複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.276 )
- 日時: 2015/12/24 20:02
- 名前: 奈々化 (ID: s26dq553)
香side
(まだかな?)
私は、行動のステージの上に立ち、皆が来るのを待っていた。
これでは、講堂を使う部活の開始時間を、三十分もずらしてもらった意味がなくなってしまう。
そう思っていた頃、講堂の後ろにある木の扉が開かれ、安佐子たちが顔を出した。
「遅い」 私はそう言って、ステージを降りた。 「五分過ぎた」
そういう私に安佐子は近づきながら「あんたが来るの早すぎなの」と口を尖らせた。
そんな安佐子に隠れるように、顔だけをこちらに覗かせる、髪の短い女子生徒がいる。 名前の感じからして、香住 万里だろう。
「白衣」
香住さんはそう言って、安佐子から離れて行った。 代わりに、よく日に焼けた男子生徒のそばに立った。 たぶん、村岡 辰巳だろう。
村岡君も、私を見る目が少し鋭くなった。 が、どことなく優しさが見える目だった。
「先生、どういうことですか?」
そう安佐子に言ったのは、もう一人の男子生徒だった。 こちらもよく日に焼けている。 小代 一喜。
「保健室の先生ですよね?」
小代君は、イライラした様子で私にそう言った。 「ええ」と私は彼の目をしっかりと見て返す。
「何か用ですか?」
その態度に「ちょっと、一喜。 失礼」と香住さんが注意をした。
「私は何の用もないけど」
私は安佐子達の左側に立つ、土江先生達に近づき、杉木さんの腕を掴み、皆の前に立たせた。
「この子が知りたいことがあるらしいの。 先輩として、協力してくれる?」
私を見る三人の目が、仲良く丸くなった。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.277 )
- 日時: 2015/12/27 21:07
- 名前: 奈々化 (ID: s26dq553)
愛結side
「では、杉木さん。 ちょっとずつ、思い出してみようか?」
(思い出すって、何を?) 私は首を傾げた。
「杉木? 今、杉木って言いました?」
なぜか男の先輩が、横田先生にそう詰め寄った。 先輩三人は名札が無いため、なんて名字か分からない。
「ええ」と横田先生は短く答えた。
「杉木って、まさか!」
今度は女の先輩が声をあげた。 かと思うと、なぜか講堂を、木の扉めがけて走り出した。
「どこ行くの」と、横田先生が声を張り上げ、引き留めようとする。
でも、先輩は扉に手を掛け、開けようとした。 が、開かない?
「なんで……なんでー!!」
そう繰り返し叫んでいる。 徐々に、泣き声も聞こえ始めた。
なぜか、三神先生が視線を落とした。 その隣で横田先生は、フーと安心したようにため息をついた。
(なんで、あんなに取り乱してるんだろう?)
私はただただ、泣き続ける先輩を見つめた。 すると、ふと、この泣き声に聞き覚えがあるような気がした。
「すみちゃん?」
私の言葉に、男の先輩二人が、驚き目を見開いた。
私は女の先輩に近づき「もしかして、あなた、香住 万里? すみちゃんなの?!」と聞いた。
確かに、今私の目の前にいるのは、すみちゃんこと、香住 万里に違いなかった。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.278 )
- 日時: 2016/01/11 14:53
- 名前: 奈々化 (ID: s26dq553)
愛結side
「沙耶? ごめ…ごめんなさい、沙耶。 私を……あの日の私を許して」
すみちゃんは床に座り込んで、私を見上げて、なぜか姉の名前を口にした。
「どういうことなの? 香住さん」
いつの間にか、横田先生が後ろに立っていた。 ”香住さん”と、確かに言った。
すみちゃんのことは、ずっと覚えていた。 姉、沙耶の友達だったから。 家に何度も遊びに来ていたから、私も顔くらい知っていた。
でも、あれから七年くらい経った今、馴染の顔はすっかり大人びていて…。 横田先生のおかげで、やっと、確信できた。
すみちゃんは、横田先生の質問に答えなかった。 というか、答えられない状態だった。
「まぁ、いいわ。 杉木さん、戻るよ」
私は先生に手を引かれて、皆のもとに戻った。 男の先輩、二人の前に立たされる。
「この二人も知ってると思うんだけど…どう?」
この先生が言うなら、間違いなさそう。 きっと、いろいろと調べただろうから。
一人は体を横にして、私に目だけを向けてくる。 もう一人は、素直に私と向き合ってくれている。 私も、その顔を見つめた。 そして、ふと思った。
「もしかして昔、私の家の隣に住んでいませんでしたか?」
そう言うと、その先輩は「そんな時もあったね」と笑った。
「驚いたよ。 君の名字を聞いて騒ぐ香住を見て、まさかと思ったけど。 そうか君、愛結ちゃんだったんだね」
(やっぱり、私の名前、知ってた。 でも、私は…)
「えっと、その…私」
そう私が口ごもると「村岡 辰巳」と先輩は言った。
「ああ!」
(思い出した! うん、そうだった。 確かにそんな名字だった)
「懐かしいね」と、村岡先輩は声を弾ませた。 が、それは一瞬で…。 「でもあまり、いい再開じゃないか」と顔を伏せた。
