紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第七話「満月の夜の新月は破滅の足音」#6



「所持者の能力に適応し、それを強化する』・・・。
 武器そのものが能力を持つなんて聞いたことが無いな」
セルシオはそう言うと、ククク、と嗤い、
「本当に面白いね。君を壊した後でその剣をゆっくり調べて、そのあとその『村正』とやらも壊すとしようか」
そう言うと、セルシオがこちらに手をかざし風の槍を放つ。
「バーロー、折角貰った命と国宝、そんな簡単に壊されてたまるか!」
俺はそう言うと風の槍に向かって村正を一振り。
すると黄色い炎の槍が飛んでいき、風の槍と相殺する。
すっげ・・・普通相性的に炎が風相手に相殺するとかありえねえだろ。どんな火力だよ。

とか自身の放った火炎の威力に驚愕していたその時。
「油断してんじゃねえよ」
渓が放った風の弾丸の雨が俺に襲いかかる。
「!!」
しまった、回避も相殺も間に合わない・・・!



次の瞬間、銃声の音と共にバァン、という無数の炸裂音が空中から。
「!?」
「全くその通りだぞ、一馬君?」
「ザイツェフさん!」

「・・・ふむ、どうやら君も空圧操作系の能力のようだね・・・」
セルシオが言う。が、ザイツェフはそれを否定する。
「いや、違うよ。教えてあげようか?私の能力を」

ザイツェフはそう言うと、火炎の海の方に銃口を向ける。






そしてザイツェフが引き金を引くと、黄炎の嵐が一瞬で吹き飛んだ。
「「「!?」」」

「・・・私の能力は『自身のハートの放出・操作』。
 放出系の中でもなかなか特殊な能力でね、ハートを形質を持たせずにそのまま放出する。
 火炎と水、水と電撃、などといった属性の相性、そしてそれによる影響を全く受けることがない」

『ハート』とは。
『クリア』を発動する時に使用、あるいは消費する精神力、想像力、集中力の総称・・・
いわば、『心の力』。
俺の火炎も、紫苑の電撃も、セルシオと渓の風も形質こそは自然現象であるが実際は『ハート』が具現化したもの。
つまり・・・

「つまり、例え風であろうが火炎であろうが幻であろうが、クリアである限り私の能力で相殺してしまえる、ということだ」

アンチクリアの能力・・・その一つ・・・!



「フフフ・・・これはまた随分珍しく、面白い能力を持っているね・・・」
セルシオはそう言うと、ぼそり、と聞こえるか聞こえないか位の声の大きさで呟いた。

「!?」



「・・・もう飽きてきちゃったし、そろそろ決着を着けようか」
そう言うとセルシオは正面から目にもとまらぬ速さで突っ込んでくる。
「!!」
俺は反射的に剣から火柱をセルシオに向かって放出する。



だが、セルシオは風を纏い火柱を弾く。



セルシオはスコップを俺の喉元めがけて突き出す。



更にその瞬間、渓が俺に斬りかかろうとする。



だが渓の刀が振り下ろされるよりも一瞬速く、ザイツェフの蹴りが渓の手を弾き、刀は高く宙に放りあげられる。



そして俺はセルシオのスコップを弾き・・・






ザイツェフがリボルバーの銃口を渓の額に突きつけるのと同時に、
俺は剣の切っ先をセルシオの喉元に付き付けた。





ざざあ、と風が竹林を通り抜けていく。
静寂の後、セルシオはふう、と静かに目を閉じ、言う。

「・・・僕らの負けだ」






___竹林の山道。

セルシオと渓を先頭に、気絶した餡子を背負った俺と、負傷した蜘蔵を担いだザイツェフ、
そして杙菜がうつむきながら坂道を下っていく。

怪我人を担いでいるということもあって、俺達とセルシオの距離は10メートルほど離れている。

・・・小声なら聞こえないはずだし、丁度良いか・・・。

俺は蜘蔵にザイツェフに担がれた蜘蔵に近づき、小声で蜘蔵に訊いてみる。

「・・・さっき言ってたこと、アレ本当なんですか?」
すると、蜘蔵が小声で言う。
「・・・ああ、本当だ」
「・・・?一体、何の話だね?」
ザイツェフが話に割って入る。



「・・・セルシオの・・・奴の心を覗けなかった」



「・・・ふむ、それはつまり彼の精神力があなたを遥かに上回っていたと・・・?」
「いや、そうじゃない。以前紫苑君の心を読もうとした時はなんというか・・・
 まるで暴風雨の中にいるような感じでほとんど心を読めなかったが、全く読めない訳ではなかった。
 だがセルシオは・・・奴の心は全く読めない。

 つまり、何者かによって心にプロテクトをかけられている可能性が高い」
「・・・そんな事が出来る奴本当にいるんですか?他人の心にプロテクトをかけるなんて」
「・・・一度見たことはあるが、もしあいつだとしたら絶対にもう二度と会いたくはないね」
「・・・・・?」

「・・・そういえばさっき戦っている時だが・・・一馬君、気付いたか?」

「・・・勿論」





「・・・彼らは最後の一撃をかわす事が出来た筈なのにあえて降参した」


そして・・・気になることがもう一つ。さっきセルシオが正面から突っ込んでくる直前に小声で言っていた言葉。






『あの人が喜びそうだ』





一体あいつは・・・何者なんだ・・・?



「おーい! ちゃんとついてきてるかーい?」

セルシオは手を振りながらこちらを振り向いて大声でそう言った。