複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

新任の養護教諭、香先生
日時: 2016/09/04 13:39
名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)

 こんにちは  または久しぶりな方もいるかもしれませんね。

 奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。

 さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
 
 また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。


Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.121 )
日時: 2015/02/19 16:59
名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)

 美羽side

 私は恐る恐る部屋の扉を開け、部屋の外に出た。 階段を三段下りる。

 (何も起きない……)

 私は階段に腰かけて、信じられないと顔を覆う。

 (本当に、もう終わったの? アイツの気は済んだの?)

 アイツが来ないということを、奇跡に思う自分がいて、良かったと喜ぶ自分もいる。 でも、それなりに疑問も浮かんでいた。

 と、鍵を開ける音がした。 私はアイツが来たと思い、咄嗟に自分の部屋に戻る。 ちょっとだけ隙間を開け、部屋の中から玄関を見つめる。 玄関の戸が開き、白い何かが目に映った。 それは、包帯でぐるぐる巻きにされた母の手だった。

 「おかあ…さん?」 

 私は部屋から出て、階段の手すりに手をかける。 「……美羽」と母は安堵の声を漏らし、玄関の床に、力なく座り込んだ。 私は慌てて駆け寄る。

 「あの人……もう帰ったの?」 母は私に助けられながら、立ち上がり、そう言った。 心配そうに私の顔を覗き込む。 私は首を振った。
が、母の反応はイマイチで首を傾げている。

 「今日、来てない」

 私は静かにそう答えた。 母が目を見開いたが、一瞬のことだった。
次の瞬間、私は母に抱きしめられていた。

 「おかあ…さん!?」

 「お母さんが返って来るまで、自分の部屋にいたの?」

 「……うん」

 「そう。 怖かったね、ごめんね?」

 そこまで話すと、母は声を押し殺し泣き出した。 私の目にも涙が溜り、母の肩に頭を乗せ、泣いた。

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.122 )
日時: 2015/02/21 12:09
名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)

 花side

 「じゃあね」
 
 私はそう言って、仁井奈に背を向け歩き出した。 しばらく歩いて後ろを振り返る。 仁井奈はもう、すぐそこの角を曲がった後だった。

 よし……行ける!

 私は目の前の道を真っ直ぐ行かず、左に歩き出した。 この道を行って、もう一回左に曲がると、美羽の家の近道。

 (やっぱり、心配)

 私の足は早歩きから、自然と駆け足になった。 と、突然横から車が現れ、反射的に立ち止まる。 その車は、きれいな弧を描き回ると、次の角を左に曲がった。

 途端に花は、はっとした。 この先には美羽の家しかないからだ。

 「あの車も、美羽の家に用事があるのかな?」

 私は駆け出し、コンクリートの壁からちょっとだけ顔を覗かせ、さっきの車を探した。

 (あった!)

 その車は、美羽の家の少し手前で止められていた。 怪しく思い、私は注意して車を見つめる。 ドアが開き、中から男の人が出て来た。 男はくわえていたたばこを地面に落とし、踏みつけると、そのまま美羽の家に近づき出した。

 途端に私の中の本能が「アイツは危険だ!」と叫んだ。 私は本能に従い、男めがけて走り出した。




 美羽side

 私と母はリビングで、お互いの涙をティッシュで拭いていた。

 「なんか、今日は静かね」

 母が小さく微笑み、しみじみと言った。 私は黙ってうなずく。 とても、久しぶりな感覚だった。 今頃は、アイツの割ったカラスのコップの破片の片づけをしているはずだったのが、母とソファーに座り、何もない床を眺めている。

 久々に訪れた、平和の時を、もっと長く感じていたい。 私はそう願っていた。 が、そんな時玄関のチャイムが鳴った。 私ははっと立ち上がり、母はギョッと目を見開いた。

 (なんで、今日に限ってこんなに遅いの?)

 私の頭の中に、そんな疑問が浮かんだ時、硬い何かがどこかにぶつかる音がした。

 私は母に代わって玄関へ進み、恐る恐る戸を開けた。 途端に一人の男が自分に向かって倒れてきた。

 「っ!」

 私は反射的に避けたが、男は頭を靴箱の角にぶつけ、玄関から廊下に上がる段差に頭を打ち付けた。 すぐに動き出すと思い、私は母のいるリビングに逃げ込む。 が、完全に気を失ったらしく、ピクリとも動かない。 

 (もしかして、靴箱の角に頭ぶつけて……し、ししし死んじゃったとか!?)

