複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.346 )
- 日時: 2016/10/29 23:21
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
菜月side
「お母さん」
「終わったの?」
私は首を振った。 「だって、せっかく歩ちゃんが推薦してくれたのに」
家に帰ってから今まで、私は母と自分の部屋に籠り、今日何があったのか、と聞かれた。
私が委員長じゃないけど、クラスの副委員長になったことを話すと「何ですって!」とベッドから立ち上がって「お母さんとの約束、守れなかったの?」と肩を掴まれた。
「何度も言わせないで、菜月。 今年がどういう年か、あなた分かってるでしょう?」
私が黙っていると「担任の先生に手紙を書きなさい」と、どこからともなく便箋を取り出し、机の上に置いた。
「推薦されたからって、クラス委員をこんな大事な時期にまでやること無いじゃない。 その子もその子よ。 あなたのことを思っているならこんな時期に、副委員長にs/」
そこで母の言葉は玄関のチャイムの音に遮られた。
真っ先に部屋を飛び出した母に続いて、私も階段を駆け下り、玄関に急いだ。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.347 )
- 日時: 2016/11/04 17:55
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
菜月side
「どちら様?」
母は玄関の扉の前に立ち、向こう側にいる人に叫ぶ。
「長瀬です」
それを聞いた母は「ですから、長瀬ってどの長瀬さんですの?」と玄関の戸を開けた。
途端に「まぁ、長瀬君! お元気してた?」と口調も顔も一気に明るくなった母。 「ああ、はい」と長瀬君は苦笑いを返す。
隙間から覗く私に気付いた母は「菜月、いらっしゃい」と外に引っ張った。
母は長瀬君との再会をとても喜んでいるらしく、次から次に話しかける。 が、ふと「あ、この子に用なのよね。 ごめんなさいね〜。 どうぞ、上がってお茶でも」と長瀬君を家の中に手招く。
「いえ」と長瀬君は肩にかけていたカバンを腕に抱えて「これを届けに来ただけですので」と、今度ははっきりとした笑みを母に向けた。
「そ〜お? じゃあ」と母は残念そうに、家の中に戻って行った。
「わざわざありがとう」と長瀬君が手にした大きな茶封筒を受け取ろうとすると「待った」と、それをカバンに入れ直した。 キョトンとする私に「ここじゃないところで、ちょっと話したい」と一方的に歩いて、どこかに行こうとするので、私は慌てて追いかけた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.348 )
- 日時: 2016/11/04 19:03
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
菜月side
しばらく後をついて歩いていると、ずっと真っ直ぐ歩いて来た道を左に曲がった長瀬君。
その瞬間、目的地が予想できた。
小さい頃から家が近所で、二人で遊ぶときは、いつもこの公園に来ていた。
いつの日かのように、二人でブランコに座る。 それだけでどこか懐かしい気分になり、目の前で駆ける子供たちを、幼い自分と長瀬君に当てはめた。
「おばさん、相変わらずだな」とずっと黙っていた彼が口を開いて「ん」と大きな茶封筒を差し出してきた。
昔から長瀬君は母のお気に入りで「将来は長瀬君と結婚なさい」と言われたこともあるほどだった。
「ごめんね」と小さく言った私に「別に謝らなくていいけど」とブランコを止めた。 キィーという音に顔を上げると、俯く長瀬君がいた。
「小学五年の頃。 俺が話したこと、覚えてない? 今日みたいに、倒れたことがあったって」
私は目を瞑り「あったかもね」と返す。 その時の記憶は、あまりない。
彼の言うように、前にも一度、倒れたことがあった。
小学五年生の時、全校朝礼の途中に倒れた。
すぐに歩ちゃんと長瀬君が、保健室に連れて行ってくれたらしい。
鮮明に記憶していることは、急いで駆け付けた母に、ものすごく怒られたこと。
「朝礼中に倒れたなんて。 菜月、あなた校長先生のお話が寝るほどつまらなかったって言うの?」
私は母が何を言っているのか、はっきり分からなかった。 でも、自分でも気づかないうちに、静かに泣いていた。
「あ、あの・・・お母さん? 本居さんは決して寝ていたわけでは…」と保健室の先生が間に入った。
その時の私は何が悲しかったのか。 今なら分かる。
今日のように、母は私に「大丈夫?」の一言もかけてくれなかったのに、歩ちゃんたちには「あなたたちが菜月を運んでくれたの? ありがとう。 疲れなかった?」と優しく声をかけていたからだ。
自然と顔が俯いた私に「悪い。 あまり思い出したくなかったよな」と長瀬君の声が近づいて来た。 私はフルフルと頭を振って「こちらこそ、また心配かけちゃったよね」と顔を上げた。
「高校に入ってから、一気にまた声かけづらくなったから。 本当は、もっと前からこうして本居と話せてたら、って今日また後悔したよ」
「そんな、後悔なんて」
また俯きそうになる私に「ほんと」と長瀬君は切り出して、私が膝に乗せていた手に、自分の手を重ねた。
びっくりしながら長瀬君に視線を戻すと「ずっと、心配してたんだからな」と真剣な顔で言った。
しばらくお互い見つめあっていたが、ふと横から視線を感じて、振り向くと離れた場所からさっきの幼い子供たちが私たちをじーっと見ていた。
恥ずかしくなった私は「な!」と一言発して、長瀬君の手を払った。
「宿題、届けてくれてありがとう! じゃあ、明日ね!」と長瀬君を公園に残して、私は家に急いだ。
(不意打ち過ぎるよ! 一緒に委員の活動している時より、いっぱい話したような気がする!)
