紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第一話「夜蜘蛛には気をつけろ」#5



___今、何が起きた!?



スタジアムの中央、目の前で起きたことにも関わらず、俺は状況をうまく把握できなかった。

それは「彼」以外のここにいる全員も同じようだが。



気味が悪いほど静まりかえる観衆。
苦痛の叫びを上げる岩猿。
岩猿の右腕は、肘から先が、無い。
代わりに噴水のように、血が溢れ出す。

そして岩猿の叫びを冷然と眺める「彼」___紫電。


「・・・降参するか?」
「誰がそんな真似するかよ・・・ぶっ殺してやる」
唸るようにそう言った岩猿の目は憎悪と憤怒で満ちていた。
驚くべきは、辺りの岩石が岩猿の腕の切断面に集約していき、新しい腕を形成した事。

「ぶっ殺してやる!」
岩猿がそう言うのと同時に幾多もの岩石が紫電に襲いかかる。
だが、体を反り、捻り、伏せ、跳び、紫電はその全てを紙一重でかわす。が、
気付けば紫電の周りは岩に囲まれていた。
逃げ場の無い紫電に岩猿の渾身の一撃が炸裂する寸前。





『何か』を握った紫電の手が横一文字に空を切るのと同時に先程の紫色の閃光が空を奔り、

「ぐあああ!」
彼を包囲する岩はバターのように切断され、岩猿は全身を切り刻まれ倒れた。





倒れた岩猿に、紫電は静かに言い放つ。

「もう一度聞く。降参するか?」