紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第零話「戦が残すは爪痕と」#8



高い金属音と共に、砲弾が両断された。

あのヘリが自分達を捨て、勝手に墜落してから早くも5日が過ぎた。

突然こんなところに放り込まれた意味はわからない。
そもそも何のために戦っているのかもわからない。
何のために生きるのか、そんな事さえわからない。

それでも、実験体42号は糸を繰り、紫電を撃ち放つその手を、駆け抜けるその足を止めはしなかった。

四方八方からの弾丸、爆撃。
油断すれば一瞬で蜂の巣か、木端微塵。
それも自分だけじゃない。研究者達の『廃人は出なかった』という言葉を疑いたくなるほどまでに
先程からまるで死を受け入れているかのような、自分と共に此処、硝煙の地獄に放り込まれた同胞たちも。
言えば食事は摂るし、移動も紫色の髪の42号が先導すればついてくるのだが。
別段、この紫色の少年は仲間意識が強い、義理人情に厚いといった類の人間ではない。
だが、それがなんだというのか。
死にたくない、死なせたくないと思うのは人間として普通の事じゃないか?
無論、ろくな道徳は叩き込まれなかった彼がそんな事を考えていたか否かは保証が無いが。
只、さんざ使われた挙句捨てられこんなところで果てるのは彼としては耐え難い事だった、それは間違いないだろう。
彼が銀色の糸を空に煌めかせる度弾丸が弾かれ砲弾が、弾頭が切断され
彼が紫電を撃つ度もくもくと煙を吐いて戦闘機が墜ちていき、戦車が爆音の断末魔を上げる。
しかし突如、強力な閃光と高音。
「・・・・・ッ!閃光弾・・・!」
四方八方あらゆる方角からの攻撃を迎え撃てるよう、感覚を研ぎ澄ましていた42号にこれは響いた。
目が眩み、頭の中を高音が駆け抜ける。
鼻は辺り一面に充満する火薬のにおいで使い物にならない。
南無三、42号は両手を広げ紫電を思い切り全方位に撃ち放つ。
砕け散る鉄屑、巻き上がる砂塵。

しかし次の瞬間、42号の体は強烈な衝撃によって吹き飛ばされた。

「ッ・・・・!」
それが直ぐ近くに落下した砲弾によるものだと気付く猶予さえ無く、空中を舞った体は地面に叩きつけられる。
やっと視力を取り戻しかけてきた42号の視界には、青空、自分の頭のすぐ左には仮面、
その先に他の実験体達と、戦車、戦闘機。



伸ばした手も虚しく、42号は意識を手放した。






「・・・どういうこった」
戦車から、ひらりと一人の男が動かぬ少年達の前に舞い降りた。
紫色の髪の少年の抵抗のお陰で、彼以外は全員無傷。

「やけに敵影が小せえと思ったら、まだ子供じゃねえか・・・!」

戦車から降りた、迷彩服、黒髪三つ編みの男はゴーグルを上げて言った。