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.349 )
- 日時: 2016/11/05 12:33
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
美羽side
「あーあ、見失っちゃった」
私は道の真ん中で、一人ぼやいた。 長瀬君を追って来たはずなのに、道を曲がる回数が多くて、いつの間にか彼の姿は見えなくなってしまった。
「もしかして、私が後をつけてることを知ってて、わざと曲がったりしたとか?」
考えが巡るうちに、ちょっと怒りが湧いてきた。
「最初から思い切って一緒について歩けばよかったかも」
仕方ないので、私は元来た道を戻ろうとクルッと後ろに向き直った。 と、どこからか「うわ!」と声が聞こえた。 私は咄嗟に周りを見回す。 と、なぜか電柱に隠れた同じ制服の女の子がいた。
その背格好に見覚えのあった私は女の子に駆け寄り「見つけた!」と正面に回り込んだ。
「花、何やってんの?」
「いや・・・帰る方向違うのに、美羽が長瀬君を追いかけて行くのが見えたから」
「あー、見られてたんだ。 そっか。 でも、見失っちゃったから、帰ろう?」
「うん」と花がうなずいたのを見て、私は先に歩き出した。
「そういえば」と花が隣に並び切り出した。
「美羽は知ってる? なーちゃんと長瀬君の噂」
「ううん。 どんな?」
「長瀬君がなーちゃんを好きって」
「えー、そうなの? 知らなかった」
「私も今日、百合が言ってたの聞いただけだから」
そこからしばらく何の会話もなかったが「だからなのかな?」と自分でも気づかないうちに、そんな言葉が出た。
「え、何?」
「いやさ。 菜月って、藤井さんに副委員長に推薦されたじゃん?」
「ああ、うん。 そうだったね」
「その前に長瀬君は、男子から委員長に推薦されてたよね」
「うん」
「もしかして、藤井さん・・・」
私はそこで言葉を区切り、考えを巡らせていると・・・一つの答えが見えてきた。
「藤井さんもあの二人の噂を知ってたからってこと?!」
私達の声がきれいに重なった。
「だよね! 小学校からの付き合いだもの。 何回か聞いたことあるかも知れないし」
「でも、藤井さんは単に、なーちゃんの真面目な性格を見て推薦したんじゃないかな? うーん、でも噂を知ってたってなると、すごいね」
「ね、すごいよね!」
そう話してるうちに、花の家が近づいてきて「じゃあ、また明日」と花は道を左に曲がった。 私も「うん」と手を振り返し、花が家に入るのを見送った。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.350 )
- 日時: 2016/11/05 17:12
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
安佐子side
「えっと、この文章から漢字を五つ穴埋めにして〜っと」
私は今家で、テスト問題の作成中。 目や首回りが疲れたので、少し休憩しようと立ち上がって首を回した。
「バッキバキだわ」とソファに腰かけたところに家電が鳴った。
「は〜い」と受話器を取る。 「もしもし、三神です」
「私、香だけど」
「ああ、香。 どうかした?」
「知り合いから、本居さんに関して重要な意見が聞けたの。 明日・・・本当は来てほしくないけど、朝保健室においで」
「本居さんについて考えてくれたの? 知り合いに聞いてまで」
「なんか、本居さんのお母さんが放っておけない自分がいるんだ。 もちろん本居さん本人もだけど」
「そう。 ありがとうね、香」
そう言う私に「急にどうした?」と香の怪訝な声が返ってきた。
「別に。 保健室の先生らしいな〜って、感動しただけ」
「そりゃ、どうも」
「フフ・・・。 私ももちろん担任として放っておけないし、まだまだできることがあるような気がする」
「そうだな」
「一度、お母さんと私達、三人でお話がしたいって思ってるんだけど・・・」
「うん、それがいいな。 だいぶ手強そうだけど」
「そうなのよね。 でも、私は香が居れば怖くない!」
「そう。 じゃあ、明日」
「は〜い、明日」と言い切る前に、電話は切られてしまった。
香は実感ないかもしれない。 自分では認めないかもしれない。
もし、私が直接言ったとしても、否定するかもしれない。 けど、それでも私は・・・
香は”保健室の先生”が似合っていると胸を張って言える。
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