紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第十一話「紅水鴉が降らすは血の雨」#5



眼の前の男が、クリアで巨大化した右腕で放った一撃を避け・・・

「らぁッ!!」

___横に一閃。他の奴諸共、金色色の火炎で薙ぎ払った。




「第一ダンスホール、予選リーグ一回戦終了。予選通過者は『炎馬』『三月兎』『レオン』『ジェット』」

「お疲れ、一馬君!」
アナウンスが鳴るなり、杙菜はこっちへ駆けよってきた。
「杙菜もな」
余裕っぽく返す俺。イッツクール!
事実、余裕であった。単純にだが2分の1ぐらいは俺だけで倒したんじゃなかろうか?
この程度じゃ、紫苑のとこはすぐに終わって・・・。

モニターの方へ、歓声。

一瞬びくっとなる。ガラにもなく。
そしてモニターを見た先にあったのは・・・

「うわ、あの二人すご・・・」




馬鹿な。

「あの紫苑と互角・・・!?」







___船煙突周囲。

白夜の双刃を紫苑の鋼糸が遮る。

ギリギリギリと苛烈な音が両者の間で散るが、二人の表情はあくまで冷やか。
高い金属音と共に、触発。紫苑が後ろに飛び退き距離をとる。
しかし白夜は体勢を崩すことさえなく双刃、右手に持っていた方を紫苑めがけて投げつける。
紫苑が左手を振ると、紫色の閃光が飛ばされた刃を弾く。
空中に刃が舞った瞬間。
紫苑が白夜めがけて駆け出し、黒いコートの裾が翻る。紫色の眼光が流星のように線を引く。
白夜は右手を腰のあたりに構える。すると黒い渦のようなものが彼の掌を中心にとぐろを巻く。
紫苑が左手を振りかぶるのと、その左手が淡い紫色の電光を帯びるのがほぼ同時。
生み出した紫電の槍で白夜を貫こうとする刹那。
紫苑は急遽予定を変更し、自身の左足の付近の地面にその一撃を放つ。
その反動で彼自身が空に放り出されて、コンマ数秒後。
さっきまで紫苑がいたその場所へ、先程白夜が投げた双刃の片割れが凄まじい速度で飛んできた。
あと少しでも判断が遅れていれば、紫苑の左腕は易々と双刃の餌食になっていただろう。
双刃の片割れは吸い込まれるように、白夜の右手の漆黒の渦に。
漆黒の渦を纏った右腕を空中の紫苑にかざす白夜。
甲板の床、船の塗装。それらが剥がれ白夜の右手に収束され吸い込まれていく。
それは紫苑も例外ではなく。
空中で為す術なく彼の左手の黒い渦に誘われる。
白夜が、今度は右腕もかざし。
すると、今度は純白の光が左手を中心に。
陰と陽、闇と光は混じり合い・・・

灰色の光を、創りだした。

塗装、木片、時折鉄屑。
それに触れたそばからそれらは一瞬で、儚く融解していく。
終わりを知らず喰らう光の餌食にになる刹那。
紫苑は煙突周囲下、船の手すりに鋼糸を巻き付かせる。
一直線に吸い込まれていたのが角度を変更し、紫苑は勢い良く再び煙突周囲の黒い鉄に着地する。
そして、灰色の光は弾けた。
再び、駆け出す両者。

紫苑の右手と、白夜の双刃。紫電と白夜光が交差した。

「アンタ、中々やるじゃないか」
「随分と余裕だな」返す白夜。
両者とも言葉にそぐわず、冷やか、かつ口元に笑みを浮かべている。
辺りに閃光が散り、彼らの周囲だけ雪が解けては消える。

電光石火の攻防。

両者が再び距離をとる。
そして紫苑は紫色の電撃の槍を作り出し、白夜は双刃にそれぞれ光と闇を纏わせ・・・

互いが、相手を仕留めんと走り出した。





___ザイツェフと餡子が乗っている船。

「・・・予想外だな」
ザイツェフが冷や汗を頬に伝わせながら言う。





「・・・この船じゃなかったようだな」
血と彼の能力によるものである紅い水の湖に沈んだ、総勢496名の裏トゥルーラー達。
それらを冷然と眺める、季面隼と黒鴉紅。




「あれだけの数をたった一人で、一瞬で全滅させるとはな・・・!」
「・・・予定変更も考えておいた方がよさそうですね」



なんのことはない。
只室内に極めて高い水圧の紅い雨を降らせ、敵をまとめて穿ち、切り裂いただけの話。
彼、黒鴉紅にとっては、ただそれだけの話であった。
元『アームチルドレン』、体に『八尺瓊勾玉』を埋め込まれ尋常じゃない程のクリアの破壊力を手に入れた彼にとっては。



「第一ダンスホール、予選リーグ一回戦終了。予選通過者は『死の商人』『化け狐』『季節』『紅水』」





___再び、一馬達がいる船の煙突周囲。

紫電の槍と、光と闇の双刃。




それをクナイと小太刀で遮っているのは赤の雅な紋様が刻まれたコート、スーツ、靴を着用した、黒いポニーテールの女性。




「・・・そこまでだ、二人共」
女は冷静に、無機質に言う。



誰もがその光景を疑った。
彼らが本気で放ったかどうかはわからないにせよ、あの瞬間の一撃はまともに喰らえば簡単に戦闘不能になる程の威力。
それだけは確か。現に彼らの足元は、見えない『念動力防壁』に包まれ防御されている筈だというのに
いとも簡単に、抉れている。



・・・その二人の攻撃を同時に喰らって、無傷。



「・・・もうここで勝ち残っているのはお前達二人だけだ。これ以上続ける意義は、無い」
淡々と言い放つ女。
「人からお楽しみを奪おうってのか?」
紫苑が不機嫌そうに言った直後に。
「試合終了と断定された直後も戦闘を続行することは当大会の規約に違反します。
 これ以上続けた場合は失格、敗者復活戦を含めた残りの全競技に参加する資格を失うことに・・・」
アナウンスが鳴るスピーカーを、恨めしげに睨む紫苑。
そしてコートの襟を直し、戦闘の構えを解いた。
白夜も双刃を腰の鞘に納めた。
「・・・わかればいい」
素早く武器を納める女は、髪を風に弄ばせながらそこを後にしようとする。
「待て」
と、その時白夜が女を呼びとめた。
「・・・お前は、何者だ?」




「私か? 私は……そうだな、『黒夜叉』とでも言っておくか。」
真紅の眼光で此方を一瞥しそう言うと、『黒夜叉』はさっさと雪を踏み行ってしまった。




「・・・悪いが、今回の勝負はお預けだ」
「・・・そいつは残念だな」
白夜の言葉に対し、ククク、と笑って返す紫苑。





「だが、思ったよりは楽しそうで何よりだ」
悪魔のような笑みを浮かべ、藤堂紫苑は曇天を見上げた。
潮風が黒いコートを駆け抜け、雪がコートのフードに積り始めていた。






「船煙突周囲、予選リーグ一回戦終了。予選通過者は『紫電』『白夜光』」