二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

短編6:Re・探偵パラレル ( No.422 )
日時: 2016/10/18 06:13
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 数秒後、そこにあったのは息を荒げているフェブラリーキャッツと床に頭から埋まっているヒナタ・アカツキの姿であった。
 残念でもないし当然の結果と言える。
 そのうえ、白陽も今度は蔓にぐるぐるに簀巻きにされて、完全に状況は一転してしまったと言えた。

「流石対下着ドロ専門探偵と言ったところだな、お見事」
「せめて床に埋まる前に言ってやれ」
「とにかく、黄金の聖杯は頂いていくわよ!」

 ピキピキ、と音を立てて、とうとうケージが砕け散る。ずぼっ、と頭を床から抜いて、ヒナタはその様相を見ていた。

「馬鹿者!! それに触ってはいかん!!」

 怒鳴ったのはシドだ。
 しかし、得意げな表情を浮かべて、怪盗は聖杯を手に取る。

「はっ、世迷い事を。このまま持ち逃げしてやるわ! 所詮はただの純金のカップ、売れば金に——」

 と言って、彼女が聖杯を手に取ったその時だった。



『ウ、ウウウウウ——!!』



 妙な呻き声が聖杯から聞こえる。
 思わず彼女はそれを手から放した。

「確かにそれは願いを叶えるような代物ではない——しかし、不用意に触れれば——恐ろしいものを召喚すると言われている!!」
「お、恐ろしいもの、ですって!?」
「あくまで伝説だ——そんなことは今まで一度も無かった! しかし、これは——」

 次の瞬間、聖杯の一部が口のように開き、それがぱくぱく、としゃべり始めた。



『復活の時は来た……! ”杯の魔人”であるこの我が——再びこの世界で暴れてくれよう!』



 聖杯から煙のようなものが噴き出た。
 そして、煙の中に魔人のようなものが現れる。
 もんず、と怪盗の体を、それが掴んだ——

「——きゃあっ!?」
『ぶははははは、この私の怒りは、全てを破壊するまで止まりはせんのだぁぁぁ! 聖杯に封じられし屈辱、しかと思い知るが良い! 封印されて3000年、遂に聖杯の効力は切れたのだ!』
「本当にロクなもんじゃなかったってことかよ!」
「成程、どっちにしたって封印は解けたってこったな!」

 次の瞬間、白陽やキイチ、シドに絡まっていた蔓が外れる。
 そして——

「フェブラリーキャッツ様を離すのですにゃ!!」

 ニャンクスが、大量の蔓を魔人へ放つ。
 しかし。それら全てがもう1つの手で掴まれて、引きちぎられてしまった。

「何だ? この程度か?」
「ぐっ——!」

 呻くニャンクス。
 自分では、主人を助けることが出来ないのか。
 この圧倒的な力を前にして——

「おい、キイチ。久々だな、こうやって隣で並ぶのは」
「そうだな、三流探偵」

 今度は前に出たのは、ヒナタとキイチだった。
 無謀すぎる。クリーチャーでさえ太刀打ちできない怪物に、挑もうというのだろうか。

「お前らとは色々あったもんなあ」
「ああ。仕事押し付けたり」
「仕事押し付けられたリ」
「上層部に捜査と言って金搾り取ったり」
「そっちの手柄横領したり」
「BBQしたり」
「メタル〇ア貸したり」
「随分とまあ、ドロドロした関係だったが——たまにはこうやって、協力するのも良いもんじゃねえか?」
「そうだな。1人じゃ出来ねえことも、2人なら——」
 
 数秒後。
 そこには、魔人に頭から床へ埋められた三流探偵と三流刑事の姿があった。

「ちょっとはシリアスを保て、貴様等はぁぁぁーっ!!」

 怒鳴るシド。予測可能回避不可能であった。残念でもないし当然である。
 ずぼっ、と床から頭引っこ抜くと、口々に彼らは言い出す。

「いや、もうなんかすいませんでした。ノミ野郎ですいません、ネズミに寄生してすいません」
「卑屈になるな!!」
「本当すいませんでした、人間風情が調子こいてすいませんでした、大人しくしてます許してください」
「正気を持て、キイチ君!!」

『何か……ごめん』

「お前も謝るんじゃない!!」

 が、再びぶはははは、と笑いだすと魔人は言った。

『だがな! お前らは此処までだ! このまま私に皆、潰されるが良い!』
「ちょっとあんたたち!! 早く逃げなさい!! 今度こそ殺されるわよ!!」

 叫ぶフェブラリーキャッツ。
 確かにその通りだろう。この魔人の魔力、相当なものだ。
 しかし——勝てない相手ではない。
 ヒナタは、ニャンクスに呼びかける。

「おい、ニャンクス! お前、主人を助けようとは思わないか!? 怪盗だとか、警察だとか、探偵だとか、もうそんなこと言ってる場合じゃねえだろ!?」

 もう、今は立場の事でどうこうと言っている暇は無い。
 このままでは全滅もあり得る。

「で、でも、僕だけじゃ——!」
「私も協力しよう。お前の主人を助ける。だが、今のままでは妖術で攻撃が出来ない」
「!」

 それならば、と彼女は丸薬を1つ、取り出した。
 そして白陽に投げる。
 次の瞬間——彼に、炎のオーラが戻っていく。

「これでもう、戦えるはずですにゃ!」
「……協力してくれる、ということだな」
「僕にとっては、フェブラリーキャッツ様が——全てなのですから!!」

 彼らは再び自らの得物を構える。
 白陽は大槍を。
 ニャンクスは宝杖を。
 目の前の魔人へ向ける——

「ニャンクス!? ダメよ! 危ないわ!」
「フェブラリーキャッツ様! 僕達が今、助けますにゃ!」
「ニャンクス。2人掛かりだ。連携して倒す!」
「了解ですにゃ!」

