらせたまえ。下手に長引かせると、今度は全体除去で全てやられかねん」
「分かってますよ先輩。俺のターン、《モエル・ゴー》進化——《獣鬼装甲 トラマルGGG》!!」

 再び現れる《トラマルGGG》。そして——通算、4度目のガチンコ・ジャッジをヒナタへ仕掛けた。
 
「さあ行くぜ、三連ガチンコ・ジャッジ!!」
「ッ……!!」

 1度目——ヒナタが《トップギア》で、キイチが《モエル鬼 スナイパー》でキイチの勝ち。
 ——や、やべぇ……!! もう、嫌な予感しかしねえ!!
 2度目——ヒナタが《爆ぜる革命 ドラッケンA》なのに対し、キイチが《黄金龍 鬼丸「王牙」》——またもヒナタの負け。
 そして3度目——

「嘘……だろ」

 ヒナタの力の抜けた声と共に結果がすぐに出た。
 ヒナタが《めった切り・スクラッパー》なのに対し、キイチは《R・S・F・K》——完全に、ヒナタの負けだ。
 つまり。《トラマル GGG》の効果が発動する——

「さあこれで俺は3度のガチンコ・ジャッジに勝った!! 手札からコスト12以下のハンターをバトルゾーンへ出すぜ!!」
「く、くそっ、すまねぇ、ノゾムッ!!」

 ぐっ、と歯を食いしばり、虚空を睨むヒナタ。
 そこから——白き雷に包まれた勝利の龍が姿を現す——

「その牙は必勝の刃!! 集結し狩人の魂を今此処に呼び出さん!! 出でよ、天頂の力に目覚めし勝利の化身!!」

 その胸には宇宙の力が込められている。
 純白の身体には黄金の魂が刻まれており、身の丈もあろうかという大剣を掲げ、それは現れた。
 人はその名を聞いて震える。
 




「召喚、《「必勝」の頂 カイザー「刃鬼(ばき)」》!!」



「必勝」の頂 カイザー「刃鬼(ばき)」 ≡V≡  無色 (11)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター/ゼニス 14000
このクリーチャーを召喚してバトルゾーンに出した時、相手のシールドを数え、その回数相手とガチンコ・ジャッジする。その後、こうして自分がガチンコ・ジャッジに勝った数、ハンターを1体、自分の墓地、マナゾーン、または手札からバトルゾーンに出す。
T・ブレイカー
エターナル・Ω



 次の瞬間——会場は沸き立った。
 とうとう、キイチの切札が姿を現したからだろう。
 それはいよいよ、聖羽衣が鎧龍へ勝利の王手を指したことを意味していた。
 天頂たるものであることを見せつけるかのように、強大な勝利の化身は大剣を振り上げる——

「《「刃鬼」》の効果発動——こいつが出た時、相手のシールドを数え、その回数だけ相手とガチンコ・ジャッジする!! 本来こいつはこのデッキではオマケみてーなもんだからな。《トラマル》と相性が良いというわけでもねえし。だが——シールドが元々多いこのルールならば話は別だ!! 最後にテメェらにとっておきの絶望を見せてやる!!」

 ——てっきり《「王牙」》が来るかと思ったが——もっとやばいのが——!!
 ヒナタは身構える。
 そして——キイチが指を指した。

「さあ、今度は6連ガチンコ・ジャッジだ、ヒナタ!!」
「ーっ!!」

 もう、身構えても無駄であった。
 この効果は非常に危険だ。1度負けただけでも致命傷になりかねない。
 なりかねないにも関わらず——

「——”4勝”」
「いっ……!!」

 ——気付けば、ヒナタは自分が6回のガチンコ・ジャッジの中で4度も負けてしまっていることを察する。
 最早、こうなれば止まらない。獅子怒による援護を受け、キイチの巨大クリーチャー達で一斉に決める——それがこの2人の戦法だったのだ。

「行け、《アドレナリン・マックス》、《ガンリキ・インディゴ・カイザー》、《モエル鬼スナイパー》——そして《黄金龍 鬼丸「王牙」》!! 残念だったなァーっ!! 《リュウセイ》の効果で全員スピードアタッカー、しかも《アドレナリン・マックス》がタップされたとき、ドラゴンは全員アンタップ!! これはもう、いくら何でも防ぎきれねーだろ!!」

 ヒナタは立ち尽す。
 余りにも大きな軍勢を前にして——笑みを浮かべた。



「ヒナタ先輩ッ!!」



 言われるまでも無い。ヒナタは頷いて返した。それを見て、ノゾムも安心したようだ。
 思い返す。
 決戦の前日のことを——

Act7:青天霹靂 ( No.328 )
日時: 2016/08/17 20:45
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ***

