複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.331 )
- 日時: 2016/09/15 22:20
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
香side
「あら。 古志野さんたちも心配してたの?」
私は座っていた椅子を回転させ、クルッと四人に体を向けた。 「当たり前じゃないですか」 「本居さんいないと、なんか教室の雰囲気が閉まらなくて」と古志野さん、小林さんが続けて言った。
「いつ起きたの?」と問う安佐子に「ついさっき」と短く返す。
「そう」と返した安佐子の顔は、本当に安堵に満ちていた。
本居さんは全員を見回して「心配かけて、ごめんなさい」と軽く頭を下げた。 皆揃って「ううん」と首を振る。
本居さんは錦さんに目を向け「横田先生から聞いたよ」と切り出した。
「私が雨上りの校庭に倒れていたのを、見つけてくれたんだよね? たまたまとはいえ、錦さんが朝早くに学校に来てくれていなかったら…」と両肩を掴む本居さんに、錦さんは背中に手を当てた。
「ほんと、目が覚めて…今、すごく安心してる」とちょっと涙声になっている気がする。
「もう、大丈夫?」と聞いた古志野さんに「うん」と頷く本居さん。
「三神先生」 本居さんが右横に立つ安佐子を見上げた。 安佐子は「何?」と微笑み返す。
「横田先生から聞いたんですけど、三神先生がここを開けてくれるよう言ってくれたんですよね? ありがとうございました」
そう言って、安佐子に頭を下げた。 「いいのよ、そんな」と両手を左右に振る。 でも、本居さんはもう一度顔を上げ、申し訳なさそうな顔をした。
「制服じゃないし、スクールカバンも家で…。 一度家に帰って支度しないと、授業に出られなくて」
それを聞いた錦さん、古志野さんと小林さん、安佐子。 もちろん私も驚いて目を見開いた。
「いいのよ、今日は! 今朝のことを本居さんが覚えている、覚えていないは置いておいて、今日はもう休んで!? ね?」
安佐子の言葉に、錦さん達は揃って首を縦に振って見せた。
その反応を見ても「でも」と言う本居さん。
その時、チャイムが鳴った。
「じゃあ、本居さん、ゆっくりね」と小林さんが足早に出て行ったのを、錦さん達が追いかけ、教室に帰って行った。 私は残った安佐子に視線を向けた。
「三時限目、私休みなの」となぜか本居さんに目を向けたまま言った。
「ここに残って、何がしたい?」と言った私に、静かに歩いて来たかと思うと、机の上に置いていた手紙を手に取った。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.332 )
- 日時: 2016/09/16 22:34
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
安佐子side
「ここに残って、何がしたい?」と言った香に歩み寄り、机にあった手紙を取った。 そして、ポッケトに準備していた虫眼鏡を取り出し、香のそばの椅子に腰かけた。
「解読してみる」と言うと、香は一瞬驚き「そうだな。 何が書いてあるか分かれば、私もすっきりする」と言ってパソコンを開いて作業をし始めた。
私は「本居さん、手紙見てもいいかしら?」と言って、本居さんの了承を得た。 安心して、中にあった一枚の紙を開いた。
十五分後・・・・・・
「たぶん、こうかな? 香、メモ貸して」と何とか解読できた文章を別の紙に書き出す。
それを書き終え「本居さん、今文字読むの平気?」と、カーテンを開け、メモ紙を差し出した。 コクと頷いてメモ紙を受け取った本居さんは、静かに読み進めて行った。 やがて顔を上げ「三神先生、すごいです」と、どこか尊敬の眼差しで見上げられた。
「安佐子。 私にも見せて」と香が言うので、本居さんからメモ紙を返してもらい「はい」と渡した。
メモ紙はすぐに本居さんの手に戻って来た。 香もカーテンをくぐって、私の横に立つ。
「本居さんのお母さん、あなたが副委員長をしているの、知らないのね」と言うと、彼女は小さく頷き、目を伏せた。
「手紙に書いてあった通り、今年は受験生ですから。 母なりに、自分が勉強に打ち込めるようにと、いろいろ考えてくれているのも知っているので、今年は断ろうと思っていました」
「断れなかった理由は何?」
「あゆm・・・、藤井 歩ちゃんに推薦で選ばれたんです。 それに「クラス委員、断ってもいいよ」と三神先生は、長瀬君にしか言っていなかったので」
「ああ、私、本居さんには言ってなかったかしら。 なんか、あまりにも長瀬君は態度で嫌々な感じが見えてたから、ついそう言ってしまって・・・ごめんなさい」
私が頭を下げると「やめてください、三神先生」と私の肩に本居さんの指が当たった。
「ねえ、本居さん」と香が切り出した。 「もしかして、委員長をしたこともあるの?」
「はい…、高1、高2と」
「あら、長瀬君と一緒ね」
「・・・そういえば、その長瀬君。 一時間目の休憩時間に、錦さんと一緒にここに来たよ」
その香の言葉に、私も本居さんも「え」となった。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.333 )
- 日時: 2016/09/16 22:59
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
菜月side
(長瀬君が、ここに?)
