二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ D・ステラ 【侵略世界編】
日時: 2017/01/16 20:03
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: y0p55S3d)

【読者の皆様へ】
はい、どうも。二次版でお馴染み(?)となっているタクと申します。今回の小説は前作の”デュエル・マスターズ0・メモリー”の続編となっております。恐らく、こちらから読んだ方がより分かりやすいと思いますが、過去の文というだけあって拙いです。今も十分拙いですが。
今作は、前作とは違ってオリカを更にメインに見据えたストーリーとなっています。ストーリーも相も変わらず行き当たりばったりになるかもしれませんが、応援よろしくお願いします。

また、最近デュエマvaultというサイトに出没します。Likaonというハンドルネームで活動しているので、作者と対戦をしたい方はお気軽にどうぞ。


”新たなるデュエル、駆け抜けろ新時代! そして、超古代の系譜が目覚めるとき、デュエマは新たな次元へ!”



『星の英雄編』


 第一章:月下転生

Act0:プロローグとモノローグ
>>01
Act1:月と太陽
>>04 >>05 >>06
Act2:対価と取引
>>07
Act3:焦燥と制限時間
>>08 >>10
Act4:月英雄と尾英雄
>>13
Act5:決闘と駆け引き
>>14 >>15 >>18
Act6:九尾と憎悪
>>19 >>21
Act7:暁の光と幻の炎
>>22 >>23
Act8:九尾と玉兎
>>25

 第二章:一角獣

Act1:デュエルは芸術か?
>>27 >>28 >>29
Act2:狩猟者は皮肉か?
>>30 >>31 >>32 >>33
Act3:龍は何度連鎖するか?
>>36 >>37
Act4:一角獣は女好きか?
>>38 >>39 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
Act5:龍は死して尚生き続けるか?
>>48

 第三章:骸骨龍

Act1:接触・アヴィオール
>>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54 >>55
Act2:追憶・白陽/療養・クレセント
>>56 >>57
Act3:疾走・トラックチェイス
>>66
Act4:怨炎・アヴィオール
>>67 >>68
Act5:武装・星の力
>>69 >>70
Act6:接近・次なる影
>>73

 第四章:長靴を履いた猫

Act1:記憶×触発
>>74 >>75 >>76 >>77
Act2:龍素力学×龍脈術=3D龍解
>>78 >>79 >>80
Act3:捨て猫×少女=飼い猫?
>>81 >>82
Act4:リターン・オブ・サバイバー
>>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
Act5:格の差
>>91 >>92 >>93 >>104
Act6:二つの解
>>107 >>108 >>109 >>110
Act7:大地を潤す者=大地を荒らす者
>>111 >>112 >>113
Act8:結末=QED
>>114

 第五章:英雄集結

Act1:星の下で
>>117 >>118 >>119
Act2:レンの傷跡
>>127 >>128 >>129
Act3:警戒
>>130 >>131 >>132
Act4:策略
>>134 >>135
Act5:強襲
>>136
Act6:破滅の戦略
>>137 >>138 >>143
Act7:不死鳥の秘技
>>144 >>145 >>146
Act8:痛み分け、そして反撃へ
>>147
Act9:fire fly
>>177 >>178 >>179 >>180 >>181
Act10:決戦へ
>>182 >>184 >>185 >>187
Act11:暁の太陽に勝利を望む
>>188 >>189 >>190 >>191 >>192 >>193 >>194 >>195
Act12:真相
>>196 >>198
Act13:武装・地獄の黒龍
>>200 >>201 >>202 >>203
Act14:近づく星
>>204


『列島予選編』


 第六章:革命への道筋

Act0:侵攻する略奪者
>>207
Act1:鎧龍サマートーナメント
>>208 >>209
Act2:開幕
>>215 >>217 >>218
Act3:特訓
>>219 >>220 >>221
Act4:休息
>>222 >>223
Act5:対決・一角獣対玉兎
>>224 >>226
Act6:最後の夜
>>228 >>229
Act7:鎧龍頂上決戦

Part1:無法の盾刃
>>230 >>231 >>232 >>233 >>234 >>235 >>236 >>239
Part2:ダイチの支配者、再び
>>240 >>241 >>242 >>243 >>244 >>245 >>246 >>247 >>248 >>250
Part3:燃える革命
>>252 >>253 >>254 >>255 >>256
Part4:轟く侵略
>>257 >>258 >>259 >>260 >>261

Act8:次なる舞台へ
>>262


 第七章:世界への切符

Act1:紡ぐ言の葉
>>263 >>264 >>265 >>266 >>267 >>268 >>270
Act2:暁ヒナタという少年
>>272 >>273
Act3:ヒナとナナ
>>275 >>276 >>277 >>278 >>279 >>280 >>281
Act4:誓いのサングラス
>>282 >>283 >>284 >>285
Act5:天王/魔王VS超戦/地獄
>>286 >>287 >>295 >>296 >>297 >>298 >>301 >>302 >>303 >>304 >>305
Act6:伝説/閃龍VS獅子/必勝
>>313 >>314 >>315 >>316 >>317 >>318 >>319 >>320 >>321 >>323
Act7:青天霹靂
>>325 >>326 >>327 >>328 >>329 >>330 >>331
Act8:揺らぐ言の葉
>>332 >>333 >>334 >>335 >>336
Act9:伝説/始祖VS偽龍/偽神
>>337 >>338 >>339 >>340 >>341 >>342 >>343
Act10:伝える言の葉
>>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351
Act11:連鎖反応
>>352


