紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第八話「不死の龍は断頭台」#5



俺は正面から『ドラゴン・スパイダー』に向かって突っ込む。
すると『ドラゴン・スパイダー』も俺に向かって突撃してくる。
互いの一撃が交差する、その瞬間。

「!?」

『ドラゴン・スパイダー』は体勢を崩した。
そして俺はその一瞬の隙に袈裟切りを叩き込む。
しかし、奴は辛うじて体勢を整え、俺の一撃をいなす。
が、勢い余って床に転ぶ。

「・・・・・」

『ドラゴン・スパイダー』は、自身に起こった突然の不調の正体を理解できないでいるようだ。
そして、その解答を破魔矢がテレパシーで伝える。

「【『超速再生』の能力にも、どうやら毒は効くようだな】」

「・・・野郎・・・さっきの蹴りの時か・・・!」
『ドラゴン・スパイダー』は恨めしげに言う。

そう、つい先程の破魔矢の蹴り、アレと同時に彼は『ドラゴン・スパイダー』に
麻痺性の毒を仕込んだ針を叩き込んだのだ。

「【・・・それにしても普通の人間なら指一本動かす事が出来なくなる程の毒の筈なのだが・・・
  一応流石、と褒めておこうか】」

「見下してんじゃ・・・ねえよ!」
麻痺毒を喰らったとは思えないほどの速度で『ドラゴン・スパイダー』は破魔矢に襲いかかる。

が、その瞬間。



「!?」



『視えない何か』が・・・

「助かったよ、餡子ちゃん。お陰で上手くいった」
「・・・礼には及ばない」

否、隣の部屋から『千里眼』を持つ餡子からの情報を経由して上手く『ドラゴン・スパイダー』を
捕えるように仕掛けられた蜘蔵の糸が、彼の全身に巻き付いた。

「・・・逃げた筈じゃ・・・!」
予想外であることを隠しきれない口調で、『ドラゴン・スパイダー』は言う。

「逃げたふりをして、お前を捕えるチャンスを狙っていたのさ」



「・・・小賢しい!こんなもので俺を捕えられると・・・!」






「まだ終わってねえよ、屑男が」
焔がそう言うと同時に、糸を伝って黒い火炎が『ドラゴン・スパイダー』を包み込む。
「がああああ!?」
衝撃で、『ドラゴン・スパイダー』の龍を模した仮面がふっとぶ。






「熊木さんのぬいぐるみの中から破魔矢君が不意打ちの毒を叩き込み、
 別室へ避難した餡子ちゃんの能力で戦況把握、かつ蜘蔵さんの糸の遠隔操作で対象の捕縛、
 そして焔ちゃんの黒炎でトドメ・・・」

かつ、かつ、と廊下から靴の音が響く。



「作戦、大成功やな」
そう言いながら部屋へ入ってきたのは、坊主頭に縁無し眼鏡の鬼塚星一。

「・・・『大参謀』・・・!」
その再生能力で火傷が既に塞がりつつある『ドラゴン・スパイダー』は、
ぎり、と歯ぎしりをしながら仮面が外れ、露わになったその赤い眼光で星一を睨みつける。

「久しぶりやな・・・実験体58号『不死龍』。

 いや、今は『黒西 龍我(くろにし りゅうが)』と呼んだ方がええかな?」
星一はにやり、と嗤いながら言う。



「・・・ホントに上手い具合に誘き出されやがって・・・!
 
 一人残らず仕留めてやる!」

そう言い、龍我は星一に襲いかかろうとする。が。

「!?」
駆けようとしたその瞬間、再びどさり、と龍我が転倒する。



「無駄よ。私の黒炎は只の炎じゃない。
 浴びせた対象の体力を削る呪いの炎。大人しく羽根をもがれた羽虫のように這いつくばれ」
焔が冷徹に、隻眼で龍我を見下して言う。



「・・・見、下してんじゃねえぞくそがああああ!」
ここまで動きを封じられながらも、ダメージを受けながらも、
龍我は有りっ丈の力を振り絞って焔に襲いかかる。






その怒りの余り見せた無防備を見逃すわけがないだろ。



俺は体勢を低く、風よりも疾く、『村正』の刃を金色に輝く火炎に変えて、龍我の胴体を両断した。

「がっ・・・!」

「隙だらけだよ、馬鹿野郎」



切り口を火炎で焼いて塞ぎ、奴の『超速再生』も封印した。

両足が無いなら、戦えないも一緒。






俺達の勝ちだ。





「・・・成程、見誤りましたね」

「「「「「「!?」」」」」」

張り詰めた水面のように静かな、しかしぞっとするほどの気配。

「これはまた、えらい上客が来たもんやなあ」
星一は顔に笑みを浮かべながら、しかし冷や汗も浮かべながら言う。






・・・彼の背後に、音も無く立っていた緑色の着流しの男に。





「久しぶりやな・・・霊零十六夜!」