紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第零話「戦が残すは爪痕と」#6



『アームチルドレン計画』。
それは、『国立魔術総合研究所・ひかり』で極秘裏に行われていた実験の総称である。

世界各国日本各地の戦争孤児を研究所に集め、柔軟性と感受性の高い幼少期より
戦闘に関する事のみを叩き込み、より優秀な兵士を育成する計画。
クリア・・・当時の名称では魔術と科学による徹底した管理で育てられた少年少女は、
平和を既に知ってしまっていた一般の兵士達より遥かに屈強に、かつ冷徹な兵士・・・
否、兵器となった。

ここまでは計画は順調であった。
戦況は見る見るうちに日本軍が有利になり、世界を知らぬ兵器達はあくまで従順。

しかしある日、研究者達は計画の最終段階に踏み入ると共に大きな過ちを犯した。



叫び声、そして静寂。
「コイツも失敗か・・・」
「次、27号」
暫くの静寂の後、また叫び声、そしてまた静寂。

暗く広い研究室、淡く青い機材が足元を照らしている。
その研究室の中央にある一際大きい機械。
機械の机のような部分の上には腕をとめるようなベルト。

そしてその奥に、緋色に淡く発光するものがひとつ。
大きさは子供の頭程度。形は勾玉そのもの。

「見れば見るほど綺麗だな」
白衣の男、研究者であろう男が言う。
「迂闊に触るなよ、俺達大人じゃあっという間に精神を破壊されて廃人だ」
別の研究者が言った。
「わかってるさ。さ、次だ次。41号を呼べ」

・・・辺りには、幾人かの研究者。
部屋の隅には、40人の虚ろな眼をした子供達が折り重なるように倒れている。






42号は、疑問を抱かざるを得なかった。

部屋の隅には己が知っている者達が転がっていて、
先程叫び声を上げた41号もその中に。

「君は100人の中でも飛びぬけて優秀だからね、期待しているよ、42号」
研究員の男が言う。
「・・・その赤い勾玉は?」
42号は冷静に、探るようにして尋ねた。
「ああ、これかい?これは・・・






 『八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』っていうんだ」






「『八尺瓊勾玉』・・・?」
「そう。『ユートパス一世』って君、習ったよね?
 今我が日本軍をはじめとした連合軍が戦っている国『ユートピア』の初代国王と言われている人物。
 そいつが残した遺産の一つが、コレさ」
研究員は言いながら、42号の腕を机にくくりつける。
「なんでもそいつの『ハート』の一部を封印してあるらしいんだけど、その力がとてつもなく強大でね。
 だけど、その力を引き出す為には媒体が必要なんだ」
「媒体・・・」
「そう、人間という媒体さ。
 しかしこの強大な力そのものが厄介でね・・・。
 上手く人間と馴染めば最強に限りなく近い力が得られるんだけど、
 多くの場合はその人間の精神と反発して、そして破壊してしまうんだ。
 適合する為には、反発しないほどに精神が不安定で、柔軟で、弱くなくちゃいけない。
 そう、例えるなら・・・精神の完成していない子供のように、ね。

 いいかい?強い心じゃダメだよ?この赤くて素敵な勾玉に全部食べられちゃうからね」



42号は、全て理解した。
この施設に何故自分を含め多くの未成年が集められているのか。
何故戦闘訓練を受けているのか。
何故ここに閉じ込められていたのか。

それは、この『八尺瓊勾玉』と適合した子供を、最強の兵器を造る為。

そして精神が普通、あるいはそれより強い奴は『八尺瓊勾玉』に精神を破壊され、廃人になる。



しかし、気がつくのが遅すぎた。

「ぐっ・・・!」
固定された自分の右腕、手の先に緋色に光る『八尺瓊勾玉』が触れる。
「うっ・・・ああああああああっ!」
42号が叫ぶと同時に、『八尺瓊勾玉』の光が更に赤く輝く。

この閉鎖された状況下で自分の存在意義を問うほど強い精神と、
『八尺瓊勾玉』が反発しているのだ。

「コイツも失敗か・・・」
その様子を見て、研究員の一人が呟く。
その研究員だけではない。其処に居た精神を破壊されていない全員が、
この紫色の髪の少年の終焉を確信していた。






その瞬間、ピシ、と『八尺瓊勾玉』にヒビが。
「え・・・?」
研究員の一人が、思わず声を漏らす。
「ああああああッ!」
42号は尚も叫ぶ。
が、その叫びはどこか先程と違う。

「『八尺瓊勾玉』に・・・ヒビが・・・!?」
「ま・・・さか・・・!」



研究員たちは、42号が周囲の実験体達よりも精神が遥かに発達している事を知っていた。
研究員たちは、42号が常に考えて行動している事を知っていた。
何をすべきか、何ができるか、どうやったら更に強くなれるか、どうやったら効率よく強くなれるか、
何を優先すべきか、何を捨て去るべきか、自分は何なのか、周りは何なのか。
研究員たちは、その精神に裏打ちされた極めて高い実力、戦闘のセンス、ポテンシャルを知っていた。

・・・研究員たちは、その『悪魔じみた精神力』を知っていた。



「まさか・・・42号の精神力が高すぎて逆に『八尺瓊勾玉』が・・・!」



「うああああッ!」



42号が叫んだ刹那、辺りに一際明るい赤い閃光。










「やりやがった・・・」

淡く青く床が機材に照らし出された実験室、呆然とする研究者たち、
右腕を固定されたまま肩で大きく息をする42号。

そして、緋色の破片になり果てた『八尺瓊勾玉』。






42号の強すぎる精神力は、『八尺瓊勾玉』と正面から反発し、
そして壊されるどころか逆に打ち砕いてしまったのだった。



42号は、紫の髪の少年は『完全な失敗作』となったのだった。