「だけどよー、どうしたんだよ。お前、いきなりそんな吹っ切れたっつーか、何つーか」
「え?」

 宿泊する部屋の中で、対戦をしながらであるが、ヒナタはノゾムに問うた。
 急に目に輝きが戻り、同時にプレイングにもキレが戻った彼は見違えるようだった。

「おめーひょっとして、誰かと入れ替わってるんじゃねえか」
「ひふぁいひふぁい(痛い痛い)!! 頬引っ張らないでください!!」
「で、どうしたんだよ」
「……いや、ちょっと空港で出会った人に諭されちゃって」

 へえ、とヒナタは応える。
 空港で出会った少女に、突然話しかけられ、つい自分の悩みを吐露してしまったのが始まりだという。
 ——よっぽど、弱ってたんだなあ、こいつ。……ちょっと悪いことしちまったなあ、こないだは。俺はコイツに激飛ばすつもりが、こいつを追い詰めてた。
 
「ま、あれだな。お前の目に元気が戻って良かったぜ。此処最近のお前は、ずっと気張ってて正直怖かったぞ?」
「は、はい……なんつーか、昨日は本当にすいませんでした」
「良いんだよ。俺こそ悪かったな。サイテーだよな、後輩を追い詰める先輩なんてよ」
「そ、そんな、とんでもない!」

 自嘲気味に笑うヒナタに、慌ててノゾムは返す。

「お、オレは、先輩に感謝してるんです!! 先輩がああやってオレを叱ってくれたから……オレは問題から目を逸らさずに済んだんだ」
「……そっか。ああそうだ、ノゾム」
「それに、オレの方こそ……生意気な口をまた利いてすいませんでした」
「いーんだよ。もう、そんな小さいことで怒っちゃいねーよ」

 ぽん、と彼の一回り大きな手がノゾムの肩に置かれる。
 とても、暖かい。そして、笑う彼の顔は太陽のようだ。

「周りからお前は期待されてる。お前にとって、それが重圧になってるのをもっと早く気付いてやれれば……もっと早く気付けたかもしれないな」
「先輩……オ、オレ、やっぱりまだドキドキするんすよ……あいつらと戦うと思うと」
「でも、それだけお前は強くなってるんだ。少なくとも、鎧龍に来たばっかで、クレセントに振り回されてたお前はもう居ないんだ」
『そーだよっ、ノゾムッ!』

 ぎゅっ、とノゾムは誰かに後ろから抱きしめられる感覚を覚えた。クレセントだ。いきなり実体化するので仰け反ってしまうも、喜んだ彼女に捕まえられるという結果に。
 にひひ、と笑顔で『ノゾムは強くなってるもん! 自信もっていーんだよ!』とクレセントは言う。

「……オレ、ほんとバカだなあ……認められたい、認められたい、って思ってたのに、いざ認めてくれる人が増えてきたら、自分の実力まで疑うようになっちまって……」
『無理もあるまい。自分の力が発揮され、勝てるかどうかはその時次第だ』
「白陽」

 ヒナタの傍で腕を組んだ白陽が、頷く。

『極端な話、まだやってもいない勝負の結果を憂うのは馬鹿馬鹿しいということだな』
「ああ……大体同じこと言われた」
「まあ、何だ。もう今となっては良いじゃねえか。デッキも完成したみてーだし、これならいけるだろ。俺の天門にも勝ってるし」
「はいっ!!」

 屈託のない笑顔で、ノゾムは答える。

「しかし楽しむ心、か——誰だか知らねえがそいつ良い事言うじゃねえか。俺も昔は、あいつと遊ぶのが楽しくてひたすらデュエマやってたな——」
「あいつ?」
「ああ。幼馴染だよ——そうだ、ノゾムっていつ頃からデュエマ始めたんだ?」
「え!? オ、オレは小3くらいの時始めたんですよ。じいちゃんが孫のいる友達から譲ってもらったって言って渡されたのが最初で。でも、知ってる通り、オレあんまり友達いなかったから、カードショップとかに行ってたんすよ」
「……そうか」
「だけど楽しかったですよ。やっぱり。何も知らないでカードで遊んでる時は。初心忘れるべからず——本当、大事なことを忘れてばかりだ」

 よし、とヒナタは締めくくるように言う。

「なぁノゾム。俺も実は、怖いって思ったんだよ。何度か。俺は2回もキイチにやられてる」
「あの人は……本当に酷い人です。ヒナタ先輩をあんなふうに言うなんて」
「だけどな。あいつの事を憎まないでやってくれ。きっと、腑抜けてた俺に喝を入れてくれたんだ、あの時も」
「……」
「それもお前の枷になってると思ったんだ。俺は」
「……オレは」

 ノゾムは考えた。
 あの時。自分もヒナタも罵声を浴びせられ、
 確かに、私怨を抱えたまま試合に挑むのは、さっき掲げた”楽しむ心”に反する。
 それは、果たしてあの少女の、いや自分自身が本当に望む試合になるのか——
 ——いや、違う。純粋にぶつかり合えば良いだけだ! 余計な事は考える必要はない! 

