複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.156 )
- 日時: 2015/04/29 11:36
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
安佐子side
(なんだか……新たな展開になってきた)
私も、錦さんたちも、揃って、香と治人を交互に見る。
「いくつか質問させていただきます」
「また、ちまちまと……まぁ、はい、どうぞ」
治人はぐったりと壁に背中を預た格好で立ち、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「あなたは、本当は知っていたんじゃないですか? 佳代さんが浮気なんかしていないって」
「貴様は、その写真を見たのか?」
「質問に質問で答えを返さないでください」
「うるさい! あの写真を見ればわかる。 自分以外の男となれなれしく……誰だって、そう決めつけてもおかしくないだろう?」
治人は話すにつれて、だんだんとしぼんでいく。
「私今、言いましたよね? その写真を見ても、あなたはすぐに浮気とは決めつけなかったと」
「……」
どういう訳か、治人は黙り込んでしまった。
「香、どういうこと?」
私は思わず、間に割って入った。
「この人は、佳代さんを試したんだよ。 自分に対して、愛があるのか」
「……ん?」
「だからこの人、こんなだけど、きっと寂しがり屋なんだよ。 優しくされていないと死んでしまう。 って、ウサギか!」
香はそう突っ込み、スリッパで壁を蹴った。 それに治人はビクつき、背中を壁に着けたまま「ズズズ」と引きずり、床に座り込んだ。
「やめてくれ、やめてくれ」
治人は頭を抱え、すっかり怯えきってしまった。
「ほらね」
香はそう言って、得意げに私たちを振り返ったが「いや、ほらねじゃなくて」と私は胸の前に手を立て、パタパタと振る。
美羽side
(お父さん……こんなだったけ?)
私の記憶の中の父は、堂々としていて、いつだって優しいという印象で埋まっていた。
でも、何年か会わないうちに……
「こんなの、お父さんじゃない!」
そう思った瞬間、全員の視線が私に向けられた。
「?」と私の頭は?でいっぱいになった。
「ですって」
横田先生が降る人に向かって言った。 なぜか、みるみる泣き顔になる父。
(なんで、泣きそうなの? あれ、そういえば私、なんで立ってるんだろう? それにこの拳は……! も、もしかして)
頭の中で思ったことを、口に出してしまったらしい。
(本人を前に何を……)
「そうだったの」
突然、ずっと黙っていた母が口を開いた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.157 )
- 日時: 2015/04/29 20:30
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
香side
「横田先生、でしたよね?」
佳代さんが、私に近づき、恐る恐るという感じで聞いてきた。
「はい」
「少し話をさせてもらえませんか?」
佳代さんはそう言って、治人に目を向ける。 今なら、だいぶ弱っているし、大丈夫かもしれない。 私は静かにうなずいた。
佳代さんは、一歩、治人に歩み寄り「ごめんなさいね」と、その場にしゃがみこんだ。
治人はそれに反応して、わずかに顔を上げて、佳代さんを見る。
「決して、忘れたわけではなかったの。 あの写真に写っていたのは、私たちの出会いの場所だって」
佳代さんの声が、涙で震えた。
「じゃあ、なんで」
治人がちょっと強い口調で言う。
「本当に偶然だったの。 一緒に写っていたのは、会社の同僚だった人。 あの写真は、彼の送別会の時に撮ったもので、東京タワーをバックにって……撮られた後に気付いたの。 ここはあなたとの思い出の場所だって」
「……」
「あの日、その写真を燃やそうと思って、美羽が寝るのを待ってたら、あなたが入れ替わりで帰って来て……」
「だから、ライターが……そうか」
「もう、遅いけど……分かってくれる?」
治人が口を開きかけた時、「遅くないよ!」と錦さんの声が聞こえた。
「私たち、ずっと待ってたんだよ? お父さんが帰って来るの」
錦さんはそう言って、二人に近づき、しゃがみこんだ。
「お母さんがなんで、旧姓に戻さないか、分かる?」
治人の顔がはっとなった。
「ずっと待ってたんだよ……だから、表札も錦のまま」
錦さんは鼻をすすり、顔を俯かせ「それなのに」と、声を絞り出し、続ける。
「それなのに、本当に遅くなっちゃったよ。 どうして、人を殺す前に私たちを見つけてくれなかったの! なんでもっと早く、会いに来てくれなかったの!」
錦さんは、治人の胸をどんどん叩いた。
「バカ…バカ、バカ、バカ! 大っ嫌い…もう、大っ嫌い!」
治人はさらに顔をくしゃくしゃにして「……美羽…ご…ごめんな」と錦さんを抱き寄せた。 佳代さんも二人に抱きつき、錦さんの頭を撫でた。
と、サイレンの音が聞こえてきた。
「せっかくの感動のシーンに申し訳ありませんが……」
私は三人に歩み寄り、中心にいる人物に声をかけた。
「はい」と、すっかり大人しくなった治人が立ち上がる。
きちんと正面から向き合えば、結構かっこいいじゃないか。
治人を先頭に、私、安佐子、錦さんたちとで、玄関に向かう。 すでに警察が中に入っていた。
