複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.136 )
- 日時: 2015/03/24 22:19
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
美羽side
(どこなんだろう…ここ)
私は川の前にいた。 ずっと向こうには橋だってある。
(なんだ……私、てっきり死んだかと……って、なんかこの川、赤いような?)
私は川の水を、両手ですくってみた。 掌が透けて見えない。 やっぱり、色が着いているんだ。
(じゃあ、この川は、さっきの川と違うんだ。 ってことは、私!)
「流されたのーーー!!!」
私は川のど真ん中で叫んだ。 のー、のーとエコーが響いている。 と、上げた顔に雫が落ちてきた。
「雨?」と、私は頬に手をやる。 次の瞬間、私は掌を見て、ギョッとした。
「うわ! 赤! なにこれ、血?!」
さっきと違う場所で、赤い雨に降られそうになっている。 パニックにならない方がどうかしている。
私が川にしゃがみ込み震えていると、川の水が揺れるのを感じた。
(誰か来る)
反射的に、私はスッと立ち上がった。 顔を上げると、目の前に一人の少女がいた。 私の幼い頃の姿にそっくりだ。
「お父さんは、どこに行ったのかな?」
急に、小さな私が近づいて来た。 私は後ずさることしかできない。
「なんで、あんな奴のことを探しているの?」
やっとのことで、私はそれだけ口にした。 幼い私は、私の質問に答えず、涙目で私に近づいて来る。
「だって」と、しばらくしてから、幼い私は口を開き、足を止めた。 それにつられて、私も足を止める。 幼い私の肩が震えだした。
「あんなに楽しかったのに」
幼い私は、水の中で跪(ひざまず)いた。
「なんで、お父さんは私たちを置いて行ったの?」
(……なんでって)
私は返答に困った。
そんな時、強い光を感じた。 眩しすぎて、目も開けられない。
私は、幼い私に駆け寄り、その強い光からかばうように抱きしめた。
「痛っ!」と、幼い私が体を固くする。
「我慢して……怖くないから」
私は、幼い私にかまわず、強い光からかばい続ける。
「痛いよ、美羽」と、なぜか花の声が聞こえた。 「ん?」と不思議に思い、私は幼い私から体を離した。
いつの間にか、私の腕の中には、痛みに解放され「ほ」と一息つく花の姿があった。
と、そんなことに驚きの声を上げる暇なく、一層強い光が、私たちを包み込んだ。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.137 )
- 日時: 2015/03/28 12:28
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
花side
救急車が来て、私は美羽と一緒に病院に向かった。 三神先生は、車ですぐ後ろを走った。
救急車が来るまで、15分もかかり、病院につくのに20分かかった。 正直、私はもう諦めていた。
すっかり冷たくなった美羽の両手を、何度包んだり、自分の手とこすり合わせて温めようとしても、まるで効果が無かった。
駆けつけた救急隊が、ありったけの毛布を使って、美羽の体を覆ってくれたが、美羽の顔色は青白く、唇は紫色のままだった。
「美羽……大丈夫だよね? 死んだり…しないよね?」
私はそう言ったきり、何も声をかけることができなかったんだ。
でも、今
「美羽!」
私の親友は、無事に目を覚ました。
「三神先生! 美羽が!」
私は、椅子に座り、頭を抱えている三神先生に駆け寄り、肩をゆすった。 「ど、どうしたの?」と、驚いて私を見る。
美羽side
「ど、どうしたの?」と、驚いている三神先生に、花は黙って私を指差した。 一瞬、ドキッとする。
みるみる二人の目に涙が溜り、次々と目から溢れ、頬を伝い始めた。
「え、え? なな、な、何? どうしたんですか? てか、どこですか、ここ?」
私の頭の中は、?でいっぱい。 なのに、今の二人は、私を見て、泣いているだけ。
とりあえず、私は部屋?を見回してみる。 白い壁に、緑色のカーテン……それに、この白いベッド。
「病院?」
私はポツリと言った。 「そうだよ」と、花が涙をハンカチで拭きながら答えた。
「大変だったのよ」と、三神先生も涙を拭きながらも、優しい目で私を見ている。
「すみませんでした」
私は少し背中を倒す程度に礼をした。 そんな私に首を振り「無事でなにより」と、三神先生はまた涙ぐんだ。
「本当だよ」と花もほっとしている。
「あと一日ここで過ごせば、家に帰ってもいいそうよ。 学校は無理に来なさいとは言わないから。 ゆっくり、気持ちを落ち着けてね」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、私たちはそろそろ…ね、古志野さん」
そう言って、三神先生は時計に目をやった後、椅子から立ち上がり、花に目を向けた。 「はい」と、花も素直に椅子から立ち、二人そろって、ドアに向かう。
「じゃあ」と、二人は帰って行った。
てっきり、花からはお叱りの言葉があるのではと思っていた。
でも……
私は時計を見上げた。 7時半を過ぎていた。
(ずっと、二人で待っててくれたんだ)
私は、嗚咽の声を殺して、静かに泣いていた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.138 )
- 日時: 2015/03/29 15:40
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
安佐子side
「他に、何か言わなくて良かったの?」
私は、車を走らせてすぐ、助手席の古志野さんに問いかけた。
「はい」と、古志野さんは鼻をすすった後、短くそう答えた。
「そう? てっきり、錦さんに文句の一つくらい言うもんだと思ってたんだけど。 まあ、何か話すことがあれば、明日もう一度、ここに送ってあげてもいいんだけど?」
「いえ。 もう、いいんです」
古志野さんはきっぱりとそう言った。
「そう?」 (本当は、我慢してるんじゃない?)
