紫電スパイダー 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE /作

第十二話「玩具の王が売るは悪夢」#3
___一馬達が乗っている船の食堂。
「・・・微温いな」
その中央では、同時に一瞬で食堂にある十八枚の絵画を全て破壊した女、
・・・紅 冷嘉(くれない れいか)、コードネーム『黒夜叉』が佇んでいた。
「予選リーグ二回戦一戦目、勝者『黒夜叉』。尚、同時に全てのターゲットが破壊された為通過者は一名のみ」
アナウンスが鳴る。
「・・・どういう化け物だよ・・・!」
相手に傷一つ負わせる事無く勝負を決した『黒夜叉』を前に、俺は思わず言葉を零してしまった。
だが、これではっきりした。
この『ファースト』、何よりもターゲットを破壊することに専念すべきだ。
そうとなれば俺と杙菜のクリアはこの勝負相当有利になる。
「俺は火炎の弾丸を撃ち放ち、杙菜は不可視の刃を放てばいい。そうすれば一瞬で決着は着く。
・・・とか考えているんだろ?」
「ッ!?」
隣に居た紫苑の言葉は、一言一句間違う事無くそうだった。
まさかまた電気信号操作で思考を読んで・・・!?
「そんな事しなくてもわかるさ」
ククク、と笑う紫苑。
「・・・一馬、よく見ておけ」
紫苑は言った。
「これが本物の裏トゥルーズだ」
本物の裏トゥルーズ・・・?
その意味を、俺は理解できなかった。そもそも、偽物の裏トゥルーズとは何だ?
何よりこれはポイントルール。裏トゥルーズとは呼べない。
・・・どういう意図があるんだ・・?
『ターゲットはシャンデリア。小シャンデリアが八つ、大シャンデリアが四つ。
大小問わず先にシャンデリアを七つ破壊した方の勝利です。
尚、参加人数が二人の為、勝ち残るのはどちらか一人となります』
「・・・悪いが、直ぐに勝たせて貰うぞ。・・・紫の」
「それはどうだか」
白夜光の科白に対し、ふ、と笑う紫苑。
・・・この勝負、紫苑が不利だ。
白夜光の能力は、多分『重力操作』と『閃光爆破』、『の両方』。
つまり、白夜光が重力操作を発動した瞬間に、シャンデリアは白夜光の方へ引き寄せられて勝負は決する。
白夜光の元へ届かなくても、天井から引き千切られた時点で決定。
・・・紫苑が勝つには、それより早くシャンデリアを破壊しなければ・・・。
『予選リーグ二回戦二戦目・・・開始!』
そして、勝負が始まった。
案の定、白夜光は右手を差し出し、闇を纏わせ・・・重力操作を発動しようとする。
その手に、次の瞬間紫色の電光が炸裂した。
「ッ!?」
闇がはじけて、白夜光は手を押さえる。
「・・・そう簡単に終わったらつまらないだろ?」
紫苑は口角を上げ、紫色の六眼が覘く漆黒の仮面を着ける。
・・・そうか。
そうだ、これは裏トゥルーズ。
『普通のトゥルーズ』ならともかく、裏トゥルーズならば相手自身を攻撃しても反則にならない。
紫苑の一撃で、この状況に対する考え方が大きく変わった。
迂闊にターゲットを狙いに行けば、即座に戦闘不能。
・・・しかし。
「これが『本当の裏トゥルーズ』ってヤツなのか・・・?」
「・・・ッ、上等だ!」
白夜光は双刃の柄と柄を併せて、繋ぎ・・・
柄の両端に刃のある武器、両剣を作った。
自身の足元を爆発させて、その勢いで紫苑に斬りかかる。
紫苑は鋼糸を使い空中へ跳ぶ。
白夜光の両剣が床に突き刺さると、黒い渦と共にその周囲の床が不自然に減り込んだ。
「ならば望み通り、まずはお前を仕留めよう!」
空中の紫苑の方を向き、白夜光は左手をかざす。
光弾が放たれ、紫苑は鋼糸を巧みに操り移動しそれをかわして、天井を光弾が穿つ。
左手で鋼糸を繰り、右脚に紫電を纏わせ白夜光の方を向き直した紫苑。
鋼糸に自身の体重を預けたことによる遠心力によって大きく弧を描きながら白夜光の元へと飛んでいく。
紫苑の蹴りを迎え撃たんと両剣を振りかぶる白夜光。
その刃が紫苑の脚を捉える刹那、紫苑は両剣を足場にして再び空中に跳ぶ。
天井に足を付いて、思い切り天井を蹴る。
白夜光は身を退き紫苑の蹴りを避ける。紫電を纏った右脚が床を破壊した。
白夜光が一歩大きく踏み込む。
白夜光の両剣の一撃を、紫苑は鋼糸で防ぐ。
しかし突如両剣は白銀に輝き、鋼糸を溶かし斬った。
紫苑は飛び退いたが、白夜光は更に連撃を加える。
連撃を辛うじて避け、鋼糸を使い、再び空中へ跳ぶ紫苑。
だが、次の瞬間、白夜光が両手をかざした。闇と光が混じり灰色の光を創り出す。
シャンデリアよりも先に紫苑が灰色の光に吸い込まれていく。が。
紫苑は天井に鋼糸を放ち、弧を描くように自身の軌道を変える。
そして、白夜光の背後をとった。
紫苑の鋼糸が躍る。
「何処を見ているんだ?」
・・・紫苑の背後から、声。
紫苑の眼の前に居た白夜光は揺らめくように、空気に掻き消えた。
・・・蜃気楼!
白夜光は自身の能力『閃光爆破』で周囲の熱を異常に上げ、紫苑に悟られないよう自身の分身を創り出していたのだ。
白夜光が右手をかざし、黒い渦が顕現する。
・・・まずい。
白夜光は紫苑の体術のリーチの圏外に居る。
向こうは既にクリアを発動し始めていて、同じ『放出系』のクリアの発動速度では紫電を撃っても間に合わない。
つまり『重力操作』で、シャンデリアが破壊される。
「眼の前の獲物に溺れ過ぎたな、紫電を繰る蜘蛛。・・・俺の勝ちだ」
紫苑が、負ける・・・!?

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