 次の瞬間、彼女の足元に魔法陣が現れた。
 そこから、大量の蔓が現れる。
 それを、白陽が足場にして巨大な魔人の顔面を目指す。

『ははは!! させぬわ!!』

 魔人の拳が迫った。
 しかし、それを軽々と白陽は避けてしまう。
 そして——

「幾ら貴様と言えど、私のこの一撃は耐えれぬまい! 所詮は魔人、魔神ではないのだ、再び眠るがいい!」
『おのれっ!!』

 ふうっ、と魔人が吹き出したのは炎の吐息。
 しかし、彼の護符がそれを受け止めてしまう。
 そして——



「炎、熱、乱舞ッッッ!!」



 大量の護符が炎の弓矢となって、魔人の全身を撃ち貫いていく。そして、動きが止まったところが好機だった。左胸を狙い、大槍が投げつけられる。
 悲鳴を上げて、聖杯に封じられし怪物は、そのまま崩れ落ちていった。
 同時に、その巨大な手からフェブラリーキャッツが落ちていく。
 それを——ヒナタが受け止めた。

「……酔狂なものね。怪盗を助ける探偵なんて、聞いたことが無いわ。何であたしを助けたのよ」

 恥ずかしそうに、彼女は言う。
 しかし。

「犯罪を犯すのに理由があったとしても、誰かを助けるのに理由なんざ要らねーんだよ」

 そう言い切った彼の背景に、崩落していく魔人の影。今度こそただの純金のカップとなった聖杯は——再び、黄金に輝いていたのだった。



 ***



「……博物館の3階はヤバいことになったものの、聖杯は無事。だけど怪盗2人は取り逃し——」

 後日。報酬を取り敢えず受け取ったヒナタは、目の前にいる人物に目をやった。

「お前は司法取引で、お前は他の怪盗が盗んでいた宝の在りかを言って無罪放免、だとぉ!? フェブラリーキャッツ改め、コトハ・キサラギ!! どういうことだぁ!?」
「時価3億円近くのお宝の在りかで、しかももう見つかってるわ。万が一の時の為に調べておいたのよねー? 後、盗んだものは全部返した。怪盗業は完全に廃業よ」
「で、何しに来たんだ……」

 盗みから足を洗った、と悪びれずに言うコトハに、げんなりとした表情でヒナタは言う。
 今更それでは彼女が何をしに来たというのか。

「……貧民層だったあたしは、クリーチャーのニャンクスに出会ってから、盗む事でしか生きる方法が見出せなかった。だけど、あんたはあたしにまた、別の可能性を示してくれた。あんたがいなけりゃ、あたしは死んでたかもしれないしね。誰かを助ける生き方——それも悪くないと思ったわ」
「そうか」
「それでね。このあたしを、この探偵事務所で助手としておいてほしんだけど——」
「!?」

 びっくりしたような表情で、ヒナタは机をばん、と叩く。

「ちょっと待てや! どういうことだ!」
「ま、つまり、あたしの働き先になってほしい、ってことで」
「ダメ! 絶対ダメ! うちも経営難だし——」
「んじゃ住み込みで」
「図々しいな、お前!!」
「僕もいますにゃ!」
「お前もかよ!」
「ま、それでひ、紐の件はチャラにしてあげるから……ね?」

 頬を紅潮させると、彼女は言う。
 どこかいじらしい彼女に、ヒナタは仕方なさそうに溜息をついた。
 人手が足りないとは重々感じていたところだ。
 助手が増えるというのは、悪くない話。
 かのシャーロック・ホームズにも敏腕な助手がいるというし。
 
「ま、いーんじゃねーか? オイラも良いと思うぜ。元怪盗の助言は、結構捜査で役に立つかも?」
「……確かに、そうだなあ。んじゃ、決まりだ」
「やった! ありがとう、ヒナタ!」
「ま、これからよろしく頼むぜ、怪盗——いや、コトハ、そしてニャンクス」

 ——画して。
 新たに助手も加えて、新たにヒナタ・アカツキ探偵事務所は再スタートを切ったのだった——

「——あのー、すいません。私、ホタル・アワシマと言う者ですけど。この間依頼に来た」
「あ」

 見れば、それはこの間の博物館の職員だった。
 そして——淡々と彼女は言う。

「この間の分で、博物館の3階が色々備品が壊れたりして、警察に相談したところ、”あ、そういうのは全部ヒナタ・アカツキ探偵事務所にね”って言われて」
「え、ちょ、おま」
「——総額、1万ドルの請求がこちらです」

 ぴっ、と渡された請求書。
 確かにそこには請求額が合計1万ドルと書いてある。開いた床の穴など、明らかに怪盗が残していったものなどがあったり——

「ま、これは依頼を受けたそっちの責任だと、フジ・ブトー様が」
「ざっけんな! これ全部怪盗がやったんだぞ!?」
「残りの2人捕まってませんしね。まあ、色々差し引いても1万ドル残るわけなんですよ」

 この額は、今回の報酬を差し引いてもマイナスになる。
 完全に大赤字だ。
 そして、ヒナタの顔も真っ青になっていく——

「だ、大丈夫よヒナタ。あたし達も協力するから……」
「り、り、り、理不尽だぁぁぁーっ!!」

 ロンドンの街に、三流探偵の絶叫が響く。
 これは、理不尽で不条理な19世紀ロンドンを生き抜く、探偵たちの物語——


          短編6(完)

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル) ( No.423 )
日時: 2016/10/21 00:15
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 ——某日、ロンドン・ガトウィック空港にて。

