複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.381 )
- 日時: 2017/03/05 13:21
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
長瀬side
「優、すごいな!」 「ほんと、ほんと」
教室に帰ってすぐ、俺はクラスメイトに囲まれた。 この前の試合について、皆の嬉しそうな声が飛び交う。
「菅もお疲れ」と、西田が菅を振り返った。 それに菅は「ああ」と短く返事をしただけだった。
が、思い出したように席を立って「今いいか?」と俺について来るように言った。 俺を囲む皆を「悪い。 また後で」と言ってかき分け、菅と廊下に出た。
「この前言ってた、考えってなんなんだよ。 そろそろ教えてくれたっていいだろ?」
「そんなに急かすなよ。 大丈夫、業間休みに俺について来てくれたら、そこで話すからさ」
「・・・どこに行くんだ?」
その質問に答えないでいると「場所くらい教えろ」と声が鋭くなったため、やれやれと思いながら「保健室」と答えた。
「は? なんで保k・・・ああ、なるほど」
菅は驚いたけど、すぐに納得したみたいだった。 やっぱり、この学校のほとんどの人はもう知っているんだ。
「話してみてもいいよな?」
菅に目を向けると「もちろん」と頷いた。
一時限目が始まりそうになったため、二人で教室に急いだ。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.382 )
- 日時: 2017/03/08 22:46
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
美羽side
終わった。 テニス部、最後の大会が・・・終わった。
確かに、いろいろ辛かったけど、いざこれまで頑張って来たものを失うのって、心に穴が開いた感じで寂しい。
花に「今年の夏、引退予定」とは言ったけど、それは高校総体の試合に負けたらっていう・・・『もしも』の話だったんだ。
でも・・・うん、負けたんだよね。 だから、素直に引退した。
そんな思いで、窓の外を見ていると「あーあ、楽しかったなぁ〜」と言いながら、花が近づいて来た。
「そう思ってたでしょ?」
何でわかるかな〜。 ほんと、こういう時は察しがいいんだから。
「負けたからって、本当に引退しなくても良かったんじゃない? すっごく後悔してるでしょ、その顔」
「・・・ちょっとね」
私達の話し声に気付いた仁井奈がこっちに来て「何の話?」と花の隣に立った。
「ちょっとね」と私は小さく笑って、また窓の外を見る。
仁井奈は首を傾げた後、私と同じように外を見て「テニスコートがどうかした?」と私に向き直った。
しまった! また無意識で見てしまった。
「あー、そっか。 仁井奈、知らなかったんだっけ? 美羽、テニス部引退したんだよ」
「あ〜・・・なるほど」
仁井奈がサバサバした性格なのは知ってる。 でも、もっと驚くかと思っていたのに・・・。
「まぁ、でも、お疲れってことで、いいんじゃない?」
仁井奈の言葉に、花も「そうだよね」と言ってうなずく。
私もそんな二人を見ていたら、なんかちょっと気が楽になった、気がした。
と、私はあることを思い出した。 一度、聞いてみたかったんだ。
「花はさ?」
「ん? 何」
「退部した後って、こんな気持ちにならなかったわけ?」
「えっ、いや、それは・・・、っていきなり言われてもな〜」
「私には、すごく落ち込んで見えたけどね」と仁井奈が言った。
「うーん・・・まぁ、寂しかったような気がする。 でもさ今だって、時々部活に呼んでもらったりしてるから、ほんと、退部したのか、していないのか、自分でもよくわかんないや」
それを聞いた私は「クッ」と吹きだしてしまった。
「わ、笑ったな〜、こら!」
「ハハハ、ご、ごめんって。 でも、いいね、それ」
そう言いながら、まだ笑っていると「美羽も声かけてもらえるかもよ」と仁井奈が笑いながら言った。
そうかな?と私も仁井奈に笑い返した。
そんな時、一時限目開始のチャイムが鳴った。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.383 )
- 日時: 2017/03/11 21:50
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
一時限目開始のチャイムが鳴ったが、安佐子はここを出て行こうとしない。 担当が無いのか。
しばらく無視して、パソコン作業をしていると「ねえ」と話しかけてきた。
「何?」
「香ってさ、全学年の不登校の生徒って分かったりするの?」
そんな安佐子の言葉に、私は思わず手を止めた。 彼女から、そんな言葉が出て来るとは思わなかったから。
