複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.366 )
- 日時: 2016/12/13 19:45
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
「受験、受験と、あなたの気持ちが焦るのはわかります。 ですが、周りのお母様たちと比べて、焦りすぎなのではないでしょうか? 娘さんだって、十分、受験生であることを意識していると思うのですが。 どうして、あなたの方が必死になっているのですか?」
「私を他の親と一緒にしないで下さい! 子供に期待しない親なんて、いるわけありません! 子供の気持ちがうつって、親も気が気じゃないんですよ!」
「・・・それだけではないような気がするのですが」
「私から、何を聞き出そうとしているのですか?」
私を睨みながら、頬に手を当て那弥子さんが静かに言った。
「私は、あなたがこのような母親になってしまったのには、理由があるのではないか、と言いたいのです。 そしてその理由は・・・」
私はパジャマ姿で那弥子さんの後ろに立ち尽くしていた、本居さんに目を向けた。
彼女は一瞬ドキッとして、私から視線を逸らした。
「あなたが話したくないというのなら、代わりに彼女に話してもらいますが?」
愛読者の皆様、いつもありがとうございます。
主人公の呼び方、本居 母の呼び方が、たびたび違ってしまっていますが、どうか気にせず読んでもらえたらと思います。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.367 )
- 日時: 2016/12/16 20:59
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
菜月side
母は黙っていた。 再び訪れた沈黙。
横田先生は私を見つめたまま、私達のどちらかが話し出すのを待っているようだった。
そろそろ、私が沈黙に耐えきれなくなった頃「この子が、小学五年生の頃でした」と母が静かにつぶやいた。
「クラス委員・係りを決めて、学級委員長に推薦されたと言って嬉しそうに帰ってきました。 私も、とても嬉しかった」
母は自然と天を仰いだ。 口調も、どこか懐かしさに浸っているように思う。
「でも、一カ月くらい経った頃、突然泣きながら帰って来たんです」
母は、天を仰いだまま声を沈ませた。 その声につられて、私も当時のことを振り返ってみる。
「ただいまと言わないで、ササッと自分の部屋に行こうとしたこの子を引きとめて、何があったのか聞くと、自分でも気づかないうちに、隣のクラスの子にも親切にしてしまっていたようで」
(やっぱり、お母さんはそのことを今も気にしてるんだ)
「それは悪いことじゃないじゃない? どうして、泣いてるの?と聞くと、私が委員長なんだから、あまりいい子にしないでよ、と言われたと」
三神先生が「そんなことがあったんですか」と静かに言った。 横田先生も「なるほど」と納得したみたいだった。
「もうお気づきかもしれませんが、私、この子が小学校に上がる前、離婚しまして、これまで女手一つで育てて来たんですの。 自分で、しっかりとこの子を守ってきたつもりでした。 なのに、自分の子供の良いところを否定されたことが、私を普通の母親でなくさせたんです」
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.368 )
- 日時: 2016/12/17 22:19
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
「・・・そのことに、もう少し早く気付くべきだったように思います」
私は、那弥子さんに一歩近づいた。
「あなたは娘さんの事を想いすぎて、いいことをひたすら取り入れて来たのでしょうが、空回りしてしまっています。 確かに、仕事も大事です。 ですが、この子の親はあなたしかいないのですから、この子の心の言葉に耳を傾けるべきだったのです」
那弥子さんの肩が震えだした。 泣くのを堪えているのか、本当に泣いているのかもしれない。
「僕もそう思います」
どこからか聞こえてきた男の子の声に、全員で振り返る。
「長瀬君」 本居さんが驚きながら言う。
「錦さん、ありがとう」 私は、顔に手で風を送り、壁に背中を預けて立つ錦さんに声をかけた。
「サッカー部の休憩時間になるまで・・・グラウンドで待っていたら、顧問に捕まってしまって。 遅くなってしまいました」
「そ、それはお疲れ様」