「やれやれ、またもや長い空の旅だったな」
「だけど、今度はどんな戦いが待っているか、楽しみですねっ!」
「そうだな。もし、今回オレが出るなら——今度こそ、勝ってやるぜ!」
「とにかく、今度も強敵だわ。気を引き締めていきましょう」
「分かってるよ。油断は最大の敵、だからな!」

 ——2回戦の相手が、イギリス代表のライトレイデュエルスクールであるという旨を伝えられたのは、あの戦いが終わってすぐであった。
 もたもたしている暇は無い。今度の戦いの舞台であるロンドンを目指し、長い長い空の旅の末——ヒナタ達はイギリスへ辿り着いたのである。
 そして此処は首都・ロンドン。グレートブリテン及び北アイルランド連合王国及び、これを形成するイングランドの首都。屈指の世界都市として有名なのは、芸術、教育、商業、娯楽、ファッション、ヘルスケア、メディア、交通などに於いても高い影響力を持っている故か。
 そして——カードゲームでの影響力もアメリカに次ぐと言われる。
 それもそのはず、第一回戦でイギリス代表の王立ライトレイデュエルスクールは、侵略を使用していたタイ代表をあっさりと下しており、かなり士気が高いと思われる。
 特に、2戦目に現れた少女だ。あの少女の前では、侵略も何も通用はしなかった。

「確か、相手は黒単使いだったな」
「そうですね。でも基本、彼らのチームはほとんどがオールラウンダーになれるように教育されていますから、次は何を使うかわかりません」
「そういえば、こっちじゃ何が人気なのかな」
「環境デッキは、その時その時ですけど、やはりカリスマ的人気を誇るのは、日本が火なら欧米諸国は全体的に光、つまり原典のMTGで言う主人公カラーの白が人気です」
「こっちとは真逆なのね」
「ステレオタイプのヒーローのカラーでもあるからな」
「話はそこで纏まったか?」

 後ろから声が聞こえた。
 タブレットを携えた、フジの姿がそこにはあった。

「そういえばフジ先輩、今回はここで待機、って言ってましたけど、どうしたんすか?」
「待ち合わせだ。もうじき来るはずだが」

 待ち合わせ、と彼は言った。
 どうやら、今回はその案内人の指示で向こうの学校へ視察へ行くらしい。
 パーティのようなものは当然だが、無いというのは事前に確認した通りである。正直、二度とごめんだ、とヒナタは感じていた。

「——長い空の旅、お疲れ様です。鎧龍チーム」

 全員が振り向いた。
 目を惹きつけられたのは、その金髪だろうか。
 そして、剣の意匠の髪飾りを髪の両サイドに着けている。
 瞳は空のように蒼い。ノゾムに至っては、見惚れてしまったほどだ。

「来たか」

 口を開いたのはフジだ。
 彼女も受け応えるように返事を返す。
 その両隣には厳つい顔をした、黒スーツの男が立っていた。

「——王立ライトレイデュエルスクール、コーネリア・ブルースデールと申します」
「! この人って!」

 この間、タイ戦で2回戦に現れ、すぐさま決着をつけてしまった少女だ。
 ほぼ、完封だったことが記憶に新しく、名前も焼き付いていた。

「紹介しよう。彼女はライトレイデュエルスクールの中でも、”漆黒近衛隊(エボニー・ロイヤル)”と呼ばれるマスタークラスに配属されている。それと同時に——我らが武闘財閥の管理する、『遊撃調査隊(クリーガー)』の一員でもある」
「『遊撃調査隊(クリーガー)』——!?」

 以前、フジからその名は聞いていた。
 クリーチャーにかつて、関わった者で組織された、クリーチャー事件に対抗する為の組織だ。

「暁ヒナタ、黒鳥レン、如月コトハ、十六夜ノゾム、淡島ホタル、と言いましたか——それぞれが星のクリーチャーの使い手、ですか」

 口ぶりからして、彼女も星のカードのことを認知しているようだ。それもカードではなく、クリーチャーとして。
 しかし、その声は、瞳は、どこか冷たい。
 何気ない事を呟いているだけなのに、凍てつくようなものが心を刺し貫いてくる。
 ——なんか、怖い人だな……。
 テレビで見たときと、ほぼ同じ印象だ。
 しかし、『遊撃調査隊(クリーガー)』である以上は自分たちの味方であることには変わりない。信用に値する人物であるとはいえた。

「——では、私の紹介も終わったことですし、これから貴方達には我が校に来て戴きます」

 彼女は、外にスクールバスを止めてある、と言った。
 それでライトレイまで行くというらしい。 
 彼女に案内されるがままに、彼らは空港を後にしたのだった——




 ***



「——すげぇ」

 一言でいえば、それに尽きた。
 結局は鎧龍と同等クラスでしかなかったジンリュウとは違い、と言わしめる程だ。東京の人工島に鎮座するだけあって、鎧龍もハイテク校ではあるのだが、此処は更に巨大だ。
 4階立てのガラス張り校舎を3つ有しており、更に加えて、万能スタジアムに研究施設まで備えてあり、面積は相当なものだ。
 加えて、全校生徒は2000人。鎧龍の全校生徒700人代を上回り、最早この時点で大学クラスとなっている。
 更に、それらがイギリス全土から集められた猛者だという。

