紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第六話「赤眼の師弟は風を操る」#2
「・・・で、何の用だ?」
紫苑はザイツェフを睨みながら言う。
「君に訊きたいことがあってね」
「・・・訊きたいこと?」
「実験コードネーム『紅水鴉』『魔女』『暗闇』『蝙蝠』『疾風』『不死龍』
・・・そして『道化師』と『傀儡』、以上の八名に関する情報を全て、嘘偽り無く提供してほしい」
「・・・・・」
しばしの間、紫苑とザイツェフの間に沈黙が流れる。
だがその沈黙は、紫苑のクックック、という笑い声によって破られる。
「やっと政府も動き出したか・・・」
「・・・何が可笑しい?」
「さあ、何が可笑しいんだろうな?」
そう言いながら紫苑はベンチから立ち上がる。
「・・・アイツらはもう昔の名は捨てた。俺が知っているのはそれだけだ」
「・・・そうか」
「・・・さて、用が済んだなら俺はもう行かせてもらう」
紫苑はそう言い、ザイツェフの横を通り過ぎて行った。
その時。
「いや、あと一つ大事な用件が残っている」
そう言いながらザイツェフが右手を上げると、
どこからか武装した男達が現れ、一瞬で紫苑を包囲した。
「・・・何の真似だ」
紫苑がザイツェフを睨みつけながら言うと、
「籐堂君、我々政府に付く気はないかね?」
___とあるおもちゃ屋。
「・・・という訳や」
「つまり・・・」
「『大太法師』に関する具体的な情報は、今のところ無いに等しい、ってことっすね?」
「そゆこと☆」
星一の返答に、俺は盛大に溜め息をつかざるを得なかった。
「そんな溜め息付かんといてや、これでも全力尽くしとるんやから」
「政府と裏トゥルーラーの腕利き達が手を尽くしてこれですか・・・」
「何?なんか文句ある?」
「・・・いや、無いですスンマセン」
焔に睨まれた。駄目だこの人なんか怖い。
「『天をも衝く巨躯』を持つことと『裏社会の頂点』に君臨していること以外は一切素性不明、ねえ・・・」
蜘蔵が呟く。
「・・・『大太法師』の巨躯は、おそらくクリアによるものと考えられる。
だけどその能力を人目に付かずに使うことは不可能。
しかし能力を使わずに五年間、裏社会の頂点に君臨することも不可能・・・
ただ巨大化するだけの能力ではない、と見るのが妥当。
そして、なぜ『大太法師』に関する情報が全くと言っていいほど無いか、それは・・・」
一呼吸置いた後、餡子は言う。
「『大太法師』について何らかの情報を掴んだ者は、全て抹殺されているから、と考えるのが自然」
「「!?」」
抹殺!?
「・・・実質、この捜査チームでも既に十二人が犠牲になった」
「じゅうに・・・」
今いるメンバーの数より多いぞ!?
「そして抹殺・暗殺を行っている組織、あるいは個人の素性さえも一切不明。
・・・はっきり言って一番性質の悪いタイプやで」
「【・・・だが同時に、それが付け込む隙にもなる】」
不意に、破魔矢がテレパシーで言う。
「【つまりは情報を握ったものに送られる刺客は相当な実力の持ち主・・・
となれば『大太法師』の腹心である可能性が高い。
ならばそいつを捕え、蚯蚓山さんの『読心』を使いつつ尋問をすれば敵の素性は一気に知れる】」
「そゆこと☆」
蜘蔵の話が終わると、星一はにやりんと笑みを浮かべて言った。
「・・・だけどそれ、相当リスク高くないですか?」
「せやな。だけどな、もう形振り構ってる余裕はあらへんのや」
「・・・・・?」
形振り構ってる余裕は無い・・・?
確かに『大太法師』は放っておいたらまずいだろうが、そこまで焦る必要があるのだろうか・・・?
いや、今の星一の発言だけではない。
政府が裏社会の住民の力を借りるなんて、普通じゃ到底ありえない。
いや、まあ一部(というか大半か?)の政治家とかは別だが。
まあともかく、この件で政府が焦って得するようなことは何もない訳で。
「・・・あの、ちょっといいすか?」
「? どした?」
「なんでそこまで『大太法師』を捕えることに焦っているんですか?
向こうがこちらとはっきり敵対でもしていない限りはそこまで焦る必要も無いと思うんすけど・・・。
・・・それとも、既に敵対しているとか?」
場に沈黙が流れる。
あれ?もしかして俺何か言っちゃいけないこと言った?
不意に、星一がふー、と溜め息をつき、言う。
「ええのか?」
「え?」
「これ聞いたら君ホンマに後引けなくなるで?」
「「もう遅いと思うんだが」」
見事に俺と蜘蔵でハモった。
「・・・まあ、確かに・・・せやな」
「・・・敵対、ねえ・・・。ホンマ、その程度ならまだマシやったんやけどなあ・・・」
「・・・やっこさん、『大太法師』はな・・・
『戦争』を起こそうとしとるんや、世界を相手に」

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