紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第零話「戦が残すは爪痕と」#4
彼ら、『アームチルドレン』に名前は無い。強いて言うなら実験番号が彼ら100人の少年少女の名前だ。
先程弱冠約11歳にして、恐るべき戦闘能力で敵機を撃墜させてきた紫の髪の少年の番号は42号。
先週兵器を破壊することなく、それを扱う敵兵だけを皆殺しにしてきた黒髪の少女の番号は54号。
先週上記の少女の殺戮を手伝った、突然現れては消える事を得意とする黒髪の少女の番号は55号。
昨日日本領土の島に来た敵の兵士達を、全身撃たれながらも全滅させた銀髪の少年の番号は58号。
某日太平洋沖に攻めてきた敵艦隊を、鉄屑を操り破壊の限り破壊した白金髪の少年の番号は66号。
昨夜日本本土に上陸した敵兵を、影を操り一人残らず切り裂いた白金色の髪の少女の番号は67号。
先日太平洋側から襲撃してきた戦艦を、渦潮を起こして沈めてしまった黒髪の少年の番号は74号。
今朝太平洋側上空から攻めてきた敵の飛行編隊を、風を操り墜落させた茶髪の少年の番号は89号。
今朝上記の茶髪の少年と共に、風を操り敵機を落とし弾丸を受け流した黒髪の少年の番号は90号。
上記の九名は一切の娯楽も許されず、只敵を殲滅させることのみを叩き込まれてきた
『アームチルドレン』100名の中でも特に戦闘力の高い九名である。
そう、彼らは生まれ落ち、物心がつく前から英才教育を受け、戦闘訓練を受け、育てられてきた。
親の名も顔も、自身の本当の名前さえも知る余地は無い。
或いは名付けられる前に捨てられたか、拾われたか。
いずれにせよ黒い衣服を身に纏う彼ら『アームチルドレン』・・・
『兵器としての子供達』は戦う事しか知らないのだ。
殺さなければ殺される。油断すれば殺される。役に立たなければ殺される。生きなければ殺される。
死にたくなければ、前に進むしかないのだ。尤も、人間らしい道徳を叩き込まれてこなかった彼らに
『死にたくない』などという感情があるか否かは定かではないが。
それでも生きようとするのは人間としての本能が作用したからだろうか。
・・・そう、人間としての本能が残っていたのだ。
もし仮に、彼らにその本能の欠片さえもなければ。
もし仮に、彼らが完全に兵器で在ったならば。
あんな悲劇は起こらなかったかもしれないのに。
「42号」
黒髪黒眼の少年が、施設の無機質な屋根の上に座り、どこか遠くを見据えている少年を呼ぶ。
「42号。先生が呼んでる」
黒髪の少年が呼ぶ声にも応えず、紫色の髪の少年は尚も遠くを見続ける。
「・・・なあ、74号」
不意に、紫色の髪の少年・・・42号が言う。
「・・・俺達って、何の為に戦っているんだろうな?」
空は青く、風は透き通る。白く千切れた雲の下、後の蜘蛛は黄昏れる。

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