紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第七話「満月の夜の新月は破滅の足音」#9
___某病院4階、412号室。
淡い水色の髪の少女・・・小山餡子は、満月に照らし出された街並みを眺めていた。
いや、正確には何も見ていなかったのかもしれない。どうやら何か考え事をしているようだ。
不意に、コンコン、とドアをノックする音。
「餡子ちゃん、入るよ・・・?」
ドアを開け入ってきたのは杙菜だった。
「・・・餡子ちゃん、体の具合はどう?」
杙菜は訊く。
「・・・大したことは、ない」
餡子は静かに言う。
「・・・ごめんね、あの時私が何もしなかったから、こんな目に遭わせちゃって・・・。
私、もっと強くなって、皆を守れるようになるから・・・」
杙菜は目を伏せながら言う。
「・・・・・」
餡子は無言のまま、外を眺めている。
「・・・あの・・・本当にごめんね・・・?」
「・・・貴女が謝る必要はない」
「え?」
「・・・私も、何もできなかったから。
・・・だから、私も強くなる」
餡子は杙菜を見据えて言った。
「・・・『親友』を守りたいから」
___同4階、413号室。
「で、体調はどうなんすか?」
俺は蜘蔵に訊く。
「最高にハイ・・・という程でもないがまあ悪くは無いよ。
あと数日後には退院できるそうだ」
「数日後、ねえ」
「どうかしたかい?」
「・・・何でも、数日以内に『大太法師』の刺客がここに来るとか云々」
「それは、あの情報屋の情報かい?」
「ええ、まあ。それとアイツ・・・
なんでも、『大太法師』の手下らしいっすよ」
「・・・その話、今詳しく聴かせてくれ」
___同病院、屋上。
近代を舞台にした探偵小説の主人公が着ていそうなコートを羽織った男と、
日本刀を手に携えた少年は夜風を浴び、満月の明かりに照らし出された街を眺めていた。
「ここの夜は良いね。無駄な光が無くて、静かだ」
コートを羽織った男・・・セルシオは言う。
「・・・君もそうは思わないかい?霊零 十六夜(みれい いざよい)」
セルシオは自身の背後、
気配も無くいつの間にかそこにいた薄緑色の着流しを着た黒髪の男に言った。
男の眼は、前髪に隠されて見えない。艶やかな髪は月明かりに照らし出され、夜風に弄ばれている。
___同4階、413号室。
「・・・ふむ、結構情報が集まったね」
蜘蔵は言う。
「ええまあ。けどまずは数日後、あるいはその前。
奴の言う『右腕の刺客』の奇襲に備えようかと思います。
・・・上手くいけば、『大太法師』に一気に近づける」
「・・・・・」
蜘蔵は何かを考え込んでいる。
「・・・? どうしました?」
「・・・あの情報屋、セルシオ達は自らが『大太法師』側の人間だと言ったんだな?」
「ハイ」
「・・・さっき俺は『セルシオの心にはプロテクトがかけられている可能性がある』と言ったね?」
「ハイ。恐らく奴の言う『右腕』とやらがプロテクトをかけたんだと」
恐らく、『大太法師』の手下全員にかけられているだろう。
「・・・・・」
「・・・?」
「実は、杙菜ちゃんの心も読むことができない」
「!?」
え・・・!?
ちょっとおい・・・て事は・・・。
「てことは・・・彼女の心にもプロテクトがかけられていると・・・?」
「・・・その可能性は高いな」
「つまり・・・アイツは『大太法師』側の人間ってことか・・・!?」
「・・・無関係であることを祈るしかないな」
___同病院、屋上。
「・・・『彼女』は傷つけていないでしょうね?」
黒髪の男、十六夜はセルシオに訊く。
「無論。そんなことしたら君に怒られてしまうからね」
「・・・正確にはあの人がですが」
「まあね」
「・・・ところで、情報は上手く流しましたか?」
「ばっちりさ。彼らが一網打尽になるのも時間の問題だろうね。
・・・さて、僕はもう行くよ。次はできればもっとスカッとする指令が良いな。
じゃあ、また。・・・『大太法師の右腕』さん」
そう言うと、セルシオは一陣の風と共に夜の闇へと消えた。
「・・・刻々と時は近づいている・・・
『セカンドクリアズウォー』に」
十六夜が誰へともなくそう言うと、次の瞬間彼は音も無く何処かへと消え去った。
残ったのは、夜のしじまと満月の淡い光。
第七話・完

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