紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第十二話「玩具の王が売るは悪夢」#2



「・・・馬君」
聞こえない。
「・・・一馬君」
聞こえないって。
「・・・一馬君!」
聞こえないったら。
「一馬君!」
聞こえないってば。

「一馬君ッ!」
「ぶべら!」
ご馳走にがっつくので夢中で杙菜を無視した代償とは言え、その平手打ちの威力は筆舌に尽くしがたかった。



先程予選リーグ良い回線が終わった後に流れてきたアナウンスの内容はは、『食堂に昼食を用意したので、食堂に集合しろ』とのこと。
食堂も予選リーグの舞台だった筈だが、後片付けは既に済んでいたようだ。
長く大きなテーブルにはそれぞれバイキング形式でご馳走の山が並んでいる。
これが食いつかずにいられるだろうか?否!
という訳でさあレッツイート!

・・・しようとしたところで俺は杙菜の平手打ちを後頭部に喰らい、まるでお預けをくらった犬のような表情をせざるを得ない。
「なんだよ、毒の心配なら無いってさっき破魔矢さん言ってたぞ」
「それもそうなんだけど・・・」
杙菜は何かを確認するように辺りを見渡してから、言う。

「・・・一回戦始まる前に比べて、なんか、人数少なくない?」

「・・・確かに」
言われてみれば。
今此処に居る人数は明らかに一回戦が始まる前より少ない。十分の一程度、と言っても過言ではない程に。
先程のアナウンスを聞く限り昼食もフロア分けされている訳ではないようだ。

・・・だとしたら一体何処に・・・?



考え事をしていたら不意に、眼の前にビールの缶を差し出された。

「よう。勝ち残ったのか」

不敵な笑みを浮かべてビールを手に言うは、藤堂紫苑。
「・・・お陰さまでな」
にやり、と嗤い返してビールを受け取る。
「・・・ってコレビールじゃねえか。俺未成年なんだけど?」
「だから?」
「いや、だから?って・・・」
二の句を継げない俺。ククク、と笑い近くの焼き鳥に手を伸ばす紫苑。
・・・コイツ、ジャンクフード好きなのか。
「・・・ともあれ」
紫苑は言う。





「その調子で勝ち残れよ。そして、俺を倒しに来い」
焼き鳥を喰い、心底期待した風に。



そして、俺は。



「言われなくても。あんたも含めて全員倒して、俺が頂点だ」
『村正』の切っ先を紫苑に向け、言ってやった。




「・・・楽しみにしてるぜ」






___同じころ、同じフロアの一角。

「・・・どうして、貴方が此処に居るの?」

動揺。
白金の髪の少女、楠鈴瀬にしては珍しく、本当に珍しくその表情はその感情に包まれていた。




「どうしてって、君を追ってきたんだよ?・・・鈴瀬」




震える手。伝う冷や汗。
鈴瀬は目の前の人物に最大級の警戒を注ぎながら。

「・・・貴方は死んだ筈よ。・・・お兄ちゃん」

白金の短髪、やせぎすの男・・・壊 蔵人(かい くろうど)に言った。

「僕は死なないよ。僕は愛する鈴瀬を守らないといけませんからね」
にこにこと、蔵人は言う。傍から見れば優しく柔和な表情で。
「その為に僕はずっと君を追ってずっとずっと君を追って追ってきたんですよ。ああ!やっと見つけたよ鈴瀬!」
嬉しそうに声を上げて言う。
「・・・ねえ。鈴瀬?」
そして、言う。



「僕は君を愛しています。だから、君も僕を愛しているでしょう?」

ある種何処までも純粋で、そして凶暴な愛で。





「皆さん、予選リーグ一回戦お疲れさまでした」
その声が聞こえるなり紫苑と一馬、杙菜は食堂の奥、開けた場所に視線をやり、動揺していた鈴瀬もまたそちらを向いた。

___声の主は、霊零十六夜。

「お食事中のところ誠に申し訳ありませんが、只今より予選リーグ二回戦の説明をさせていただきます」
アナウンスで拡大された音声に、一馬は気を引き締めた。





・・・さあ、次はどんな競技が来るのか。
トゥルートゥルーか、サバイバルか、ライアーか、チームマッチか。
俺はどんな競技でも来い、という感じに構えていた。

しかして、次に十六夜が放った言葉は俺の予想の外だった。



「・・・予選リーグ二回戦は、ポイントルール『ファースト』となります」



「!?」
フロアは騒然とし、俺は驚愕した。

馬鹿な・・・裏トゥルーズで『ポイント』・・・!?

「ちょっと待て!」
一人の男が十六夜に向かって吠える。
「これは裏トゥルーズだろうが!ポイントとか生温いこと言ってんじゃねえよ!ナメてんのか!」
いきり立つ男は、



次の瞬間、十六夜が男の方へ手をかざすと倒れてしまった。まるで螺子が切れたように。



再び、どよめく食堂。
男は虚ろな目をして、何も言葉を発しない。

「・・・他に、異論のある方は?」

大勢の裏トゥルーラーが唾を飲み込む音が聞こえた。

「・・・その方はもう戦闘不能ですね。では敗者、として別室に移動してもらいましょう」
にやり、と十六夜は嗤い、
「では、競技の説明に入りましょう。
 ルールは簡単です。競技を開始する際に指定された、各船の食堂にある物品をいち早く一定数以上破壊した方が勝者となります。
 各エリアの一回戦突破者同士で順番に競技を進行していきます。
 ・・・尚、これは一回戦開始時には申し上げ忘れていましたが」
言葉を切ってから、十六夜は言う。

「・・・敗者の方は別室で待機してもらいますので、どうぞご安心してください」





___船の個室、の更に下、倉庫。





そこには敗者となり戦闘不能になった裏トゥルーラー達が、檻の中に閉じ込められていた。





「・・・では、後ほど予選リーグ二回戦を開始いたします」
十六夜は、高らかに宣言した。




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:第二次予選『ファースト』:
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