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.369 )
- 日時: 2016/12/21 15:50
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
長瀬君は、スタスタと那弥子さんの前まで歩いて行く。
「小五の頃、本居が倒れたのは知ってますよね?」
那弥子さんは無言のまま。 長瀬君は気にせず続ける。
「あの時から僕は、薄っすらと本居の気持ちに気付いていました。
でも、僕がその気持ちに気付いたところで、何もできない。 だから、あなたが気づくまで待つことにしたんです」
「それが、やっと今日・・・」 長瀬君はそう言って俯いた。
「そう」 那弥子さんが静かにつぶやいた。
「母親である私は、ちゃんとこの子のことを見ているつもりが、見えてもいなくて・・・仕事を理由に見ようともしなかったのね」
誰もその言葉に、返事をしなかった。
ふと、どこからか携帯の着メロが聞こえてきた。
「はい」と安佐子が、私達に背を向けて電話に出る。
「あー、そういえばそうでしたね! す、すみません、今すぐ!」
早々に電話を切り上げて「忘れてたわ」と、私達に向き直った。
「本居さん、病院に戻りましょう。 一時間ほどの約束が、もう二時間になろうとしているって、病院からお叱りの電話だったわ」
安佐子がそう言って「行きましょう」と、本居さんの手を掴んだ時「三神先生」と那弥子さんが言った。
「私が送ります」
那弥子さんからの意外な言葉に、私と安佐子はポカーンとなった。
「このような形ではありましたが、自分なりに娘の気持ちに気付くことができて良かったです。 病院に送りながら、もう少しこの子と話がしたいんです」
安佐子は私にチラッと目をやり「どうする?」と訴えかけてきた。 私はコクッと頷いて見せた。
「よ、宜しくお願いします」と軽く頭を下げた安佐子に「ありがとうございます」と、那弥子さんは深々と頭を下げた。
那弥子さんは、本居さんの肩を掴んだ。 本居さんが「痛」と声を上げなかったので、優しく掴んだのだろう。
錦さんの近くに来て、その場にいた全員、教室の中心に集まって、ゆっくり階段を降りて行く二人を見送った。
作者、奈々化です。 強引だったかもしれませんが、第四話を完結とさせていただきます。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.370 )
- 日時: 2016/12/21 16:41
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
四話 その後の話
安佐子side
「せんせー、さよならー」
「はーい、また月曜日にね」
本居さんのお母さんと話をして、三日後。
あの日、病院に送られて行った車の中、どのような話がされたのだろう。
月曜日にはもしかしたら、報告があるかもしれないと思いながら廊下を歩いていると、階段を上がって来た香に出会った。
嫌そうな顔をされると思っていたけど「ちょうど良かった」と小さく笑って「はい」と一枚の封筒を手渡された。 上がって来た用事はそれだけだったのか、「じゃあ」と保健室に戻ろうとした香を「いやいやいや」と白衣を掴んで引き留めた。
そんな私に「伸びる」と一言文句を言って、香は振り返った。
「大丈夫! で、これは何?」
「本居さんのお母さんからの手紙」
そう言って香は、白衣の内ポケッとから同じ封筒を取り出し「ちなみに私にも」と裏面を見せた。
「あ、ありがとう」
私のお礼に香は「うん」と頷き、封筒をしまった。
「うまくいって良かった」 私は「ふう」と息を吐いた。
「あんたがいきなりビンタするから、びっくりしたけど、案外それが効いたのかな?」
「さあ」と香は短く答え「じゃあ」と、階段を降りて行った。
封が開いていたので、香はもう手紙を読んだのだろう。
私は職員室の机に物を置いた後、奥のお茶のみ場で手紙を開いた。
感謝の言葉が綴(つづ)られる中、私はある一文に目が留まった。
『菜月を病院に送る途中、副委員長を続けてもいいと言うと、とても嬉しそうに笑っていました。 友達からの推薦がよっぽど嬉しかったのだろうと思います。 でも、私はどこか別の意味の微笑みがあるような気もしています』
「この、別の意味の微笑みって、何だろう? まぁ、いっか! これから本居さんも堂々と学級委員の活動が出来ていいじゃない」
私はうんうんと頷き、お茶のみ場を出た。
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