複雑・ファジー小説

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新任の養護教諭、香先生
日時: 2016/09/04 13:39
名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)

 こんにちは  または久しぶりな方もいるかもしれませんね。

 奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。

 さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
 
 また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。


Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.286 )
日時: 2016/04/30 17:02
名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)

 安佐子side

 高校生活、最後の夏。 香について、ある噂が広まった。

 同じクラスだった子たちは、ほとんどが鵜呑みにし、香のことを冷たい目で見ていた。

 私は信じていた。 何度クラスの子が、同じ噂をしていても。

 



 ある日の放課後、廊下で二人の女子が香の噂をしていた。

 私はそれを一階の廊下から聞いていた。 というか、聞こえきた。

 「なんかいつかやると思ってたんだよね〜、私」

 「マジ! 当てちゃったじゃん」

 「いやいや。 だって三神さんとは話すくせに、他の女子男子とは関わろうとしないし。 私、中学一緒なんだけど、中学の頃に比べて一層暗くなったというかさ」

 「そうなんだ」

 「ま、もともと明るい性格じゃなかったし。 だから、あの子が人を殺すって言うのも、とうとうやったかって思っちゃうんだよね」

 私はその言葉を聞いた途端、ダッシュで階段を上がり三階へ急いだ。

 「そんなこと言わないで!」

 そう叫んだ私に、二人はビクッとなり目を見開いた。

 「三神さん? もう帰ったんじゃ」

 「そのつもりで一階の昇降口に向かう途中だった。 でも、二人の会話が聞こえたから、飛んで戻って来たの!」

 「は?」と一人の女子が言い「一階からって?」ともう一人の女子が私を不思議そうに見る。

 (え? もしかして、私変なこと言った? ただ、一階から話し声が聞こえて、ってだけしか……あ!)

 「い、いや、あのその…聞いてたというか、自然と聞こえてきちゃったっていうか…えっと」

 「…地獄耳」

 「え?」

 一人の女子がこちらに一歩近づいて来た。

 「何遠くから、人の会話を盗み聞きしてるんですか?」

 その子は私の目を見て「変な力」と言った。

 「ベ、別に盗み聞きしてたわけじゃ!」

 私がそう反論した時「そうだよ」と、どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。

 「その子の耳は確かに地獄耳だよ。 普通の声で話していれば、ここから一番遠いバス停で待っていても聞こえると思うよ」

 そう言いながら、教室から出て来たのは香だった。

 

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.287 )
日時: 2016/04/30 17:43
名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)

 安佐子side
 
 「つまり、自然と聞こえてくるんだよ」

 香は手に筆箱を持っていた。 

 (忘れ物を取りに上がって来たんだ)

 「いつから聞いてたの」

 「あなたが地獄耳って言ってた時から教室にいた。 忘れ物取りに来ただけだったんだけど、すぐに出れる雰囲気じゃなかったから。 はい、これが本当の盗み聞きってやつ」

 香は少し口角を上げた。 

 「うまいこと言ったつもり?」

 「全然」
 
 「じゃあ笑うな!」

 その子は香の肩を、左手で強く推した。 香はそのまま教室の中でしりもちをついた。

 「香!」

 そばに駆け寄ろうとした私を、その子が振り返り、私の背中を押した。 私は香の足元に横倒れになった。

 女子二人はササッと、そばに置いていたカバンを肩にかけ、階段を降りて行った。

 私は泣いた。 悔しかった。 

 ずっと自分で隠してきた、この、欲しがった覚えのない能力を。

 


 でも、あの時香が言ってくれた。

 「きっと、その力が役に立つ時が来る。 こんなふうに」

 そう言った香の目には涙が溜まっていた。 決して流しはしなかったけど、香が私のことをこんなに思ってくれたことが今まであっただろうか。

 そんな香の目を見て、私はさらに泣いた記憶がある。

 まさに、さっき杉木さんに見せた笑顔はあの時と同じだった。

 

 

 

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.288 )
日時: 2016/05/01 11:52
名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)

