複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.266 )
- 日時: 2015/11/08 20:09
- 名前: 奈々化 (ID: LU1dyaTr)
愛結side
「終了、体育委員、号令かけて」
「気をつけ、礼」
「ありがとうございました」
そう言った後、皆揃って、更衣室に向かった。 「お腹空いたー」 「私も—」というやり取りが続く。
私は一番に着替えを済ませ、更衣室を出た。
ロッカーに向かう途中、横田先生について考えてみる。
やっぱり、私が避難訓練に遅れたことが気になっているのかもしれない。 たぶん、教頭先生も。 そして、三橋君も。
三橋君は、私が火災ベルのボタンを押したと思っているのかもしれない。 唯一,私の悲しみを知っているから。 朝、それを聞こうと思っていたのかも。
そう言えば、横田先生。 昼休みに来るって言ってたっけ?
ロッカーに着いた。 自分の名前の書かれたシールのロッカーを開けた時「杉木さん」と後ろから声をかけられた。
三橋君だった。 「今、聞いていいのかわからないけど」とまた言いにくそうにする。
私は無言で彼に向き合った。
「昨日s/」 私は彼の言葉を遮った。 「私」
「え?」
「私が火災ベルを押した」
三橋君は驚いて目を丸くした。 が、すぐに「やっぱり」と視線を床に落とした。
「それだけ?」 私は体操服を押し込み、ロッカーの戸を閉じた。
「なんで?」 歩き出した私を、三橋君はそう呼び止めた。 「どうして、今になってお姉さんこと」
私はまた彼を振り返った。 今になって? その理由も知って、聞いてきたのだと思っていたのに。
「ごめん。 今は言いたくない」
私は教室に向かって歩き出した。 今度は呼び止められることはなかった。
確信した。 彼は、私が起こそうとしていることに気付いている。 が、誰に対してかは分かっていないらしい。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.267 )
- 日時: 2015/11/14 10:20
- 名前: 奈々化 (ID: LU1dyaTr)
香side
四時間目が終わった。 パソコンを閉じ、机にお弁当の入った袋を置く。
お弁当箱を開けようとした手が、ふと止まった。
何か、忘れている気がする。
(何だったっけ?)
と、保健室の戸がノックされた。 「はい」と視線を机からドアに移す。 「失礼します」と言って入って来たのは杉木さんだった。
(あ、思い出した。 昼休憩になったらもう一回3組に行こうと思ってたんだった)
「ごめんなさい。 私の方から行くとか言っておいて」
「いえ」
私は「どうぞ」と長椅子に座るよう促した。 が、彼女は座ろうとしない。
「座らないの?」
この質問にも答えなかった。
二分くらいの沈黙の後。 「あの」と杉木さんが口を開いた。
「聞きたいことがあるんですよね、私に」
彼女はそう言って、私を見つめて来た。
「避難訓練の事ですよね。 どうして一人、避難に遅れたのか」
「……うん、まぁ」
「私なんです」
(……え?) 私は目を丸くした。
「私があの日、火災ベルを押しました」
「……本当なの?」
私の目は、黙ってうなずく杉木さんを捉えた。
「教頭先生から聞いたんですか?」
「うん、そうだけど」
「……やっぱり」
何がやっぱりなのだろう?
