紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第十一話「紅水鴉が降らすは血の雨」#4



『カオストラジェディ』。

通常のトラジェディは『1対複数』で行われるのに対し、カオストラジェディは『一人一人、全員が敵』。
つまり、勝った者が全てを手にする大乱闘。
四方八方から攻撃が入り乱れ、騙し討ちもなんのその。
油断すれば、あっという間に喰い尽される。

・・・正に、『混沌の惨劇【カオストラジェディ】』。
・・・故に、『混沌の惨劇【カオストラジェディ】』。

生存率は人数分の1・・・もとい、今回は一箇所につき4人『まで』生き残ることができるので、人数÷4分の1『以下』となるが。

それでも、成程。最初っから過酷な賭けみたいだな。

ダンスホール。
俺達は先程までテラスに十六夜達がいたここでカオストラジェディに挑むことにした。
広さとしては申し分ない。
恐らく俺たちが暴れても良いように、念動力防壁も張られている筈。
・・・遠慮は無しでいい、ってことだよな?





___船煙突周囲。

言わば船の屋根。ダンスホールその他諸々の広さも相まってここもまた、広い。
藤堂紫苑は髪を潮風に弄ばせコートをたなびかせ、500名の裏トゥルーラー達に紛れて、
円陣で殺気を放ち合っている彼らを観察していた。
・・・しかし。
ふぅ、とつまらなさそうに溜め息を吐く。
そして何を思ったか、突如円陣の中央へ、すたすたと歩いていき。
「・・・どいつもこいつも、話にならないな」
裏トゥルーラー達の強面が、一層険しくなる。




「どうせなら、まずはまとめて俺を潰しに来いよ。それぐらいじゃなきゃ退屈凌ぎにもなりゃしない」





一斉に、裏トゥルーラー達の額の青筋が切れる音。
そしてその様子はダンスホールのモニターにも、しっかり映し出されていた。
「・・・紫苑らしいなあ」
そんな風に軽い反応を見せたのは黄河一馬だけで、ダンスホールにいた他の裏トゥルーラー達は一人残らず唖然としていたとか。
勿論、憂追杙菜も含めて。

にやり、と笑みを浮かべる黄河一馬は、モニターから視線を外すと
「・・・俺も頑張らなきゃなあ」
そう言い鞘から『村正』を抜刀し、ハンドガンを抜き
腕を交差させ、足を肩幅開き、軽く前に体重をかけて、構えた。



藤堂紫苑はポケットに手を突っ込み、眼を閉じ無表情。
500人のその道の者達の殺気を一身に浴びてこれとは、一体どんな神経をしているのか。





そして。
「では予選リーグ一回戦『カオストラジェディ』___開始!」





一馬は他の裏トゥルーラーと同時に駆けだした。
紫苑が素早くポケットから手を引き抜く。




___第二ダンスホール。

「第二ダンスホール、予選リーグ一回戦終了。予選通過者は『グレーテル』『灰被り』『フォロボス』『白銀の重鎮』」

辺りには、血。
中央に佇むは大剣を担いだ少女『グレーテル』、楠鈴瀬。

「これはまた、噂以上に凄まじいですね」
『灰被り』・・・変城光は表情を崩さず言う。
「一人で496名仕留めてくれたか。お陰で俺達が楽できた」
太った男、銀嶺一家頭領『白銀の重鎮』銀嶺玄武はかっかっか、とさも愉快そうに笑った。





「・・・拍子抜けね」
ぺろり、と。
自分の左手の甲に付着した血を舐めとり、鈴瀬は言い放った。





___ダンスホール。

「う、おおおおおお」
黄金の火炎の刃と化した『村正』。
俺はそれを振るい、周囲の敵を薙ぎ払いながら駆け抜ける。
後ろから斧を担いだ男が、俺をめがけてそれを振り下ろそうとする。
だが脇の下から左手に持ったハンドガンの銃口を向け、引き金を引く。
爆炎にフッ飛ばされた男のその後なんて知ったことか。次の瞬間には、眼の前の男を横に一閃。
刹那。
周囲から一斉に、十数人ほど襲いかかる。避けようにも、逃げ場がない。
「杙菜!」
俺がそこで思い切り叫ぶと、鮮血。
俺を囲む包囲陣の外から、杙菜が能力で彼らを切り裂いたのだ。
俺と杙菜は視線を合わせると、互いににやり、と笑った。





___船煙突周囲。

淡い紫色の閃光。
数百名の裏トゥルーラー達が、一斉に切り裂かれ、吹き飛ばされる。



・・・その中央に居るのは、藤堂紫苑。



彼がもう一度右手を引く。
すると今度は吹き飛ばされた裏トゥルーラー達も、そうでない者達も逆に紫苑の方に引き寄せられ。



紫苑が紫色の光を纏った右手を足元に叩きつけると、彼の周囲を悉く電撃が奔り回り、彼らは見事にその餌食となった。



「・・・どうした、さっさとかかってこいよ」
残った裏トゥルーラー達を、挑発する紫苑。
しかし彼らはその挑発に乗る気にすらならない。
「・・・・・」





紫苑が憂鬱そうに溜め息を吐いた刹那。
灰色の閃光が、丁度彼らの間に。
「!?」
紫苑を含め、彼らは突如その光に吸い寄せられるように足元からすくわれた。
紫苑は咄嗟に鋼糸を煙突に巻き付かせ、その謎の引力に対抗したが
戦意を喪失していた他の者達は為す術なくその灰色の光に吸い込まれ、

そして、灰色の光が放った爆発に巻き込まれた。

「・・・そこの紫色の。名前を名乗れ」
黒と赤のジャンパー、深い色のジーンズ。
白い髪の少年は紫苑に言い放つ。
「・・・他人に名前を訊く時は、自分から名乗れ」
紫苑はいつもより体勢を低くし、相手を警戒しながら言った。






「・・・『月影 白夜(つきかげ びゃくや)』。コードネームは『白夜光』だ」




白い髪の少年、白夜は青い双眸で紫苑を睨みつけながら冷静に言った。