 香side

 「疲れた」

 私はちゃちゃっと帰り支度を済ませ「お先に失礼します」と作業をしている先生達に軽く頭を下げ職員室を出た。

 直後「横田先生」と後ろから声をかけられた。

 「何か?」と振り向くと、土江先生が立っていた。

 「あの……、あ、ありがとうございました!」

 そう言って土江先生は頭を深々と下げた。

 「私のクラスの生徒の問題だったのに、それを担任の私が何の力にもなれず……。 杉木さんや三橋君について、初めて知ることばかりでした。 もっと言えば、あの火事で亡くなったのが杉木さん、三橋君のお姉さんとお兄さんだったなんて……」

 「そんなに自分を責めないで下さい。 私だって三年生が関係あると分かって、とりあえず全員を集めて、彼らに本当のことを話してもらっただけですから」

 私はそう言って「では」と歩き出そうとした時、右手を掴まれ「ほ!」と変な声をあげてしまった。 

 そんな私にかまわず、土江先生は右手を掴んだまま「せめて」と切り出し…

 「三神先輩と共に、今夜ご飯おごらせてください!」

 「…こ、んや?」

 「はい、今から! もう三神先輩は車の中でお待ちです!」


 

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.289 )
日時: 2016/05/20 20:35
名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)

 愛結side

 「お疲れ—」

 錦先輩がタオルを首にかけて、部室に入って来た。 「お疲れ様です」と佐原さんが返す。

 「愛結」

 私の名前を呼び、隣に立った錦先輩に私は「はい」と、手首につけたリストバンドを外しながら顔だけを向けた。

 「部活に来るの遅かったけど、大丈夫だった? 先生に聞いても何も知らないって言うし、二人も心配してたよ?」

 二人というのは、佐原さんと須藤さんのことだ。 先輩の言葉を聞いて「えへへ」と照れる佐原さんと、私を見てニコッと笑う須藤さん。

 そんな二人を見て私は「心配かけてすみませんでした」と軽く頭を下げ、カッターシャツを手に取った。 そんな私に「わ!」と佐原さんが飛びついて来た。

 「ぬが!」と、突然のことに変な声をあげてしまった。

 「な、何でしょうか!?」

 「愛結ちゃんさ、いつも敬語だよね? 私達、同じ学年でしょ」

 佐原さんは私から離れて、腕を伸ばし「ノンノン」と左手の人差し指を左右に振る。

 (というか、いつの間にか名前で呼ばれてる!?)

 「凛!」

 佐原さんは着替えながら「そう呼んでくれていいんだよ?」とカッターシャツに袖を通し、また私に向き直って笑顔を向けた。

 「私も、沙代ちゃんって呼んでくれると嬉しいな! 愛結ちゃん♪」

 そう言って須藤さんは「お先です」と先輩に頭を下げ、部室を出て行った。

 「愛結、良かったね! これで私が卒業しても安心だ」 

 錦先輩はそう言うと、自分の着替えのある所に行き、着替えを始めた。

 「きゅ…うには、無理です」

 私が独り言のように言った言葉を、佐原さんは聞き取ったらしく「いいんだよ、ちょっとずつで」と笑った。

 会話に一段落つき、佐原さんと二人、急いで着替えを始めた。 鍵は「私が行く」と言うと、先輩と佐原さんは「じゃあ」と先に帰って行った。

 私が一人、鍵を返しに特別棟二階の職員室に向かっていた時「杉木さん」と男の子の声が聞こえた。

 

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.290 )
日時: 2016/05/19 15:36
名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)

 愛結side

 振り向かなくてもわかる。 三橋君だった。

 廊下が暗くて、顔が見えない。 けど、それは向こうも同じ。

 「急いでるとこ、ごめんね。 でも、ずっと教室で君がここに来るのを待っていたんだ」

 三橋君の制服のズボンが、ちょっとだけ月明かりに照らさせた。

 (授業が終わってからの一時間半、ずっと?)

 「どうして?」

 「兄のことで、ちゃんと謝ってなかったし」

 「本当にごめんなさい!」 そう三橋君は頭を下げた。 チラッと、頭が月明かりに照らされた。

 三橋君は姿勢を正してから「それと」と言いにくそうに切り出した。

 


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