『侵略世界編』


 第八章:束の間の日常

Act1:揺らめく影
>>353 >>354 >>359 >>360 >>361 >>362
Act2:疑惑
>>363 >>364
Act3:ニューヨークからの来訪者
>>367 >>368 >>369 >>370 >>371
Act4:躙られた思い
>>374 >>375 >>376 >>377
Act5:貴方の為に
>>378 >>379 >>380 >>381 >>384 >>386
Act6:ディストーション 〜歪な戦慄〜
>>387 >>388 >>389
Act7:武装・天命の騎士
>>390 >>391
Act8:冥獣の思惑
>>392
Act9:終演、そして——
>>393


 第九章:侵略の一手

Act0:開幕、D・ステラ
>>396
Act1:ウィザード
>>397 >>398
Act2:ギャンブル・パーティー
>>399 >>400 >>401
Act3:再燃 
>>402 >>403 >>404
Act4:奇天烈の侵略者
>>405 >>406 >>407 >>408 >>409 >>410 >>411
Act5:確率の支配者
>>412 >>413
Act6:不滅の銀河
>>414 >>415
Act7:開始地点
>>416


 第十章:剣と刃

Act1:漆黒近衛隊(エボニーロイヤル)
>>423 >>424
Act2:シャノン
>>425 >>426
Act3:賢王の邪悪龍
>>427 >>428 >>429
Act4:増殖
>>430 >>431 >>435 >>436 >>438 >>439 >>440 >>441 >>442
Act5:封じられし栄冠
>>444


短編:本編のシリアスさに疲れたらこちらで口直し。ギャグ中心なので存分に笑ってくださいませ。
また、時系列を明記したので、これらの章を読んでから閲覧することをお勧めします。

短編1:そして伝説へ……行けるの、これ
時系列:第一章の後
>>62 >>63 >>64 >>65

短編2:てめーが不幸なのは義務であって
時系列:第三章の後
>>97 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103

短編3:文化祭(と言えば聞こえは良いが要は唯のスクランブル)
時系列:第四章の後
>>120 >>121 >>122 >>123 >>124 >>125 >>126

短編4:十六夜ノゾムの災厄な一日
時系列:第四章の後
>>149 >>150 >>153 >>154 >>155 >>156

短編5:恋情パラレル
時系列:第四章の後
>>157 >>158 >>159 >>160 >>163 >>164 >>165 >>166 >>167 >>168 >>173 >>174 >>175 >>176

短編6:Re・探偵パラレル
時系列:平行世界
>>417 >>418 >>419 >>420 >>421 >>422

エイプリルフール2016
>>299 >>300

謹賀新年2017
>>443


登場人物
>>9
※ネタバレ注意。更新されている回を全部読んでからみることをお勧めします

オリジナルカード紹介
(1)>>96 (2)>>271
※ネタバレ注意につき、各章を読み終わってから閲覧することをお勧めします。

お知らせ
16/8/28:オリカ紹介2更新

Act4:誓いのサングラス ( No.282 )
日時: 2016/03/26 11:13
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

  翌日の放課後。やっと学校にやってきたヒナタを、3人は迎えたのだった。
 
「久々だな! お前が学校に来なくって心配だったんだぞ?」
「ほんとうですよ……また、対戦しましょう?」
「そうだわぁ。組んだデッキがあるんだけど——」

 だが——ヒナタは一言、呟いた。
 まるでそれらを全て振り払うように。




「何でそんな平気でいられるんだよ」




 冷たく、そう一言。
 これだけで3人は黙ってしまった。
  
「もう、デュエマはやめたんだ。俺に——近づかないでよ」

 そう言って——通り過ぎていく。
 沈黙。
 それが重くのしかかった。
 まるで何分、何時間にも感じた。
 ヒナタがいなくなり——ショウゴは膝をついた。

「俺の所為だ……俺があんな余計なことをしたから——」
「ショウゴさんの所為じゃないですよ! ヒナタさんは……きもちのせいりがつかないだけだとおもいます……」
「そうだわ。大切な人が居なくなって、逃げ場を探しているのねえ。自分の胸を縛る苦しみから逃げる方法を」
「だけどっ……その方法が”デュエマをやめる”だなんて——ねぇよ!! ねぇよこんなの!!」

 ガンッ、ガンッ、と床に拳を打ち付けた。
 いずれ知ることだったとはいえ、ショウゴは後悔していた。
 ヒナタに自分からナナカの死を伝えたことを——
 余りにも突然すぎて、彼はショックを抱え込み——そのままずるずると引き延ばしてしまっているのだろう。
 