「——そうっすね。明日は切り替えていきます!」
「ああ、その意気だ!」
『やったぁー! 元気なノゾムが帰ってきた!』
『ヒナタ。お前も明日は落ち着いていけよ』
「わぁーってるって。だからノゾム。お前がもしもまたくじけそうになった時は俺に言え。俺は絶対、お前の味方だ」
「……はいっ!!」




 ***



 ——!!
 少し、放心状態だったらしい。
 ヒナタは相手を見据える——途端にシールドの破片が飛んだ。

「叩き割れ、《トラマル》!! W・ブレイクだ!!」

 ヒナタの最後のシールドが割られる。
 同時に、ノゾムのシールドが割られた——しかし。
 最後のヒナタのシールドが収束した。

「ノゾム、お前が俺に一生懸命なのに、俺がお前に応えないわけがねぇだろうが!! 此処で逆転だ!! 呪文、《イフリート・ハンド》!! 効果で《ミルメコレオ》を破壊!!」
「んあ!? 何考えてやがる!! 狙うのはそっちじゃねえだろ!!」

 見れば、鎧龍の残るシールドは4枚。
 ノゾムのシールドが今、全て割られようとしていた。

「《カイザー「刃鬼」》、シールドをT・ブレイクだ!!」
「ッ……!! まだまだぁ!!」

 残るノゾムのシールドは1枚。
 さっき、《スーパーエメラル》で仕込んだシールドだ。

「ノゾム——頼んだぞ!!」
「はいっ!!」
「《鬼丸》、最後のシールドをブレイク!!」

 大剣が振り下ろされる。それが最後のシールドを割った——同時に、キイチが勝ち誇ったように言う。

「残念だったな!! それがもうトリガーだろうがなんだろうが、水単のテメェじゃ俺らに逆転は出来ない!! 十六夜ノゾム!! 次の獅子怒さんのターンで、ジ・エンドだ!!」
「——そうだな」

 次の瞬間。




「——お前達がそう思うならそうなんだろーよ!! だが、それはお前たちの限界、お前たちの今までの常識に過ぎない!! S・トリガー、《サイバー・I・チョイス》!!」



 虚空を破り、電子世界の住人が現れた。
 あらゆる防御スペルと召喚術に通じた彼は、ノゾムの手札からS・トリガーと付くカードを操ることが出来るのだ。




サイバー・I・チョイス R 水文明 (7)
クリーチャー:サイバー・コマンド 3000
S・トリガー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、「S・トリガー」を持つカードを1枚、自分の手札からコストを支払わずに使ってもよい。



「はっ、それで一体どうするつもりだ!!」
「まずは、《I・チョイス》の効果発動!! 俺が使うのは——《終末の時計 ザ・クロック》だ!!」
「はっ、今更足掻いても無駄だって言ってるだろうが!!」

 強制的にキイチのターンが終了させられる。
 確かに、このままではノゾムは次のターンに獅子怒に倒されるだろう。
 しかし。ヒナタが必死に蟻獅子2体をどかしてくれたおかげで、活路が見えたのだ。

「オレのターン、ドロー——そして《エビデゴラス》の効果でもう1枚ドロー!」

 ——見せてやる。これがオレの、革命!!

「マナをチャージし——6枚のマナをタップし、《サイバー・I・チョイス》を進化!!」

 ——オレの革命は先輩達やホタルに比べても小さいかもしれない!! だけど、この思いは、楽しむ心と勝ちたいっていう思い——相反する2つは今もカチあってるけど、何かを”マジ”で通すことなら誰にだって負けないんだ!!
 今までの経験。全てが無駄ではない。
 今までの苦難。何一つ不要ではない。
 ノゾムの積み上げて来たもの、全てが今——解き放たれようとしていた。
 《サイバー・I・チョイス》の身体が稲光に包まれ、今こそ進化を遂げようとしていた。

「無限の知識を相乗し、今此処に革命を証明せよ!!」

 その身体は龍素の力を集積し、電撃のように迸っていく。 
 理想と現実のギャップ。それさえも乗り越えて、龍戦士は目覚めた。
 青天、霹靂を飛ばす勢いで龍程式の革命軍が今、顕現する。




「稲光のように速く、そして確かな希望となれ!!
《革命龍程式 プラズマ》!!」

Act7:青天霹靂 ( No.329 )
日時: 2016/08/21 12:41
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「何だ……!? 今更、そいつに何が出来る」

 見たことのないクリーチャーを前にして、獅子怒は慄くように言った。
 しかし。所詮は只の進化クリーチャー。ブロッカーも持っていないようで、もう防御策は残されていないはず。
 強いて言うならば噂の革命ゼロトリガーくらいだが——それも運が絡む上に手札に無ければ意味が無い。
 よって、獅子怒はこれを危機に値しないと判断したのだった。
 が、しかし。

