複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.341 )
- 日時: 2016/10/16 15:19
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
美羽side
「錦先ぱーい」
四時限目の準備中、いきなり名前を叫ばれた。 教室の戸を開けて愛結が立っているのが見える。
「どったの、愛結」
「今朝、本居?先輩に体操服貸した子いたじゃないですか? 今日無い予定だったんですけど、五時限目の授業が変更になってしまって、その子困ってて」
「あー、じゃあいいよ。 私の貸すよ」
「ありがとうございます! そう言ってもらえて良かったです」
「いいって、いいって」と私が体操服の入った袋を渡すと「洗濯させて返します」と頭を下げ帰って行った。
愛結の背中にヒラヒラ手を振っていると「ごめん」と声をかけられた。
「ああ、通れないね。 ごめん」 私は声をかけてきた人物を見上げて、先に教室に入った。
席に着くと「愛結ちゃん、なんだって?」と花が前に立った。
「なんでもない」って言った後、ちょっと素っ気なかったかなと反省した。 花はちょっとだけ「何さ〜」と口を尖らせていたけど「あ、私まだ準備してない! 英語、英語ーっと」言いながら、ロッカーに教材を取りに行った。
藤井さんも、もうすっかり落ち着いて、皆が「大丈夫?」と声をかける回数も少なくなった。 泣いていた理由をはっきり何とは言わなかったけど、たぶん菜月のことで、一時的に精神が不安定になったんだろうな、と私は思う。
菜月、大丈夫かな?
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.342 )
- 日時: 2016/10/22 08:53
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
香side
私は都内の警察署に来た。 制服姿の女性警官を呼び止め、アナウンスをかけてもらう。
その五分後、階段を駆け下りる大きな靴音が、そのままこちらに近づいて来た。
「よ、待たせたな」
「いえ。 電話もなしに、突然すみません」
「いやいや、気にすんな。 とりあえず、こっちで話聞く」と粂山刑事は親指を茶室に向けた。 私は無言で頷き後に続く。
「喉、渇かんか? 奢る(おごる)ぞ」と差し出された手には百二十円があった。
「では」と小さなペットボトルのお茶を指差した私に「うん」と、お金を自販機に入れた。 出て来たペットボトルを持って、すぐそばの椅子に座った。
粂山刑事がブラックの缶コーヒーを手に席に着きながら「んで、今日はどうしたよ」と缶コーヒーのふたを開ける。
「ここ一カ月ほど、若者が深夜の夜道を徘徊したり、なんてことあったりしませんか?」
「なんだ? お前さんの学校の生徒に、そう心当たりのある奴がいるのか?」
「ええ、まあ」
「うーん・・・そうだな〜。 チラホラ聞くが。 その心当たりのある奴が住んでる場所は?」
「・・・すみません。 それはまだ知らなくて」
「そっか」
粂山刑事はため息を吐いた。
「ほんと、年寄だけじゃなく若者までがな」と机に視線を落とし、頭をかいた。
「んじゃ、性別は男? 女?」
「女です」
私がそう言うと「おお、そうか!」と粂山刑事は急に椅子から立ち上った。 「それなら一人しかいねえや」
「待ってろ、すぐ戻る!」と茶室を飛び出して行ってしまった。 そして本当にすぐ戻って来た。
「この子がお前さんの学校の生徒かどうか分からんが、まぁ、見てみな」
そう差し出されたクリアファイルには、いくつか紙が入っていた。 「ありがとうございます」と受け取り、早速見てみる。
どの紙にも日付、時刻、話し合いの結果などが記されていた。
「このフリースペースに書かれている内容からして、私の学校の生徒に間違いありません」
「おお、そうか! なんか役に立てたなら良かった、良かった」
「ハハハ!」と豪快に笑う粂山刑事にクリアファイルを渡して「ありがとうございました」と頭を下げた。
出口に向かう私に「もういいのか?」と、どこか寂しげな声がかかる。
「まだ勤務時間なので」と先に茶室を出て、警察署を右に曲がり学校に向かった。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.343 )
- 日時: 2016/10/23 19:38
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
香side
さっき、さっと目を通しただけだけど・・・
”母の帰りはいつも深夜近くで”
”最近は出張も増えて”
”会話も減って”などなど、本居さんが保護した警官に話したであろう言葉が頭の中を回る。
本居さんはそれだけ、お母さんに気に入られていて、可愛がられていて、大切にされている・・・って、ことなんだろう。
そりゃ、自分の子を可愛がらない親なんて、いない。 ほんと、滅多には・・・いない。
でも、私はどうだったかな?