 私の頭はパニックになった。 「大丈夫?」と駆け寄る母に返事もできない。 

 「あちゃー、やりすぎたかな?」

 私も母も、その声に反応して動きを止めた。
 
 (今の声……)

 私は玄関に飛び出し、思い切り戸を開けた。

 「花!!!」
 
 そこにはなぜか、教科書を丸め、苦笑いで私を見る、花の姿があった。

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.123 )
日時: 2015/02/22 11:04
名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)


 花side

 私は男に向かって猛ダッシュし、咄嗟にカバンから教科書を出し、思い切り男の脇腹をめがけて「胴!」と一発叩いてやった。

 男の頭は、そばにあった呼び鈴にぶつかり、勢いでチャイムが鳴った。 それに反応して、美羽が出て来た、という訳。 でも、なぜか涙目になって、リビングに戻って行った。 美羽に代わって、母、佳代が「あら、花ちゃん」と私を出迎えた。

 「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! すごく? とっても? いや、めちゃくちゃ怪しかったので、つい手が出てしまって。 本当にすみませんでした! まさか、美羽のお父さんだったなんて思わなくて。 本当にごめんなさい!」

 私は、リビングに通され、佳代から男のことについて聞かされた。 錦 治人、正真正銘の美羽の父親らしい。

 でも…… (なんで一緒に住んでないんだろう?)

 「何か、あったんですか?」

 佳代の出してくれたお茶に目をやりながら、私はやっとそれだけ口にした。 正面に座る二人の肩が”ピクッ”と動いた。 そしてお互いに顔を見合わせ、何かを目と目で会話をしているように見えた。

 佳代が私に向き直り「私がいけなかったの」と言った。 私はギリギリその声を聞き取ったものの、意味が分からなかった。 キョトンとしている私を見て「そうよね……今のじゃ、分からないわよね」と、小さく笑ってみせた。

 「お母さん……話しちゃうの?」 美羽の佳代を見る目は、そんなことを訴えているように見えた。 佳代はそんな美羽の視線に気づかず「あれはこの子がまだ、小学校一年生の時だったの」と話し始めた。




 美羽side

 私も、あの時のことを鮮明に覚えている。

 「ただいまー」

 小学一年生だった私は、まだお転婆(おてんば)で、まだ優しかった父と母と楽しく暮らしていた。

 でも……ある日の晩。 私がトイレに起きたとき、父の怒鳴り声が聞こえてきた。

 「この写真に写っている男は誰だと聞いているんだ!」

 はっきりと、そう聞こえた。

 「だから、知らないと言っているじゃない!」 母も普段とは別人のように、声を荒らげている。

 「何のお話しているの?」

 私がリビングに入って来ると「おお、美羽。 どうした?」と父が近づいてきて、私の目線に合わせしゃがみこんだ。

 「あなたがうるさいからよ」

 「は? お前がこんなことするからいけないんだろ? 自分のこと棚に上げんなよ!」

 「怒鳴っちゃダメだよ、お父さん」

 私は、父と母の間に割って入った。 でも、父の剣幕に泣きそうになり、目を反らした。

 「美羽、おいで。 寝るまで、お母さんがそばにいてあげるから」

 母は椅子から立ち上がり、私に向かって両手を伸ばす。 と、その手を父が”パシン”とはらった。 母は手を引っ込め「何するの!」と父を睨む。

 「まあ、最近お前の態度が変だと思ってはいたが、ようやく納得できたよ。 まさか、こういうことだったとはな」

 私の幼い頭の中は、?でいっぱいになった。

 「決定だな、紙は俺が役所から貰って来るよ。 美羽のことは、お前に任せる」

 「ヤクショに行くとどんなカミがもらえるの? みうもほしい!」 私は意味が分からないまま、駄々をこねた。

 「美羽には、まだ早い。 それに、その紙は悲しいことが起きる紙なんだぞ」

 父は、幼い私にそう言って、寂しそうに微笑み「お前も大人になったら分かる」と付け加えた。

 話が一段落つき、「さあ、もう寝よう」と父は私の手を引き、私の部屋に行くため、階段を上がり始めた。 と、私はあることを思い出した。

 「お父さん、みう、トイレ行きたかったんだ」

 「ああ、そうか。 それで下りて来たのか。 お母さんにお願いしてご覧?」

 「はーい。 お母さん、トイレ、いっしょに来て—」

 私は涙目の母と、トイレに行き、自分が寝付くまでそばにいてもらった。 と、思う。

 その翌日、父の姿は見当たらず、リビングから母の泣き声が聞こえるだけの、静かな日曜日の朝を私は迎えたのだった。
 

 

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.124 )
日時: 2015/02/23 11:51
名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)

 花side

 私は佳代から、美羽の父、治人との別れについて聞かされた。 話を聞く限り、佳代は何一つ悪いことはしていない。 本人が、一緒に写真に写っている男を知らないっと言っているんだ。 それをどうして治人は、浮気だと決めつけたのだろう?

