紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第零話「戦が残すは爪痕と」#2
___警察病院、廊下。
「ふう、いてて・・・」
パジャマ姿で松葉杖をつきながらひょこひょこと歩く蜘蔵は、
コーヒーを買う為に自販機へと向かっていた。
鍼唖の生体治癒で瀕死の状態から回復したとはいえど、やはりまだ相当ダメージは残っているようだ。
「・・・と」
ふと、蜘蔵が顔を上げると、自販機の前に斗夢と破魔矢がいた。
斗夢達も蜘蔵に気付いたようで、軽く手を振る。
「蜘蔵さんもかい?」
「ああ、コーヒー飲みたくなってね」
「・・・ふう」
蜘蔵はコーヒーを一口飲むと一息ついた。
「・・・あれからまだ一日も経っていないのか」
「そうだね・・・」
斗夢はミルクティーのキャップを開けながら言う。
「【・・・一馬君はどうやら治る見込みは無いらしい】」
破魔矢が野菜ジュースを飲みながらテレパシーで言う。
「・・・そうか」
蜘蔵はそれを聞くと、視線を廊下の床へ落とす。
「・・・戦争の時も思ってたんだけどさ、どうしてこうも未来を背負って立つ若い奴らまで
斃れて行かなくちゃいけないんだろうな」
___霊零組、事務所ビル七階、組長室。
いかにもその道の人間が好みそうな部屋の中は、銀髪の男・黒西龍我が思い切り壁を叩いた直後だった。
「糞ッ・・・!何でアイツが・・・よりによってあの糞ジジイの手先なんかに・・・!」
龍我は誰ともなく言う。
昨夜、龍我は運良く『彼』の手から逃れることができた。
いや、正確には『彼』が龍我をわざと見逃したのだが。
「随分と腑抜けたんだな」
暫く睨み合っていた後、失望した様子でそう言って彼は夜の闇へと消えて行ったのだった。
「しかも俺を見逃すなんて・・・すっかり牙まで抜けちまいやがって・・・!
失望したぞ・・・『紫電スパイダー』!」
「・・・・・」
銀嶺一家の屋敷。
紫色の髪と眼の男・・・籐堂紫苑は、葉が紅く染まり始めた立派な木の上に腰をかけていた。
肩には黒いコートをかけ、手には仮面を持っている。
紫色のその瞳は、どこか遠くの虚空を見据えているようだった。
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「おい!42号!」
白衣を着た男が、無機質な建造物の屋上に腰かけている少年に向かって叫ぶ。
少年は黒いワイシャツをズボンという服装。髪の色は紫色である。
紫色の髪の少年は、白衣の男を気にも留めず、どこか遠くの虚空を見据えている。
「訓練の時間だ、戻れ!」
白衣の男は更に叫ぶ。
紫色の髪の『42号』と呼ばれた少年は、その紫の眼光を白衣の男へと向けた。
___時は五年前、『クリアズウォー』末期。
第九話・完

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