二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Act2:開幕 ( No.217 )
日時: 2016/01/04 20:17
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

「邪悪龍……デュエマ革命?」
「ああ」

 邪悪龍。それは今や、武闘財閥の中で例のドラグハート・クリーチャー達の総称として使われていた。
 ソウルフェザーも例外ではないので、それについてはヒナタ達も異論は無かった。
 しかし、もう1つのデュエマ革命、という単語については全く意図が読めなかった。

「まずはデュエマ革命の件だ。今、デュエル・マスターズというカードゲームは極めてヤベーことになっている」
「と、言いますと?」
「”侵略者”。ビートダウン・速攻に特化したこの種族のデータが流れ、とうとう世界中に出回ることになっちまったのさ」
「——え!?」

 そうなれば、どうなるのかはヒナタ達にも分かった。
 十分な前段階を置かぬまま、完全に新規のカードが現れたことにより、環境は大混乱。
 ゲームバランスが非常に難しいことになっているのだという。

「まあ、このままじゃあ世界の環境は侵略される。文字通りな」
「で、でも一体、何故そんなことが……」
「ああ」

 レンの問いに、努めてフジは簡潔に答える。




「”盗まれた”んだよ。DASHでさえ本実装を躊躇したほどの凶悪な侵略カードの”原版”がな」




 全員に衝撃が走った。
 しかも、それだけではない。
 フジ曰く、犯人は”生きたカード”の使い手であり、強引に警備を突破していったのだという。

「だからといって本実装しちまったDASHの意向も正直理解しかねる。今、世界で、デュエマを司る中枢のDASHがどうなっているのか……それも、よりによってD・ステラの開催前にこんなことが起こりやがったからな」
「ま、待ってください! となると……既存のカードでは、侵略者のカードには対抗するのが難しいんじゃ……」
「手は既に打ってある」

 にやり、とフジは嫌な笑みを浮かべた。

「特に、黒鳥レン。淡島ホタル。暁ヒナタ。闇、光、……”一応”火の適合者のおめーらには耳よりな情報だぜ」
「え? 何か今俺すっげー微妙な言われ方されたんだけど」

 そんなヒナタの言葉をガン無視し、フジは続ける。
 机の下から取り出したのはジュラルミンケースだ。




「侵略カードに対抗するにはな、この”革命”カードが必要だ。お前らには、D・ステラという場で武闘財閥の作った革命カードの力を世界に知らしめて欲しい!! じゃねーとゲームバランスは恐らく崩壊する。多分崩壊する」



 
 つまり。
 このままでは世界のデュエマは侵略に食われてしまう。
 そのため、崩れかけているゲームバランスを元に戻すために、ヒナタ達に革命カードの力を証明してもらいたい、というのがフジの目的だった。
 そして、何故彼らなのか、というのもやはり、ヒナタ達が英雄に選ばれた才能を持つデュエリストだからだろう。

「でも……良いんですか? D・ステラとかに出て目立ってしまっても」
「そうです。仮にも僕たちは今、邪悪龍の使い手と敵対している最中ですから」
「まあ、危険は免れねぇよな、それ」
「説明を願いましょう、武闘先輩。先ほども邪悪龍と言っていましたが」

 口々に言い出す年長組。
 今、自分たちが敵対する敵の強大さが分かっているからこその言いぶりだった。
 特にレンは、自分が連れ去られたことから、この件に関しては慎重にならざるを得なかったのだ。

「ほーう、逆に問おう。お前らは、”奴ら”との戦いに人を巻き込みたいと思うのか? どうなんだ?」
「……え? それは一体どういう……」
「例えば。このまま俺たちが日本に留まっていたとしよう。仮に、こそこそ隠れることになったとしよう。俺達を目の敵にしている連中はどうやってお前たちを探し出すと思う? こないだアンカが何をやったのか、もう覚えていないとは言わせねぇぜ」
「……あっ」

 以前。白陽による囮作戦のあと、アンカは、ヒナタ達への報復と言わんばかりに、大量のドラゴンを街に解き放とうとした。
 もしもあのとき、早く手を打たねばどうなっていたのかは想像に容易い。
 関係のない人々が。
 何も知らない人々が傷ついて、最悪犠牲者も多数出たかもしれないのだ。

「D・ステラに出ることはリスクばかりじゃねえ。お前らが表前に出ることで敵の目を完全に引き付けることができる。それに、お前らには何のために英雄がいると思ってるんだ」