 話し終えた佳代はうつむいて「はぁ」と暗いため息をついた。 美羽も、ずっとうつむいている。 私に両親が離婚していることが知られたから、かもしれない。 確かに最初はびっくりした。 でも……。

 「大丈夫だよ、美羽」

 私は椅子から立ち上がり、美羽に近寄ると、震えている手を優しく両手で包んだ。 

 「何となく、分かってたんだ。 中学の頃から」

 「……え?」 美羽は驚いて顔を上げる。 目には薄っすらと、涙の膜が張っているように見えた。

 「中学の頃…から? 嘘!」

 「だから、何となくだって。 そんな驚くことないでしょ! 私を誰だと思ってるの?」

 「?」

 (いや、黙るなよ!)

 「私は、美羽の親友! だから、迷惑かけるとかなんとか言って縮こまらずに、何だって話してほしいの。 小さいことかもしれないけど、力になりたいの!」

 「……花」

 美羽の目から涙があふれ出した。 私は慌てて「え、あ、あわわ、わー、わー、ごめん…な、泣くなー」と美羽の両肩をゆすった。 「う、の、脳が揺れる—」と言う美羽の声で我に返った私は、美羽の肩から手を放した。

 「花ちゃん」

 佳代に急に名前を呼ばれ「は、はい」と言った私の声は上ずってしまった。

 「美羽と出会ってくれて、本当にありがとう」

 佳代はニッコリと、私に優しく笑いかけた。 私はここに来て初めて、佳代の心の底から生まれた笑顔を見られた気がした。

 「さて」と佳代が立ち上がった。 リビングを出て、玄関に向かう。 私と美羽は、すぐに後を追った。

 「この人をどうするか」

 私たちはそろって、まだ気絶している治人を見下ろす。 

 「車に戻そう。 それに私、いいこと思いついちゃった!」

 そう自信満々に言ったのは、美羽だった。





 治人side

 「うーん……」

 ガッ! 伸びをした手が、どこかに当たったらしい。

 「#%$&$%#!!」 痛くて、言葉にならん。

 (イッテ—……あ? 何だ、この黒いの)

 俺はまだぼやける視界の中、輪郭のはっきりしないそれを掴もうと手を伸ばした。 握ると、それは堅かった。 しかも、穴が開いている。

 (もしかして、ハンドルか、これ!? じゃあ、ここは車の中か! 通りで天井が低いわけだ。 でも、俺は外に出たはずだ)

 「なんで、ここにいるんだ、俺は? 確か呼び鈴を鳴らそうとしたら、何かが急に腹に当たってきて……」

 (チクショー、全く思い出せねー……一体、何が起きた?)

 俺は車の窓を叩いた。 と、空っぽの車庫が目に映った。

 (アイツらがいない! いやいや、待て。 美羽は? 美羽はいるかもしれない)

 が、家の中の電機は消えていた。

 (チッ……しょうがねぇ、出直すか)

 俺は車を走らせた。




 花side

 「じゃあ、ありがとうございました」

 「いいえ」

 佳代は笑って手を振った。 助手席の美羽も「バイバイ」と手を振っている。 本当は「一緒に晩御飯を食べないか」と言われたんだけど「母が用意してると思うので」と断った。

 私は車が見えなくなるまで、家には入らなかった。


 

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.125 )
日時: 2015/02/25 10:16
名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)

 花side

 朝になった。 布団から上半身を起こして、伸びをする。

 (二人は無事だろうか? 本当に美羽のお父さんは、二人がいないとわかると、素直に立ち去ったのだろうか?)

 洗面所に向かう途中、まだはっきりとしない私の頭には、そんな疑問が浮かんでいた。 夕食を終えた二人が家に帰ってきたところを見計らって、治人がまた現れたとしたら?と、寝る前にも考えていた。 あまり眠った気はしないが、直哉より早起きでき、洗面所を独占できた。

 顔を洗った私は、リビングに入った。 が、すでに起きているであろう母の姿が無い。 

 (ゴミ出しかな? でも、燃えるゴミは昨日出したし……あ!)

 私は目を見開いた。 

 「あった」

 私の視線の先には、一枚の紙。 伏せておいてあるが「花へ」と誰宛か書いてあった。

   ”お母さん、仕事の関係で、アメリカに行くことになっちゃった。 悪いけど、お母さんが戻って来るまで、また男どもの面倒を見てやってね。 お願いします。 恵理子”

 (アメリカ……)

 私の母は芸術家で、主に日本を中心に活動していた。 それが、母の技術は外国人ウケが良く、徐々に海外での仕事が増えた。 最近は、2カ月に一回、海外に行って活動している。

 (でも毎回毎回、私にだけ伝えるって…しかも、手紙で。 あと、いつ戻るのか書いてから行ってよね、もう!)

 私は時計を見た。 いつまでもこうして、立っているわけにはいかない。 まずは、男どもを起こさないと。
 
 「起きろーーー!」
 
 私はリビングに近い、父の部屋に入った。
 

 


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。