紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第五話「狐の眼は全てを見渡す」#8
先の『クリアズウォー』にて活躍した、日本軍の最終兵器の一つ。
誰がそう名付けたか、その天をも衝く巨大な体躯、そして圧倒的な破壊力で畏敬を、恐れを集めてこう呼ばれた。
『大太法師(でいだらぼっち)』と。
「『大太法師』が・・・日本の裏社会の頂点・・・!?」
「そうだ」
「ちょ・・・ちょっと待った!」
蜘蔵さんが話に割り込む。
「『大太法師』って・・・たしかあれはクリアによって誕生した生物兵器の筈じゃあ・・・!?」
「確かに、表向きはそうだ。
世間には『制御が困難な為処分されたクリアによる生物兵器』として知られている。
だが実際は、『大太法師』はれっきとした人間だ」
「!?」
「ばかな・・・あんな化け物の正体が・・・人間だと・・・!?」
蜘蔵が明らかに動揺した様子で言う。
「・・・見たことがあるんですか?」
「・・・ああ。六年前、戦時中に前線で一度だけ・・・。
アレの正体が人間だと思うと・・・ぞっとする」
「その化け物が今よりにもよって、この日本の裏社会に潜んでいる」
「・・・なんてことだ」
「・・・何故、『大太法師』は裏社会に放たれてしまったんですか?」
「それは私にもわからん。
私に言えるのは、政府が『大太法師』を恐れていること、
そして奴を仕留めるために私達一部の裏トゥルーラーに捜査を行わせている、ということぐらいだ」
ザイツェフは懐から、スッと髑髏を模した仮面を取り出して見せた。
「・・・あんた、刑事じゃなかったんですか」
「刑事兼裏トゥルーラーだ」
「それっていいんですか?」
「政府も形振り構っている暇は無いのだろう。
それに敵は裏社会の頂点。裏社会の事を捜査するには裏社会の人間の方が好都合、ということもあるだろうがな」
・・・裏社会の頂点『大太法師』・・・。
裏社会の頂点を狙うということはつまり、奴につく全ての裏トゥルーラー達に命を狙われるということ。
明日、あるいは今殺されるかもしれぬ危険な捜査。
普通の奴ならそんな捜査に乗る筈は無い。
・・・だけど。
「・・・その調査、俺も参加させてください」
「「!?」」
「・・・一体どういう風の吹きまわしかね?」
「どうもこうも無いさ。
こちとらその『頂点』に立つために生きてきたんだ。
そしたら政府の保証付きでその頂点を仕留めようとしている奴らがいて、
しかも俺たちに協力を仰いでいる。
まさに願ったりかなったりじゃないか」
「・・・裏社会を敵に回す事になるぞ」
「最初からこんな世界、味方なんていないさ」
ザイツェフは俺の眼を見る。
俺はその視線を睨み返してやった。
「・・・その捜査、報酬はどれくらいなんだ?」
不意に、蜘蔵が話に入り込む。
「・・・政府からの直接の依頼だ、報酬は保証しよう。
だが代償として命を危険に晒す羽目になるぞ」
「だったら、俺も参加させてください。俺には、金が必要なんだ」
「・・・下手したら死ぬぞ?」
「これも一種の裏トゥルーズだと思えば同じですよ」
ヘラっと笑う蜘蔵。
だがその瞳には、確かに覚悟の光が宿っていた。
「・・・さっきは断っておいて、いきなり強引だな」
ザイツェフはふー、と溜め息をついた。
「・・・我々の捜査の詳細については、また後日話そう。
君達には一馬君の怪我が全快したら捜査に参加してもらう」
「・・・つまり、オーケーということですね」
「ああ、ところで・・・」
ザイツェフは紫苑の方を見る。
「君は捜査に協力してくれないのかい?」
「俺はパスだ」
「意外だな。お前が一番この話に食いつくと思ったんだけど」
何せ相手は裏の頂点だしな。
「俺と政府は互いに関り合いにならない方がいい。
その理由はザイツェフさん、アンタがよくわかっている筈だ」
「・・・そうだな」
「・・・・・?」
「・・・さて、用件が済んだのなら俺はもう行く」
紫苑はそう言い立ちあがると、ドアノブに手をかけた。
その時。
「政府の一部の者はまだ君を諦めてはいないようだよ、実験体42号『紫電スパイダー』君」
ザイツェフの言葉で、少しの間紫苑の動きが止まる。
だが、
「・・・俺はそんな名前じゃない。籐堂紫苑、コードネーム『紫電』だ」
そう言うと、紫苑はドアを開け病室を出て行った。
しばらくの間廊下からローファーの音が聞こえていたが、それもやがて聞こえなくなった。
第五話・完

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