「《プラズマ》の効果発動!! オレはカードを4枚引く——この時、《エビデゴラス》の龍解条件クリアだ!!」
「なっ!?」
「こいつ……たった1枚のカードで……!!」

 龍素の空母が目覚める。
 そして、無限の蒼穹へと飛び立つため、全ての龍素をフル回転させ——究極の結晶龍を投影した。




「弱き者の盾となれ!! そして世界を導け——龍解」




 次の瞬間、蒼穹に浮かび上がる強大なる龍。
 それが、証明するのは希望と勝利、そして今此処に刻む伝説だ。

「立証開始、《最終龍理 Q.E.D+》!!」

 0と1。その数列が龍の周りを舞う。
 慄く獅子怒。しかし、これでもまだ勝利には届かない。
 次には何をしてくるのか、と目を見張っていたが——




「ターンエンドだ!!」




 ——何もしない——!?
 獅子怒は顔を顰める。
 もう諦めたのか、と。しかし、既にシールドは全て割ってしまった。もしもターンを渡してしまえば《ドギラゴン》が暴れ出す可能性が非常に高い。
 そうなれば重大な負け筋が出来る可能性がある。しかも、《プラズマ》はタップされたままなのだ。
 
「ターンの始めに《メキラルコ》を破壊し——墓地から《ミルメコレオ》を復活させる。そして——私は君にターンを渡すわけにはいかない。そのまま、《レオニダス》でダイレクトアタックだ!!」

 次の瞬間、破滅の光がノゾムとヒナタを包んだ。
 シールドゼロの状態で叩き込まれる一撃——しかし。



「遍く知識の集積よ、遍く異変(エラー)への防壁となれ——革命2発動!!」



 次の瞬間——獅子怒のクリーチャーとキイチのクリーチャーは全て消失した。
 ——大いなる英雄の激流に包まれて。

「な、何が起こった——何が起こったって言うんだ!?」
「《プラズマ》の革命2だ! こいつが居る限り、オレのシールドが2枚以下ならばあんた達のクリーチャーが攻撃するとき、オレは手札からS・トリガーを持つカードを使うことができる!!」

 普通、S・トリガーとはシールドから手札に加えられた時にしか使うことが出来ない。しかし。《プラズマ》はそんな防御の常識に革命を起こした。これにより、手札に来て腐ってしまうS・トリガーカードが有効活用することが出来るのだ。

「今オレが使ったのは、《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》!! そのマナ武装7で、攻撃が届く前にあんたらのクリーチャーを全てバウンスした!!」


革命龍程式 プラズマ VR 水文明 (7)
進化クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン/革命軍 11000
進化−自分の水のクリーチャー1体の上に置く。
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、カードを4枚引いてもよい。
革命2−相手のクリーチャーが攻撃する時、自分のシールドが2つ以下なら、「S・トリガー」を持つカードを1枚手札からコストを支払わずに使ってもよい。



 獅子怒とキイチの表情に明らかな動揺が走る。
 つまり。手札が尽きない限り、ノゾムの防壁を崩すことはほぼ不可能。
 それどころか、今ので自分たちのクリーチャーが全滅してしまったのだ。
 ——しかも、こいつにはまだ弾が間違いなくある——!! どの道、このターンで決めるのは無理だ!!
 ターンを終える獅子怒。
 最早、彼に術は残されていない。

「——ノゾム、よくここまで頑張ってくれたな!! こっからは俺のターンだ!!
「はいっ!!」

 カードを引くヒナタ。
 そして、7枚のマナをタップし、顕現させる——

「《革命龍 アサルト》進化——!!」

 炎に包まれた龍が天高く舞う。
 そして、大いなる革命の剣と共に、より大きな龍へと昇華する。

「龍を超える龍よ、俺の鼓動に応えろ! 燃える炎の刃を振るい、革命を起こせ!」

 大きく、炎の翼を広げ——革命の時が訪れた。
 火文明の王にして、伝説の革命軍が咆哮する。



「暁昇る戦場に勝利を刻め!!
《燃える革命 ドギラゴン》!!」



 それは、絶対なる勝利への確信をもって現れた。
 伝説へと歴史を刻む龍は飛び立ち、無限の剣を掲げる。
 ノゾムが叫んだ。

「先輩!! どかん、って決めてやってください!!」
「ああ、分かってる!!」
「さっき、先輩の拳……震えてました」
「えっ……マジか」
「だけど、先輩にサポートして貰った分、今度はオレが返す番です!! 今度はオレが付いてます!! オレも、先輩を信じてますから!! オレ達の革命が合わされば、絶対に負けません!!」
「……そうだな!!」

 笑みを浮かべたヒナタは《ドギラゴン》に手を掛ける。
 震えは——止まらない。
 だから、もう1方の手で手首を掴む。

「燃え上がる紅蓮の魂よ、無限の剣となって新たな時代を切り開け——《燃える革命 ドギラゴン》の”革命0”発動!」
 
 ——鎖は解かれ、剣は無尽蔵なエネルギーを糧に蒼く輝いた。 
 ヒナタの迷いもまた、解き放たれたのだ。
 ——後輩に見抜かれるなんて——俺もまだまだだな——よし、行くぜ!!

