紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第一話「夜蜘蛛には気をつけろ」#3



「俺と戦りてえとかいう命知らずのガキはおめえか?」
「命知らずかどうか、試してみろよ」

このいかにもアブなそうな巨体の男こそが、この店のショップヘッド。通り名「岩猿」。
仮面のモチーフは「ゴリラ」。ごついわアホ。
こいつの戦い方は把握している。
岩を操り逃げ場をなくし、岩を繰り出し敵を捉え、トドメは必ず自分の拳で。
だったら、岩を使われる前に懐へ飛び込んで。
使う瞬間を叩けば良い。

速攻で攻めて、速攻で決める。

俺もちょいとは知れた名だ。十分いける。

「死んでも文句言うなよ?ガキ」
そう言い、岩猿は岩石を宙に浮かせこちらめがけて放つ。
剣でいなして、銃で弾く。
岩猿が繰り出してくる岩の数々の軌道を変え、その合間をくぐり、岩猿との距離を詰める。
敵の武器は無い、剣戟を叩きこめば俺の勝ち。
一瞬、一直線に遮蔽物の無い空白の道を見た。
・・・いける!

「・・・刮目しやがれッ!」
奴をめがけて金色に輝く火炎を放つ。

「はっ・・・こんなもん効くか!」

バーカ、ホントに刮目してどうすんだ。
目眩ましだよ。
この火炎の道筋は俺だけが知っている。
そして炎の中から奴の目の前へ飛び出してやる。



おもしれ。おどろいてやがる。


火炎を片手剣に纏わせ、
「らあああああ!」
岩猿に渾身の火炎の斬撃を叩き込む。
岩猿を黄色い火炎が包み込む。
スタジアムの中が歓声で沸く。

___勝った!俺はそう確信した。







「なめてんじゃねえぞ、ガキが」
「!?」

バカな。
今のを受けて立っているなんて。

「俺の能力、教えてやろうか
  『自分が触れたものを岩石に変える』だ」
岩石の顔面、岩石の腕、岩石の脚、岩石の巨体。

簡潔に言ってしまえば、燃え盛る火炎の中から出てきた奴は岩石人間だった。

迂闊だった。まさか能力を読み間違えるなんて。
いや違う、奴は今まで一度もここでこの姿になったことは無い。

読み間違えさせたのだ。俺のような奴を仕留めるために。




「さぁて、そろそろ死ね」
仮面越しでも奴がニヤリと笑っているのがわかった。



奴が最早只の鈍器と化した両手を振りまわしてくる。

「くっ・・・!」
まずい、相性が悪すぎる。
ハンドガンじゃ相手の攻撃を弾くのが精一杯、
よく漫画とかで剣で簡単に斬り裂いているが、生憎俺は剣豪じゃない。つまり無理。
頼みの綱の火炎も岩石相手じゃ通らない。


だが、死ぬのはもちろん、降参するわけにもいかない。



俺のプライドが許さない。



何か手段はある筈だ。俺は必死で考えながら岩猿の攻撃をかわし続ける。

何か手段は無いか?何か、何か___





不意に背中に何かがぶつかる感覚と、その音。

「!?」

気付けば、周りは岩。
しまった。奴自身の攻撃に気を取られている間に___

「がぁッ!」
岩石の手が俺の首を掴む。

「飽きたな。降参しな」
「は・・・誰が!」

俺は必死で抜け出そうと足掻く。
しかし、俺の意思とは関係なく岩石が締めつけてくる。
どうしようもない悔しさと、気が遠くなる感覚が入り交じった刹那・・・




「滑稽なもんだな」



歓声に包まれるスタジアムは、その声で一気に静まった。

俺は声の主の方を向く。








声の主は、俺と同じくらいの年の、紫色の髪のガキ。