 ——!
 全員は自分のデッキケースから飛び出してきたカードに目をやった。 
 それぞれが、それぞれの主の眼前に現れる。

『黒鳥レン。ボクは君の刃だ。絶対に君を、あんな奴らの手に掛けさせはしない』
『コトハ様は、僕が守りますにゃ! もう、とっくに決めてますにゃ!』
『もう儂は自分を見失わん。そしてヌシのこともな。ホタル』
『ノゾムにはあたしが付いてるよ!』

 ところが、白陽だけがヒナタのデッキケースから出てくる様子が無い。
 疑問に思ったノゾムが彼に問う。

「あれ、先輩。白陽は?」
「あー、最近色々忙しかったからなぁ……大抵日中は寝てるか本読んでんのさ。今はカードの中で寝てるぜ」
『白陽ったらー、最近全然デートにも付き合ってくれないんだよっ! 倦怠期ってやつなの?』
「多分、それはぜってーちげーと思うぞ」

 さて、とフジは言った。
 最後に念押しするように、全員に問うために。



「最後に聞きたい。D・ステラに、そして俺様のチームで戦ってくれるか?
これはある意味、お前らの戦いだ。そして、これは表と裏、デュエマの両面が掛かった戦いだと俺は思っている。よく考えて決めて欲しい」



 しかし。
 此処まで来れば、全員の意思は固まっていた。

「世界……まだ実感は無いが、やるしかないようだ。僕は参加します」
「そうね。あたしもレンに同感だわ。まあ、こうなることは薄々感付いていたわけだし」
「私も……今度こそ、皆さんの力になりたい!」
「オレだって! 鎧龍に入って、本当に良かったと思ってるぜ! だって、いきなり世界が相手なんてよ!」
「——ま、絶対に負けられねえってこったな」

 にやり、とフジは笑みを浮かべる。




「その言葉、YESと受け取らせて貰うぜ!!」




 こうして。
 そろそろ授業が始まるので、この場は此処で解散になった。
 部屋を出ようとするヒナタは1人、考えに耽っていた。
 ——世界大会……何か裏があるように俺には思える……何が何でも、勝たねぇと——




『私はお前を信じているぞ。ヒナタ。私は私の使命を全うするまでだ』




 一瞬、そんな言葉が流れたような気がした。
 デッキケースに目をやれば、もう寝息が聞こえてくる。
 わざとらしいほどに大きい寝息が。
 
「ったく、素直じゃねーな。本当」

 笑みを浮かべ、彼は駆け出した。
 こうして。
 世界への第一歩が踏み込まれたのだった——

Act2:開幕 ( No.218 )
日時: 2016/01/05 22:06
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

 ***



 が、しかし。
 当然それだけで終わるはずは無かった。
 早速昼休みに一行は再び会議室に呼び出されたのだった。
 その内容は、今日の全校集会に自分たちも選手として全校生徒の前で行進する、とのことであった。
 というか、こんな大事を何故直前になって知らせたのかというと——
 ——だって、アヴィオールとかアンカとかの件があったわけだしー
 とのことだった。
 まあ納得である。
 そして、現在に至る。
 今、まさにその全校集会の途中で、ヒナタ達はアリーナの外で待機しているのだった。
 
「つーか、緊張するなぁ……」

 白々しい顔で、言うヒナタ。
 その表情には全く焦燥感だとか、そういうものが感じられない。
 まるで、冷たい秋風の中にいるような——

「緊張どころじゃないんすけど、先輩ィ!? てか、何であんたはそんなに涼しそうな顔してんですかぁ!?」
「あばばばば……」
「おい、声を落とせ。どうするヒナタ。かなりビビっているが」
「かなーりアガってるわよ、あの子達」
「過去幾度の修羅場正念場に比べりゃこんなことどうってことねぇってわけよ」
「どうなってるすんか、あんたの心臓……」

 しかし、と辺りを見回すと見慣れたメンツが見える。
 学年の列強や、以前鎧龍サマートーナメントで戦ったライバルの姿——

「あれってコトハの兄貴じゃね?」
「うげっ……最近妙に上機嫌と思ったら……」

 こちらには気付いていないが、コトハの兄・如月シュウヤもいた。
 去年は、フジが指揮する(前回は3年生はリトルコーチ・選手の選択で参加できた上に、リトルコーチがそこまで重要な役では無かった)チームの一員だったが、今回も戦うことになるのだろうか。