実の母、清美も・・・あの人も、私をちゃんと愛してくれていたのかな?
「ハア—」 思わず深いため息を吐いた自分に驚いた。
口を手で塞ぐ。 そっと目も閉じる。
どこか涼しい風に釣られて、気持ちがマイナスに持って行かれそうになってしまった。
でも、学校に向かう足を止める気もせず・・・
『私は私にできることをすればいい。 ですよね? 安藤先生』
高校時代の恩師の言葉を、頭の片隅に置き、何とか気持ちを落ち着かせた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.344 )
- 日時: 2016/10/28 15:14
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
安佐子side
「三神先せ・・・じょうぶで・・・ みか・・・生、大丈夫ですか? 三神先生!」
「うわ!」
私は自分の名前を叫ぶ声に、机に突っ伏していた顔を上げた。
「あー、寝ちゃった。 お昼休憩、終わっちゃう」
「心配するとこ、そこですか! 確かにもう終わりますが・・・。 疲れましたか? もしかして横田先生と、どこかお出かけされてました?」
「ええ、まあ」と私は目をこすりながら職員室を見回した。 「香は?」
「まだ戻られてません」
「・・・そうですか」
「保健室の電気消えてましたから、もう今日は戻らずに帰られるんじゃないでしょうか」
そんな土江先生の言葉を、私は五時限目が空いているのをいいことに、もうちょっと寝ていたかったと、どこかフワフワした気持ちで聞いていた。
「そういえば、教頭から聞きましたよ」と土江先生に肩を叩かれたので「何をです?」と彼女を振り返る。
「本居さん、病院に移ったんですよね?」
「ええ。 でも、出張先からお母さんが帰って来られて、無理矢理家に連れ帰って行きました」
「すごいお母さんですね。 というか、そんなことがあったんですね」
「はい。 本居さん、大丈夫でしょうか?」
「テストが近いですから、いかにも勉強しろって言いそうですけど。 今朝、あんなことがあったんですもの。 今日くらいはゆっくり休ませてあげることを願いましょう」
「そうですね」
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.345 )
- 日時: 2016/10/29 22:25
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
花side
時は流れて、今は放課後。
なーちゃんは帰ったらしく、今日出された宿題を長瀬君が届けることになった。
同じクラス委員として一種の役割なのかと思っていたけど、家も近かったなんて、ちょっとびっくり。
「花ー! 今日部活顔出す?」
「あー・・・」
不意に声をかけてきた仁井奈、振り向きながら「うーん」と唸る。 何となく「美羽、部活行く?」と美羽に顔を向けた。
「今日はやめとこうかな」
美羽はそう言って力なく席を立ち「じゃあ」と帰って行った。
「んじゃ、私も今日は」と言い、仁井奈に向き直ると「了解! じゃ、明日」と教室を出て行った。
「美羽ちゃん、元気ないね」 百合が「んしょ」とカバンを肩にかけて近づいて来た。
「なーちゃんのあんな姿、初めて見たんだもん。 無理ないよ」
「そっか・・・。 まぁ、あの藤井さんも部活休むみたいだしね」
「そうなんだ」
「うん。 あ、ごめん! 美羽ちゃん、追いかけるの邪魔しちゃったね。 私も部活行くから、また明日ねー」
「あ、うん、明日」
私は百合の背中に手を振った後、足早に昇降口に急いだ。 靴を履き替え、走って校庭を抜けると・・・いた!!
「み・・・」 「美羽」と言いかけて声を引っ込めた。
信号が青になった途端、美羽は急に走り出したのだ。 その姿が私には、前を歩く一人の男子生徒を追いかけているようだったから。
気が付けば私も、彼女を見失わないようにと走り出していた。
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