複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.386 )
- 日時: 2017/03/20 21:40
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
花side
「あー、痛そー」
私と仁井奈の声が揃った。
「いや—、気が付いたら、もうこんな」と美羽は肘の傷を、笑いながら私達に見せる。
私は目を反らし「笑いながら言うな」と仁井奈はツッコミを入れる。
二時限目は体育。 今日は校庭であった。 いつ怪我をしたのか、美羽の肘は血で赤くなっていた。
「もー、保健室行こう」と言って歩き出した仁井奈について、私も歩き出した。
保健室の前に来た時、中から話し声が聞こえてきた。
「誰かいるみたい」と言う私に、美羽は私の服の袖を掴んで「なんか、傷見たら急に痛くなってきた」とバタバタし出した。
「ま、いいよね。 怪我してんだし」と仁井奈が「失礼しまーす」と言って、保健室の戸を開けた。
すると、私達の目の前には「お願いします!」と横田先生に頭を下げている、男子生徒が二人いた。 よく見ると、私達と同じように体操服を着ている。
「あ、小林さん」と先生が間から顔を出す。 「ちょっとごめんね」と男子生徒たちの間をかき分けて「どうしたの?」と近づいて来た。
「あら、古志野さんと錦さんも」
「どうも。 えっと、美羽がここ」と私は美羽の腕をとって、肘の傷を見せた。 「ここ、座って」と美羽は救急箱のある机の近くの椅子に腰かけた。 私と仁井奈は、入り口近くの長椅子に座った。
「あー、いいい・・・」と美羽が痛みを堪えている声を聞きながら、私はチラッと二人を目だけで見ていた。
「終わった。 お疲れ様」
「はい。 ありがとうございました」
美羽がこっちに向かって来ると同時に、その二人は保健室を出て行った。
「今のって、長瀬君と・・・誰?」
「菅でしょ」
「あ、そう! その人だった」 私の声に「え、何? どうかしたの?」と美羽が肘の傷を、絆創膏(ばんそうこう)の上からさすりながら聞いてきた。
それを見た仁井奈が「あまりかまわない」と長椅子から立ち上がって「着替えに行くよ」と先に保健室を出て行った。
私も出て行こうとすると「古志野さん、ごめん」と先生が筆箱を差し出した。
「あ、美羽の」と私はそれを受け取った。
「渡してもらえる?」
「はい」と私は美羽たちを追って更衣室に急いだ。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.387 )
- 日時: 2017/03/22 11:09
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
「清間 翔」
私は、ついさっき聞いた名前をつぶやいた。 男子生徒二人が言っていた名前。
長瀬君と、もう一人、体操服に菅と刺繍があった。
「聞きたいことというか、相談というか・・・その両方っていうか」と長瀬君がどう話を切り出そうか迷っていると「清間 翔」と菅君が口を開いた。
「知ってますか?」と続けて聞く。 私は首を横に振る。
「その子がどうしたの?」
「学校に来ていないんです。 新学期が始まった、この二か月くらい、一度も」と長瀬君が言った。
「一度も? それはまた、どうしたのかしら?」
「それが、分からないんです」
「うーん、でも、私の記録している限りでは、始業式には来てたと思うんだけど」
「はい。 俺たちも、その時は出会いました。 でも、それから数日後、ぱったりと姿を見なくなったんです」
「それは、心配だね」
私の言葉に「横田先生なら、何かできませんか?」と長瀬君が言う。
「俺たち、アイツとクラスが違うんです。 連絡先は知ってて、こまめにやり取りしてたんですけど、全然返信もなくて」
「お願いします!」と菅君が頭を下げた。 続いて長瀬君も頭を下げる。
と、ここで一時中断。 今度は昼休みに話に来るかもしれない。
私は、学年表を手に取り広げた。 ふと安佐子の話を思い出し、三年三組の生徒の名前に目を通す。
「いた」
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.388 )
- 日時: 2017/05/06 13:46
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
「三年三組の担任ですか?」
「はい。 ここに長く務めている土江先生なら、詳しいお話が聞けると思いまして」
そう言うと、土江先生は「うーん、そのことは・・・」と首を傾げた。 「私より、寺島先生の方が詳しいかと」
すると「え」と、後ろから声が聞こえた。 振り向くと本人が立っていて「僕が何か?」と続けた。