「——ありゃ、テツヤのチームだな。ほれ、先頭を見ろ。あいつがいる」

 フジの指差した方を見ると、学校一のドSとも専らの評判の凶悪頭脳プレイヤー・星目テツヤの姿があった(短編3参照)。
 最近、鎧龍に戻ってきた彼だが、今度はリトルコーチとしてその頭脳を振るうのだろうか。
 だとすれば、教え子になるであろうシュウヤのことがかなーり気の毒になるが。

「ふん、あのバカ兄貴には少しでも痛い目に遭って貰わないと薬にならないわ」
「そうだなあ……」

 彼が同情を得られないのは、重度のシスコンであることに他ならない。
 そのため、妹からは当然の如く煙たがられている。
 いや、嫌われていると言っても過言ではない。
 前回の大会だって、ヒナタのことを勝手にコトハに引っ付くクソ野郎呼ばわりし、勝手に引き離すだのくっつけるだのと言っていたのだから。
 結果。コトハとの対戦で、勝負・物理のダブル方面でKOされたのだが、実力者であることには変わりない。
 しかし。
 それだけではなかった。
 列の中に、見覚えのある少年が。
 物静かそうな風貌の生徒にして、学校内でも強力な奇襲攻撃を扱うことで有名な焔クナイだった。
 この間負けたヒナタとしては、因縁の相手の1人である。

「——あいつも星目先輩のチームなのか」
「どうも、一筋縄ではいきそうにないな」
「が、学校内の有名な先輩ばかりじゃないですかぁ、こんなのに勝てるんですか?」
「おいてめーら。そろそろ入場だぞ、黙れ」

 フジが窘めたことにより、その場はいったん収まる。
 しかし、ヒナタは見た。
 クナイの瞳がこちらを向いたのを。
 ——成程な。テメェとも決着を付けなきゃいけねーってことか!
 そう思った瞬間——アリーナへの扉が開かれ、選手入場となった——



 ***



「——今年の鎧龍サマートーナメントのチームは、前期の1〜3年生までの5人に加え、優秀な成績を持つ後期生1人のリトルコーチが付きマス」

 淡々と原稿を読み上げる外国人とハーフの老校長・瓜生崎は続ける。
 七時間目。科目・全校集会。
 この時間には、今年の夏休み前の大イベント、鎧龍サマートーナメントのルール発表が毎年行われる。
 が、しかし。
 場にはピリピリとした雰囲気が漂っていた。
 今回の鎧龍サマートーナメントは只事ではない、と上級生の多くも解していたのだ。
 


「そして、今回の鎧龍サマートーナメントで優勝したチームは、D・ステラ——即ち世界デュエリスト養成学校連盟合同大会の日本予選で我が校の代表として出場することになるのデス」



  次の瞬間、歓声が上がる。
 世界大会。
 その言葉に、全生徒が沸いていた。
 「世界だって!?」「D・ステラってうちの学校も出場するのか!?」という声が上がる。
 しかし、それだけではなかった。

「よって、今年のサマートーナメントは例年のそれとは違い、所謂D・ステラの校内予選となり、出場する生徒は限られているのでご了承くだサイ——というのも既に、出場する生徒は決定しているのデス。選手団、入場——」

 ばっ、とアリーナの後ろの扉が空気を吐き出すように開いた。
 そこから後期生、即ち普通の学校で言えば高校生に相当する生徒を先頭に、前期生、即ち中学生に相当する生徒5人のチームが順に規則正しい行進で現れた。
 そして、その中に——満面と愉悦に満ちた顔を浮かべた武闘フジと、暁ヒナタ達の姿もあったのだった——
 
「大会に参加するのは4回生のリトルコーチが率いる32チーム。そして、予選・本選共にトーナメント形式で行われマス。そして、5人のチームの大戦順を本選の間は対戦ごとに自由に決めて構わないというものデス」

 つまり。
 チーム同士の対戦ごとに、並び順を変えても良いということらしい。
 そして、先に3回勝利したチームの勝利となる。
 それが、鎧龍サマートーナメントの今年のルールだった。
 
