複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.316 )
- 日時: 2016/08/06 13:08
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
—2—
美羽side
私の隣に立った須藤 沙世莉が「大丈夫?」と、私の顔を覗き込むように聞いた。 「うん、平気」と菜月を見ながら答える。
「なつちゃん(沙世莉の菜月の呼び方)、どうしたんだろう? このままにするわけにもいかないよね…」と、沙世莉は腕を組んで目を閉じた。
「学校の前にいるのに、学校に電話するのも変な感じするし」と言う沙世莉に「事務室に繋がるんだよね? 見回りの先生ならいるかもしれないよ?」と、妹の沙代子ちゃんが言った。
それを聞いた私は、ふといいことを思い付いた、かもしれない。 私はスクールカバンから携帯を取り出し、メモの番号を打ち込んで発信した。
スリーコール後「もしもし」と若干起きたてっぽい声が聞こえた。
「もしもし、三神先生…ですよね? 私です、錦 美羽です。 朝早くにごめんなさい。 ちょっとお願いがあるんです」
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.317 )
- 日時: 2016/08/09 16:57
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
美羽side
私は三神先生に今の状況を手短に伝えた。 すると「横田先生に保健室開けてもらえるよう頼んでみるわ」と言ってくれた。
「私もすぐに向かうからね」と電話を切られ、携帯をスクールカバンに入れると「担任の電話番号知ってるとか、めっちゃナイスじゃん!」と沙世莉が笑った。
「うん」と私はうなずき、ちょっとだけ強張(こわば)っていた体がほぐれたように感じた。
三神先生との電話から、ほんの三分後、横田先生が職員昇降口から顔を出し「運べる?」と私たちに向かって叫んだ。
近くにいた私、沙世莉と沙代子ちゃんは、自分の荷物を部員に預け、横田先生が大きく開け放った生徒昇降口の戸から入った。
「ここに」と横田先生が枕を置いたベッドに菜月をそっと乗せた。 相変わらず反応もないし、目の覚める気配もない。
「安佐k/・・・三神先生から大体話は聞いたけど」と横田先生は、椅子の背もたれにかかっていた白衣を着ながら私たちに向き直る。
「錦さんが朝練のために学校に早く来て、倒れていた本居さんに気付いたってことだよね」
「はい」 私は力なく答えた。
香side
錦さん他、テニス部員によって保健室に運び込まれた本居さん。 安佐子が錦さんから聞いたところによると、呼びかけたり、肩をゆすっても反応がない、とのことだった。 確かに、まだしばらく目を覚ましそうにないな。
私は心配そうに本居さんを見る錦さんを見つめた。 すると錦さんが、ふと不思議そうな顔になり「菜月の着てる服」と本居さんを指差した。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.318 )
- 日時: 2016/08/13 16:56
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
香side
「なんで、前だけがこんなに濡れてるんだろう?」
本居さんは青が濃いパジャマを着ていた。 全体的に藍色に近いが、前側が一層濃くなっている。
「校庭の土、湿ってたんだよね? 昨日、十一時頃から雨が降って、土砂降りになったらしくて。 いつ止んだか分からないけど…。 本居さんは雨が止んでから、校庭にうつ伏せに倒れたんだと思う。 まだ雨が降っていたなら、全身濡れていたでしょうね」
「なるほど」「そういうふうに考えられるんだ」とさまざまな声が聞こえてきた時、私はようやく「まず服をどうにかしてあげよう」という気が起こった。
「今日体育無いので、良かったら」と一年生らしき子が、私に体操服袋を差し出した。 背丈とかサイズ的にぴったりだと思ったので「じゃあ」と遠慮なく借りることにした。
着替えを終えてカーテンから出た私の目に「朝練、どうする?」と話し込む皆が映った。
錦さんがチラッとこちらを振り向いた。
(うーん、そうだなー)
「行ける人は行く。 でも、人が倒れてるのを見てショックがあるようならやめて、教室にいる、とかどう?」