「2度の実技試験に加え、ペーパーテストは国内でもトップクラスの難易度。学力なくして、入学はあり得ません。そして——」

 最初にやってきたのは合同ホール。
 此処では、有に300人は超えるのではないか、という人数の生徒が既にデュエルを行っていた。

「あれは?」
「この間、入学したばかりの1回生達と高等部の6回生です。演習という名目で、実力者達と繰り返し戦い、そして圧倒的な実力で、完膚なきまでに叩きのめし、”負かせる”」
「負かせる……?」
「はい。カードゲームに於ける甘い考えを全て打ち砕き、そして次のプロセスへと繋げる。この学校では、1人1人を最強クラスに磨き上げる為に、徹底とした教育プログラムが組まれているのです。いつか訪れる、負けられない戦いの為に」
「相当、厳しいんだな……」
「それだけではありません。プロ選手を度々招き、講義や模擬指導なども行っており、更に1年に1度は夏休みの一部を使って合宿を行い、地力の向上を図る」

 ですが、と彼女は続けた。

「デュエルだけではありません。さっきも言った通り、学力無くして入学はあり得ず、学力無くして勝利もあり得ない。また、スポーツは頭脳を活性化させ、当然頭脳のスポーツにも影響を与えます。P.E(体育)も重視しており——」

 そう、しばらく彼女の話が続く。
 今までのデュエリスト養成学校とはけた違いのスケールで選手を育成していることが分かる。
 繰り返すが、ただただスケールが違いすぎる、と漠然とした感想がそこにはあった。
 教育方針だとか、理念だとか、学校を回りながらそういった話を聞かされる。
 余りにも硬派で徹底的なので、苦言を漏らすようにヒナタは問うた。

「……なあ、なんつーかすっげぇかっちりしてんのな?」
「楽しさだとか、そういうものはデュエル・マスターズには必要ないので。遊びではありませんから」
「そ、そうか」

 ——遊びではない、か。
 話を聞いていたレンは、険しそうな表情でそれを聞いていたのだった。
 ——確かにイギリス、ライトレイの教育方針のそれは、日本のどのデュエリスト養成学校のものよりも厳しいものだ。更に輩出されるプロプレイヤーの質も遥かに高い。日本が特段低いというわけではないが、そこにあるのはカードゲームへの意識の違い、か——

「日本も、鎧龍も見習ってはどうでしょう? 今やカードゲームはただのゲームではない。頭脳スポーツです。武闘フジ、貴方もそれは分かっているでしょう?」
「……あのだなあ」
「楽しんでいるレベルでは、まだ遊び。彼らも、我らの教育方針を取り入れればさらに強くなれるのでは? 良いですか。私は、カードゲームを遊びとは思ってはいません。スポーツです。更に強固で厳しいものにすれば、更によくなるはず。それは前から言っているはずですよ」

 流石のフジも若干困惑した様子で返す。
 そのまま何か紡ごうとするが、先に声が割って入る。

「下らんな」
「!」

 言ったのはレンだった。
 彼が進み出たことに、全員は意外そうな顔をする。
 それも、初対面の相手に対して「下らん」と一蹴。空気が凍った。

「……聞き捨て、なりませんね。それは一体、何に対する”下らん”、でしょうか」
「遊びだの何だの言うが、まさか貴様は僕らが手を抜いて戦っているとでも言いたいのか? 押しつけがましい真似はやめていただきたい、ミス・コーネリア。僕らは僕らのやり方で強くなる」
「——我らのデュエル・マスターズには余りにも程遠い——貴方達は甘い考えの日本人の中では私達に近いと思っていましたがね、間違いでしたか」
「さあな? 確かに、この中には貴様の言い分に同調した者もいるやもしれん。だが、それはそれで各自で決めるまで。貴様に口出しされる覚えはない。まさか、自分達の考え以外が全て間違ってるとでも言いたげだな」
「……やれやれ、勝つためにゲームをするのか、勝負のためにゲームをするのか。明らかに前者の方が生産的でしょう。ゲームは勝つためにあるのですから。当然の事を、何故理解しようとしないのです」

 不機嫌そうに言うと、彼女はヒナタに目をやる。

「特に暁ヒナタ。貴方のように、勝負を楽しむような部類の人間はダメだ。もっと冷徹に、理不尽に、相手を徹底的に蹂躙しなければならないのに。そんなデュエルは果たして、本気と言えるのですか?」
「待ちなさいよ! あんたたちが間違ってるとまでは言わないけど、ヒナタはいつも本気で戦ってるわ! それを馬鹿にされる覚えはないわよ!」
「そうだそうだ! そして先輩は強いんだ!」

 真っ先に反論したのは、コトハとノゾムだった。「お、落ち着けって!」とヒナタは2人を窘める。自分が言われた事よりも、彼らが怒りだす方がいけないと思ったのだろうか。
 ホタルは、険悪なムードに震えてさえいた。

「そして黒鳥レン。貴方も美学だの何だの、それこそ下らない事を言っていないで、もっと冷徹に勝利を求められるのではないですか? 貴方こそ、我々に一番近いと思っていたのですがね」
「——だとすればとんだ勘違いだ。僕は自らの美学に従い、デュエルを行う。勝負に於いての美学とは、相手に学び、相手を尊ぶこと。相手無くしてゲームは無い。貴様の考えが間違っているとまでは言わないが、少なくとも僕は同調できない」
「”下らない”。対戦相手など、蹴落とす対象でしかないのに。油断すれば、自分が蹴落とされる。まして、貴方達に至っては負ければ最悪死ぬような世界に片足突っ込んでるのに」
「今、クリーチャーの話を出すのはお門違いというものではないのか? 競技と殺し合いでは、また別の話だろう」
「どちらも同じでしょう。やらなきゃやられる。それがこの世の真理ですから」

 完全に雰囲気は険悪なものとなる。
 まあ、いいでしょう、と彼女の方から一方的に話を打ち切り、この場は収まった。
 レンも不服ではあったろうが、そんなことはおくびにも出さず、その後は一切黙っていたのだった。
 険悪なムードのまま、学校視察は終わったのである。