「大会は一週間後——7月15日に行いマス。それでは、選手の皆さんは互いの健闘を祈り、観戦する生徒の皆さんも熱い応援をお願いしマス——」

 こうして。
 鎧龍サマートーナメントの発表は終わった。
 そして。
 ヒナタ達の戦いが始まったのだった。
 そう。それも、長く長く厳しい、世界との戦いの始まりだった——

Act3:特訓 ( No.219 )
日時: 2016/01/07 02:04
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

 ***


 
 放課後。
 激動の一日を終えた2つの影が学校の坂を降りていく。

「しっかし良かったのか? ホタル。お前も武闘先輩の言うことをあんなにホイホイ真に受けちまって」
「あはは……」

 途中まで帰り道が同じノゾムとホタルは、部活が無い日には一緒に帰るようになっていた。
 半分この辺は、ホタルが口先八丁で彼を納得させたところがある。
 魂胆は勿論、彼と関わる機会を増やしたかったからであるが。
 それはともかく、ノゾムはホタルが心配だった。あまり押しに強いタイプではないため、不安を抱えていたり、本当は世界にも行きたくないのではないか、と思ってしまったのだ。
 
「オレはヒナタ先輩に着いて行こうと思った。此処まで世話になったんだ。もう断る理由は無かった。それに、世界を見れるなら、本望だ。それに、邪悪龍に接近できるチャンスなんだ。逃すわけにはいかねえ。だけど、お前はどうなんだ?」
「私は……」

 一瞬、答えることを戸惑ったホタル。
 やはり、場に流されたのだろうか、と彼はこのとき思ったが——



「ノゾムさんと一緒に……世界に行って恩返ししたい……なーんて」



 間抜けにも「そーか」と返してしまったノゾムはそのまま歩いていた。
 が、しかし、数秒して遅れる形で顔が真っ赤になる。
 何より、ホタルのはにかみながら言ったその姿が余りにもいじらしくて。

「い、いえ! なんでも……ヒナタ先輩やレン先輩、コトハ先輩、そしてノゾムさんがいるなら……大丈夫かなって。それに、足手まといにはなりたくないですけど、何もしないのはもっといけないと思って」
「……お、おう……」
 
 顔が真っ赤になった2人は。
 そのまま、真っ赤な夕焼けを背に、何も言わずに帰路につこうとした——が、そのときであった。
 ケータイの着信音が鳴り響く。

「んあ!? 何だ」
「ぶ、武闘先輩から……ですね」

 要件は。
 再び武闘ビルに来いとの連絡だった。
 それも今すぐにだ。



 ***



 

 武闘ビルにて。
 いつものフジのオフィスに全員は集まっていた。

「いきなり呼び出してすまねーが、おめーらに問う。今のままで、勝てると思っているか?」
『……』

 全員は黙りこくるしかなかった。
 今回の参加者、どいつもこいつも学年の強豪や有力な先輩達で占められている。
 ヒナタやレンがいるのはまだしも、3回生がいなくて、あまつさえ1回生もいる自分たちは大会全体から見てもかなりのダークホースだろう。
 というか。
 これで勝てるのだろうか、というムードが漂っていた。

「いけねぇなぁ!? そういうさぁ、お通夜みてーなムードはよォ!?」
「あんたがそうしたんじゃないですか、半分は!!」
「じゃあ残り半分は? それはテメェらの弱気だ。何のために俺様がテメェらを選んだと思っている」

 にやり、といつもの嫌な笑みが浮かんだ。
 
「それはテメェらに才能があるからだ! 努力さえすれば開花する蕾と見込んでいるからだ! 俺様を信じろ。テメェらを信じる俺様を信じろ!!」
「どっかで聞いたことのある台詞をいけしゃあしゃあと!! オレ知ってますよ!!」
「流石武闘先輩、その辺りのネタには枚挙にいとまがないな」
「ネタが多すぎて真面目なのかふざけてんのか分からないんだけど、あたしは……」
「はあ」

 溜息をついたのはヒナタだった。

「それで、武闘先輩。結局、俺達をどうしてここに?」
「説明しよう。この武闘財閥はバーチャルなんたらだとか、ARソリッドうんたらとか、挙句の果てにはバイクに乗ったままデュエ——」
「おいやめろ」
「——というように、様々なバーチャルシステムを作っているが……その中の1つを使う。ついて来い」