「《ドギラゴン》は攻撃するとき、アンタップする!! つまり、無限攻撃だ!!」
 
 会場の止まらない歓声と共に。
 聖羽衣側からのどよめきと共に。
 そして、後輩の希望も全部背負い、《ドギラゴン》は飛ぶ。

「1撃目、T・ブレイク!!」

 薙ぎ払われたシールド。
 しかし、其処に反応は無い。
 そのまま更に剣が振り下ろされる。

「2撃目、T・ブレイク!!」

 焦りを隠せないキイチ。
 既にシールドは残り4枚。
 だが、それでもなお、更に攻撃していく。

「3撃目、T・ブレイク!!」

 そして、残るシールドは1枚。
 そして——

「4撃目、最後のシールドをブレイクだ!!」

 ——獅子怒の最後のシールドが収束した。

「させぬ……させぬわぁぁぁぁーっ!!」

 次の瞬間、再び虚空に天獄への門が開く。深淵の天使が再びその姿を現した。



「S・トリガー、《ヘブンズ・ゲート》を使い、光のブロッカーを2体までバトルゾーンに出す!! 《ミルメコレオ》と《メキラルコ》をバトルゾーンに!! 《メキラルコ》の効果で、《ドギラゴン》を無力化だ!!」




 次の瞬間、蟻の四肢と触覚が生え、《ドギラゴン》は一気に失速する。
 しかし、まだ動ける。
 そのまま最後の一撃を叩き込む。

「《ドギラゴン》でダイレクトアタック!!」
「《メキラルコ》でブロック!!」

 効果は復活するものの、既にアンタップし損ねたため、《ドギラゴン》はもう起き上がれない。
 しかも、《ミルメコレオ》の毒にやられ、そのまま破壊されてしまう。
 
「《ドギラゴン》すまない——ターンエンドだ!」
「ッ……!! ヒナタァァァァァーッ!!」

 叫ぶキイチ。
 8枚のマナをタップし、最後の攻勢に出た。

「《永遠のリュウセイ・カイザー》召喚!! ダイレクトアタックだぁぁぁーっ!!」

 流星の龍が飛ぶ。
 通れ、通れ、通れ!!
 その願いは——




「遍く知識の集積よ、遍く異変への防壁となれ——」
「希望と勝利と伝説の証よ、大いなる鎧と盾となり、俺を守れ——」
『——革命2、発動!!』



 ——2つの革命が合わさると同時に、阻まれた。《プラズマ》の効果で《スパイラル・ゲート》が発動し、《ミルメコレオ》がバウンス。
 更に《リュウセイ》の攻撃は、既に場に居ないはずの《ドギラゴン》によって阻まれた。
 それにキイチは驚きが隠せない。

「そ、そんな——しかも、そいつは破壊されたはず——」
「《ドギラゴン》の革命2は登場時効果。つまり、次の俺のターンまで、あいつが除去されても俺達は負けないしお前らは勝てない」
「ッ!! そ、そんな、馬鹿な!! む、無意味だったってことか!? 今の攻撃は——」
「どうやらキイチ君——此処までのようだ」

 獅子怒はノゾムの方に目を向ける。
 そして——彼は一気に叩き込んだ。
 勝利の一撃を。




「証明完了——《革命龍程式 プラズマ》でダイレクトアタック!!」

Act7:青天霹靂 ( No.330 )
日時: 2016/08/21 12:44
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

『勝者、鎧龍決闘学院——!! まさかまさかの聖羽衣、革命の前に落つ——!!』




 アナウンスが鎧龍の勝利を告げた。
 しばらくの間、呆然としていたキイチであったが——ふっ、と口元に笑みを浮かべると獅子怒の方を向く。
 彼も察したかのように頷いた。

「獅子怒さん。俺ら、負けたんすね」
「そうだな」
「だけど、こんなに清々しい負け方も久しぶりっすわ」
「鎧龍の革命の力——ふっ、見事だったな」

 そして、再び沸き立つ観衆。
 既に、彼らの声は勝者である鎧龍を讃えるものになっていた。
 とはいえ、聖羽衣学園の席からはどよめきが上がってはいたが。

「そんなっ、獅子怒さんが——キイチが負けるなんて、嘘やん……」
「ありえへんわ、最後の最後の攻撃が通らんなんて——」

 獅子怒に心酔していた者達の中には、まだこの敗北が受け入られない者もいる。
 しかし。

「勝った——勝ったんだよ、ノゾム!! お前のおかげで!!」
「はいっ!! でも、先輩があそこでシールドを全部削ってくれたから——」
「何だっていい! すっげーつえーじゃねーか、お前の革命! しかと見届けたぜ!」
「鎧龍の諸君」

