紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第三話「季節は天上天下唯我独尊」#5
「お前は手を出すなよ、紅」
「・・・わかった」
隼の命令に、紅は静かに了承する。
「・・・いいのか?」
「何がだ?」
紫苑の問いに、隼は訊き返す。
「・・・いや、何でも無い。
二人でも一人でも変わらないか」
「ほう・・・どうやら俺様は随分となめられているらしい」
隼の仮面が怒りで歪む。
「不思議な仮面だ。表情を露わにするなんてな。
・・・少女相手に尻尾を巻いて逃げだした奴が、中々立派な仮面を着けているじゃないか」
紫苑のその一言で隼の仮面が憤怒に満ちる。
そして隼は正面から紫苑に斬りかかる。
「ぶっ殺す!」
「ぐうっ!?」
だが、次の瞬間隼の動きが止まる。
「敵の挑発に乗るな。感情に任せて正面から突っ込むから・・・
ほら、蜘蛛の巣にかかる」
紫苑の鋼糸が隼を捕えたのだ。
「ちっ・・・!」
隼は仮面に怒りと焦りの色を浮かべ紫苑を睨みつける。
だが一瞬、その仮面に「嗤い」が浮かぶ。
次の瞬間、紫苑の背後から空を切る音とともに刀の一閃。
驚く間も無く、紫苑は反射的にそれをかわした。
紫苑は先程まで隼がいた場所を見た。
彼のいた場所を中心に床が直径4メートル程が円状に抉られていた。
「・・・成程、空間移動、しかも空間型の能力か
・・・相性が悪いな」
つまり隼は、自身を縛っていた鋼糸ごと紫苑の後ろに空間移動したのだ。
この能力の前では鋼糸がどれだけ頑丈でも意味が無い。
なぜなら空間ごと糸を切ってしまうからだ。
「・・・だったら、これはどうだ?」
言いざま、紫苑が手で空を切ると紫色の電撃の槍が隼をめがけて奔る。
「!」
電撃が隼を貫く寸前。
電撃は紅い水の柱におびき寄せられた。
「・・・そうか、アンタもいたんだったな」
「・・・手を出すなっつった筈だ、紅」
「・・・お前一人じゃ、紫苑に勝てない」
言わずもがな、今の紅い水の正体は彼・黒鴉紅の能力である。
「『空間移動』に『水の放出・操作』、か・・・
本当に相性が悪いな」
普通、水は電気を通すため『水は電気に弱い』との解釈がされているが、それは違う。
むしろ空気よりも電気を通しやすい水により『電気の道』を作ってやれば電撃はそちらに誘導され、
対電撃系では鉄壁の盾となる。
つまり現時点で紫苑は、隼により鋼糸を、紅により空中放電を封印されたのだ。
「・・・本当に相性が悪いな
だが・・・
やっぱり、一人でも二人でも変わりは無い」
「あ?何を言うかと思えば・・・
この状況で何余裕かましてんだ?」
「それはアンタらだろう?」
途端。
ざわり、と不穏な空気が場を包み込む。
「「!?」」
言い表すには難しい、悪寒。隼と紅は本能的に身構える。
次の瞬間、紫苑はさっきよりも多い量の電撃を放つ。
紅は咄嗟に紅い水の塊を放ち電撃を防ぐ。
すると水は蒸発・電気分解し蒸気が発生する。
「目くらましか!野郎、ここまで読んで攻撃を・・・!」
隼が言い終わらない内に紫苑が蒸気の中から彼の目の前に飛び出す。
「うおっ・・・!?」
長い刀を使う場合、懐に入り込まれると非常に戦いにくい。
上段蹴り、手刀、正拳、足払い、裏拳。隼は紫苑の体術を間一髪でかわし続ける。
紅は紫苑にナイフを投げつけようとしたが、
蒸気で視界が遮られ、音を頼りに攻撃しようにも
何せ隼と紫苑は接近戦。間違って隼に当たりかねない。
「アンタの『空間移動』の発動に必要な予備動作は
『一定時間移動先に意識を集中すること』だと見た。
つまりさっきアンタが睨みつけていたのは俺じゃなく、その後ろの空間。
それからもう一つ、アンタの能力の場合発動対象から半径二メートル内の物質も全て移動していた。
つまり・・・」
刹那、紫苑の鋼糸が隼の刀を宙に放りあげる。
「しまっ・・・!」
「アンタの能力を封じるには、半径二メートル以内に入り込むか
攻撃をたたみかけて発動の予備動作を行わせなければいい」
紫苑は刀をキャッチし、切っ先三寸を隼の首筋に当てる。
「紅、降参しなければコイツがどうなるかわかるな?」

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