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル) ( No.424 )
日時: 2016/10/22 02:36
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——それでは、本日はありがとうございました」

 淡々とした声で、コーネリアは言う。
 先ほどのレンとのやり取りで、完全に空気は凍り付いていたが。
 一触即発。
 もう、場の誰も喋りはしなかったが——別れ際にフジが切り出す。

「——コーネリア。最近、そちらで何か変わった事は無かったか?」
「……? どういうことですか、フジ先輩」
「イギリス国内に反応があるとの報告が入ったのが一週間前。変にテメェらには騒がれても困るから、今の今まで隠していたがな——此処、ロンドンには、星のカードがある」
「!!」

 『遊撃調査隊(クリーガー)』の一員である彼女は、世界の各地に散らばっているクリーチャーとかつて関わりを持った者達の1人で、クリーチャーの可視及び決闘空間の解放が可能だという。
 それを生かし、このイギリス国内にあると言われる星のカードの捜索をフジは彼女に依頼したらしい。
 しかし、コーネリアは首を横に振る。

「……いえ、全く見つかりません。反応はロンドン市内にあるとみて間違いないのですが」
「そうか。引き続き頼む。俺様達も何時までも此処には居られるわけではないからな」
「分かりました。それと——もう1つ」
「? なんだ」

 怪訝そうな表情でフジは問い返す。
 間髪入れずに、少し不安そうな表情をコーネリアは浮かべた。

「観測装置のデータにノイズが混じっており、只のエラーか或いは——何かが、この町の波長に入り込んだ可能性が高いです。奇妙なものだったので」

 そのまま、タブレットの端末をフジに手渡した。
 データをダウンロードすると、それをざっと見てから、彼も頷く。
 警戒するに越したことはない。邪悪龍の使い手がすぐ傍まで迫っているかもしれないのだから。

「……そうか、気を付ける」

 タブレットから目を離すと、再三彼は申し訳なさそうに言った。

「ともかく、今日はすまなかったな。うちの後輩が不快な思いをさせたかもしれん」
「いえ、お気になさらず」
「……」

 黙りこくるレン。確かに突っかかったのは彼であるが、その後に彼女がヒナタを罵ったのも事実。どこか、晴れないもやもやがあった。
 ヒナタ達もそれに続いていく。
 そのまま、シャトルバスがエンジン音を立てて、ライトレイから去っていくのを冷淡な表情でコーネリアは見つめていた。




「——極東の黄ザル共が……調子に乗るなよ」



 ***



「——許せないわよね!」

 バスの中で、憤慨したのはコトハだった。

「何というか、嫌な感じっていうか、あの人……おまけにヒナタのことまで馬鹿にして!」
「だけど、あの人の言う事も分からねえでもねえよ? カードゲームは、突き詰めていけば頭脳スポーツ。海戸も、鎧龍もそれを目指してるからよ。徹底的にやる、ってのは間違っちゃいねーと思う」
「ヒ、ヒナタがそれ言っちゃう!?」
「なんつーか、先輩がそう言うのは意外っすわ」
「じゃあ、ノゾムはどう思う? あの人らのやり方は」

 ノゾムは一瞬、答えに困った。
 
「ま、確かに合理的、ではあると思うっす……」
「ああ。デュエマを、スポーツとしてみるならこれほど良い環境はねぇよ。はっきり言って、奴から見れば俺らは甘ちゃんかもしれねえ」
「そ、そんな……」

 沈んだような表情で、ホタルは言った。
 コーネリア達からすれば、デュエマはゲームですらない。
 競技性を突き詰めたスポーツだという。
 その姿勢は、ある意味ではデュエマに対して最も正直で最も本気の向き合い方であるとも言えた。
 しかし。

「——でも、俺もだけどさ。レンは、それはちょっとちげーんじゃないか? って思ったんじゃないかな」
「レン先輩が……」

 窓の向こうの景色をぼんやりと見つめるレンを見る。
 メンバーの中では、特に真剣にデュエマに向き合ってきた人物が、一見相似性さえ感じられるコーネリアに真っ向から対立しにかかった。 
 それは、彼の中で積み上げられてきたものが関係していると言えるだろう。

「あいつも、色々あったからな……それでも命懸けのデュエマをやっている中で、結論を出すのは、すっげえ難しいことだ」
「先輩……」
「俺は、大好きなデュエマで人の命が決まるのは、はっきり言って嫌だ。そんなの、ゲームでも何でもねぇ。レンの言った通り、只の殺し合いさ。だけど、こうやって命懸けのデュエマに関わる中で、白陽達に出会えたのもすっげぇ素敵な事だって俺は思ってる。コーネリアも、ゲームとその狭間で揺れてるんじゃねえか?」鍛えて
「過去にクリーチャーに出会った人物、ですからね……」

 全員は唸る。
 唯一人、レンだけがぼーっと窓の先を見ていたのだった。




 ***




「——一秒たりとも時間は無駄には出来ん」

 宿泊先のホテルに着いた矢先、フジは言った。

「ライトレイが得意とするのは、単純に強いデッキで押し潰す戦法だ。天門ループ、黒単、ドロマーハンデス次元、キューブリペア、墓地ソース、イメンループ、オプティマスループ以下略ッ! 聞いただけで相手したくないようなデッキばかりだ。あの鬼畜ビルダーを思い出す」
「確かに……これはげんなりしますね」

 それらは全て、単純に勝つことを追い求めた至高のデッキ達。
 いずれも、カードパワーの高いドラグハートやサイキックをはじめとしたカードは勿論、見ただけで眩暈がするようなループコンボを搭載したデッキも多い。
 今回の敵は、侵略者ではないのである。