私の提案に錦さんはうなずき「じゃあ、そういうことにしよう」と部員を見回した。 皆しだいにうなずき合って保健室を出て行った。
私も本居さんに向き直る。 その時「先生」と声をかけられた。 振り向くと杉木さんがいた。
杉木さんは私に歩み寄り「これ」と白い封筒を差し出した。 「濡れてて文字が滲んでますが…」と申し訳なさそうに言って「でも」と本居さんを見る。
「この手紙が関係してそうな気がして」
そう言って「では」と頭を下げ行ってしまった。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.319 )
- 日時: 2016/08/17 13:46
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
安佐子side
「香!」
私は保健室の戸を、ノックせず開け放った。 香はビックリすることなく、澄ました顔で両耳に手をやり「うるさい」とこちらを睨む。
「ごめん」と小さく謝ると、無言で椅子を指差したので、歩み寄り隣に腰かけた。
「あれ、体操服着てる? 錦さんの話では青い服って聞いたような…」と首を傾げる私に「濡れてたから着替えさせた…、というか私が体操服に着せ替えた」と、体操服ズボンのしわを伸ばす。
「着せ替えた?」と首を傾げたまま顔を向けた私に「そう」と一言言って
「この子、青いパジャマを着て、雨に濡れて湿った校庭にうつ伏せになってたらしくて。 前側だけ濡れてたから、とりあえず服を替えてあげよう、って思ってさ。 テニス部、一年生の子のを借りた」
「そうなんだ。 風邪の症状とかはないの?」
「ああ、今のところ」
「そう」
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.320 )
- 日時: 2016/08/19 21:34
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
香side
「ねえ」
またしばらくして、安佐子が口を開いた。
「何?」
「電話でも言ったけど、錦さんが本居さんに呼びかけても、何の反応もなかったことについて…、香、何か思い当たらない?」
安佐子は一旦話を区切り、「これって、ただの気絶って言えるのかな?」と付け加え、本居さんの顔を見た。
電話で本居さんの様子を聞いてから、学校に着くまでいろいろ考えた。 そして、ふとある可能性が浮かんだのは、錦さんら、テニス部員がここを出た後のことだった。
「・・・・・・夢遊病」
私の小さなつぶやきに「・・・・・・・・・え?」とたっぷりの沈黙の後、安佐子がまぬけな声を上げた。
「何、それ。 夢遊病って…あれ?」
「あれ?って、一つしかないだろ。 別名、睡眠時遊行症(すいみんじゆうこうしょう)。 睡眠中に発作的に起こる異常行動のこと」
私は一旦口を閉じて安佐子を「分かる?」と言うように横目に見る。 すっかり顔が青ざめてしまっている。 「はあ」と小さくため息をつき、もう一度口を開いた。
「主に小児に多いんだけど、大人になってから症状が出る人もいる。 珍しいことじゃないよ」
説明を終えると「なんてこと・・・」と安佐子は頭を抱えた。
「それ、医者から診断結果を聞いてショックを受ける親のリアクションだから」
そんな私の言葉に「似たようなものよ」と安佐子が口を尖らせた。
「私はこの子のクラス担任なんだから…」
「そういえば本居さんって、三年一組の副委員長じゃなかった?」
「うん。 藤井 歩さんっていう子の推薦でね」
「ふーん」
夢遊病って、睡眠前の興奮状態から引き起こされることもあるけど…。 この子の場合、原因は精神のストレスだろうな。 前に貧血か何かで倒れて、ここに運んだこともあるし…
「ねえ、それ何?」
私の思考は、また安佐子の尋ねる声で停止した。 彼女の視線は、私の手に握られた封筒にあった。 「ん」と差し出すと、安佐子はちょっと驚きながら手に取り、封筒の表裏(おもてうら)をくるくる返し見る。
「濡れてない? かろうじて手紙なのは分かるけど…」
「たぶん手紙だよ」と答える私に「開けないの?」と封筒を返しながら尋ねる。
「開けようとしたところに、あんたが来たからね。 それに中の文字もはっきり読めるか分からないし」
どこか躊躇い(ためらい)を見せる私に、安佐子がスッとはさみを差し出して「一応」と真剣な眼差しになった。 そんな安佐子に乗せられて、私ははさみを手に封を切った。
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