私は、そんなことを思いながら、古志野家に向けて、車を走らせた。
花side
(何か話すことがあれば…か)
「ただいまー」
私は、三神先生の言葉を頭の中で繰り返しながら、家の戸を開けた。 するとすぐに「花!」 「お姉ちゃん!」と男どもが慌てて、リビングから飛び出してきた。
「な、何」
「何じゃない! こんな時間まで、連絡もなしに女の子がうろうろしてたら、親でも、近所の人も、親戚も心配して当然だ!」
(なるほど。 でも今日、携帯、自分の部屋に忘れて行ったんだよね。 気をつけよう。 でも……)
「こら、直哉。 お姉ちゃんは無事だったんだから、そんなにワンワン泣くことないだろう?」
「だって……だって」
自分がいないことで、こんなに直哉が悲しむなんて、思ってもみなかった。 いつも、目が合えば小学生とは思えない皮肉を飛ばしてくるのに。
「そうだよ。 いつもと違って気持ち悪いから、早く泣き止んでくれる? お腹空いたー。 何か作ってるほど時間ないし、カップ麺にしよーっと」
私は直哉の頭に、ポンポンと手を乗せ、リビングに入って行った。 その時「僕、てっきり」と直哉が切り出した。 「え?」と、私と父、新はそろって、直哉を振り返った。
「僕、てっきりお姉ちゃんは、家に帰る道のりを忘れて、迷子になってたんじゃないかと思ってた」
直哉はそう言って、顔に笑顔を浮かべていた。 私は、咄嗟にカバンから教科書を出し、丸めて「めん!」と、直哉の頭に一発お見舞いした。
(じゃあ、さっきの泣いていたのは)
「泣き笑いかよ!」
そう言って、倒れ込んだ直哉に、もう一発お見舞いしようと、教科書の剣を振りかぶると「よしなさい!」と、父に止められた。
(ならば)
「直哉! 貴様を、晩御飯抜きの刑に処す!」
「はあ?! なんで!」
「ふん! なんでかって? そんなの自分の胸に聞いてみろ、姉不幸者が!」
私はそう叫び、父と共に、直哉を玄関の廊下に置き去りにし、リビングの戸を閉めた。
「なんで、俺まで?」 「姉不幸者って?」と、二人はそれぞれ不思議に思っていた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.139 )
- 日時: 2015/03/31 16:18
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
香side
「じゃあ、錦さんは今日と明日、病院で一日を過ごすのか…… お大事に、としか言えないけど…… 明日も行くのか? いいや、私はいい。 担任でもない私が行くなんて、なんだか変じゃないか。 あんたが気にしなくても、私が…… ごめん、もういいか? 別に大丈夫だから…うん、じゃあ、明日」
そう、別に大丈夫……昔のことを思い出すなんて、いつものことだ。
あの日から……ずっと。
「ねえ、お母様?」
「なぁ—に、香?」
「お父様は、いつ、出張から戻られるのですか?」
横田 忠明(ただあき)。 私の父が家を離れて、もう一年が経った時だった。
「そうね……いつ、戻って来るかしらね?」
母は、私の頭を優しくなでた。 私はそれに反応して、母を見上げた。 目がうるうるとしているが、笑顔を崩そうとはしなかった。
でも……この時すでに、母も私のそばにいなかった。
おそらく、父はその一年前、あの女が、母、横田 清美(きよみ)ではないとわかったんだ。
(私は本当の母と、あの女を見抜くことができなかったのに…。 でも、私を置いて逃げるなんてこと……どうして?)
いまだに、分からない。 わからないことが多すぎて、頭が割れそうなほど痛くなる。 近頃、めまいもひどく感じる。
錦さんには、悪いけど。 こんな調子じゃ、様子を見になんて行けない。
私が最後に父を見たのが、病院だったから。 思い出したくないことまで、思い出したしまう。
きっと。
香先生の場面が無いな、と、思い、久々に香目線で書いてみました。
もう、4月ですね。
新中学1年生さん、新高校1年生さん、頑張ってください!
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.140 )
- 日時: 2015/04/02 11:23
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
美羽side
「ふぁ〜〜ぁっと」
かれこれ、目が覚めてから一時間が経とうとしている、午前2時。
(全然、眠れない)
窓の外は真っ暗で、一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなる。
花や三神先生がここにいた時は、アイツについて考える気が起こらなかった。 でも、いなくなって、しばらくした時「一人になってしまった」と、思った。
一人は憂鬱(ゆううつ)で、退屈で、何より寂しい。
「…っ!」
(あれ? 私、また……)
そんなことを思っていたら、涙が出てきた。 私は慌ててそれを拭う。
母は、私が命を捨てるような真似をしたのがよっぽど答えたのか、病院には来なかった。 来たら来たで、私もどう対応していいか分からなかっただろうから、正直、ホッとした。
(私、ここにいて……大丈夫?)
私が自分にそう問いかけた、次の瞬間、体を何者かに持ち上げられたような気がした。
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