紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第九話「星の力は平和を求める」#4
「・・・何やお前は?」
星一は男に問う。
「出会っていきなり第一声がそれ?酷いですね。それに、名乗るほどの者ではありません」
男は淡々と言う。
「・・・邪魔をするなら、お前も公務執行妨害で逮捕するで・・・」
「喋らなくて良いから、<黙って這いつくばってろよ>」
男がそう言うと同時に、星一は床に突っ伏す。見えない何かに叩き付けられたように。
「!?」
それと同時に、十六夜と龍我を縛っていた重力の呪縛も解ける。
「君達もそこの人たちも、勝手に動かれて勝手に死なれたら困るんだよ。こっちの計画が台無しになる」
男は言う。
星一は男を睨みつける。が、体は相変わらず突っ伏している。動けないようだ。
何かを言おうとしているようだが、声も出ないらしい。
「・・・貴方、一体何者なの・・・?」
杙菜が明らかに警戒した様子で言う。
十六夜と龍我も同様に男を警戒している。
「さっきも言ったよね?名乗るほどの者じゃないって。
さ、十六夜さんと・・・龍我さんですよね?
今日のところは大人しく帰ってくれませんか?ほら、もうすっかり日も暮れちゃってますよ」
「いいえ、まだです。完全にこの人たちの息の根を止めなくてはなりませんから。
邪魔をするというのなら、貴方も諸共・・・」
「・・・もう一度だけ、言いますよ?今日のところは<帰ってください>」
男は冷静に言い放った。
「・・・・・」
すると十六夜と龍我達は星一達に背を向けると、窓があった場所から飛び降り、夜の闇へと消えていった。
「え・・・?」
杙菜は言葉を失う。
その様子を見て、男はククク、と笑って言う。
「聞き分けの良い人たちで助かったよ」
その時、ドタドタと騒がしい音がする。
「・・・おっと、警察かな?
これ以上ここに居ると面倒なことになりそうだね。じゃあ、俺はこれで」
そう言うと男もまた壊れた窓の方へ歩いていき、
「さて、<飛ぶとしようか>」
と言って空を踏み出し、そのまま歩いていった。
「鬼塚警視正!」
警官隊を引き連れ、中年の男が病室へ駈け込んで来た。
「鬼塚警視正!大丈夫ですか!?」
中年の男は汗を顔に浮かべて言う。
「おお、桂。来たんか」
「ザイツェフ・エストランデルが着流しの男に瀕死の重傷を負わされたと病院から通報が入りましてね」
「そうか。ワイは大丈夫や。それよりもそこに倒れている奴等の手当ての手配を。
それとそこの窓からも一人ふっ飛ばされた奴がおる」
「ハッ!了解しました!」
「警官隊は何人かこの病院の警備、後の奴等は霊零十六夜、黒西龍我、
それから『黒いコートを着込み、黒いフードを被り猫を模した仮面を着け箒を持った男』
以上の三名の捜索を。至急や」
「了解しました!おい原口、医者を呼んで来い、至急にだ!
それと一階にも医者を回すように伝えてくれ!
警官隊そこの五名はこの部屋を警護!十名は連絡を取り合い各所の配置につき警備に回れ!
他の者は俺の指示に従い犯人の捜索!以上!」
桂と呼ばれた中年刑事は迅速な指示を出し、十名ほどの警官隊達と外へ出て行った。
「・・・何者やったんや、あの男は・・・!」
星一はぎり、と歯ぎしりをしながら呟く。
そして、傷つき倒れた焔の方を、破魔矢の方を、餡子の方を、蜘蔵の方を、杙菜の方を見る。
・・・杙菜は、ただ泣いていた。
起きてよ、ねえ一馬君。そのようなことを呟きながら。
ぼろぼろと、涙を零し泣いていた。
仰向けに倒れている一馬の顔には雫が零れ落ちるばかりで、
彼の眼は光を失い、只虚空を眺めているばかりだった。
「・・・畜生!!」
警官隊と医者があわただしく動き回るその部屋の中、星一は床を殴り、誰ともなく怒鳴った。
皮肉か、空には星が瞬いていた。

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