「なら、あたし達もそれなりに鍛える必要があるわね」
「試合まで、今回は確か4日、でしたか……」
「かなり時間が開く分、デッキも引き続き練っていかねえとな」

 笑みを浮かべるヒナタ。
 相手が強敵であることには変わりない。

「各自、練習メニューをこなすのは勿論だが、どう過ごすかは自分自身で決めていってほしい」
『はいっ!!』

 5人の返事が響き渡る。
 今回は時間が長い分、より有意義に時間を使えるかが鍵となる事は間違いない。
 前回のジンリュウ戦以上の緊張を彼らは強いられることになったのである。

「だけど、今回の相手もヤバそうだな……」
「はい。かなり、辛い闘いになることは間違いないです」
「——相手が誰だろうと関係は無い」

 不安がる後輩に、声をかけたのはレンだった。

「いつも通り、何があろうと僕は僕のデュエルをする。貴様等もそうだろう。不安ならば、不安を消せるくらいに練習すれば良いだけの話だ」

 彼の言葉に、ノゾムとホタルは顔を合わせる。
 確かに、今更臆している暇は無い。
 時間はあるようで、もう無いのだから——




「——それじゃあ、特訓開始だ!」

Act2:シャノン ( No.425 )
日時: 2016/10/22 22:45
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

「——ハ、ハハハハ!! 甘い、甘いぞ、ヒナタ!! 貴様はその程度か!!」
「何のォ!! 押し切ってやるぜ!!」

 凄まじい表情を浮かべ、未だに対戦を続ける2人。
 既に今日だけで40戦近く行っているが、昼飯の間もガン飛ばし合い、遂には午後の練習。
 極限の精神状態でスパーリングを繰り返していた。

「オラァ、テメェら。夜はDVDでの分析もあるのに、こんなところでバテたらどうすんだ。勝手に極限状態に陥ってんじゃねェ」
「仕方ないですよ。オールラウンダーのヒナタ先輩が、結局のところ一番対戦のし甲斐があるってレン先輩言ってましたもんね」
「頭も使ったら疲れるんだからな、分かってんのかコイツら」

 ぜぇ、はぁ、と息を切らせる2人。
 鎧龍チームは、オックスフォード・サーカスのビルにある多目的ホールを、フジが貸し切って練習をしていた——までは良かったが、ヒナタとレンはライバル同士ガチになりすぎるのが問題であった。
 こうして、どちらかがくたばるまでデュエルを続けるのは、熱帯魚のベタの雄同士に通じるものがある。

「そ、それでは、僕は少し外の空気を吸いに……」
「おーう行ってこい、死にそうな目ェしてるから行ってこい」
「は、ははは……もう、疲れたのか、レ……ウッ」
「ひゃあ!? ヒナタが倒れたァ!?」

 が、流石のレンもきつくなったらしい。ヒナタもぐったりしている。脳もエネルギーを使う上に、ブドウ糖しか栄養源にしないため、脳疲労というのは一気に根を詰めすぎるとしばしば起こるのだ。

「休憩だ休憩。各自6時まで自由時間とする!」



 ***



 オックスフォード・サーカス。
 ロンドン髄一のショッピングポイントであり、立ち並ぶ店の数も多い。石造り風味の建造物も多く、風情を感じる。
 大路には、赤塗りの二階建てバス——いわゆるロンドンバスというものがあり、浮世離れした世界観に一役買っていた。

「全く違う世界に来たみたいだな、アヴィオールよ」
『ですねえ。ボクらの住んでいた世界の街には、このような建造物も多かったですが、懐かしい』
「土産の1つでも勝って帰るべきか——だが、カタログで既に頼んでしまったものもあるし……」
『黒鳥レン、案外そういうことを気にするのですね』
「別に良いだろう。たまにはな。まあ、観光しに来たわけではないのは分かっている。だがな……」

 その後も色々な店を見て回る。
 飲食店は勿論だが、沢山の写真が展示されてあるフォトギャラリーや、デパート、雑貨屋などを、ざっと見ていった。

『いやあ、良いですねえ。日本だけでは、こういうところには絶対いけないでしょうし』
「貴様には、もっとこの世界のものを見せてやりたいな。なんせ、僕でも見たことのないものであふれているのだから」
『ボクには勿体ない幸せです』
「……む?」

 思わず、目に留まったのは巨大なカードショップ。石造りの建物で、アンティークな外観だ。

『カードショップですか?』
「ああ。珍しいものがあるかもしれん」

 英語表記の文字を読むと、どうやら今日、此処で大会があったらしい。土日ということもあり、多くの参加者でにぎわっていたらしいが、もう終わってしまっていたようだ。
 中から、小学生から中学生くらいの少年少女が出ていくのが見える。
 ——中だけでも見て回るとするか。良さそうなカードがあれば、買っておこう。
 そう思い、店内に足を踏み入れた。
 成程、なかなか広いスペースの店だ。
 冷房の冷たい風が肌を撫でる。
 見れば——日本で見たことのあるカードもあれば、全く記憶にないイラストのカードもあった。
 ——ふむ。カードの現地調達か……どれ、良さげな闇のカードは——
 展示されているシングルカードをじっくりと吟味する。目はカードに釘付け、そのまま店内を練り歩く。
 本当に買うかどうかも考えていれば、あっという間に時間が経ってしまうかもしれない。時間は有限だ。早く決めなければ。
 