「あ、はい。 三年三組の担任の先生について知りたくて」
「ああ、白根先生ですね」
「白根先生?」
「はい。 僕と同じ、英語の先生ですよ。 良かったら、どこか座って話しませんか?」
私は寺島先生の提案に乗り、二人で職員室奥の茶室に向かった。
「彼女とは同期なんです」と私の前に、コーヒーの入ったカップを置き、席に着いた。
「女の先生なんですね」
「はい。 あ、そうですよね。 普段、横田先生は保健室ですもんね。 じゃあ、知らないのも無理ないですね」
寺島先生は、カップの中のコーヒーを啜って「彼女、体弱いみたいで」と寂しげな口調で言った。
「この時期になると、決まって夏風邪になるんだそうです」
「そうなんですね。 全然気づきませんでした」
「仕方ないですよ。 横田先生、部活の試合の付き添いで、忙しくされてたんですから」
そこまで話して、寺島先生はカップのコーヒーを飲みほした。
「ところで、三年三組がどうかしたんですか?」
「あ、いえ、その。 クラス全体の問題はないと思うのですが、ちょっと気になる生徒がいて」
「ひょっとして、清間 翔ですか?」
「ええ。 やっぱり、ご存知でしたか。 有名なんですね、清間君」
「有名かどうかはわかりませんが。 僕は個人的に、白根先生からちょくちょく相談されてたので知ってるくらいで。 まぁ、三年生の英語は全クラス担当してますから」
「あ、ちなみにですね」と、寺島先生はふと何か思いついて、ゴソゴソと何か探し出した。 「あった、あった」と携帯を取り出し、それを横にして「これ、始業式の時に撮った写真なんですけど」と人差し指で全体をたどり「彼女がそうです」と短い髪をした女性を指差した。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.389 )
- 日時: 2017/04/08 14:00
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
香side
「ああ〜」と私は、写真を見てうなずく。 「見たことあります」
「そうですか」と寺島先生は携帯を閉じて、「いやー、今年こそ引かないって言ってたんですけどねぇ〜」と、ポケットにしまった。
そしてふと思い出したように「そうだ!」と声を一回り大きく上げて私に向き直った。
「もし良かったら、家に行ってみませんか?」
「・・・え?」
「僕、白根先生の家、知ってるんですよ。 横田先生の都合さえ良ければ、帰りに一緒にお見舞い行きませんか?」
突然の提案に、私は「う〜ん」と唸った。 それを見て「あ、用事あります?」と寺島先生は顔を突き出して聞いてきた。
「いえ、別に無いです」と答えると、「なら、どうでしょう?」と、分かりやすいほど寺島先生の顔色は明るくなった。
「ぜひ、ご一緒させてください。 改めて挨拶するいい機会かもしれませんし」
「それは良かった。 じゃあ六時頃に職員駐車場で待ち合わせましょう」
という感じで話が一段落すると「じゃあ」と寺島先生は授業があるらしく、茶室を出て行った。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.390 )
- 日時: 2017/04/23 10:16
- 名前: 奈々化 (ID: ZUrGQhyc)
安佐子side
「ありがとうございました」と生徒の号令を背に、私は職員室を目指し廊下を歩く。
着いて、入り口の戸を開けようとすると、奥の出口の戸が開き、香が出てくるのが見えた。
「香」と駆け寄りながら、追いつく手前で転びそうになり慌てて壁に手をやる。
「いつもいつも、慌ただしい」と香は背を向けたまま言い、どんどん歩いて行く。 私は、香が保健室に通じる道に消えようとする、その手前で姿勢を正し、早歩きで追いかけた。
「今朝話してた、不登校の生徒に着いてなんだけど。 名前がわかったから、もう一度話したくて」
「清間 翔って子でしょ?」 香に先に言われてしまった。
「なんで知ってるの?」と驚く私に「あんたのクラスの、長瀬君と菅君が、ここに来た」と言った。
「ここ」のところで保健室の戸を開け、私が続いて中に入ろうとするのを、香は後ろ手で戸を閉めようとした。
隙間に顔を入れる前で良かったが、片手片足はもう、保健室に一歩踏み入っていた。 挟まれた痛みに「いっ!」と声を上げたが、すぐに挟まれジンジン痛む右手で戸を引き開け、香の左腕をぞうきんを絞るように捻った。
「ぬはっ!」と完全に油断していた香は、入り口すぐにある長椅子に向かって倒れた。
「ふうーん、長瀬君たちがここにね〜」と、私は何事もなかったように言って、もう一つの長椅子に腰かけ香と向き合った。
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