「だから本心で言っているわけじゃないと思うわあ」
「今は……時間を置きましょう」
「くそう……くそうっ……」

 悔しさも悲しさも抑えられないまま、彼はそのまま床に手を着いたのだった。
 溢れ出る負の感情を堪えながら——




 ***



 もう、何カ月経っただろうか。もう、あのメンバーで集まることはすっかりなくなっていた。
 PC教室で時たま振り返るノア。また、あの少女が来るかもしれない、という叶うはずのない願いを抱きながら。
 ——ちょっと頼みがあるの! あなたの腕を見込んでね!
 ——え、ええ……良いんですか? 私で。
 昼休みもサッカーの途中、気が散って集中できないショウゴ。周りと合わせていつも通りを装っていたが、やはり気は紛れなかった。
 ——サッカー習ってたの? あたしも得意なのよ! 女子だからって侮らないでよ?
 ——オッケー、掛かってきな! 俺からボールを取——ってはえーよ!
 カードショップでしきりにデッキを只1人見つめているしおり。デッキを見るたびに、彼女の表情を思い出す。
 ——しおりさんはこれ使ってみて! 手札破壊とか使うから合ってると思うのよね!
 ——あらぁ。ありがとねぇ。こういうの私好きなのよぉ。あ、そうそう、今度こっちのカードのルールも教えようか?
 そして——いつも屋上でただただ空を見つめるヒナタ。
 ——ヒナタ! デュエマしよう! 
 目を伏せる。
 辛い。
 思う度に胸が苦しくなる。
 皆から大切に思われていた。
 寄せ集めのメンバーがこんなに仲良くなれたのは、彼女のおかげだったのだろうか。
 今でも、あのサングラスを帽子に掛けたあの少女のことを思い出す。
 例えるなら——太陽のような少女だった。



 
 ***




 隣に誰も居ない。
 1人で歩く世界はこんなにも怖くて、1人で歩く時間はこんなにも惨めで、1人で歩く空間はこんなにも寂しくて、やるせなかった。
 ——俺なんかどうせ……ナナのおまけみたいなもんだ。
 そう卑下しながら、全てが白と黒に染まってしまった世界を仰ぎ見る。
 



「暁ヒナタぁぁぁー……!!」




 見ればそこには——いじめっ子のタイセイと、その取り巻き達の姿があった。
 この路上の真ん中で正面からヒナタを潰すつもりなのだろう。
 その顔は殺気に満ち溢れていた。
 
「……くーっくっくっく、この度はご愁傷さまだったな、お付きの邪魔なアバズレが死んでくれたから、これでもう好きなだけお前を甚振れるってわけだ」
「てめー……本当どこまでも腐ってんな」
「あんとき散々好き放題言いやがって!! ぶっ殺す!!」

 最早、怒りも沸かなかった。
 全てを放棄した彼は胸倉を掴まれて顔を殴られても、もうそれ以上は何も言わなかったし、泣きもしなかった。
 ただただ為されるがままだった。
 そのままアスファルトの地面に叩きつけられる。
 そして、彼の大きな足が迫る——

「惨めで哀れで、それでいて臆病者のお前は——どーせあいつに守られていただけにすぎねーんだよ!! 檜山ナナカのオマケが、調子に乗りやがって——ぎゃはははは——」

 


 ガァンッ




 足は——振り下ろされなかった。
 巨体が倒れるような音が重く響き渡る。
 ヒナタは顔を上げた——途端に手を引っ張られる。
 そのまま、無我夢中で走った——




 ***




「大丈夫か!? ヒナタ!!」
「ヒナタさん、しっかりしてください!」
「大丈夫? ねぇ!?」


 その声で、ようやく状況の整理がついた。
 気付けば、誰かの部屋にいた。
 ベッドに寝かされて、顔に色々貼られている。
 そこには——ショウゴ、ノア、しおりの姿があった。

「ったくよぉ、心配ばっか掛けさせやがって……! 良かった、本当に良かった……!」
「もう……ショウゴさんから久々に連絡を貰ったと思ったら……!」
「もう痛いところはないかしら? 怪我も手当しておいたからねぇ」
「ごめん」

 一言、そう謝る。
 自分はあんなに酷い事を言ったのに。
 そして、自分が前にカードショップでタイセイと決勝で戦ったことを話した。
 その時に——挑発的なことを言ったことも。
 ひいてはこの事態が自分の所為だということも。

「何で……何で助けたんだよ。俺が起こしたことなのに。俺はあんなに酷い事言ったのに。デュエマも、ナナカもない俺を——」
「バカ野郎!! 友達だからに……決まってるだろ!!」

 彼の目には涙が浮いていた。
 そのまま、捲し立てるように続ける。




「あんな奴の言うことなんか、真に受けるんじゃねえ! お前は暁ヒナタなんだ! 檜山のオマケやセットなんかじゃねえ! 1人の……1人の俺の友達なんだ! お前まで居なくなったら——俺は——」




 彼の身体を掴み、必死でショウゴは叫んだ。
 顔に貼られた絆創膏を指でなぞりながら——

Re: デュエル・マスターズ D・ステラ【過去編】 ( No.283 )
日時: 2016/03/27 00:52
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

「ヒナタ」

 掠れ声で、ヒナタの肩を掴んでショウゴは言った。

「……デュエマをやめるとか……いうなよ……檜山だって、そんなこと望んでねぇはずだぞ……」
「……」

 彼女に教えて貰ったデュエマ。 
 彼女といつも遊んだデュエマ。
 そして——初めて仲間達と共有したのもデュエマだった。
 
「……憎しみでカードを握った!? 俺だってお前と同じ目に遭ったら、そうするかもしれねえ! 人間だから仕方ねぇだろうが! だから、だから誰ももうそんなことでお前を責めたりしねぇよ! だから……檜山を理由にデュエマをやめないでくれ!!」
「そうですよ……ナナカさんだって……いつも言ってました。ヒナタさんが一番デュエマを楽しんでるって……」
「貴方の言葉は本心じゃないはずよぉ」