 そのまま、得意げな背中で彼は部屋を出ていく。
 それを見ながら、不安そうな顔でノゾムはヒナタに聞いた。

「良いんすか、先輩……」
「……知らん。覚悟を決めろ。世界に行くためだ。それに、これに参加するっつーことは、キイチにあんときのリベンジをすることにも繋がるかもしれねえんだぜ」
「あっ……」
「そういえば、あんた達キイチと戦ってボロ負けし——」
「それ以上はいけない」

 D・ステラに出るということは、他の学校代表と争うことにもなる。
 先の話だが、キイチと戦うことになるかもしれないのだ。いや、確実に彼は出てくるだろう。
 そのため、ヒナタとしては藁にすがる思いだったのだ。 
 しかしノゾムとしては、正直フジには色々前科があるので(WRYYY!やネオ・メタルアベンジャーソリッド以下略二連装砲など)、できるだけ武闘財閥の頭のおかしい発明に頼りたくはなかった。 
 しかし。
 こうなってしまっては仕方がない。

「行きましょう、ノゾムさん」
「あ、ああ……」

 気付けば、先輩たちは皆先に行ってしまっていた。
 ノゾムもホタルに押される形で後を追うことにした。
 そして、やってきたのは、その機械があるらしい部屋だった。
 入ると、正面には5台。
 球体のポッドが置かれている。それも、人1人が余裕で入れそうなくらいの大きさだ。
 
「通称、D・コクーン。中に入れば、今持っている自分のデッキや、好きなカードで組んだデッキを使ってデュエルが出来るという代物だ——それも、バーチャルでコンピューターと対戦できる」
「それ普通にパソコンとかでも——」
「甘い!!」

 至極真っ当なレンの突っ込みを、フジがバッサリ切り捨てる。
 
「この中のヘルメットを被ることにより、コンピューターがてめーらの思考パターンに合わせたデッキを用意したり、その他色々だ。大丈夫。怖いことは何にもない。ちょい黒鳥。入ってみ」
「……え?」

 名指しされたのはレンだった。
 言われるがままに、球体のそのマシーンの中に入る。
 そして。
 そのまま何の音さたも無かった。
 
「あれ、今中で何が起こってるんですか?」
「外からは見えないだろうが。取り敢えず、てめーら残りの分もきちんと用意してある。入るが良い」
「え」

 そのまま、言われるがままに、順番に全員がD・コクーンなる機械の中に入っていく。
 中は乗り物のコクピットのようになっており、テーブルのようなものが正面にある。
 そして、奥行きのある画面にSTARTと映し出されていた。

「そんじゃ俺も——」

 と入ろうとするヒナタ。
 しかし。
 がしり、と肩を掴まれる。




「待てヒナタ。テメェは別室だ」
「え?」




 言い知れない威圧感を肌で感じ取ったヒナタ。
 折角面白いものが使えると思った矢先である。
 納得のいかないまま、それぞれの訓練が始まったのだった——

Act3:特訓 ( No.220 )
日時: 2016/01/06 12:17
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

 ***



「——何だ? 早速始めるのか?」

 中に入ったレンは、そんな風に呟いた。
 物々しい中身で、奥行きのある画面。
 そして、無機質な声が響き渡った。




『”トレーニングモード”を開始します。虹彩認証・黒鳥レン』

 


 ちょっと待て、虹彩写真なんて撮った覚えが無い——と言わぬ間に、暗かった画面が一気に明るくなる。
 そして、360度のデュエルフィールドが展開された。
 更に、目の前のテーブルのようなものにカードらしきものが浮かび上がってくる。
 ——自分のデッキを使うわけではないのか。面白い!! しかも、早速対戦とは話が速い!!
 カードが5枚、手元にホログラムとして現れた。
 わざわざ自分を読み込んだのだから、黒単デッキでも出てくるのかと思ったが——
 ——!?
 レンはすんでのところで変な声を上げそうになった。
 その手札は——



 《鬼切丸》
 《凶戦士 ブレイズ・クロー》
 《メガ・ブレード・ドラゴン》
 《めった切り・スクラッパー》
 《爆襲 アイラ・ホップ》



 ——赤単速攻、だとぉぉぉーっ!?
 余りにも予想の180度先を上回っていた。
 そもそも、速攻デッキ自体余り使ったことのないレンは、戸惑いが隠せない。
 ——何だコレは! 一体、どうしろというんだ!?