「保健室の先生は、推理ができる」
私はその言葉にはっとした。 「錦先輩が言ってました。 古志野先輩と能登先生の事件を解決してくれたって」と杉木さんは続けた。
「何だ。 私の事、いろいろと知ってるんじゃない」
「それだけしか知りません。 まさか本当だとは思いませんでした」
杉木さんはそう言って、戸に近づき出て行った。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.268 )
- 日時: 2015/11/15 11:31
- 名前: 奈々化 (ID: LU1dyaTr)
香side
「教頭先生」
職員室に行く途中の階段で、ちょうど寺島先生と話し終えた教頭を見つけた。
「横田先生」
「お話があります」
私たちは職員室の奥のお茶のみ場に入った。
棚から取り出した二つのコップに、コーヒーを注ぐ。 教頭の手前に「熱いですよ」と言って置いた。
教頭は黙ってうなずき「話とは?」と、こちらを見つめてきた。
「昼休憩になってすぐ、杉木さんが保健室に来て、私が火災ベルを押したと言いました」
「……やはり、そうでしたか」
「はい」
教頭は何度もうなずき、机に視線を落とした。
「あの。 良ければ、詳しく調べたいことがあるのですが」
「何かね」
「杉木さんと同じ、那華富中学出身の生徒を見つけたいんです」
「二年生の中にはいません」
二年生各組の担任は、皆そう言った。 三年生もほとんどが一美中、岩坂中の出身だった。
ただ一クラスを除いて。
「えーっと、確か」
そう言って、安佐子は三年一組の生徒名簿を開き、一人一人の名前を指でなぞった。
「あった! 上から言うと」と生徒名簿を私たちに向けた。
「小代 一喜(おじろ かずき)、香住 万里(かすみ まり)、村岡 辰巳(むらおか たつみ)の三人」
「その三人のプロフィールとか、無い?」
「あるよ」
安佐子は机の下にある引き出しの鍵を開けて、一つのファイルを取り出した。 「皆の事いろいろ教えてほしくて、書いてもらったの」と私に差し出す。
何の相槌も打たずに、私は三人のプロフィールにざっと目を通した。
確かに、三人は那華富中の出身だった。
趣味の欄に目を通す。 小代と村岡はサッカー。 香住は走ること、とあった。
中学校での部活に共通していた。
「これ、貸してくれない?」
「え…あ、うん、いいけど」
「ありがとう」
私は自分の机に座り、パソコンを開いた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.269 )
- 日時: 2015/11/20 20:56
- 名前: 奈々化 (ID: LU1dyaTr)
香side
今回は、三年生は関係ないと思っていた。 でも、たぶん大いに関係ある。
杉木さんに三橋君、新たに加わったこの三人。
全員、那華富中近くにある、小学校の出身。
帆川葉(ほかわば)小学校がそうだった。
この小学校の名前を検索していると、ある出来事が思い起こされた。
八年前の事だ。
夕方、家でテレビをつけ、ニュースを聞いていた時。 それは速報として、報道された。
「たった今、新たなニュースが入りました」
そう告げる女性キャスターの声も、鮮明に覚えている。 スタジオにいる男性アナウンサーが「何でしょう?」と促す。
「先ほど三時頃に、ここ千代田区の小学校で、火災が発生しました。 今目の前にありますが、見えますでしょうか? 一部カーテンが外れている教室があるんです。 あそこは理科室になっているんですけれど、今日の午前、午後の授業で使うことはなかったということでした」
「怪我をした、生徒、先生はいらっしゃいますか?」
「……ええ、はい、一人、この小学校の六年生、杉木 沙耶さん、12歳が火災に巻きこまれたということで、今近くの病院に運ばれているということです」
ここまで思い出すことができた。
”杉木 沙耶”
そうか。 杉木さんには、二歳年上の姉がいたのか。
ようやく分かった。
杉木さんと三橋君が、どうしてこの高校に来たのか。
私はパソコンを閉じ、安佐子の机に「ありがとう」と生徒名簿を置いた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.270 )
- 日時: 2015/11/22 14:41
- 名前: 奈々化 (ID: LU1dyaTr)
南side
「うーん」
「……土江先生?」
「は、はい!」
「……さっきから唸ってますけど、何か?」
不思議そうに寺島先生が、隣の席に腰かけて来た。
「実は今日、三橋君の様子がおかしくて」
「どんな感じなんです?」
「……よそ見が多くて、しきりにため息ついたり、昨日より目立つんですよね」
「そうですか」
寺島先生はそう言って、机に頬杖をついた。
(あれ? そいうえば、今って)
「あの、寺島先生、五時間目は授業じゃ?」
「あ、いえ。 この前、三神先生の代わりに授業したのを、調整しようってことになって、今日はほぼ授業が無いんですよ」
「あー、そうでしたか。 あ、だから私も今日一年生の授業が二回あるんですね」
「すいません、なんか」
「あ、いえいえ」
「でも、そうですか。 三橋が」
「はい」
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