 本心じゃない。
 苦しみから逃れようとしただけだ。
 彼女を失った辛さから逃れようとしただけだ。
 だから——叫んだ。

「弱い自分が嫌だった!! ナナに……皆に守られてるだけの俺が嫌いだった!! だから——勘違いしたんだ!! 《5000GT》を握ったとき、自分が強くなったと勘違いしたんだ!! 俺は……こんなに弱いのに……誰かの力を借りないと生きられない弱虫なのに……ナナが死んでも悠遊とデュエマをする自分を思い浮かべたら惨めになったんだ!!」
「弱虫だって良い!! これから……これから一緒に強くなればいいんだ!!」

 泣きじゃくるヒナタ。
 そして、その肩を掴むショウゴの顔も——涙で濡れていた。




 ***



 次の日曜日だった。
 余り最初は乗り気ではなかったものの、ヒナタは皆に連れられてカードショップに来ていたのだった。
 ノアとしおりが対戦をしている中、ふと隅でストレージのカードを見ているヒナタを見かけて、ショウゴは声を掛けた。

「デッキ組んでんのか?」
「うん」
「だけど、お前……アウトレイジのあのデッキは」

 しばらく、自分で1からデッキを組んだことは無かったと思い返すヒナタ。
 それに何カ月も間デュエマから離れていたので正直、強いかどうかは分からない。それでも——
 
「ナナカのあのデッキは——俺が本当に強くなるまで、取っておきたい。今は、自分の力で組んだデッキを使ってみたい」
「そうか。なら、俺と対戦しないか?」

 どうやら、新しいデッキのテストに付き合ってくれるようだった。
 ヒナタも断る理由は無く、こくり、と頷いたのだった。




 ***




 ヒナタとショウゴのデュエル。
 後攻2ターン目で彼は動き出した。

「呪文、《メンデルスゾーン》! その効果で山札から2枚を見て、《王龍ショパン》と《偽りの名 バザガジー・ラゴン》をマナゾーンに!」

 これで、彼のマナゾーンのカードは4枚。
 速い。ドラゴンという鈍重なカードを扱っているだけあり、どうすればそれを早く出すことが出来るのかを理解している。

「俺のターン、《青銅の鎧》を召喚。効果でマナを1枚増やしてターンエンド」

 対するヒナタもマナブースト。
 カードをマナゾーンに置いていく。
 互いにマナを増やしていくデッキスタイルだ。
 しかし——

「じゃあいくぜ、こっちもエンジン掛けてくぞ! 5マナで《無双竜鬼ミツルギブースト》召喚! その効果でこいつをマナゾーンに置いたら——相手のパワー6000以下を破壊できる! 《青銅の鎧》を破壊だ!」
「っ……!」

 更にマナを加速させてきた。
 次のターンでもう7マナになるのだ。
 だが、此処でヒナタは一気に動き出した。

「呪文、《超次元シャイニー・ホール》! 効果で《時空の不滅 ギャラクシー》を召喚!」



超次元シャイニー・ホール C 光文明 (5)
呪文
バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選び、タップする。
次のうちいずれかひとつを選ぶ。
▼自分の超次元ゾーンから好きな数のサイキック・クリーチャーをコストの合計が5以下になるように選び、バトルゾーンに出す。
▼コスト7以下の光のサイキック・クリーチャーを1体、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。




時空の不滅ギャラクシー VR 光文明 (7)
サイキック・クリーチャー:エンジェル・コマンド 5000
覚醒−このクリーチャーがバトルゾーンを離れる時、バトルゾーンを離れるかわりに、コストの大きいほうに裏返す。




「厄介なクリーチャーを出してきたな、オイ……! だけど、こっちだって負けない!」

 サイキックを展開してきたヒナタに対し、ショウゴは地力での勝負を挑もうとする。
 ドラゴンのパワーで何かされる前に押し潰すつもりなのだ。
 
「7マナで《隻眼の鬼カイザー ザーク嵐》を召喚だ!」





隻眼の鬼カイザー ザーク嵐 P 火文明 (7)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター 6000
相手の呪文の効果またはクリーチャーの能力によって、このクリーチャーが自分の手札から捨てられる時、墓地に置くかわりにバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から3枚をすべてのプレイヤーに見せる。その中からハンターをすべて手札に加え、その後、残りを好きな順序で自分の山札の一番下に置く。
W・ブレイカー



「切れた手札はこれで補う! 山札から3枚を捲り——《R・S・F・K》、《ボルバルザーク・エクス》を手札に!」
「……!」
「ターンエンドだ」 

 次のターン、ショウゴは決めるつもりだ。
 ガチンコ・ジャッジで下手すればシールドを全て消し飛ばしてからダイレクトアタックを決める《R・S・F・K》をバトルゾーンに出すつもりだろう。運次第と言いたいところだが、ドラゴンデッキはコストの平均が高くなりがちなのでガチンコ・ジャッジに勝てる確率も高い。
 要するに、運が良ければシールドを大量に削り切られ、悪ければゲームセット。しかも《ボルバルザーク・エクス》もいるので、そちらも出して来るだろう。
 ともすれば、打点は完全に揃ってしまう。
 ——このターンで……どっちかが来れば——よしっ!!
 カードを引いたヒナタは、この状況の打開を1枚のカードに託した。
 6枚のマナをタップする。
 ——俺が——俺の力で照らす!! 俺が作ったこのデッキで!!




