紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第五話「狐の眼は全てを見渡す」#2
「・・・『大太法師』・・・?そりゃ知ってますけど」
その単語は知らない方がおかしい。
五年前に終結を迎えた『クリアズウォー』。
何故兵器開発の分野においては他の軍事大国よりもはるかに劣る日本が大勝を収めることができたのか。
それは『大太法師』『国立魔術研究所』『各分野の魔術の権威達』という『クリア』・・・
当時の呼び名では『魔術』による三つの軍事力のおかげだと言われている。
「でも確か、終戦後しばらくして『大太法師』も『国立クリア総合研究所』も処分されたんじゃ?」
俺がそう答えると、ザイツェフはふー、と溜め息をつき、
「・・・その通りだ。ありがとう、今はもうその話はいい。
次の内容に入ろうか」
「・・・・・?」
何か腑に落ちないけど・・・まあいいか。
下手に逆らって逮捕されたくないので。
「さて、次は『グレーテル』に関する情報だが・・・
ふむ、何から訊いたものか・・・」
「コードネーム『グレーテル』。外見から予測するに15~17歳くらいの女子と見られる。
特徴は腰まである白金の長髪。服装は黒のワンピースに首に赤いリボン。
靴は履いていないが、代わりに足に包帯を巻き付けていた。
能力は空間系『自身の周囲の影の操作』と見られる。特殊な鋼鉄さえも切り裂くほどの威力を持つ。
またこの能力には光を伴う能力が有効とみられる。
そして戦闘において特筆すべき点は、細身ながらも身の丈に合わぬ大剣を軽々と扱っていた点である。
彼女の能力に関しては前述の通りで、強化型の能力である可能性は極めて低い。
何か『別のもの』による力が作用していると考えるのが妥当である・・・。
・・・ざっとこんなところか?」
「・・・紫苑、いつから起きてた?」
「お前が俺を売ろうとしてた辺りからだな」
「・・・・・」
「まあそれは置いといて、情報はこんなもんでいいか?」
「あ、ああ。ありがとう」
何せいきなり一気に言われたので、ザイツェフとかいう刑事のおっさんも呆気にとられているようだ。
だが、
「大剣を軽々と・・・成程、やはりな」
と小声で言ったのを俺は聞き逃さなかった。
「さて、残る要件は一つだな」
「『個人的な捜査の協力』・・・ですか』
「そうだ。私とこの少女・・・小山さんを含む、
ごく少数かつ秘密裏に組織された集団で行われている捜査に君たちも参加してほしい。」
「・・・いったいどんな内容の捜査をするんですか?」
「それはまだ言えん」
「・・・・・ゑ?」
「捜査の内容に関しては極秘事項だ。
協力してくれる意志があり、なおかつ信用のできる人物にのみ話す。
無論、危険を伴う捜査だ。
だが報酬とできる限りの援護は協力しよう。
さて、どうする?」
いやいやいやいや。まったくもって意味がわからんですよ。
つまりあれか?内容は秘密、下手したら死ぬような危険な捜査に協力してくれってことか?
いやそんなの断るに決まってんだろ。
怪しいことこの上ないし、第一あんたは刑事。
国の狗に成り下がるなんぞ俺のプライドが許さん。
無論断るに決まって・・・
「・・・とはいっても、君たちに「断る」という選択肢は無いがな」
「・・・どういうことだ?」
「いいか?君たちは裏トゥルーラー、私は刑事。
そして君は街中でクリアを攻撃目的で使用した。
・・・これ以上は言わなくてもわかるね?」
「・・・根性ねじ曲がってますねえ!」
「手段を選ばないだけさ」
つまり断れば即逮捕。蜘蔵さんと紫苑は逃げ切るかもしれないが、
俺はこのザマ。しかも剣へし折られたし。
「・・・と言いたいところだが」
「?」
「私はどうにも子供に甘くてな。これではあまりに一方的すぎる。
というわけで・・だ。君たちにもチャンスを与えてあげようと思う」
「・・・どういうことだ?」
「ここは裏トゥルーラーらしくトゥルーズで決めようじゃないか。
君たちが勝ったら君たちは見逃してあげるし、街中でのクリア使用の件についても
できる限りの便宜を図ろう。
だが、私たちが勝った時は問答無用で捜査に協力してもらう」
「・・・ルールは?」
にやり、とザイツェフは嗤い、言った。
「ライアーだ」

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