紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第一話「夜蜘蛛には気をつけろ」#2
これだけの観衆がいるというのに、スタジアムの中は気味が悪いほど静まり返っていた。
その観衆共の視線を浴びるのは、闘技場の中央で対峙し合う二人の男。
片や『渦』を模した仮面を被り青龍刀を構えた男、
片や『ゴリラ』を模した仮面を被った、大柄な男。
仮面が一役買って、彼らの仮面の下の表情は読み取れない。
『渦』を模した仮面の男が、相手に悟られぬよう少しずつ間合いを詰めているのは俺にはわかった。
アイツの能力は確か『脚力強化』。間合いに入った瞬間能力を発動させ、
踏み込んだ勢いで相手をその得物で叩き斬る算段なのだろう。
案の定、そう考えた傍から『渦』の仮面の男の脚が爆ぜた。
スタジアムの中に、どよめきが巻き上がる。
『ゴリラ』の仮面の男に向かい一直線に『渦』の仮面の男が駆け抜ける。
『ゴリラ』の仮面の男はその大きく頑強な右腕を振りかぶる。
『渦』の仮面の男に、カウンターを決めるためだ。
そのリーチも長い腕、プラス自身も踏み込むことで『ゴリラ』の仮面の男のカウンターは
相手が青龍刀を振り抜くよりも先にその顔面を捉えることになっただろう。
但し、そのまま男が突っ込んでいたならば。
『渦』の仮面の男は、突如上へ跳んだ。
『ゴリラ』の仮面の男の一撃は見事に外れ、男は勢い余り前に体重が傾く。
『渦』の男はその上から、『ゴリラ』の仮面の男を切り裂こうと、
次の瞬間、『ゴリラ』の仮面の男の右手がそのまま地面を叩くと、
突如現れた岩石の塔が見事に『渦』の仮面の男の水月を捉えた。
そのまま彼は宙を舞い、
フルスイングした『ゴリラ』の仮面の男・・・『岩猿』の左拳の餌食となり、スタジアム端まで飛んだ。
「『トゥルートゥルー』、勝者『岩猿』!」
アナウンスが鳴り、会場は歓声に沸く。
裏トゥルーズの店、「パンドラ」。
街の裏通り、とあるビルの階段を下っていくとそこに着く。
一見普通のバー。店の奥の扉を開け、そこに入っていくと、
丁度野球のスタジアムの中のような場所。非合法のトゥルーズ用スタジアムにしては結構広い。
故にここを訪れる客も少なくは無い。
つまり、この店に訪れる裏トゥルーラー達のトップ、
『ショップヘッド』の強さも必然、並みじゃない。
そしてそいつを倒せば、結構な金が稼げる。
裏トゥルーズでの賭博は基本的に二種類ある。
1、相手と自分が同じ金額を提示、勝った方が相手が賭けた金額を全て手に入れる。
2、競馬や競輪のように、どの選手が、あるいはどちらの選手が勝つかに賭ける。
この店は結構会員料を取られるが、
その分支払い、つまり賭け金の上限が高い事で有名だ。
それも客が多い理由の一つである。一発逆転は男のロマンだ。
そして、これは全ての裏トゥルーズに言えることだが、
基本的に、細かい規制やルールは無し。
つまり、殺されても文句は言えない。たとえガキでもそれは同じ。
ある者は一獲千金を狙って、
ある者は命のやり取りのスリルを味わうために
ある者は人間の『真理』を見るために
男たちは今宵もこの「パンドラ」に集まる。
「コードネーム『炎馬』、ショップヘッドとの戦闘を希望。賭け金は、三千万円で」

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