複雑・ファジー小説
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- 新任の養護教諭、香先生
- 日時: 2016/09/04 13:39
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
こんにちは または久しぶりな方もいるかもしれませんね。
奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。
さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.281 )
- 日時: 2016/03/18 14:37
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
愛結side
「姉のことが、そんなに許せなかったんですか? だから、避難訓練があることを利用して、理科室に火を……」
私の目は潤み、小代をはっきりとしない視界の中で睨むように見つめた。 しばらくして「違う」と、村岡先輩が静かに言った。
「それは違うよ」
「何が違うんですか!?」
相手が村岡先輩と分かっていても、声を張り上げてしまった。
「じゃあなんで、本当に火事が起こったんです? なんで姉はあの場所にいたんです?」
そうまくしたてる私の肩に、横田先生が手を置いた。 私は見上げることはしなかった。 焦りすぎたと、床に視線を落とした。
「俺は別に断られたことを、怒ってなんかない」
小代の言葉を聞いて、私はまた顔を上げた。
「そもそもあの火事に、俺たち三人は一切関係ない」
私は「は?」という顔になった。
「どういうことですか?」
「三橋 卓也(たくや)って名前、聞いたことない?」
今度は村岡先輩が声をかけてきた。 私はチラッと、土江先生の方を見る。 三橋君は、私から目を反らし俯いた。
(その反応……)
「ウソでしょ……」
名前だけでなく、姿も性格もよく知っている。 乱暴な行動や言動、態度のどれ一つ結びつかない好青年。 三橋君にとっても自慢の兄、三橋 卓也さん。
「卓は、俺より先に君の姉さんに告白して、速攻で振られたって言ってた。 俺もだって言ったら、お互い何かが込み上げて来て……。 そしたらアイツいきなり『死ねばいいのに』とか言ってさ」
小代はその時のことを思い出したように、視線を泳がせ始めた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.282 )
- 日時: 2016/03/28 13:42
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
愛結side
「卓は短気なところがあって……。 でも、その時は『冗談』って二人で笑った。 だから、アイツを気にすることもなかったんだが……担任から避難訓練があると知らされて、当日はずっとアイツのことを気にしてた……」
そう言った小代に「だからか」と村岡先輩が言った。 それに「あの日私たちを避けていたのは、そういうことだったの?」と、すみちゃんが続けた。
「別に避けてたわけじゃない。 夢中で後をついて行ってただけだよ」
逆ギレしたように小代は口調を強めた。
「そうなの」 すみちゃんが静かに言った。 わずかに声が震えたように思い、私はすみちゃんを見る。 小代と村岡先輩も、私と同じようにすみちゃんを見た。
泣いていた。 泣きながら、小代を見ている。
「あの時、私ずっと一喜に相談したいことがあったのに……」
小代が「何だよ、相談って」とすみちゃんに歩み寄る。 「今言ったって」と視線を逸らしたすみちゃんを「いいから!」と話すように促す。 すみちゃんの目から、また涙が落ちた。
「あの日、三橋君が聞いてきたの。 『今日誕生日のやつ、いる?』って」
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.283 )
- 日時: 2016/03/28 14:27
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
愛結side
「あの日って…確か!」
村岡先輩の言葉にすみちゃんは黙ってうなずいた。
「沙耶の誕生日」
小代は「そんな!」という感じで、目を丸くし、口を半開きにしている。
「そう教えたら三橋君に『じゃあ、一階に来てって言ってくれない?』って言われたの。 いろいろ聞きたかったけど、タイミングが無くて…。 そしたら三時間目の終わりに、また三橋君から声をかけて来て。 『四時間目の終わる十分前にって、伝えて』って」
すみちゃんはそこまで言うと、一度涙を指で拭った。
「三橋君の言う通り沙耶に伝えた後、私『告白かな?』って言ったんだけど。 沙耶は『違うと思う』って……。 あの時の表情、暗かったな」
すみちゃんは、小代を見て「相談はね、沙耶を一人、一階に行かせてもいいのかな?ってことだったんだ」と言って、また涙を落とした。
「そっか……。 気づけなくて、ごめん」
小代がすみちゃんに謝るのを見て、村岡先輩も「僕も、ごめん」と頭を下げた。
「せm/ヒック…せめて一喜が…ヒクッ、もう三橋君が沙耶に告白していたことをヒグッ、私に教えてくれてれば……ヒック!」
すみちゃんはしゃくり泣しながら、指で涙を拭う。
「と、言うことは?」
私の目からも、涙が落ち始めた。 三神先生はハンカチで目元を押さえ、土江先生も下を向きながらズズッと鼻を啜る。
「三橋君のお兄さんが、お姉ちゃんを?」
「……そうみたいだね」
私の質問に答えたのは、横田先生だった。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.284 )
- 日時: 2016/04/16 10:10
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
香side
「実はあの火事で亡くなったのは、あなたのお姉さん以外にもう一人居るの」
私は三橋君に目を向け「そうでしょ?」と言った。
安佐子と土江先生、杉木さんも三橋君を見る。 三年生たちは床に目を移していた。
「あ! それでもしかして」
杉木さんが何かを思い出したらしく、三橋君に近づき言った。
「火事が起きた後、一週間くらい休んだことあったよね」
三橋君は杉木さんから目をそらす。 杉木さんはさっと、三橋君の視界に入る。
「本当に、あの火事でお兄さんを?」
三橋君は目に涙をためながら、小さくうなずいた。
- Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.285 )
- 日時: 2016/04/17 16:04
- 名前: 奈々化 (ID: G/k9CtSQ)
香side
「兄は、理科室の防災用カーテンに包まっていたらしい。 消防隊がただのカーテンの塊だと思っていたそうで、君のお姉さんが病院に送られた後に、カーテンを取ったその下に……」
「もう手遅れだったのね」
そう答えた私に、三橋君はうなずいた。
杉木さんが膝から崩れ落ち、講堂の床に手をついた。
「信じられない。 本当に卓也さんが……」
そんな杉木さんに「私も」と香住さんが近づく。 あとの二人もそれに続く。
「一喜がちゃんと自分に話してくれてたらって、そればかりなんだけど……」
「すみちゃん…」
「でも、責めないであげて。 卓也君のことも。 きっと、反省してるから」
「悪かったよ。 ごめんな」
「僕も」
杉木さんは三人に向かって首を振り、立ち上がった。
「あ、あの…そのぉ……。 す、すみませんでした! 先輩たちを疑ってしまって! とくに、小代…先輩……」
小代君は「…ああ」と顔を赤らめて、杉木さんから目を反らした。
と、そこに講堂の扉を開く音がして「あのー!」と胴着姿の剣道部員が顔を出した。
「講堂、もう使ってもいいですか?」
私は講堂にある時計を見上げた。 三十分を過ぎてしまっていた。
「どーぞー! 時間過ぎちゃってたねー、ごめんなさーい!」
私が歩き出したと同時に「え、もういいの? 大丈夫?」と安佐子が慌てだした。 が、皆も歩き出したので、安佐子も騒ぐのをやめてついて来る。
「杉木さん」
私は特別棟と学棟とに分かれる通路で、後ろを振り返った。 つられて、安佐子と土江先生も止まる。
「良かったね」
そう私が笑うと「はい!」と杉木さんは、すっきりとした笑顔を見せた。
安佐子side
(香が笑った)
いや、いやいやいや! 別に珍しくはないんだけども!
なんか…あの時みたい。
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