『尚。このデッキで10戦しなければ、出られません。ご注意を——』
「ふぁっ!?」

 ——どういうことだ……! 僕たちがいつも使っているデッキとは全く違うタイプ……! 此処まで極端なデッキは使ったことが無いぞ!



 ***




「《特攻人形 ジェニー》召喚!? 効果で墓地に送って——手札を1枚破壊です!」

 ホタルの方はと言えば、黒単ドラグナーのデッキを使っていた。
 普段使っている光のカードとは使い方が真反対なので、こちらもやはり戸惑いが大きい。
 ——自分のクリーチャーを自分で破壊するって……でも、よく考えたら普段やってることもやってることのような気が……。
 ハーシェルで自分のシールドを消すのとは、それでも訳が違う。
 さらに、身を守るブロッカーが普段よりも少ないので、さらに不安を覚えてしまっていた。
 



 ***



「何よこれ……」

 コトハの場には、《音感の精霊龍エメラルーダ》、《奇跡の精霊 ミルザム》を始めとしたブロッカーが並んでいた。
 つまりは、殆ど使ったことが無いヘブンズ・ゲートのデッキである。明らかに使わせるデッキのチョイスが間違っているのではないか、と彼女は思った。
 折角此処まで展開することに成功したものの——

『《熱血龍 GENJI・XXX》召喚。効果でブロッカーを全て破壊』
「うわーん!! 全滅じゃない!!」

 一瞬で消し飛ばされて消し炭に。まとめて墓地へ叩き落された。
 ——光デッキなんて……ブロッカーデッキなんてまともに扱ったことが無いんだけどぉーっ!?



 ***



「何だコレ……」

 ノゾムが手に取ったデッキは——

「デッキリストを見た限り、かなーり無茶苦茶にカードが入ってるな、オイ……これが所謂イメンループって奴なのか? でもどうやってループさせりゃ良いんだ?」

 ——《龍覇 イメン=ブーゴ》と《邪帝斧 ボアロアックス》を使った5文明レインボーデッキだった。
 しかしこのデッキ、かなり扱いが難しく、動きが複雑なので使ってみてもなかなか上手く決まらずに負けてしまうことも多々。
 ——こんなデッキでどうしろっていうんだぁーっ!?



 ***




「つ、疲れた……」

 真っ先に10戦が終わり、頭を抱えながら出てきたのはレンだった。 
 
「おのれ……まさかあんなデッキを使わせられることになろうとは」

 しばらくして。
 次はホタル、そしてコトハ、最後にかなり遅れてノゾムがD・コクーンから出て来た。
 
「おい、大丈夫か貴様ら」
「あたしは何とか……」
「私もです……」
「オレはデッキの動きを掴むだけで精一杯でした……」

 慣れないデッキと連戦で、全員はかなり疲弊しきっており、皆目が死んでいた。

「貴様らのデッキは? 僕は赤単の速攻デッキを使わされたが」
「私は黒単ビートダウンを……」
「あたしは天門……」
「オレはイメンの何か訳分からんデッキでした……」
「成程。これは一体。先輩の事だから、無意味にやらせているわけではないと思うが……そう言えばヒナタは?」
「? まだ出てきていないのかしら」
「じゃあ、取り敢えず此処で待っておきましょうよ」




「おーう、終わったかテメーら」



 部屋に響き渡ったのは、フジの声だった。
 
「慣れねえデッキで慣れねえ連戦したからか、どいつもこいつも疲れ切ってるようだが……そんなんじゃ、連中には勝てねえな」
「あれには一体、何の意図が……?」
「今回のはまだまだお試しって言ったところだ。次回からはランダムで色んなデッキが使えるぞ。喜べ。どいつもこいつも一線クラスの高レベルなデッキだ。さて、何の意図があるのかって聞いたが——」

 にやり、とフジは嫌な笑みを浮かべた。




「お前らにはこれから、普段使ってはいないデッキで一週間の間にコンピューター相手に100勝して貰う」
「……はぁ?」



 全員は殴られたような衝撃を受けた。
 しかし、フジの言葉はまだまだ続く。

「お前らのうち誰か1人でもこのノルマを達成出来なかった場合……即・チームは解散。更に英雄も武闘財閥が預からせて貰う」
「んなぁ!? あんた一体何を無茶苦茶な!?」
「無茶苦茶じゃねえ! わりーが、てめーらに欠けてるのは、対応力だ。流石適合者というだけあって、それぞれ得意なデッキには100%どころか150%の力を発揮できるテメーらだが……逆に言えば苦手なデッキは60%もその力を引き出せていないと見た!!」