「ひゃうっ!?」

 その時、何かにぶつかった気がした。
 余所見をしながら歩いていたので、目の前からやってくる人影に気付かなかったのだろう。
 すぐさま、反射的に謝る。

「すまない。大丈夫か?」
「あ、うん……大丈夫だよ」

 ぶつかったのは、少女だ。
 それも、自分よりも小柄で、ノゾムとほぼ同じくらいか。
 碧眼が、レンの黒い瞳を覗き込む。
 何気ない仕草だったが、小動物のような印象を与え、思わずレンは目を逸らしてしまった。

「ね、ねえ? アナタって、鎧龍の——黒鳥レン?」
「む、そうだが……」
「ほんと? 人違いじゃない? 偽物じゃないよね?」
「生徒証明書ならここに」
「やったー! ほんとにほんとに黒鳥レンだぁ!」

 ぴょんぴょん、と嬉しそうに彼女ははしゃぐ。
 こうもちやほやされるのも初めてなので、レンは戸惑ってしまった。が、悪い気は不思議としなかった。
 そして、彼女はハッとなって口を噤む。どうやら、他に人が寄ってこないか気にしているらしい。周りに人がいないのを確認すると、再び笑顔を浮かべた。

「……むう、意外だな。ちゃんと知って貰えていたとは」
「当然! 自分の学校が次に当たるところなんだもん! 特にアナタはすっごい強いって学校じゃ大騒ぎ!」
「ということは——貴様は、ライトレイの生徒」
「うん!」

 こくり、と頷いた彼女は溌剌とした声で言った。

「Nice to meet you! アタシ、ライトレイ1年のシャノンって言うんだ! 会えてとっても嬉しいよ、レン! 」
「そ、そうか……それはありがたい。改めて黒鳥レン、だ。よろしく頼む」

 少し、意外だった。コーネリアの影響もあって、ライトレイのデュエリストはかなり固い思考の持ち主であるという先入観があり、拍子抜けしてしまった。
 が、1年ということは、今年の9月に入学したばかりなのだろう。
 まだ、教育の影響に染まっていないということか。
 ——ライトレイ、か……。
 レンはふと、思考を巡らせる。もしかしたら。彼女達はとにかく勝負に勝つことに拘っていた。もしかすれば、これは一種の偵察行為なのではないか? と疑ってしまったのだ。
 以前のノアのように、無邪気を装って自分たちの内情を自ら探りにきていた人間がいたので、此処最近少し疑心暗鬼を生じていたが——
 ——いや、それならわざわざ最初に学校名を出すような真似はしないだろう。僕は何を考えているのだ。
 そんな邪な振り切る。目の前のシャノンの表情は純真そのものだ。

「ねえ、時間があったらで良いからさ。話、してもいいかな? 日本のデュエリストの事、もっともーっと知りたいんだ!」
「ああ。もちろんだ」

 時計を見る。
 まだ、時間はありそうだった。
 ——まあ、たまには良いか。

Act2:シャノン ( No.426 )
日時: 2016/11/05 16:39
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

 近くの喫茶店で、2人は向かい合う。
 えへへー、と朗らかな笑みを浮かべて、シャノンは話し出した。

「何か、夢みたいだなぁー。あこがれの日本のデュエリストに会えるなんて! しかもレンはカッコいいし、デュエマも強いし!」
「そんなに褒めるな。何も出ん」
「むう。日本人は謙虚すぎるよぅ。アタシは素直に褒めてるだけなのに」
「……まあ、有難く受け取っておく」
「私は代表じゃないから、レンと戦えないのが残念だけどさ。えへへ……でも、日本のデュエリスト……1回で良いから、戦ってみたかったなあ」
「何だ。遠まわしに僕とデュエルしたいと言ってるのか」
 
 う、と小さく呻き、少しだけ頬を紅潮させると、こくり、と頷く。
 
「……そ、そりゃさ、戦ってみたいよ。でも、アタシみたいなデュエリストがレンに挑むなんて……」
「やってみなきゃ、分からないだろう? ライトレイ程の学校に行けるデュエリストならば、デュエマがどういうゲームかはわかるはずだ。何が起こるかは、最後まで分からん」
「そうでもないよ。アタシ、まだ何もわかってないって言われた。先輩も、先生も、とても厳しいから」

 成程、彼女もライトレイの厳しい環境に、まだ慣れていないのだろうか。
 少し俯きがちだった彼女だが、もう1度明るい顔を見せる。

「でもね。アタシにはデュエル・マスターズしかないからさ。頑張るんだ! アタシなんかをライトレイに拾ってくれた”恩人”の為にもね!」
「恩人、か」
「うん!」

 彼女の目は、輝いていた。
 彼女ならば、希望を失わずに前に進めるだろう。
 その姿からは、あのサングラスのライバルを思い出す。

「……そうか。それが貴様の選んだ道ならば、間違って等はいない。人生、自分次第で運命は変えられる。貴様が頑張れば、例え険しくても道は開ける」
「……何か、レンってすっごい事言うよね。アタシと1歳だけ違うとは思えない」
「そうか?」
「そうだよ! なんか、もっとレンの事が好きになっちゃった!」
「……」

 思わず黙りこくってしまう。
 こうもストレートに好き、と言われるのも始めてだ。LoveではなくLikeの好きではあるが、それでもだ。
 文句を言われたり、邪険にされたりすることばかりだったので、慣れない言葉に戸惑ってしまった。

「それでそれで、日本のデュエリストの事もっと知りたいな!」
「……ふむ。此処に来て思ったが、やはり光が有名らしいな。こっちでは、火が看板になっている」
「火が? ふうん、確かに燃える炎を吐くドラゴンとかってかっこいいよね!」
「そうだな。ドラゴンはやはり、強い。ドラゴンだけで沢山の種族がある」
「こっちじゃ、エンジェルとかがプッシュされてるからねえ。天使の勢力は、イギリスが今一番強いんだよ」