「その光は、天から地上を照らす! 《蒼狼の始祖アマテラス》召喚!」

Re: デュエル・マスターズ D・ステラ【過去編】 ( No.284 )
日時: 2016/03/27 02:18
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

蒼狼(せいろう)の始祖アマテラス R 水文明 (6)
クリーチャー:ナイト/サムライ/オリジン 5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、次のうちいずれかひとつを選んでもよい。
▼自分の山札を見る。その中からコストが4以下の呪文を1枚選び、山札をシャッフルしてからその呪文をコストを支払わずに唱える。
▼自分の山札を見る。その中からコストが4以下のクロスギアを1枚選び、山札をシャッフルしてからそのクロスギアをコストを支払わずにジェネレートする。




「《アマテラス》の効果発動! 山札から《ヒラメキ・プログラム》をサーチして唱える!」
「っ!」

 始祖の種族を併せ持つ存在、《アマテラス》。
 今では禁忌とされてしまった力。
 それをヒナタは使う——ありとあらゆる知識を解放するために。

「《ヒラメキ・プログラム》の効果で《アマテラス》自身を破壊! そして——コスト7、《魔刻の斬将オルゼキア》を召喚!」

 暗黒の剣を持つ将軍を召喚し、更にヒナタは続ける。
 更なるコンボへと。

「効果で《ギャラクシー》を破壊——そして、バトルゾーンを離れる時、代わりに《ギャラクシー》は覚醒する!」

 《ギャラクシー》を裏返すヒナタ。
 新たなる撃滅の新星が姿を現した——




「覚醒しろ、《撃滅の覚醒者 キング・オブ・ギャラクシー》!」




 息を飲むショウゴ。
 1枚のカードで此処まで巻き返されてしまったからだ。
 しかも、覚醒されてしまった。
 
「そして、《ギャラクシー》でシールドをW・ブレイク!」
「っ……!」
「ターンエンドだよ」

 彼も流石に驚いた。
 ナナカのデッキビルディングが凄いのは知っていた。
 しかし、彼のこの年不相応なビルディング——彼もまた、一人前のデュエリストとして成長していたのだろうか。
 ——いや、それだけじゃねえ。檜山の良質なデッキに触れていたヒナタがその技術をいつの間にか吸収していたんだ!

「ヒナタ!」
「?」
「あいつの魂——しっかりとお前に受け継がれてるぜ!」

 きょとん、とした表情の彼の顔を見て、ショウゴは少し苦笑いする。
 ——ま、いずれ分かるはずだ。

「俺も全力で応える! 《ボルバルザーク・エクス》召喚! 効果でマナゾーンのカードを全てアンタップする!」
 
 彼のマナゾーンのカードが全てアンタップされた。
 つまり、更なる軍勢を呼ぶ準備が出来たという事である。
 新たなる龍を、彼は呼び出した——



「これが俺の、イカサマなしの真剣勝負! 決めろ必殺の《R.S.F.K》!」



R.S.F.K.(ロイヤル・ストレート・フラッシュ・カイザー) VR 火文明 (7)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター/エイリアン 5000
スピードアタッカー
このクリーチャーが攻撃する時、自分が負けるか中止するまで、相手とガチンコ・ジャッジする。その後、こうして自分がガチンコ・ジャッジに勝った回数、このクリーチャーは相手のシールドを1枚ブレイクする。




 勝負師の龍。
 別名・連ドラの最終兵器。
 5回ガチンコ・ジャッジに勝てばそれだけで不利な盤面をひっくり返して勝利することが出来るからだ。

「攻撃だ《R.S.F.K》!」
「!」

 カードが捲られていく。
 1回目、ヒナタ《青銅の鎧》、ショウゴ《鬼無双カイザー「勝」》。
 2回目、ヒナタ《超次元 ガロウズ・ホール》、ショウゴ《黄金龍 鬼丸「王牙」》。
 3回目、ヒナタ《フェアリー・ライフ》、ショウゴ《無双竜鬼ミツルギブースト》。
 4回目、ヒナタ《エナジー・ライト》、ショウゴ《王龍ショパン》。
 5回目、ヒナタ《超次元フェアリー・ホール》、ショウゴ《母なる緑鬼龍ダイチノカイザー》——ヒナタの全敗だ。
 しかし。

「——S・トリガー《地獄門 デス・ゲート》! 効果で《ボルバルザーク》を破壊! そして、墓地から《アマテラス》を召喚! その効果で、《炎獄スマッシュ》を使って《R.S.F.K》を破壊!」
「なら、《ザーク嵐》でダイレクトアタックだ!」
「ニンジャ・ストライク3発動、《ハヤブサマル》を召喚! ブロックするよ!」

 防がれた。最終兵器が。
 しかし、むしろ清々しかった。
 にっ、と笑うとショウゴは言った。



「楽しかったぜ。最高に、なっ!」



 そう、一言だけ。
 ヒナタも何だか楽しくなってくる。
 あの時の——あの時の記憶が蘇ってくる。
 5人でデュエマしたあの日々が——
 ——そうか、俺は——
 
「《オルゼキア》でシールドをW・ブレイク!」
「トリガーはないぜ」
「《アマテラス》で最後のシールドをブレイク!」

 トリガーは——ない。
 がら空きになった彼に——叩き込む。




「《キング・オブ・ギャラクシー》でダイレクトアタック!」





 ***




「デュエマ……楽しかったか?」
「うん……思い出したよ。色々ね」
「ヒナタさんが、やっぱり一番デュエマを楽しんでいますよ」
「そうねぇ。そしてやっぱり強いわぁ」

 4人で帰る夕陽落ちる道。
 今日のことを、他愛のない話を久々に話していた。
 そして——ふとヒナタは呟いた。
 
「本当に……ごめん」
「何を謝る必要がある。友達の、仲間のことは自分の事と同じくらい大事だからな」
「俺……ショウゴみたいに、ナナカみたいに、強くなれるかな」
「強く?」
「うん——今度はやり返すような強さじゃない。皆を、皆を守るために強くなりたいんだ」