「いきなり、何?」
「分かるの? 分からないの?」
「出席記録を見れば、分かると思うけど・・・あんたのクラスには一人もいないよ」
私がそう言うと、安佐子は首を横に振って「違うの」と俯いた。
「別のクラスの子?」と私が言うと、今度は首を縦に動かした。
「三年三組の子。 名前は分からないんだけど、いつも一つ空席があるの」
(なんだ。 本当に聞きたいことって、そのことだったんだ。 でも、そんなこと言われても・・・)
「それは私に聞くより、そのクラス担任の先生に聞いた方が早いんじゃないか?」
「そうなんだけど、今日お休みなのよね」
「・・・なるほど。 でも、私に何ができると?」
「そうだよね。 ごめん、じゃ、上がるわ」
本題を話せて、どこかすっきりとした顔色になった安佐子に、私も内心ホッとして、素直に保健室を出て行く彼女を見送った。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.384 )
- 日時: 2017/03/17 17:24
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
安佐子が上に上がった後、作業は順調に進んだ。
パソコン作業は終わり。 重ねていたファイルも、引き出しにしまう。
「ふーう」 私は椅子に座ったまま伸びをした。
すると、保健室が「プツン」という音と共に真っ暗になった。
「停電?」
私は椅子から立ち上がり、暗がりの中、手探りで棚を探し、それを開け懐中電灯を探した。
「あった」と懐中電灯を掴み、スイッチを入れ辺りを照らしてみる。
保健室だけが停電しているわけではないだろうから、復旧には時間がかかるだろうな。 しばらく手元に持っていよう。
そう思って、また椅子に座ろうと動き出した時、床に少し違和感を感じたので、足元に光を当て目をやった。
すると私の足元にあったのは、保健室の黄色い床、ではなく、雨に濡れた土だった。 しかも、その上に私は裸足で立っていて、急に足が冷たくなってきたように感じた。
それにどこか、体が軽く感じた。 白衣を着ている時の、肩の部分に窮屈さを感じない。 降り出した雨が、腕にザーザーと当たる。
「どういうことだ?」 (!!!)
今度は自分の声に驚いた。 今の、私の声じゃない。 まだ十代の頃のような声をしている。
「ここは一体?」と私はあたりを見回した。 懐中電灯もいつの間にか手になかったが、月明かりのおかげか、周りはぼんやりと照らされていた。
先にはどこまでも続いていそうな木々たち。 左には通路の向こうに、小さな明かりがポツポツと並んでいるのが見えた。 そして後ろを振り返ると、屋敷のような大きな建物があった。
それらを見ているうちに、私はある一つの可能性を思い浮かべた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.385 )
- 日時: 2017/03/17 17:53
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
これはたぶん・・・あの時の夢だ。
このようなタイミングで見ることになるとは。 よっぽど疲れているのかもしれない。
私は屋敷を見上げて、今の自分に向けて自嘲気味に笑った。 そんな時「香」とふと自分の名前を呼ばれた気がして、林の方を振り返る。
私の目の前には、母、清美の双子の姉、清子がいた。
「気安く呼ばないで」とあの頃と同じような言葉が出てくる。 「あなたは私の母ではない!」
「違うわ! 本当は私があなたn・・・」
一瞬口調が強まった彼女だったが、だんだんとその姿は薄くなり、言葉も途切れ、霧のように消えてしまった。
(何なんだ? 何が言いたかったんだ?)
急に目の前が明るくなった。 もやもやしていた気持ちはどこか行き、眩しさに堅く目を瞑った。
徐々に目が光に慣れてきて、パッと目を開けた。
「ぬっ!」
びっくりして、咄嗟に顔を上げた。 懐中電灯の光が目を直撃していた。 どうやら懐中電灯のスイッチを入れ、手に持ったまま机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。
何時だろう、と時計があるであろう位置を見上げる。 でも、まだ目がおかしいようで、細かい部分が見えない。
しばらく瞬きを繰り返していると、やっと普通に見えるようになってきた。
今はここも廊下の蛍光灯も、普通に点いている。 停電したと思っていたけど、もうそこからすでに夢だったのかもしれない。
私は立ち上がって、懐中電灯を棚の中にしまった。
と、そこにチャイムが鳴った。 時計に目をやると、二時限目が終わったらしい。
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