紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第三話「季節は天上天下唯我独尊」#6



「何で降参しやがった」
怪訝な顔で隼は紅に言う。

「・・・降参しなかったら、お前の首は飛んでた」
紅は静かに隼に言った。



隼ははぁ、と溜め息をついてから頭を掻きながら言う。

「確かにあいつの言った通りだよ、お前は甘すぎる」
「・・・・・」



あの後結局紅は降参し、紫苑に『グレーテル』に関する情報を話した。

『グレーテル』は見た目16歳、そのくせとんでもない殺気を放っていること、
身の丈を超える大きな大剣を軽々と扱っていたこと。
そして、彼女の能力、次に行くであろう場所。



「・・・まあ、いいさ」

不意に隼は言う。




「標的が一人増えただけだ。
  籐堂紫苑・・・いや、『紫電』・・・

  この借りは必ず返してやる」

隼の顔に浮かんだ「嗤い」は、仮面を着けていれば「憎悪」として表れていただろう。








___隼&紅のいた廃ビルの近く。





紫色の髪の少年、紫苑は『何か』を蹴り空中を走っていた。
『パンドラ』があった場所に向かって。
紅の情報から紫苑が割り出した『グレーテル』の次の居場所は、『パンドラ』があった場所の付近。

その理由のまず一つ目は、彼女の能力。
紅の情報によれば、『グレーテル』の能力は「自身とその周囲の影の操作」。
なんでも、影で相手を切り裂き攻撃するらしい。
殺人の骨頂ともいえる恐るべき能力だが、移動手段に使えるとは考えにくい。
二つ目は、彼女の格好・得物からして公共の交通手段を利用することはありえないから。
だって、白金の髪、薄い緋色の目、首に赤いリボン、黒いワンピースまでならいいとしよう。

裸足に包帯、そしてでっかい剣を担いでいるんだよ?



残った可能性は「仲間による何らかの移動手段」だが、紫苑はそれもないと判断した。

その理由は、





「・・・前の俺にそっくりの眼をしてやがった」





紫苑は『パンドラ』跡地に向かって風を切り一直線に空を駆けていった。






___『パンドラ』跡地付近。



・・・もうそろそろ日が暮れるな。

にしても『パンドラ』が潰されるたぁね。
あーあ、またどこかいい裏店探さなきゃな。

そんなことを考えながら俺、黄河一馬はぶらりと街をうろつく。


・・・そういや紫苑どこ行ったんだろ?
アレかな?『パンドラ』を潰すほどの強者の『グレーテル』を探してるとか?



・・・あの戦闘狂ならありうるし。



とりあえず『グレーテル』ってのがどんな奴かは気になるけど、どうせ会うこともないだろう・・・。



とか考えながら路地に入ると、






白金の髪、黒いワンピース、手には不似合いな大剣を携えた少女がいた。






少女は静かに、しかし殺気をむき出しにして言う。

「・・・お前、裏トゥルーラーだな?」



「・・・こんな美人に話しかけられるとは嬉しいね
  ・・・君、名前は何て言うんだ?」

そう言った俺の額からは汗が一筋。これが冷や汗ってやつなんだろう。






「・・・コードネーム『グレーテル』。それ以上を教える必要は無い」

             第三話・完