 やはり天使か、とレンは思った。
 白は、ステレオタイプの正義の色。日本では、一方的な正義、支配など悪い側面が描かれることもあるが——本質はやはりそこなのだろう。

「それとさ! 日本の事をもっと教えてよ! デュエマの事以外もあるよね!」
「あ、ああ……日本の事、か」
「うん! 例えばさ、日本って美味しい物がいっぱいあるんでしょ!? 何がオススメ!?」
「なぜそうなる」
「だってだって! 色んなものがあるって聞いたよ! あたし、食べること大好きなんだよね! 日本人も食べることは大好きみたいだし!」

 美味しい物……そういうことはむしろ、ヒナタやコトハの領分ではないか、と思った。
 ——イギリスの食事情……イギリス料理がまずいとはよく言われるが、それは昔の話。今では美味しいレストランも沢山見られる。この辺、よく調べねばな……何故こうなる? 何故調べなきゃいけない流れになっているのだ?
 そこまで彼自身食に興味があるわけではない。
 というよりも、余りにも種類が溢れすぎていて、何から紹介すればいいか、分からない。
 咄嗟に思いついた料理を口ずさんでしまう。

「……カレーライスだ」
「カレーライス? カリーアンドライスならイギリスにもあるよ? アタシも大好きだけど」
 
 そういえばそうであった。
 植民地だったインドのスパイス料理と、ベンガル地方の主食である米と合わせたカレーライスというものを考案したのはイギリス人だ。
 最も、その外観は

「……日本人にとってカレーは最早国民食、様々な派生料理がある。日本のカレーは旨い」
「本当!? 食べてみたいなあ!」

 ——ああ。短絡的な思考の自分が憎い……。しかもイギリス発祥のものを答えてしまうなんて……。話題が途切れてしまうではないか。
 小学生でも思いつきそうなものを口走ってしまった事を後悔するレン。
 もっと和食だとか、そういうものから選んで答えるべきだった、と思う。

「あ、後は麺類だな。うむ。ラーメンだとか……」
「うん! 知ってる! 日本のラーメンって、ヨーロッパでも広がりつつあるんだよ!」
「そ、そうなのか……」

 ——知らなかったァーッ!! 下手したら、”もう全部ヨーロッパで食べればいいじゃん”とか言われそうだ!! 
 日本のラーメンはうどんの派生形であるが、今や世界中に、そして大本のはずの中国でも日式ラーメンとしてチェーン店が出来つつある。
 何というか、自分が紹介しているのに、こちらの方がどんどん勉強している気分だった。
 
「でも、ラーメン食べに日本に行く人もいるみたいだし! アタシも行ってみたいなあ!」
「後は、うどんとか……」
「ああ、それも食べてみたい! そういえば、ハワイにはすっごい行列ができる日本のうどんのお店があるって!」

 ——日本食進出しすぎだろォ!? そんな話初耳だぞ!?
 レンは、自分の知らない世界をどんどん覗いている気分であった。
 ああ、情けない。自分の国を紹介する前に、その自分の国の事すらよく知らない自分が情けなかった。

「後、日本とかってさ。サムライとかいたりするの?」

 幸い、興味は別の事に移ってくれたらしい。
 
「いや、居ないからな。そんなものがいれば銃刀法——」
「でも、十六夜ノゾムっているよね? 鎧龍チームの。あれってサムライじゃないの?」
「髪型だけだからな、あいつのは!」

 そういえば、ノゾムは剣道をやっていたのを思い出す。
 そしてあの総髪、何故彼はあんな結び方をしているのか。身内の事なのに知らないことがまた増えてしまった。
 ——他人に紹介しようとすると、自分が身近の事に対して如何に無知かを思い知るな……。

「でもでも、お城とか、刀剣とか、いっぱいあるんでしょ!?」
「そういうものが飾られている博物館もあるが。後、現存している城もあるにはある。文化も根強く残ってはいるが……」
「やっぱ日本って面白い国だよね——」

 そう、シャノンが言いかけた時だった。
 目の前から彼女が消える。
 怪現象を前にして、レンは辺りを見回した。
 居ない。
 店内に誰も居ないのだ。
 同時に、周囲には妙な空気が漂っていた。

「——決闘空間——!? 何故!?」
『黒鳥レン。気を付けて下さい。何者かが、空間を開きました。邪悪な気配が辺りに』
「……うむ。分かっている」




「この時空間は、完全に先ほどお前がいた時空間から独立している——それは分かるな?」




 声がした。
 見れば——店内に、ローブを被った長身の男が佇んでいる。

「貴様——何者だ」
「我が名は”キング”。宝銃の龍の使い手よ。今やその力は完全に目覚め、英霊を司る王者として顕現したのだ」

 要するに、邪悪龍の使い手ということで間違いない。
 恐らく、コーネリアが言っていたデータに混じったノイズとはこの男のことだったのだろう。
 ——聞きたい事は幾らでもあるが——これは、看過できんな。

「貴様が何者かは大体分かった。敵対するならば、倒すだけだ。この空間を開いたということは、そうだろう?」
「ハハハハハ、その通りだが——倒す? 我を? 黒鳥レン。倒れるのはお前だ。我は、王者の龍を従えし男——お前に我は倒せん!」

 刹那、シールドが正面に浮かび上がる。

『黒鳥レン、やりましょう』
「ああ。勿論だ。敵に容赦はしない!」

 この男を放置することは出来ない。
 決闘空間を解かれれば、喫茶店やシャノンにも被害が出る。
 その前に倒さねばならないのだ。



「——教えてやろう。偉大なる賢王の素晴らしき力を——!! 星の英雄よ。しかと見よ!!」


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