紫電スパイダー  紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作



第十二話「玩具の王が売るは悪夢」#4



白夜光が漆黒の渦を纏った右腕を振り上げる。そして、シャンデリアが___






「上に十二度、右に六十四度に右手の拳銃にて狙撃」

___別の船、食堂。

「上に二十一度右に七十度に右手の拳銃にて追撃。
 下にに五度左に九十二度に左手の散弾銃にて射撃」
座常にザイツェフの背後に回り込む餡子が『千里眼』を駆使した指示を、ザイツェフが寸分の狂い無く遂行する。
しかし敵は空中を床の上を自由自在に現れては消え、消えては現れる。その度に半径二メートルを巻き添えにしながら。
「散弾銃を放棄、左手にサブマシンガンを用意し左に百八度左から右へ傾斜二十五度の直線上を連射」

瞬間、真紅の水の砲弾が二人をめがけて襲いかかる。

「右手の拳銃を放棄。リボルバー『キリストの嘆き』にて正面零度敵のクリアを迎撃」

ひゅ、と軽く息を吸い込み、ザイツェフは引き金を引く。
迸る疾風と轟音とともに、紅い水砲はまるで見えないガラスの板に直撃したようにはじけた。



「へぇ、こっちがターゲットを狙ってクリアを発動する瞬間に狙撃、
 再びターゲットを狙うと見せかけて本体を攻撃する事もあっさり看破、か」
「・・・中々やるようだ・・・」



銀髪の男と、黒い髪に深紅のオッドアイの少年、隼と紅はそう言った。
ザイツェフと餡子は無言のまま相手の二人組を見据える。

「前菜には丁度良いじゃねえか!」

隼が長刀を掴み直して駆け出し、紅も幾つものナイフを懐から取り出し走り出す。
ザイツェフは『キリストの嘆き』を構え直し、餡子は身構えた。



・・・そして、このとき誰も気付いていなかった。
クマのキーホルダーによる斗夢と破魔矢からの通信が、先程から完全に途絶えてしまっている事に。



「うーん、これ毒針だ。危なかったね千兎ちゃん」
「大丈夫だよ霞夢ちゃん、なんてったってあたしたちは無敵なんだから☆」

___別の船、食堂。

黒髪のポニーテール、青紫のショートヘアー。二人の少女はまるで場違いなくらいに明るく会話している。
黒髪ポニーテールの千兎と呼ばれた少女は、頭に黒い猫耳のカチューシャを着けていて、服装はゴシックロリータ。
青紫のショートヘアーの霞夢と呼ばれた少女は頭に星の飾りのカチューシャ、服装はどこかの制服のようなものを着ている。



・・・千兎と呼ばれた少女は血の付着した鎌を担いでいて、彼女らの背後には背中を切り裂かれ血だまりの中に沈む斗夢と破魔矢。



「じゃあ、残りのターゲット壊しちゃおっか☆」
零薙 千兎(ぜろなぎ ちと)は、樋之津 霞夢(ひのつ かすむ)に向かって、無邪気にそう言った。





___俺達が乗っている船では白夜光が漆黒を纏った右腕を振り上げ、そして、シャンデリアが・・・



落ちてこなかった。



「・・・馬鹿な」
それどころかシャンデリアは、まるで時間が止まったように揺れもしない。
眼を見開き、驚愕する白夜光。
その場に居合わせた一同も無論。

その中、ククク・・・と嗤っていたのは只一人、藤堂紫苑。

「・・・何をした」
「さて、何をしたんだろうな?」
白夜光は紫苑を睨めつけ、低く言い放つ。
紫苑は仮面を外し、口角を上げる。
そして俺は、考えを巡らせていた。

・・・白夜光の能力は『光』と『闇』。どちらも空中戦を挑むには分が悪い。
しかしそれでも紫苑は頑なに空中からの奇襲を続けた。鋼糸を使って。
・・・一回戦では電撃をメインに戦い、この勝負の最初にもいきなり一撃放ったのに、
敢えて鋼糸を主に扱い、わざと不利な戦い、互角を演じて見せた。
・・・つまり今までの戦闘はフェイクで、紫苑は、最初から・・・



「・・・お前最初から、鋼糸でシャンデリアを固定しにかかっていたのか・・・!」
「That's right」
白夜光の方が一瞬早く、その結論に辿り着いた。



つまり・・・
紫苑は最初から、本当に最初から相手の何手も先に回っていたのだ。



「チッ・・・!」
白夜光が自身の周囲に幾つも閃光の球体を現し、足元から漆黒の渦を発生させ、紫苑の方へと駆ける。
が、もう遅い。





「眼の前の獲物を舐めすぎたな、白夜を照らす月。・・・俺の勝ちだ」

紫苑が左手を振り下ろす。
シャンデリアが砕け散り、綺羅綺羅と硝子の雨が降り注ぎ、四方に光を反射した。



「予選リーグ二回戦二戦目、勝者『紫電』」