 おもむろに呟くように言うヒナタ。
 


「なれる」



 ぽん、と肩に置かれる手。
 それが、とても暖かくて優しかった。
 そして、すっ、と彼の手を握るノアの小さな両手。

「ヒナタさんがそう思うなら、ぜったいになれると思います!」

 頬に熱いものが流れてくる。
 
「うん、そうだよな……みんながそう……いうなら」

 膝をついた。
 感極まって、こんな仲間がいてくれて。
 それが自分には勿体なさ過ぎて。

「泣くなよ、ヒナタ。ほら」

 涙を拭こうとする手に箱が渡される。
 細長いものだ。リボンで結ばれていた。

「これはな、俺達3人で選んだんだ」
「絶対、ヒナタさんは強くなれます!」
「ええ。だって、一番あの子の近くにいたものねぇ」

 箱を手に取る。
 軽い。
 しかし——何か、とても暖かいものを彼は感じ取ったのだった——

「ありがとう——何これ」
「ま、それは家に帰ってからのお楽しみだな」
「あんまり期待しないでねぇ。そこまで高いモノじゃないからぁ」
「気に入って下さったらいいんですけど……」
「うん——」

 頷いたヒナタの涙は——自然と止まっていた。
 まるで、何かを感じたのだ。
 その箱から——

Act4:誓いのサングラス ( No.285 )
日時: 2016/03/27 03:17
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

 ***



「何だろ、これ……」

 家に帰り、すぐに自分の部屋に入った。そして、机で小箱のリボンを解く。
 そしてそのまま、箱を開けた——その瞬間、自分の目が飛び出しそうになった。
 思わず、すぐさま取り出す。
 とても見覚えのあるものだった。
 あの少女がいつも身に着けていたものだった。
 まるで、彼女を象徴するものだった。
 それは——黒縁のサングラスだった。
 クリアなフレームには、透明な青いラインが入っており、とても爽やかでスポーティだ。
 しかし、そんなことはヒナタは考えてられなかった。
 感極まって今まで堪えていたものが本当に溢れてきた。
 サングラスを手に取りながら、涙が止まることなく溢れ続けた。
 ぐしゃぐしゃになった視界の中で、黒いサングラスだけがくっきりと映っていた——
 ——絶対、絶対に強くなるから……! 俺、強くなるから……!
 そう、沈んでいく夕陽を窓から見て、在りし日の暁ヒナタはサングラスと仲間達に誓ったのだった——




 ***




「その後……どうなったの?」
「まあ、その後はぶっちゃけ普通だった。そんでもって月日が経つのは早いもんで皆別の中学校に行ったり、転校したりでな」
  
 彼は言う。
 月日を重ねていくごとに同級生にも友人が増えていき、最終的には困らない程度にはなった、と。
 しかし、かつての仲間達とは疎遠になってしまい、今は連絡を取り合うこともなくなってしまっているという。

「転校したっていうと……ノアって子?」
「ああ。結局、俺が卒業するまで一緒じゃなかったな。どっかに行っちまってそれっきりだ——って」

 ヒナタはコトハの顔を見て言った。
 急にこちらを向いたので、赤面してしまうコトハ。
 そして、自分の顔をぬぐう。涙が出ている。

「泣いてるぞ、お前。大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ! 目にゴミが入っただけなんだから!」
「ははは、分かってるって」

 しかし、彼女は驚いた。
 ヒナタがいつも着けているサングラスにこんな過去があったのか、と。
 いわば、これは彼の只のトレードマークではなく、仲間を守るために強くなるという誓いの証なのだ。
 彼がいつも無茶をするのは、仲間を守るため。そう、あの日、あのサングラスに誓ったため。
 
「鎧龍に入ったのは……結局、何でなの? そのナナカって子の思いを継ぐため?」
「……んー、それはちげーな。俺はデュエマしか取柄がねーから、やっぱこっちしかない。そう思っただけさ」

 墓石を前に、2人で並ぶ。
 夕陽を背にして。

「俺は——正直言うと、まだ引きずってるんだ。思い出すたびに泣きそうになることだってある。俺は——強い人間じゃねえから」
「……ヒナタは強いよ。今まで、どんな逆境にだって負けずに頑張って来た。仲間を——あたしを助けてくれた」
「コトハのおかげもあるな」
「えっ!?」

 思わず、ストレートに名指しされてコトハは赤面してしまった。
 にしし、と悪戯っ子のような笑みを浮かべるとヒナタは言った。
 ——こ、こっちの気も知らないで!