「こんなこと言ってたよ。 『まるで、あの時みたいだ』って」
「何それ?」
「さあ。 それだけそっとつぶやいて、教室に戻って行っちゃったから」
私は目を泳がせた。
(あの時っていうのは、きっと・・・)
「そうだ、本居さん」と言う横田先生の声に、私は顔を上げ「はい」と返事をした。 と、横田先生は一瞬カーテンの外に行き、またすぐに戻って来た手には一枚の紙があった。
「これ、何?」
横田先生の手から紙を受け取り、そっと開いた。
「実は昨日から母は出張で家にいなくて…。 母のいない間、どのくらい勉強したかを、出張先に送るように言われているんです」
「何、そのシステム」と横田先生と三神先生の声が揃った。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.334 )
- 日時: 2016/09/18 17:56
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
菜月side
「じゃあ、この封筒の裏に書かれていた文字って」
「母の出張先の住所と郵便番号が書いてありました」
「いつからこうなの?」と横田先生が聞く。
「高校に入ってからだと思います。 でも、私の勉強が終わるまで部屋の中で待たれるより、ずっと楽です。中学の頃がそうでした」
「楽!? むしろ厳しくなってるように思うけど?」
「……トイレに自由に行けるだけ、すごくありがたいです」
「それも許してもらえなかったの?」 三神先生が目を見開いた。
「なるほど」と横田先生はつぶやいて「手紙。 今日帰って来るってなってたよね?」
その言葉に三神先生は「ハッハーン」と言って、横田先生に近づき「何、企んでんの?」とニヤニヤしながら尋ねた。
「本居さん」と横田先生は私に向き直り「都内で行きつけの病院、ある?」と聞いてきた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.335 )
- 日時: 2016/09/25 08:25
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
香side
「もしかして、この病院。 本居さんの家に一番近い病院だったりする」
私たち三人は、安佐子の車、本居さん案内の元、学校から十五分ほどの病院に来ている。
一般病棟は部屋が無いということで、小児病棟に場違いな高校生が一人、大人が二人いる状態である。
しかも安佐子は「ねえー、遊んで—!」 「本、読んでよー!!」と子供たちにせがまれるまま、一つに束ねられた髪が大変なことになっている。 チラチラとこちらに向けられる目が「助けて!」と痛いほど突き刺さってくる。
そんな安佐子に私は、両目を瞑り(つむり)、両手を胸の前で合わせ合掌を送った。 (すまん。 私は子供と触れ合うなど…できない!)という意味だったのだが、私が顔を上げ安佐子の顔を見ると、遠くからでもわかるほどの涙目で私を見つめながら「こっち、こっち—」と子供たちに引っ張られて行き、壁の向こうに消えて行った。
本居さんもその光景にあんぐりと口を開けている。
「大丈夫。 あの子きっと、心の中では喜んでると思うから」と私は後ろの壁にもたれかかった。 そんな私に「あの…」と本居さんも我に返ったようになった。
「ここに来たのには、何か理由があるんですよね?」
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