紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第十一話「紅水鴉が降らすは血の雨」#3



「『Decision【ディシジョン】』へようこそ」
霊零十六夜が掴んだマイクを通して、奴の低い声がスピーカーから船内に響き渡る。
「本日は私め共『霊零グループ』の主催により、このような催しをさせていただきました次第で。
 各地の『アマチュアトゥルーラー』の皆様、この悪天候の中遠路遥々ようこそおいでまし下さいました。
 主催者一同といたしましてもこれだけ多くの方々にお集まりいただき大変喜ばしく思います」
『霊零グループ』、『アマチュアトゥルーラー』・・・
霊零十六夜はわざとその本質をぼかした名称で、人当たりの良さそうな声色で粛々と言葉を並べていく。
奴は既にクリアを使っているのだろうか、裏トゥルーラー・・・
『アマチュアトゥルーラー』達は野次を飛ばす者も無く視線をテラスの上の霊零十六夜に注いでいる。
「さて、もう事前に世間に出まわった情報でご存知の方が殆どかと思われますが、
 本大会の概要を説明させていただきます」
そう言うと奴は一呼吸置いた。

「本大会は、日本各地の著名アマチュアトゥルーラーをお招きし、
 互いの技術向上と切磋琢磨の為にその技を競っていただき
 それと共にその『頂点』を目指し誇りを賭けて闘うこと、
 その喜びを一人でも多くの方々に知ってもらおうと
 我々霊零グループの全面的な投資と協力により企画され、実行に移されました」
まるで取ってつけたような、裏トゥルーラーには甚だ似合わないような言葉を吐き続ける。
「本大会は大きく分けて予選リーグ1、予選リーグ2、予選リーグ3、
 予選リーグ決勝、本選1、本選2、決勝からなっておりまして、
 この船内で行われる全てで四つの予選リーグに勝ち残られた方々が本選に参加する資格を得、
 その本選で勝ち抜いた方に加え敗者復活戦で見事返り咲いた一名が決勝に参加することができます。

 そして決勝で勝利された方には優勝景品として霊零グループから莫大な金額の賞金が送られます」

会場が、どより、とざわめいた。
霊零組は日本でも三本指に入るクリアマフィア。その表向きは『霊零グループ』、
日本の経済の三分の一を把握しているという怪物企業。
この遊覧船10隻を用意するなどまさに奴らにとっては指一本動かすに等しい。
その企業を束ねる霊零十六夜が『莫大な賞金』というのだから、只事ではない。
何十億、いや、ひょっとしたら何百億。もしかすると何千億。下手をしたら兆。

・・・その中でも紫苑を含め顔色を全く変えなかった数名がいたことも驚きだが。

「・・・そしてこれは本人の『決断』に委ねられますが・・・」

急に、十六夜の声のトーンが落ちた。







「優勝者には更に、彼の『大太法師』と謁見するチャンスが与えられます」






先程よりも更に際立って、会場がどよめく。
「彼に忠誠を誓い、共に日本を、否、世界を裏から統べる足掛かりを手にするか、
 それとも儚い夢を追い、『大太法師』に果敢にも挑むか・・・」

恐らく今の十六夜の『世界を裏から統べる足掛かり』、それがどんな意味を含んでいるのか知っている奴はこの中に半数もいないだろう。
だが、それは何としても阻止したい。



「・・・それを『決断』するのは、誰でしょうかね?」
霊零十六夜は今度こそは本当に、演技無しで楽しそうな声で。



・・・まあ、とは言っても『阻止したい』なんて実は口実だけどね。







目の前のチャンスに目が眩み、俺は胸の高鳴りを抑えることができなかった。



「なんとしてでもこの賭け、勝ち残ってやろうじゃんか」



突然の俺の言葉に、隣にいた杙菜は一瞬驚いたような素振りを見せたが、
すぐに口元ににや、と笑みを浮かべて頷いた。
ああ、きっと俺も同じような顔してたんだろうな、今。



「・・・予選リーグ一回戦は船内各所、指定された場所に別れての『カオストラジェディ』となります。
 ここダンスホール、この下の第二ダンスホール、食堂、船右前部甲板、船左前部甲板、
 船右後部甲板、船左後部甲板、そして船煙突周囲。この八カ所にそれぞれ約500人ずつに分かれてください。
 各所で第一次予選通過人数は4人、つまり一隻の船につき第一次予選通過者は32人です。
 この第一次予選に見事勝ち抜いた方が次の二次予選に進むことができます。

 では、皆さんのご健闘を祈り・・・」







その時一瞬、紫苑がにやり、と嗤ったのが見えた。







「第一回アマチュアトゥルーズ杯『Decision』の開会をここに宣言します!」

霊零が右手を挙げ、高らかに宣言した。





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:第一次予選『カオストラジェディ』:
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