 だからだ、とフジは続ける。




「この一週間。テメーらには武闘ビルに放課後通ってもらい、徹底的に追い込むことにする。その先に何があるのかは——テメー自身の目で確かめるこった」




 ホタルの血相が真っ青になっていた。
 レンの目が死んでいた。
 コトハの顔から生気が引いていた。
 ノゾムは——

「やってやります!!」

 ——燃えていた。

「しかし、僕たちに出来るのだろうか……」
「これはもうやるっきゃないでしょ」
「100勝ですか……私なんかに出来るのかなあ……」
「そ、そんなぁ!? 何でそんな弱気に!?」

 とはいえ。
 いきなり100という数字を告げられたのだ。
 気圧されても仕方がなかった。
 それも、完全に運。ランダム。
 その中で勝て、とフジは言うのだ。
 ——極限状態の中で、様々なデッキを知る……それこそがテメーらに課せられた試練だ。おめーらの敵は鎧龍じゃねえ。世界だ。それを知ってもらわねーとな。

「毎日通えとは言わねぇし、俺はその辺については何も言わねえ。だけど、フケたらその分、負担が増えるもんだと思いな。そこは自由だぜ」

 そう言い、フジはくるり、と踵を返す。

「ちょっと待ってください、先輩。そう言えば、ヒナタの奴が見当たりませんが」
「本当だ! そういえば、5つ目のD・コクーン”FREE”、誰も入ってないって」
「どこに行ったんですかね? トイレ? 真っ先に終わらせちゃった?」
「……そこに気付くとは。やはり天才か」
「あんたは天災ですがね」
「それは褒め言葉だぜぃ。さて、質問の答えだが——」

 少し間をおいて、彼は言った。




「あいつはちーと、”特殊”なんだよ。あいつだけ別室」



 難しそうな顔で——

Act3:特訓 ( No.221 )
日時: 2016/01/07 01:28
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: S0f.hgkS)

 というわけで。
 その日からノゾム達の100勝ノルマ達成の地獄の特訓が始まった。
 何戦かした結果、自分たちの使うデッキは完全にランダムというわけではなくある程度パターン化されており、各人によって違うようだった。
 例えばレンならばビートよりの火中心のデッキ。
 ホタルならば闇中心の隙の無いビート・コントロールのデッキ。
 コトハは光中心の天門やロックなどのデッキ。また、闇などの妨害中心のデッキ。
 残るノゾムは、かなり複雑なコンボデッキ・ループデッキが中心であった。
 できれば、自分たちが普段使うデッキで特訓をしたいのだが「それでは意味が無い」とフジは言う。
 そしてそして一方のヒナタはその日から余り姿を見せなくなり、学校でも余り話さなくなった。
 何があったとレン達が聞いても「ま、まあ、俺だけ特別補修なんだとよ、あははは……」と言うだけ。恐らく、彼の疲れた顔からして彼も彼で楽ではないことは確実だろう、と当人たちは判断した。
 今彼を問い詰めるよりも、自分の事の方が大事である。
 当のフジが何を考えているのかという疑惑。
 そして慣れないデッキで勝たねばならないという疲労。
 ノルマ達成が出来なければD・ステラは勿論、英雄もボッシュ—トされるのだから、プレッシャーも大きかった。

「——ま、また負けちゃいました……」



『淡島ホタル
現在勝利数:16』



 3日目。
 こうもなると、全員疲労が目立ってくる。
 ノルマを稼がねば、という焦りだ。
 特に。
 ホタルの戦績は芳しいものではなかった。

「……んなこと言ったら、あたしだってそうでもないわよ? ホタルちゃん。AIがかなり強いんだもの」



『如月コトハ
現在勝利数:25』



「そ、そうだ、何かコツとかは掴めましたか如月先輩!」
「お、新聞部モード入った? でもねー、あたしもよく分からないのよ……ただ、なんていうか、あたしの使うデッキ、大戦のたびに使うとはいえ使ってたら生理的に嫌な気分になるっていうか、何ていうか……特に自分と同じデッキに当たった時には自分をいじめてる気分になるっていうか……」
「何かそういえば、あたしも同じことを……」