「お前とは喧嘩して出会ったようなもんだけど、あれ以降お前はずっと俺を助けてくれたしな。お前、なんつーかナナに似てるんだよ」
「似てる……?」
「あ、勿論代わりって意味じゃねーよ? そうじゃなくて、なんつーか、いっつも俺を何だかんだで心配してくれるし、助けてくれるしな。やっぱ、ここぞで頼れるのはコトハだって俺思うんだ」
「……当たり前じゃない」

 コトハは少し気恥ずかしそうだった。
 此処までストレートに伝えられるのもなかなか来るものがある。

「あんたには助けられてきたわ。あたしだけじゃない。他の皆だってそう。だから、またあんたを助けようと思うの。どんな逆境にだって諦めずに向かっていくあんたを見たら……放っておけないじゃない」
「そーかぁ?」
「無駄じゃなかったはずよ。今まであんたに起こったこと全てがね」
「……そうだな」

 彼はサングラスを手に取る。
 思い出される日々。
 思い返せば全てが今の自分を作り上げているのだろう。
 
「話、聞いてくれてありがとな」
「ううん。こっちこそお礼を言いたいわ。とても辛かったでしょうに」
「いずれは言わなきゃいけなかったことなんだ。あいつはもう帰ってこないけど、今度はあいつの分まで俺が誰かを守ってやるんだ」

 そう考えると、グラサンが全部繋げてくれたのかな、と彼は少し嬉しそうに言う。
 思わずコトハは吹きだした。

「お、おい! 何で笑うんだよ!」
「ごめんごめん、ちょっとおかしくって」

 そうやって、また笑顔がこぼれた。
 無邪気に笑い合う2人。

「……正直さ。まだ後悔してる気持ちだってある。俺がもっと傍にいてやれたら、俺がもっとあいつに何か出来ていたなら——だけど、全部引きずって前に進むんだ。前に進まねえと、何も見えなくなっちまうからな。だから——怖いんだ。また、仲間が俺の見えない場所で知らないうちに居なくなるのが」

 だから彼はいつも必死で戦った。
 仲間達がオラクルに襲われた時も。
 竜神王が世界を食らい尽そうとした時も。
 目の色を変えて、必死で戦った。
 仲間が失われそうになるたびに、狂う程苦しんだ。
 今のヒナタの目には——まだ見ぬ戦いへの恐怖が浮かんでいた。

「大丈夫」

 ぎゅっ、とヒナタの長袖シャツの袖を掴み、コトハは言う。




「あたしは——あたしだけはあんたの近くにいてあげるから」




 その姿はいつもの彼女とは違って見えた。
 優しく微笑んでいた。
 思わず見とれてしまう。
 胸の鼓動が速くなっていく。

「あたし、まだ大切にしてるよ? 《ドラゴンフレンド・カチュア》」
「えっ、マジかよ。最近お前使ってねぇから、もうとっくの昔に忘れられたもんかと」
「失礼ね! こないだもデッキを組み直したばっかりだわ!」

 《ドラゴンフレンド・カチュア》。それは、オラクルの最初の襲撃で切札を失い、悲しむコトハにヒナタが渡したカードだった。
 あの時はヒナタも必死だった。
 とにかくコトハに、そして同じく切札を失ったレンに立ち直って貰うために奔走したのだ。

「あたし、あのカード大好きなんだ。絆って感じがして」
「まあ、確かに……そうだな」
「あのカードを見て、あたしは元気が出た。あんたにはちゃんと力があるのよ。人を勇気づけて、元気にする力が。だから——こんな素直じゃないあたしだけど、これからも傍にいてくれるかな?」

 たりめーだろ、とヒナタは即答した。




「もう、誰も失わせない。俺の目の前から消させやしない。皆、大事な俺の仲間で——友達だ」



 ヒナタらしい、とコトハも笑ってみせた。
 そして——夕陽が沈んでいく。
 次は新たなる朝を告げるため——

「ってやっべぇ!! もうこんな時間だ!! バス!! バス!! おい白陽!! どうにかしろ!!」
『どうにもならんなこれは』
「3・現実は非情である!?」
「ニャンクス!! どうにかしなさい!!」
『空に”ボスケテ”って書いときゃどうにかなるんじゃないですかにゃぁ?』
「あれ!? あんたひょっとして少し機嫌悪い!? ごめんったら!! 謝るからどうにかして!!」

 ——このように門限がやばいことになるというオチがついたわけであるが。

Act5:天王/魔王VS超戦/地獄 ( No.286 )
日時: 2016/03/27 18:33
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: AfTzDSaa)

「蓬莱学園は、ドラグハートの開発に特化した機関だ」

 そう、フジは言った。
 それも、今までとは段違いのレベルの強さを誇るフォートレスを扱っているという。
 
「だからこそ黒鳥。超次元に頼らないお前のデッキは、手数では不利になるだろうな」
「……重々承知しています。そこで、自分もサイキックを搭載してみた次第です」
「賢いな。良い心がけだ」
「元々、授業で習ったことも合わせているので、これを使ったプレイングに慣れていないわけではありません」
「なら心配はいらねぇな」

 カードの枚数は単純に手数の多さを現す。
 超次元という拡張されたゾーンにある8枚のカード。これらが命運を分かつ時も少なくない。
 サイキック、ドラグハート。
 しかし、その両方をレンは今のデッキに搭載してはいない。
 フジの言う通り、手数ではやはり劣ってしまうだろう。
 特に強力なドラグハートを呼び出せるドラグナー、強力なサイキックを呼び出す超次元呪文・クリーチャーは”呼び出される側”は去ることながら、”呼び出す側”も高いカードパワーを誇っている場合が多いのだから。
 レンも、決戦が近づくにつれて、より勝ちにいくデッキを選んだのだろう。