「どうして、そう思うの?」
横田先生が、会話に入って来た。
「おい、辰巳!」
そんな鋭い声が聞こえ、一気に空気は変わった。
私が視線を左に移すと、さっきまで体を横に向けていた、もう一人の男の先輩が、村岡先輩を睨んでいた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.279 )
- 日時: 2016/02/06 14:27
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
愛読者の皆さん、お久しぶりです。
なかなかパソコンが開けずに、2月を迎えました。
2月最初の更新、頑張ります。
愛結side
「裏切るのか?」
「違うよ。 ただやっぱり、僕は正直に話したいんだ」
そう答えた村岡先輩のブラウスの襟を、小代先輩?が勢いよく掴んだ。
「それが! 俺を裏切るってことなんだろ?って聞いてんだよ!」
「何、どういうこと?」
私の隣にいる横田先生に、三神先生が不安そうに聞いた。
「バレたらまずいよねって、お前が言ったから、俺らは……」
小代先輩は言葉を詰まらせ、村岡先輩から目を反らした。
「ちょっと待ってよ」
いつの間にか、すみちゃんが私と横田先生の間に立っていた。 立ち尽くした二人に近づく。
「私をそっち側に入れないで。 あんなことになるって知っていたら、私は沙耶を理科室になんて連れて行かなかったんだから!」
香住先輩が右手で拳を作り、どちらにともなく殴ろうとした時「ストップ」と横田先生の声が、講堂中に響いた。
「香住さん、堪えて。 本当に殴りたい気持ちでいっぱいなのは、杉木さんの方だから」
横田先生が私の肩に手を置いた。 皆の目が私に向けられる。 ほんのちょっとして、私は自分の視界が潤んでいることに気づき、目にたまったそれが、頬を伝った。
「そう…だったん……ですか。 あなたが…姉の言っていた、小代一喜」
香side
そう言った杉木さんの小代君を見る目には、はっきりと憎しみが映し出されていた。
「おい一年! 今呼び捨てにしたよな?」
村岡君から手を離して、杉木さんに近づく。
「先輩と呼ぶことはできない何か」
私がそう言うと、歩を止め、キッとこちらを睨んだ。
「…を、君がしたんじゃないの?」
「……一喜」
村岡君が声をかけると「チッ」と小さく舌打ちを返した。
「ああ、いいよ、言えばいい。 今更何も出来はしないんだからな」
小代君は「二ッ」と笑った後、また村岡君の後ろに立った。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.280 )
- 日時: 2016/03/02 10:55
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
愛結side
「さっき、君が一喜に言った言葉から考えて、お姉さんからある程度、話を聞いたんだろうね」
村岡先輩の言葉に、私は黙ってうなずく。 「そっか」と先輩は少しだけ顔を穏やかにした。
「でも、もう一回、ここにいる全員に説明させて」
そう言った先輩の表情は、また曇った。
「僕たち三人と、沙耶ちゃんは、五年生の時初めて同じクラスになりました。 もともと知り合いで、よく遊ぶ仲だった香住の紹介で仲良くなったんです。 で、六年生の時の委員・係り決めで、沙耶ちゃんと一喜が体育係になって…」
先輩はそこで言葉を区切り、小代の方を振り向いた。 なぜか、頬が軽く赤くなっているような気がした。 そして「しまった!」という表情を浮かべている。
「いつかは忘れましたが、体育の授業の後、先生達と残って片付けをしてて、二人ともすごく帰りが遅い時があったんです。 で、帰ってきたら一喜は落ち込んでる様子で、沙耶ちゃんは困ったような顔をしてて……。 香住がずっと問い詰めていたんですけど、結局一喜が僕たちに話してくれたのは、五月に入る頃でした」
先輩は全員を見回してから、横田先生に目を合わせ、口を開いた。
「一喜はあの日、沙耶ちゃんに告白したんです」
「こ!」
そう一言叫んだのは、三神先生だった。 とっさに横田先生に口をふさがれ「モゴモゴ」と何か言っている。 土江先生を見ると「あらま〜」と言いたそうに、口をポカンとしている。
確かに、姉は言っていた。
「告白されたー?!」
当時、話を聞いた私は、そんな驚き方をした。 「声が大きいよ」と姉は静かに私を注意した。
「で、で? どう言ったの?」
「…突然のことで…ごめんなさい、って」
「あーあ。 もったいない」
「だって、まだ早いもん」
そう言って姉は、一足先にリビングにいた両親に「おやすみなさーい」と言い、二階に上がった。 私もすぐに後を追って、一緒の部屋に駆け込んだ。
姉は頭まで布団をかぶり、寝たふりをしていた。 私ももう追及しようとせず、大人しく布団に入った時「ねえ」と姉の方から声をかけてきた。
「断って良かったのかな? 傷つけてないかな?」
私はしばらく考えて「分かんない」と姉と同じように、頭まで布団をかぶって寝た。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82