紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第十話「嘘吐きシンデレラ」#4



杙菜が、俺の膝の辺りで顔を突っ伏して寝ている。
つーか看護婦さん、何で面会時間通り越してここで一晩明かしているのよこの子は。

空は昨日にもまして蒼く澄み渡っている。
昨日の夜あれだけ雨が降ればな。そりゃ晴れるか。

木には雫がついている。
昨日の雨の名残か、朝露かは知らないけど綺麗だな。飲んだらうまそうな気がしないでもない。

朝日は部屋の中に刺している。
心地いい光だ。たまには早起きも良いなうん。



・・・それにしても。
いつまで熟睡しているんですか、そんな体勢で。
そんなカッコじゃ風邪ひきますよ杙菜さん。



・・・俺は俯いていない。
その視線は、自分の為に泣いてくれた少女の方へ。



・・・不意に俺は、少女の眼の前であぐらをかきました。

そして、右手に左手を添え、右手の親指で中指を押さえ・・・







喰らえッ!寝起きデコピン砲ッ!
「はにゃっ!!?」



ぱん、と乾いた音の直後、杙菜の奇声。

「いったぁ・・・今何が・・・」
と、眼を擦りながら額をさする杙菜が眼の前の俺に視線をむけると、彼女の動きが一旦止まる。
杙菜はもっかい目をこすった。夢だとでも思ってるんだろうねえ失礼な。

「・・・え?一馬君・・・?」

俺、黄河一馬の眼の前に映る景色は今こんな感じ。

そして俺は、どう見ても驚いている杙菜に言ってやった。






「よう、おはよう」




杙菜は少しの間呆然としていたが、

やがて目に大粒の涙を浮かべると俺に抱きついてきた。









「・・・良かったのかい?」
「何がだ?」
『灰被り』・・・変城光の問いを、殆ど葉も散った木の上の『紫電』・・・藤堂紫苑は訊き返した。
「わざわざ敵対する相手を強くするような真似しちゃって、さ」
光は一馬の事を『敵対する相手』、と遠回しに表現した上で、質問の内容を明確にした。が。
「愚問だな」
と紫苑は鼻で笑ってからそれをあっさりと言ってのけた。

「折角の宴なんだ。どうせなら楽しくしたいだろ?」
「・・・はあ、全く。そんな理由で敵に塩を送られちゃあ、こっちはたまったもんじゃないよ・・・」
右手を顔に当てながら溜め息をつく光の顔をよく見れば、
紫苑・・・戦闘狂と同じ種の嗤いが口元に浮かんでいた。
そして当の本人、紫色の髪の少年は、







「興味無いな、そんなこと。
 只俺が楽しければ、それでいい」

と言うのであった。






___運命が決断を下す刻は、すぐそこに。『Decision』まで、あと二日。





第十話『嘘吐きシンデレラ』完