「錦 治人だな? 10時52分。 殺人及び、学校に脅迫文を送った件について、詳しく事情を聴きたい。 よって、逮捕だ。 手錠」
一人の刑事が、部下らしき刑事から手錠を受け取り、治人の手首に掛けた。
「ちょっと、いいですか?」
治人はそう言った後、錦さんたちを振り返った。
「早くしろ」 刑事が治人の背中を押す。
「あなた/お父さん」 佳代さんと錦さんが同時に言う。
「すまなかった……今度は、真っ直ぐ帰る」
「はい」 佳代さんが言った。 錦さんはうなずくのがやっとだった。
「お願いします」 治人は、刑事たちに向かい合った。 ササッと、車に乗せられ、あっという間に走って行ってしまった。
展開が速いような気がしますが、何とかクライマックスに突入です。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.158 )
- 日時: 2015/04/30 21:08
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
花side
朝になった。
一階に下り、テレビをつける。
ちょうど「続いてのニュースです」と男性アナウンサーが顔を上げた時だった。
「昨日、都内の警察署に、「とにかく助けてほしい」と通報が入り、すぐに警察が駆けつけました」
そう男性アナウンサーが言い終わった後、「ここのお宅ですね」と女性リポーターが夕方の中歩く映像に切り替わった。
錦という表札には、モザイクが掛けられていた。
「犯人は、ここのお宅に住む、40代の母親と高校生の娘と、元家族にあたる男でした。 さらにこの男は、先週、この通りの近くにあるトンネルで殺害された椚田 未海さんの殺害を認めているということです」
「本当に、取り返しのつかないことをして、申し訳なく思っています」
画面は再現VTRに写り、頭を下げる男の姿が映し出された。
「警察は、引き続き、彼から詳しい事情を聴くということです」
スタジオに戻った画面には再び、男性アナウンサーが映し出された。
「続いてはこちらのコーナーです」
途端に男性アナウンサーの顔が、ぱっと晴れた。
私はテレビを消した。 いい感じに、丸く収まったものの、まだまだ不安が拭えない。
なぜなら……
「今日、体重測定の再測定だって忘れてたー」
私の叫びは、静かな家の中でこだました。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.159 )
- 日時: 2015/05/01 19:26
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
美羽side
お父さんのことは、ニュースになった。
表札に、モザイクが掛かっていたものの、近所の人や知り合いには、いくら隠しても分かってしまう。
家を出た途端「大変だったわね」 「けがしなくて良かったわ」とおばさんたちが言い寄って来た。
「お父さんも、もう一回、家族になりたかったんだ」
横田先生たちと別れた後、家に入った私は、思ったままを口にした。
母は「そうね」と言って、私の隣に立つ。
「いつ、帰って来るかな?」
「……いつになっても、待っててあげよう? ね?」
そう微笑み返す母に、私も小さく笑った。
(お父さん……待ってるから、帰って来てよね)
私はそう心の中で呟き、拳をギュッと握った。
横断歩道の信号が青になったので渡ろうとした時「美羽!」と叫ぶ花の声が聞こえた。
(私も、頑張る…だから、お父さんも)
「花—、早く!」
私は後ろを振り返り、花に向かって叫んだ。
「十分、急いでるから」
そんな花の言葉を、私は走りながら、背中で受け止めていた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.160 )
- 日時: 2015/05/04 15:11
- 名前: 奈々化 (ID: SSNg/Zhu)
香side
「勝手なことをして、申し訳ございませんでした!」
私と安佐子は、池林校長を前に揃って頭を下げた。
「全くです」
池林校長の厳しい声色(こわいろ)が心に突き刺さる。 が、すぐに「といいたいところですが」といつもの調子の声が聞こえてきて、私たちはまた揃って顔を上げた。
「これを渡してほしいと、先ほど、直接届けに来られました」
池林校長は椅子から立ち上がり、身を乗り出し、一つの便箋を差し出した。
安佐子に手で促され、私が受け取ることになった。 差出人は、錦 佳代となっていた。
「これに免じて、あなた方の行いによって起こった迷惑はチャラに致しましょう」
私たちの表情は、無意識のうちに晴れた。
「ありがとうございます」
「以後、気をつけます!」
私が言った後に、安佐子が頭を下げながら言った。
花side
「美羽、すっかり元気だね」
三時間目が終わり、次の体育に向けて移動しようと立ち上がった時、仁井奈が「一緒に行こう」と近づいて来た。
「うん」
「でも、大変だったね」
「…ああ、朝のこと? まぁ、仕方ないよ」
私が美羽と一緒に教室に入った時、小、中学校からの同級生たちが一気に詰めかけて来た。
それから私たちは、朝礼が始まるまで、質問攻めにあった、という訳です。
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