 獅子怒の声が響く。
 2人は、聖羽衣チームの方へ向き直った。
 改まった態度で獅子怒が言う。

「良い試合であった。君達は聖羽衣の強固な守り、そしてキイチ君の攻撃も物ともせず、打ち勝ったのだ。私の心に、君達の名をしっかりと刻んでおくとしよう——暁ヒナタ、十六夜ノゾム」
「い、いやあ、そんな大げさなぁ」
「何時かのリベンジのために、な」
「あっ……やっぱそうなるんすか」

 彼もまた、デュエリストなのだ。
 負けたままでは収まらないのだろう。いずれ、また再戦する時が来ると告げる。

「おい、ヒナタ」

 横から入ったのはキイチの声だ。

「今度はぜってー、ぶちのめす。後、そこの十六夜ノゾムも、な!」
「おいおい、もうそんな演技しなくたって良いんだぜ? ヒールぶってたのは知って——」
「演技じゃねえよ? これはデュエリストとしてのリベンジ宣言だ。精々、次も俺をヒリヒリさせてくれや」
「——そうだな」
「後、言っておくぜそこのチビ」
「むっ」
 
 厭味ったらしくキイチは言う。
 それに苛立ちが隠せないノゾムであったが——

「こいつに着いて行くんなら覚悟しとけよ。生粋のデュエマバカだ。おめーも似たようになるぞ」
「望むところだ! オレは先輩に着いて行く、それは誰に何と言われようがゆるがねーよ!」
「……なーるほどねぇ。カッカッカッ、それでこそ暁ヒナタの弟子だわ」
「で、し……?」
「そうだとも。もうお前らの連携見てたら本当の師弟みてーでな——ま、今回は師匠が弟子に引っ張られてたよーな」
「おいコラ」
「まぁいい。また会う時を楽しみにしてるぜ」

 踵を返すと、彼は去っていく。
 獅子怒も一緒だ。

「じゃあな! 世界一のデュエルバカとその弟子! いずれ俺がまた斃すからくたばんじゃねーぞ!」
「行くぞ。キイチ君」
「へいへい」

 そんなやりとりの後、彼らはゲートの奥に消えていった。

「……素直じゃねぇなあ」

 ヒナタのそんな呟きは聞こえるはずもなく——
 何であれ、D・ステラ学校対抗予選の鎧龍の2戦目もまた、白星で終わったのであった。




 ***




「さーて、どうしますかね獅子怒さん」
「……うむ」

 獅子怒は唸った。
 あの少年達の事だ。

「……私の見立てでは——彼らは間違いなく”適合者”だ」
「いやぁ、ヒナタは元からって言ってるでしょ?」
「いや、間違いない。あの十六夜ノゾムも、ひいては鎧龍チーム全員がな」
「元々おかしかったんすよ。鎧龍チームは、リトルコーチがあの武闘フジ、そしてメンバーもヒナタに加えてコトハや(いつか失踪してた)黒鳥レン、に加えて1年2人……3年が1人もいねーじゃねーかよコノヤローって。絶対、あれは適合者で組んだんですよ、武闘フジが」
「君の知り合い、それもクリーチャー使いが2人もいるからな」
「しかも黒鳥も持っていたらしいから、分かってるだけでも3人。そして武闘フジは言うまでもなく」
「……ひょっとして、彼らはあの忌まわしき龍に立ち向かおうとでもいうのか? 世界に行くことで——そうなれば、彼らと私の目的は一致することになるが」

 会場の外に一先ず出て、誰にも聞かれていなさそうな場所で話し合う2人。
 
「最近の侵略者の出現は間違いなく超獣界での出来事と関係がある。俺の”キンジ”がデッキごと失踪したのとも関係あるんでしょうよ」
「それだけじゃない。間違いなく、忌まわしき龍達はアウトレイジやオラクルがこの世界からいなくなっている隙に侵攻を始めている」
「そうなれば獅子怒さんの——」





「——妹が失踪したってのも関係あるんじゃないか? って」




 
 声が響いた。
 虚空を見る。
 そこには——ローブを被った少年がいた。

「テメェ——アンカ!!」
「貴様。何をしに来た!!」
「いやぁー、まずは乙でしたと言っとこう。【悲報】聖羽衣終了のお知らせ、ってな、ギャハハハハハ!!」
「おい、ぶっ殺されてぇのかコラ」