「後もうちょいで、蓬莱戦だが——残りの期間は淡島と組んで特訓した方が良いぞ。テメェも教える側じゃねえ。自ら率先して学ぶ側になることだな」
「……分かりました」

 フジにしては珍しくまともな事を言った、とレンは思ったが当然口に出さないでおくことにした。
 自分でも痛い程分かっていることだ。
 
「闇に魅せられたモノ同士——どんなデュエルを見せてくれるか、俺様は楽しみにしているからな」
「闇に魅せられた、ですか」
「淡島だって、操られていたとはいえ”闇”に魅せられたことには変わりねえ。お前らはな、似た者同士なんだよ黒鳥」
「……そうですか」

 似た者同士——アルゴリズムに操られ、仲間に牙を剥いた者。
 その深層の心理は似通っている。
 闇——暗い闇に行き場を求めたことだ。
 眩しい光の使い手であるホタルも——そうだった。
 彼女も本能では、強さを求めているのだろう。
 今更、そのことを否定はしなかった。自分がどんな形であれ、”そんな強さ”を求めた事には変わりないのだから。

「だがな。何のために強くなるのか。今度はそれを考えてれば良い」
「何のために——ですか」
「ああ。そうすればもう、何も見失わないで済むはずだ。後はお前に任せる」
「……そうですか」
「それさえ分かればな。お前が革命0を手にする日は近い。俺様が問題ないと判断した時、その時に革命0を渡す」

 革命0——追い込まれた時だけとはいえ、発動すれば凄まじい力を発揮する最強の革命。
 無限の剣で全てを切り開く革命——それがヒナタの《ドギラゴン》の革命0だった。
 


「残る2つは——”時間”を止めて全てを変える革命、そして全てを”虚無”に帰して滅ぼす革命だ。特に後者は——お前にピッタリだろ」



 ***




「というわけで、もうすぐ蓬莱戦だからな。僕と淡島がコンビを組んで特訓することになった次第だ」

 フジと話していたため、遅れて昼食にやってきたレンは真っ先にそう告げたのだった。
 今までノゾムとホタルを相手に特訓をしていたレンだったが、今度からはホタルと組むことになるということだ。
 これはタッグマッチが近づいている以上は仕方のないことである。
 
「じゃ、オレはヒナタ先輩と如月先輩と特訓してろってことっすね」
「いや、それだけじゃダメだ。貴様自身もデッキを更に研究し、己を磨き上げることだな。貴様は次の試合に出る事が決まっているのだから」

 最も、フジはまだノゾムと誰を組ませるのかは決めていないらしい。
 今回のタッグマッチ、1人だけ2度出場させることが出来るためである。
 既にレン&ホタル、ヒナタ&コトハという組み合わせが決まっているのだが、残るノゾムとの枠には誰でも入れることが出来るらしい。
 故に、悩んでいるらしいのだが。

「ま、聞いた話によれば闇と光の革命はすっげーつえーんだろ?」
「そうらしいな」
「全く自然と水も、もう少しどうにかならなかったのかしら」
「まだ完成していないと言っていたな」
「でもでも! オレ、絶対見てみたいです! 時間を止める革命に、全てを虚無に帰す革命! どっちもどんな効果なのか、楽しみです!」
「時間を止めるなら既に《クロック》というのが居てだな」
「それ以上はいけない」

 しかし、光で時間を止める、というのをやってのける以上、どういった能力になるのかはまだまだ未知数だった。
 
「淡島!」
「ひゃ、ひゃい!」

 声を掛けたところ、声が裏返ってしまうホタル。
 やはりまだ、緊張しているところがあるのだろうか。
 が、どこか怯えているようにもヒナタには見えた。

「てかレン。お前どんな特訓したんだよ。ビビってるぞ」
「そんなに酷い事をした覚えはないのだが」

 すると、小声でノゾムがヒナタに耳打ちした。

「い、いや、いちいち細かいんすよ、レン先輩って。説教臭いっつーか……」
「あー、それは分かる。俺も分かる」
「悪かったな説教臭くて。貴様は特別訓練だな。蓬莱戦が終った後に」
「か、勘弁してください!!」

 どうやら訓練が厳しいのもあるらしかったが。
 地獄耳のレンに陰口など持っての他であった。流石闇使いと言ったところだろうか。
 
「ま、俺じゃどーしても甘くなっちまうところがあるからな。指導役にレンは適任だろ」
「勘弁してくださいよ! レン先輩のスパーリング、すっげー容赦ないんですから! 相手の心折るようなプレイングを熟知してるよ!」
「……お前が言うなら相当だな」

 ノゾムの打たれ強さはヒナタも重々知っている。そのノゾムがこう評するのだ。
 レンは案外、鬼教官のタイプだったのだろう。
 とはいえ、ノゾムも全部本心で言っているわけではない。彼の指導を受け入れている。

「全く、弱音を吐くのも大概にしてほしいものだな。元はと言えば貴様らが志願してきたのだから。まあいい。休憩中くらいは見逃してやる」
「うお、こえーなぁ」
「ヒナタ。何なら貴様も付き合うか?」
「遠慮しとく」
「でも、レンに着いて来られたらいよいよ一人前ね。これでもレンは、ヒナタに並ぶくらい強いんだから。自信もっていいわよ」
「というわけで淡島。夕方からの特訓に付き合ってくれ。我儘で済まないが、僕自身も地力を上げていく必要があるのだから」
「は、はい」

 こうして、束の間の休息は終わったのだった——


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