 ——しっかしなかなか上手くいかねーな……100勝か……。
 女子同士というだけあって、仲の良いホタルとコトハを横目に、こちらも余り勝率が芳しくはないノゾムは、先輩に問うたのだった。
 息抜きもかねての質問であった。

「レン先輩、どうですか?」



『十六夜 ノゾム
現在勝利数:27』




「……ああ。まあまあだ。ただ——コトハの言ってることは案外的を射ているかもしれんぞ」
「え?」
「僕たちが使っているデッキ……やはり、ランダムとはいえ傾向が似ている。そして、それらはやはり僕たちに何か関係していると思う——まあ、僕としてはその辺は貴様自身で気付くべきだと思うが」




『黒鳥レン
現在勝利数——46』




「——!」
「まあ、スコアはこんなものだ。そのデッキをもっと知るつもりで、”1戦1戦を大事にする”ことだ」
「これって……!」
「ああ。やはりこれは一種のトレーニングだ。貴様が貴様自身で真実にたどり着いたときに、結果が残るはず」

 静かに、重く響くその言葉にノゾムは口を噤まずを得なかった。
 ——すげえ! 流石、ヒナタ先輩と並ぶ強豪って言われるだけはある——! オレももっと、頑張らねえと!
 再びD・コクーンの中に入り込み、彼は対戦を始めた。
 ——100勝って言葉に惑わされて、1戦1戦を流し作業みてーに流していたかもしれない! 集中しろ、オレ! 強くなるには、もっと、もっと更なる境地に達するには——!!
 こうして。
 各人は更に対戦と対戦を重ねることになった。
 やはり一筋縄でいくものではなかったが……。



 ***



 翌日。
 昼休みにノゾムが見たのは——

「あ〜う〜……」

 ばったり机に突っ伏しているホタルであった。
 普段の気丈な彼女からは考えられないその姿に、何が原因なのかは大体察しつつ、取り敢えず放ってもおけないので声をかけることに。
 
「どうしたホタル……」
「のぞむさぁぁぁーん」

 涙目になっている彼女に若干苦笑いした。
 まあ、気持ちは分からないことも無かった。

「デュエルってあんなに辛いものでしたっけノゾムさん……」
「早速心が折れてやがる」
「そもそもデュエルって何でしたっけ……ああ……デュエルという言葉が頭の中でゲシュタルトデュエル崩壊して……」
「何言ってんだ、正気に戻れ……デッキが選べねえ辺り、完全にプレイングだとかそういうのを鍛えるんじゃねえか?」
「完全に私が足手まといじゃないですか、やだー! しかも普段とは違うデッキを使うって、先輩は本番で私たちに別のデッキでも使わせる気なんでしょうか!?」

 結局。
 ホタルは殆ど昨日も勝ち数を増やすことが出来なかった。
 AIの強さもあり、なかなか勝てないのだ。
 全敗ではないだけまだマシなのであるが。

「いやー、しかしなあ……それはねぇと思うぞ? じゃねえと、わざわざオレ達のことを分析したりだとかそういうことはしねぇ気がするなあ……そもそも、オレ達が何文明の適合者ってのは武闘先輩が一番知ってる気がするし」
「しかも、1人ノルマ不達成だったら全員脱落だとか……無茶苦茶ですよぉ! 武闘ビルに行きたくない……」
「ま、それはさー、フジ先輩がオレ達には絶対できるって確信してるからじゃねえか?」
「無理無理!! だって、私にはいきなりレベルが高すぎますって……」

 この間の意気込みは何処へやら。
 疲れているからか、本音がダダ漏れだった。

「レン先輩もこれは一種のトレーニングだって言ってたし。まだまだ有情だと思うぜオレ」
「甘言を吐いてるのは重々承知なんですけど……流石に疲れました」

 ぐでー、と机に突っ伏すホタル。
 それを見兼ねたのか、クレセントも現れた。

『どうする? ノゾム』
「オレは後四日あれば勝利ノルマは稼げそうだから良いんだけどな……休日は一日中D・コクーンで対戦することが出来るわけだし」
『あたしたちボッシュ—トされちゃうかもだよ!? どうすんの!?』
「……よし!」

 妙案が思いついたのか、ノゾムは彼女に良い放つ。




「今日の放課後、オレに付き合え! ホタル!」


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