 露骨に怒りを現したのはキイチだ。
 しかし、それでも尚アンカはへらへらと笑っている。

「おーっと。”レミ”についてすこーしだけ情報を漏らしちゃおッかなぁー。どーしよっかなぁー。漏らしちゃお」
「何!?」

 獅子怒はアンカを睨む。

「実はさぁー、お宅の妹さんは観戦に来てたんだよな、今日の試合に。お兄ちゃんの活躍が見たくてみてたのに、負けちゃって失望したってよぉーっ」
「貴様……!!」
「で、どうする? 俺実は今新しい切札持ってるんだけどよ。デュエルするか? もしお前が勝ったら会わせてあげても良いぞ? 愛しのレミちゃんになぁー!?」
「獅子怒さん、俺が行く! こんな奴の挑発に——」



「キイチ君」



 ぽん、と彼は手をキイチの肩に置いた。

「この件は私の責任だ——私の所為で、こうなってしまったのだ。私が奴を倒さなければ、私は一生自分が許せないだろう」
「そんな、獅子怒さん——」
 
 バッ、とアンカは手を獅子怒へ突き出す。



「決闘空間、解放!!」



 叫ぶとともに——黒い霧が辺りを包んだ——




 ***




「私のターン、呪文《ヘブンズ・ゲート》!! その効果で《神光の神官 ウェルベット》と《蟻獅子の聖霊 ミルメコレオ》をバトルゾーンに!!」

 切札2体を並べる獅子怒。
 《ウェルベット》には相手をタップインさせる効果があるので、これでアンカの動きを封じることは出来る——はずだった。

「俺のターン——じゃあそろそろ行こうか」

 7枚のマナをタップした彼は——言い放つ。




「《不死晃星 ソウルフェザー・ドラゴン》、召喚」




 タップされつつも現れたそれは——不死鳥の龍であった。
 更に。

「その効果でP(パイロ)・コアを持つステラアームド・クリーチャー、《飛翔衛星 アンカー・ザ・フライング》を出すぜ!!」
「無駄だ。そいつもタップされる」

 ——ステラアームド? 何だ、あれは。以前は使っていなかったはずだが——
 見たことのないカードに戸惑う獅子怒。

「ターン終了時に《ミルメコレオ》の効果発動!! 猛毒に犯されて——」
「残念だったな。《ソウルフェザー・ドラゴン》の効果発動!!」

 侵食していくウイルス。
 しかし。《ソウルフェザー・ドラゴン》は、それを受け付けた様子が一切無いことが窺える。

「そ、そんな馬鹿な!! くっ、私のターン——《ロードリエス》を召喚し、カードを引いてターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー」

 カードを引くアンカ。
 そしてそのまま——《ソウルフェザー》に手を掛けた。




「俺のP・コアを持つクリーチャーが攻撃するとき——マナにドラゴンが7体以上いれば、星芒武装が発動する!!」



 アンカの声と共に、《アンカー・ザ・フライング》が翔ぶ。
 そして——炎に包まれ、《ソウルフェザー》へ取り込まれていく——

「星芒武装……!? 何だ、それは!?」
「教えてやるよ獅子怒シド」

 にやぁー、と厭らしい笑みを浮かべるとアンカは答えた。




「世の中には、”もう元に戻せない物”もあるんだよ——」

Act7:青天霹靂 ( No.331 )
日時: 2016/08/19 03:22
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ***


「——馬鹿な——」



 その身体には傷一つ無かった。
 アンカが手加減したのだ。騒ぎになるのを、彼も恐れたのだろう。
 しかし。獅子怒は敗北した。
 圧倒的な星のカードを前にして——

「おい、獅子怒。無理だよ。テメェじゃ俺らには勝てない」
「今度は俺と——」
「話に、ならない」
「ッ……!!」

 キイチは口を噤んだ。
 自分よりも高い実力を持つ獅子怒が、圧倒的な差をつけられて負けたのだ。 
 勝てるわけが、なかった。

「今回はよぉー、俺の新しいカードを試しに来ただけだ。それじゃあな」
「こいつ……!!」

 彼はアンカを睨む。
 そう言う間に、彼は炎に包まれ——消失した。

「ぐっ」

 呻き声を上げると、獅子怒は地面に這いつくばる。
 やはり、負担は大きかったのだろう。

「キイチ君——この件はくれぐれも内密に頼む。奴は——いずれ、私が斃さなければ意味が無いのだ——」
「獅子怒さん——分かってます」
「私の手で、妹を——レミを救い出さねば……どんな手を使ってでも、だ——!!」

 彼は獅子。
 孤高に戦う、獅子。
 例え信頼する後輩に対しても、それは変わらなかった。
 目的は只一つ、大切なものを取り返すため——
 


 
 ***




「——アマツカゼ」
「はいはーい! 何何何、コロナ?」
「また、暁ヒナタが勝った——」

 溜息を彼女はつく。

「これでは、白陽を奪う時も少し苦労しそうだな」
「心配には及ばないってばぁー。《レッドゾーン》は既に幾つものクローンを作っている……それらの力を集結させれば革命なんてゴミカス以下!!」
「そうか。貴様以下か」
「え? ボクひょっとしてゴミカス扱い?」
「燃えるゴミは月水金」
「ちょちょ、ちょ、掴まないで! そのままゴミ捨て場に行くのやめよう! うん!」
「まあ良い」

 《レッドゾーン》のカードを手に取り、彼女は答えた。
 
「ところで、さっきから私達の後をつけている——貴様は誰だ」

 振り向く。
 そこには——少女の姿があった。

「んー、気付かれとらんと思うとったんやけど……カンが鋭いってのはこのことやなぁ」
「何だ、貴様は?」
「えぇやん、そんなこと。うちかて、無暗にあんたらと争いたいわけやないもん。ただ——ちょっち警告しとくわ」

 にこにこ、と笑顔を絶やさずに少女は言う。

「十六夜ノゾムと接触したのは——何が目的だ?」
「んー? 人の話は無視? あんたみたいな子って、何言うても聞かん坊ばっかで呆れて物も言えへんわぁ。でも、そのぶっとい肝に免じて教えてもええよ」

 ふぅ、と息をついた彼女は言った。




「——面白いからや」




 コロナは顔を顰める。
 面白いから。そう彼女は言った。
 単なる楽しみで、単なる娯楽で、英雄を持つ少年・十六夜ノゾムに接触したというのか。

「ほんまやでー。うちは、強い子が好きなんよ。でも、それ以上にデュエマのこと好きな子はもっと好きやねん。それがあんな顔しとったらほっとけんやろ?」
「……貴様は何者だ?」
「サービスはここまでやでー。こっからは”上”からの警告や」

 次の瞬間——言い知れない覇気がコロナを襲った。




「——これ以上、”X”に近づくな」




 コロナは再び顔を顰める。
 X——その意味は彼女自身が一番わかっていた。それこそが自分の目的であるのだから。
 
「あんたの目的は、もう大体わかっとんねん。星のカードを使い、何をしようとしとるん? あれはうちらも狙っとるんやさかい、あんまし勝手なことされても困るんよ。あんたは奴らと違って、話が通じそうやと思ったんやけど——」
「それはこちらの台詞。まさか、そんな警告で私が止まると思っているのか? 貴様の正体は大方分かった。だが同時に——あれを復活させた暁には、貴様らも一緒に滅ぼす所存だ」
「ちぇっ、まあええわ」
 
 呆れたように言うと、少女は踵を返す。





「ほな、次会った時はあんた消すわ。堪忍やで」




 ケラケラ、と薄い笑みを浮かべ——少女は消えた。
 文字通り、虚空へと——

「……奴らは……何をしようとしているんだ?」


 それを見つめ——コロナは溜息をつく。
 自らの理想の達成のためには、余りにも邪魔が多すぎる、と——

「まあ良い。消されるのは奴らだ。私には——この音速の侵略者が居る」
『勿論、ボクもね!』
「黙れ」

 そういうと、コロナもまた——閑散とした離れから姿を消した。
 ——そして、この場には誰もいなくなった。




 ***




「ノゾムさん、凄いです!」
「防御力は革命の中ではかなり強いだろうな。よくやったじゃないか」
「いやあ……オレはそれほどでもぉ」

 ホタルとレンに褒められ、照れているノゾムを後目に、ヒナタはデッキを弄っていた。
 帰りの飛行機の中であるが、次の試合に向けてもう準備をせねばならないのだ。

「お疲れ」
「んっ」

 通路に立っているのはコトハだった。
 自分の顔が覗き込まれているようで、どうにも気恥ずかしくなってくる。

「……どうした?」
「次は、いよいよあたし達の試合ね」
「そうだな。俺に至ってはチームで唯一の連戦やるからなぁ。胃が」
「そんなことでめげててどうすんのよ」

 ぐいっ、と彼女はヒナタの頬を掴むと言った。

「皆、ノゾム君の方に行っててあんたがかわいそーだからこうやって来てやってんのに」
「ひっでぇ言い分だ、いづづづづ」
「……ふん。とにかく、次はあたしも頑張るから」
「気張りすぎんなよ?」
「大丈夫よ——相手はあの有栖川ツグミだから、冷静にいかないと」

 思い返せば、コトハが負けたのも久々な気がする。
 彼女もまた、屈辱を味わっていたのだろう。

「とにかく、海戸に戻ったら特訓よ」
「分かってる……こっちもこっちでデッキ組み直さねえと。今回、完全に超次元はブラフだったけどどうしたもんかね……」
「……そうね」

 ——あたしの革命——
 ごくり、とコトハは息を呑んだ。
 果たして、それが彼の足を引っ張らない戦法に成り得るか。必ず、完成させなければならない。
 ——それに、あいつは——ヒナタの——そしてあたしの——ううううう!! 絶対にリベンジしてやるんだから!!
 コトハがリベンジに燃える中、ヒナタはふと窓の先の空を見た。
 海戸は、まだまだ先だ——


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